異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
萩風が正式に鎮守府所属の艦娘として登録される運びとなった。かなり特殊な出である萩風はいろいろと面倒な手続きが必要らしいのだが、その辺りはしーちゃんが全部やってくれるらしい。一体何者なのだろうか。
親族がいない私、陽炎も少し面倒だったらしいのだが、萩風はそれに輪をかけて大変なのだそうだ。何せ、5年前に行方不明になった子供であり、そのまま死んだ扱いとなってしまっていたからである。天涯孤独とはいえ、ちゃんと戸籍のある私とは雲泥の差。
本名があっても、今のこの国には
「終戦後も生きていけるように出来るから安心しておきな。名前も変えることにはなるがね」
「そう……ですか。改めて聞くと、私は本当に悲惨な運命なんですね」
「今までは、だよ。ここからは胸を張って生きればいい。生きてりゃ丸儲けだからね」
悲しい話ではあるが、萩風は今生きている。生きていればきっといいことはある。例えば、ここで仲間に出会えたことだってそれだ。深海棲艦として死んでいくだけなら、こんな運命は待ち構えていないのだ。
空城司令の言う通り、生きていれば丸儲け。まだまだやり直しが利く。艦娘という道を選んだが、この鎮守府でなら死に別れなんてこともそうそう無いはずだ。
「少し嫌なことを言うようだが、アンタの立ち位置は相当微妙だ。大本営の、
世の中には知られていないが、当然艦娘や深海棲艦を研究する人達というのも存在するだろう。そういう人達からしたら、萩風なんて特殊な存在は喉から手が出るほど欲しいのではないだろうか。
だが、そんなところに連れて行かれたら、萩風がどうされてしまうのかなんて容易に想像がつく。最悪な場合、人間としても扱われずに解剖なんてこともあるかもしれない。それはよろしくない。
だからこそ、それから守るために空城司令が萩風を守ってくれているわけだ。定期的な検査などは続けていくだろうが、確実に人権は約束されている。
仲間として受け入れられ、明るい道が拓けたと実感出来たのだろう。失ったものは大きすぎるくらいだが、それを少しでも補えるものが手に入ったことで、表情も明るい。昨晩の鬱憤晴らしと添い寝が大分効いているのかも。
「じゃあ、すぐにでも訓練出来るようにこちらで日程を組むよ。早くても午後からだから、それまでは自由にしていてくれ」
「わかりました。重ね重ね、ありがとうございます」
「いいんだよ。アンタは明るく生きてくれなきゃアタシが困る。せっかく救われたんだから、生きたいように生きな。アタシゃ止めないからね」
艦娘として一緒に戦っていくのも萩風が自分で決めたことだ。自分で決めた生き方なのだから、空城司令も全力で支援してくれるだろう。それが自分に関わることなのだから尚更。
萩風の艦娘人生は始まったばかり。私もしっかり応援していこう。後遺症が心配なので、なるべく付かず離れずで。
駆逐水鬼の巣を破壊し、残党狩りを数日続けることで一掃出来れば、あちらの海域はおしまい。次に狙うのは逆方向にて待つ厨二病痴女となる。諜報部隊からの連絡により、呼称は『
なんでも、南方棲鬼という深海棲艦が以前に発見されているらしく、その姿に酷似した部分が多いため、そこから少し捩った名前が付けられたそうだ。ちなみに棲鬼の方は痴女ではない。
「残党狩りが終われば次はアイツよね。アレは私が因縁つけたし、私の手でケリをつけたいわ」
今日の改二に至るための訓練はハードな筋トレ。異端児駆逐艦全員が付き合ってくれているのでありがたい。監修は陸奥さん。霧島さんは残党狩りに向かっており、速吸さんは医療系の内容で空城司令とお話中。
その陸奥さんが今後のことを考えながらボソリとボヤいた。南方棲戦姫に対して口撃で喧嘩を売っている。それに名前を教えているほどだ。深く因縁をつけ、自分からターゲットになりにいこうとしていたのは理解出来た。
「萩ちゃん、アレとの面識があるのかしら?」
「えっ、あ、はい。一応は」
