異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
全てを失った後、溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すことで眠りについた萩風。言いたいことが全部言えたかはわからないが、みんなが味方であることは理解してもらえたと思う。これで翌日からは多少なり吹っ切れてくれると信じている。
私、陽炎に抱き付いたまま眠ってしまったため、そのまま私のベッドに寝かせようとしたのだが、私に掴まる腕力が少しどころか全力だったために、全く離れる気配がない。いわば抱き枕状態である。
「起こすのも忍びないしなぁ……」
「そのまま寝ちゃえばいいっぽい。お互い抱き枕になっちゃえばいいっぽい!」
泣き疲れて寝ているのだが、それはそれは気持ちよさそうに眠っているため、わざわざ起こして引き剥がすわけにもいかない。夕立の言う通り、このまま寝るのが手っ取り早いか。
だが、眠っているにもかかわらず、時折身体が少し震えるのは少し怖い。無意識でも後遺症が外に現れてしまうというのは困ったもの。あと胸にか細く呼吸がかかるのがくすぐったい。
「でもハギィちょっとズルいっぽい。夕立もゲロちゃん抱き枕で寝るっぽーい!」
「いやいやいや、ベッドに3人は流石に狭いって」
「ゲロちゃんの匂いをクンカクンカしながら寝たらすごく落ち着けるの。だから、問答無用っぽい!」
改二になってから犬要素が余計に強くなっている気がする。今まで以上に本能に忠実というか、感情に素直過ぎるというか。
これもD型同期値が異常値な状態で改二になったことが影響しているのだろうか。改二艤装のリンクもとんでもないことになっていたし、身体の変化も相当なものだし。
「い、磯波、沖波、助けてくれないかな」
「私もどちらかといえば夕立ちゃんと同じだし……」
「それは流石に助けられないかな……萩風ちゃんが起きちゃう」
そうこうしているうちに、夕立が真後ろに回り込んで抱き付いてきた。前の萩風、後ろの夕立。ぶっちゃけすごく暑い。夕立は言わずもがな、萩風もかなりスタイルが良い方なので、弾力に挟まれて圧力が凄い。萩風は身体が少し熱っぽいし。
「っ、ぁ、姉さん、そこは……はぁ……」
「なんつー寝言言ってんだこの子はぁ!」
駆逐水鬼が抜けてないんじゃないのかこの子は。寝言もそうだが寝返りのように身体をクネクネさせるし、たまに痙攣するように身体を震わせるし。
「ゲロちゃんも寝るっぽい。みんな、おやすみしようね」
「あはは……陽炎ちゃん頑張ってね」
一緒にいてくれるのはありがたいが、沖波も磯波も他人事である。万が一誰かが魘されたら無理矢理にでも起こしてもらわなくてはいけないので、ここにいてくれるだけでもマシだとは思うが。
だが、今回は悪夢の心配は無いと思う。私は昨日見たし、夕立はトラウマを払拭した。萩風に至ってはこの調子である。今日は手を借りることは無いだろう。
翌朝、予想通り悪夢どころか夢すら見ずに熟睡して朝を迎えた。先々日は駆逐水鬼本人との戦い、先日は巣の破壊のための出撃と、私自身はあまり仕事が出来ていないにしても連続で出撃しているには変わりないため、それなりに疲れ果てていたようである。
私よりも激戦を繰り広げ、同じように出撃していた夕立は起きる気配すらない。休日は昼まで寝てるような子だし、私がこれなら夕立はもっと酷いとは思っていたが、案の定である。
そして萩風。精神的な疲れからか、夕立と同じくらいの爆睡である。昨晩は酷い寝言を披露してくれたが、今は大分静か。可愛らしい寝息を立てて、私の胸にしがみついているような寝相。
「おはよう、陽炎ちゃん」
いの一番に起きていたのは磯波。トレードマークとも言える三つ編みを結んでいるところだった。眠りが浅かったわけではなく、規則正しい生活をしっかり送っていることで自然と目が覚めたのだと思う。
隣の沖波も、ボンヤリした表情で身体を起こしてから、こちらを見て手を振ってきた。半分寝ていると思うが、少ししたら放っておいても覚醒するだろう。
「おはよう。これどうしよう」