午前中が空いてしまったので、萩風はこの筋トレの見学をしている。今後自分がやっていくであろう訓練がどんなものかを知っておくのはいいこと。主砲や魚雷などは遠目で見ることしか出来ないが、筋トレならむしろ自分でも体験することも出来て都合がいい。
故に、萩風も今回は私達と同じ服装で、ちょっとしたストレッチに参加している。チラチラと私を見てくるのは、執着心が出ている証拠だろう。視線の位置はわかってるぞ。あまり胸や尻を見るのはやめなさい。こちらはいつもより薄着なんだから。
あまり駆逐水鬼時代のことについて触れてほしくはなかったが、萩風自身がそこまで嫌がっているように見えなかったため、今回は止めなかった。何かあれば会話を中断してもらうしかあるまい。
こうやって話しかけている時も、陸奥さんは片腕立て伏せ中、何故普通に話が出来るのだろうか。今まで鍛えてきた分があるからか。
「どんなヤツだった?」
「……それはどういう意味ででしょう」
「戦力的なところで。バカみたいに硬いし、砲撃の火力も異常だったことはわかってるんだけど、ほら、性格とか戦術とかでどう戦うか」
事前に知っておくことで対策も考えておこうとしているようである。霧島さんもそうだが、戦艦の2人は大人の女性だからか、頭も良く、しっかりとした戦略を立ててから事にあたろうとするようだ。
結果的に霧島さんは最後力押しに持っていかれるが、陸奥さんはもう少し突き詰めている。なるべく傷付かず、確実に勝てる方法を模索しているわけだ。だから撤退にも抵抗がない。命あっての物種。
「あの人は力押しの人です。戦略なんてありません。その時その時で撃つだけです」
「はぁ、やっぱり。なんかそんな感じしたのよね。そうじゃなきゃあんな雑な戦い方しないもの。優雅さが足りなすぎよ」
何か思惑があってあんな戦い方をしているわけではなく、ただただ自分の高い性能を前面に押しつけてくるようなゴリ押し戦法。何もかもが高水準に収まっているからこそ出来る戦い方だ。
あんな戦い方は艦娘ではやれない。肉体の性能そのものが何処かおかしい深海棲艦だからこそやれるような戦い方だ。駆逐水鬼も艤装で海面を殴り付けるだけで目眩しになる水飛沫が上げられた程なので、そもそも人間と同じと考えること自体が間違っている。主砲の直撃を受けて、胸を貫かれなかったことでもそれはわかる。
「性格も好戦的です。でも弁えているというか……」
「自分のことを前座なんて言うくらいだもの。割と賢いみたいよね。戦いは雑だけど世の中は知っているってことね。ふぅん……」
アレほどの力を持つ南方棲戦姫が、自ら前座と言ってのけるのだから、太陽の姫はどれほどのものなのだろうか。神であるような振る舞いからして強大な力を持っていることはわかるが、そもそも私達で太刀打ち出来るレベルなのか。
「アレも人間が変えられた深海棲艦なのかしら」
萩風がそうだったのだから、他にいないわけがない。太陽の姫自身はどうか知らないが、南方棲戦姫は同じ系統かもしれない。太陽の姫に分霊され、何かしらのきっかけと共に深海棲艦と化してしまった人間。もう普通にあり得る話だ。
もしそうだったとしたら、倒し方も考えなくてはいけない。萩風は五体満足で人間に戻れたが、倒し方に失敗した場合、生きて戻れるものが戻れない可能性すらある。
「そう……かもしれません。私の方が後輩なので何とも言えませんが」
流石に知っているわけがないか。駆逐水鬼は常にあの海域に潜んでいたというし、今現在の巣の位置は真逆。顔を合わせたといっても数度というくらいだろう。
少しだけ萩風の表情が曇りかけたので、陸奥さんが慌てて取り繕う。
「あ、ごめんなさいね。萩ちゃんのことも考えずにこんな話しちゃって」
「い、いえ……大丈夫です。事を終わらせるためには、私の記憶も役に立つと思いますし」
艦娘としては勝利に貢献するために、少し辛いが記憶の開示はやっていきたいと萩風は言う。
忘れたい過去であることは変わりないので、それで弄るなんてことは絶対にしないが、駆逐水鬼であった過去が戦いに役に立つことは少なくないだろう。萩風が耐えられるのなら、少しだけその時の話を聞いてもいいか。
「貴女も大変だったわね。何か悩み事があったら話してくれてもいいからね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「ここの子達はみんなお人好しばっかりだから、頼れる時にいっぱい頼っておきなさいな。損得勘定無しに話は聞いてくれるわ」
鎮守府辺りの所属人数が限られているからか、すごくアットホームな雰囲気があるのは確か。どうしても関わり合いが少なくなる人も出ては来てしまうものの、まだ数ヶ月にも満たない私ですら全員と話をする機会はあったし、訓練や哨戒任務を通して仲良くなれた。
まだまだ日が浅い萩風でも、すぐにこの環境に慣れることが出来るはずだ。その筆頭が、私達異端児駆逐艦になる。
「すぐに追い付くこと出来ないと思いますが、頑張ります」
「ええ、頑張って。出来ることがあれば何でも手伝ってあげるわ。訓練から私生活まで、むっちゃんにお任せよ」
「はい、頼らせてください」
茶目っ気を出して緊張感を薄れさせた。萩風もクスリと笑ってそれに応じた。こういう形で関係を拡げていけばいいと思う。ここで暮らしていれば勝手に拡がるし。
「むっちゃんさん、あの痴女と喧嘩するっぽい?」
「そうね。喧嘩も散々売ったし、買ってもらわなくちゃ。こちらも売られたわけだしね」
「なら夕立も援護するっぽい! みんなでボコボコにしちゃおう!」
正直アレは駆逐水鬼よりも強力であり凶悪なスペック。駆逐艦の主砲では傷一つ付けられないレベル。魚雷でなんとかなるかという程度。そのため、夕立も自ら援護と言い切っているくらいである。
流石の陸奥さんでも、1対1でどうにか出来る問題ではないだろう。殴り付けるような砲撃の威力は並ではなく、掠めただけでも重傷を負いそうなもの。駆逐艦だとひとたまりもない。真正面からの撃ち合いは得策ではない。
「そのためには、いっぱい作戦を練る必要があるわ。提督とも話すつもりだけど、確実に勝つための作戦をしっかり組まなくちゃ」
「ぽい! 夕立そういうの苦手だから提督さんに任せる!」
自分の得手不得手をちゃんと把握しているようで何より。夕立は本能で戦うタイプなので、作戦とか確実に苦手。真正面からぶっ飛ばすを地で行くのだから仕方ない。
筋トレしながらでもそういうことを考えている辺り、陸奥さんはこの鎮守府の中でもエースなのだなと理解出来る。霧島さんとのツートップか。
「でもその作戦を作るためには、ゲロちゃんには改二になってもらわないとね。基本的には今回の戦いは貴女がキーパーソンだもの」
ニッコリ笑ってダンベルの重りが足された。いやまぁ鍛えなくてはいけないのはわかるが、急激に増やされたら出来るものも出来ないと思うのだが。
というか今普通に片手で重り持ってきたように見えた。もしや陸奥さん、綺麗な顔して思ったより脳筋なのか?
「あちらがゲロちゃんを狙っているのなら、貴女自身が返り討ちにするくらいでないとね。さ、もっともっと鍛えましょっか」
「ちょっと待って。これは流石に持てない」
「持てるようになりましょうね。はい、頑張って頑張って♪」
あ、これスパルタだ。持ち上げられるようになるまで帰れないみたいなタイプ。
やたら楽しそうに言うが、こちらは堪ったものではない。だが、これが出来るようになれば私はまた改二に近付けるかもしれない。やれることはやらなくては。
「や、やったらぁ!」
「その調子その調子。すぐにでも改二になれるくらいまでビシバシ鍛えていくから頑張ってね。勿論、他の子達もよ」
夕立はやる気満々だが、磯波と沖波は顔が引き攣っていたのは言うまでもない。
「萩ちゃんもやってみる?」
「あ、あー……程々でお願いします。まだ訓練も始まっていないので」
「そうね。じゃあストレッチからしっかり始めましょうか。ふふ♪」
また磯波相手にやっていたねっとりしたボディタッチが繰り広げられるようである。
だが、みんなわかっていた。今回一番気合が入っているのは陸奥さんだ。南方棲戦姫との再戦は、陸奥さんが中心となって執り行われるだろう。
私達はそれを全力で援護する。そのためには力が必要だ。
厨二病痴女改め南方棲戦姫。5-5攻略の際にはながむつタッチを使う人も多いと思いますが、この鎮守府では陸奥しかいないので、陸奥を中心に戦いは進むことになります。