「どうしようと言われても……起こすのなら軽く揺すってあげればいいんじゃないかな」
それしかないか。夕立は多少雑にしてもいいが、萩風は少し慎重に。寝て起きたら私の真正面という状況に耐えられるか。最悪な場合、大きく震えた拍子に、頭が私の顎にクリーンヒットすることがあり得る。それだけは警戒しつつ、少しだけ顔を引き気味にして起こしてあげよう。
「萩風、朝だよ。起きな」
ポンポンと背中を叩いてやると、小さく呻いた後に身体を震わせて目を開ける。そして私と目が合った。来るかと身構える。
「おはよう萩風」
「あ……お、おはようございます……」
身体が小さく震えたが、それでおしまい。これくらいの後遺症は仕方ないだろう。激しい震えじゃなくてよかった。
「おら、夕立、起きろー」
「ぐえ」
その返しで背中で押し潰しておく。なんかカエルが潰れたような声が聞こえたが気にしない気にしない。
「よく寝られた? 悪い夢は見てない?」
「はい、大丈夫です。悪い夢
そう言って頬を赤く染めてから目を背ける。悪夢は見ていないが別の夢を見たとでもいう表情。寝言からしてどういう夢を見ていたかは容易に想像がつくため、深追いするのはやめた。私が事故りそう。
「昨日はすみませんでした……言うだけ言って勝手に寝てしまって」
「いいのいいの。それだけ参ってたってことでしょ。吐き出せたから少しはスッキリしたかな?」
「おかげさまで、寝覚めがいいです」
それならよかった。昨日より顔色も良くなったように見えなくもない。
だが、まだまだ鬱憤は溜まっているだろう。昨晩のように吐き出す時間は定期的に作ってあげたいものだ。5年間の蓄積というのはそれくらい酷いもの。
「あの……またお願いしていいですか」
「鬱憤晴らし? 添い寝?」
「……どちらも」
「いくらでもいいよ。好きな時に好きなだけどうぞ」
まだ目を合わせてくれそうにないが、そういうことが自分から言えるのならいい方に向かっていると思う。私達に抵抗が無くなってくれれば嬉しいし、甘えてくれるなら姉冥利に尽きるというものだ。萩風の方が実際は歳上ということは今は忘れるとして。
とはいえ、あまり近付き過ぎると後遺症は悪化する。より私に依存するようになりかねないため、難しいところである。依存した方が幸せとかだと、それはそれでまた面倒なことになりそうではあるが。
「ハギィもゲロちゃんの添い寝で落ち着ける人っぽいね」
「あ、そ、そうですね。今日は本当に気持ちよく寝ることができました。愚痴を言ったからでしょうか……」
「ゲロちゃんのおっぱいまくらのおかげだと夕立は思うな」
なんて事を言うんだコイツは。
「……あながち間違いじゃないかも」
「えっ!?」
「い、いえ、そういうことではなく、陽炎姉さんが近くにいると、すごく落ち着けるんです。これが後遺症であることは自分でも理解していますし、植え付けられてそのまま残ってしまっている感情なのも自覚してます。でも……でも、ここが一番落ち着ける場所なのは間違いないです」
起きなくてはいけないのに、より強く抱きしめにきた。まるで夕立のように私の匂いを堪能するかのような行為。今の夕立と違って正面からなのだが、一切の躊躇いなく胸に顔を押し当ててくる。
「空っぽになった私が新しい人生を楽しむためには、陽炎姉さんは一番重要な位置にいるんだと思います。いつまでもウジウジしていたくないという気持ちもありますし、もっと頼らせてもらってもいいですか?」
「いいよ、好きにすれば。ただ、依存し過ぎるのも良くないからね?」
「はい、程々に。もう少し健康的な
その『お付き合い』というのがどの方面なのかは今は聞かないでおく。言葉とは裏腹に私から離れようとしないし。
「萩風、そろそろ着替えないと。離れてね」
「あっ、そ、そうですね。ごめんなさい」
慌てて私から離れるが、充分堪能したと言わんばかりに表情は明るい。ずっと思い詰めた表情をしていたが、昨日いろいろと吐き出せたことでスッキリしているように見えた。やはりストレスは良くない。
朝食後、私と萩風が執務室に呼び出された。おそらく萩風の今後についての話だろう。私が呼び出されたのは、選んだ道次第では私が先輩として教えることがあるからか。
「アンタは今、艦娘見習いって形でこの鎮守府に在籍してるんだが、今後どうしていきたいか一応聞いておきたくてね」
どのような道を選んだとしても、空城司令はそれを全力でサポートしてくれるだろう。
選べる道は沢山ある。艦娘として戦うのもいい。しーちゃんと一緒に事務仕事をしてもいい。間宮さんと伊良湖さんの手伝いで食堂に入ってもいい。極端な話、整備班に属するのもいいだろう。艤装に適応しているからといって、絶対艦娘をやらなくてはいけないわけではないのだから。
「考える時間はまだあるが、そのうち決めなくちゃいけないことだ。まぁ、
私としては、一緒に戦っていければと思う。だが、萩風にはそれを拒絶したくなるくらいの記憶がある。今までが今までなのだから、海そのものを嫌いになっても仕方ない。
誰かに選んでもらった道はそれはそれでよろしくない。やりたくもないことをやらされるなんて、挫折が早まるだけだ。だから、自分で道を掴み取ってもらいたい。
「アタシはアンタをスカウトはしたが、あれはアンタの意思があまり無いものだった。今回はアンタの意思を尊重する。ここを離れたいというのなら、何かしらの居場所は提供しよう。それこそ、陽炎の住んでいた孤児院に入るのもいいだろうしね」
以前空城司令は萩風のことを唯一の検体だから近くにおきたいという理由で鎮守府に置いていたが、その時は追い詰められていたというのもあって萩風の意思なんて殆ど無かった。
だが、少し時間が経ったので萩風も若干余裕が出来ただろう。ここで一旦今の意思を聞いておきたいと話を持ちかけたわけだ。
「萩風、どうしたい。まだ時間が欲しければ答えを出さなくてもいいよ。強要するわけでもないからね。ここに置いておける時間も、アタシがなるべく延ばしてやるさね」
もう少し考えさせてほしいというのも覚悟して、空城司令が萩風に問う。
それに対して萩風は、少しも悩むことなく強い意思を見せた。まるで、この問いを待っていたかのようだった。
「私は、艦娘としてここに置いていただきたいです」
「いいんだね?」
「はい。昨日の戦いの後からずっと考えていて、まだ決断が出来ないでいましたが、今朝心が決まりました。私、正式に艦娘として頑張っていきたいと思いました」
今朝ということは、あの私の部屋でいろいろあった後だ。鬱憤を晴らして、私にいろいろと意思を示したことで、艦娘の道まで決めていたようである。
複雑な感情が渦巻いているのはすぐにわかる。私と同じ両親の仇討ちというのもあるだろうし、人生を壊されたことに対しての恨みもあるだろう。動機としては負の感情が多いと思う。それでも、自分の手で決着をつけたいという意思は尊重したい。私だってそうなのだから。
その中に私と一緒にいたいという気持ちが混ざっているのも少し考えものではあるが、今は何も言わないことにした。萩風の門出に水を差すのは良くない。
「わかった。ならアンタの意思を尊重して、正式に鎮守府所属の艦娘として登録しておこう。だが無理だけはするんじゃないよ。アンタは少し特殊なんだ」
「はい、大丈夫です。改めて、よろしくお願いします」
見習いではなく正式な艦娘として、萩風は仲間となった。すぐに私達と並び立つことは無いかもしれないが、こういう形で一緒にいられるのは悪くないだろう。
死の恐怖がついて回る戦場ではあるが、心の支えがあるのなら戦える。そもそも死ぬようなことにはならないようにするのがこの鎮守府だ。
「じゃあ、早速今日から艦娘としての訓練を始めていこうかね」
「はい、頑張ります」
また少しだけ表情が明るくなったと思う。自分で歩く道を自分で決め、それを公表したことで、さらに前向きになれたようだ。ずっと落ち込んでいるよりはストレスは溜まらないだろう。
違う方向でストレスが溜まりかねないが、それに関しては私や他の仲間達が発散させてあげることも出来る。
いろいろあったが、ここから萩風の新しい人生が始まる。その道の先に何があるのかはまだ見えないが、信じて進めば悪いようにはならないだろう。私達が悪い道にしないようにするだけだ。
見習いは取れて、正式に艦娘となることを決めました。少しずつ明るくなっていくでしょう。