異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
午後からは予定通り、萩風の艦娘としての訓練が開始された。最初は勿論、海上移動訓練。いくら駆逐水鬼の記憶を持っているとしても、萩風という艦娘として成立してからは当然初めてのこと。訓練を見ているのは相変わらず木曾さんである。
私、陽炎の時もそうだったが、最初は誰でも木曾さんから海上移動の訓練を受けることになるらしい。木曾さんだけに基礎を任されてるみたいなことを言ったことにより、磯波が見事に破裂したのは言うまでもない。
最初は私が萩風の訓練をやることになるかもと思っていたが、ここで少し距離を置くようにすることでメンタル面の訓練も兼ねているそうだ。確かに萩風がここに所属してから、何かと私が側にいた気がする。後遺症による依存を治す必要もあるのだから、少しは私が離れた方がいいだろう。
その間に私は別件。午前中は筋トレをしていたわけだが、午後からは実戦訓練となる。
私に今、圧倒的に足りないのは実戦経験だ。訓練ばかりやっていてもそこが伸びることは無い。ここ最近の戦闘には参加させてもらっているがそれだけだ。まだまだ足りない。
「前回は霧島さんにコテンパンにされる訓練だったけど、今回は何かな……陸奥さんだったりして」
「無くは無いよね。次の相手が戦艦だし、戦艦相手を慣れておく必要はあると思うよ」
相変わらず一緒に行動してくれる異端児駆逐艦。沖波も私と同じように考えていたようだ。
次の相手、南方棲戦姫は戦艦。その駆逐艦では簡単には届かないスペック差を体感するという訓練は霧島さん相手にやらせてもらっている。あの時は本当に手も足も出なかった。その時にも私には経験が足りないから、いろんな人と戦えと言われている。あの時からあまりやれていないのは残念であるが、それを今回やれそうだ。
「うーい、今日はあたしだよー」
と、やってきたのは加古さん。いつもは哨戒部隊を基本としているが、今の力を手に入れるために訓練だってしているはず。むしろそれなりの頻度で旗艦に任されるくらいの力を持っているのだから、かなり頼られている人だ。
「あたしゃこういうことやるような人じゃ無いんだけどねぇ。提督があたしがやれっつーもんでさぁ。程々に頼むよー」
なんとも気の抜けた始まり方である。話しながらも大欠伸。お世辞にも真面目には見えない。
何度か哨戒任務で一緒させてもらったが、戦場ではイケメン、普段はダルンダルンという二重人格かと思わせるような変貌を遂げる人。今からは訓練とはいえ戦いなのだから、イケメンな部分が出てきそう。
「んじゃあ、
「うん、そうなるね。よろしくお願いします」
「じゃあ最初は陽炎な。気楽にやろうぜ訓練なんだからさー」
加古さんはちょっと気楽すぎる気がするが。
「実戦経験増やしたいっていうわけだし、ま、頑張んなさいよ」
ちょっとスイッチ入ったように、表情がキリッとし始めた。常にこれの方がいいと思うのだが、すぐにダルンと力が抜けた。それも加古さんの魅力というわけだろうか。
今回のルールも霧島さんの時と同じで
対する加古さんも主砲と魚雷。あちらは主砲3基と私より多い。あと気になるのは肩に装備された電灯みたいなもの。あれも加古さん専用装備らしい。
同じような訓練かもしれないが、霧島さんを相手にした時の緊張感とは少し違う感覚。別に加古さんを嘗めているわけではない。戦艦と比べて重巡洋艦の威圧感というのはどうしても小さいもの。それに加え、頭を掻きながら大欠伸というやる気が微塵も感じられない仕草である。
「そんじゃ、始めっかい」
「了解。なら早速、行かせてもらうよ!」
先制攻撃と言わんばかりに、備え付けの主砲による精密砲撃。回避が間に合わなければ直撃で終了。回避したとしても手持ちの主砲でさらに狙う方向で。
「いやホント結構な精度よな」
それをヒラリと避けられたため、次の手。ブレ弾ではあるが回避した方に向けて砲撃。当たる確率はこちらの方が低めだが、相変わらず牽制にはなる。小鬼群にも効いた私ならではの戦術。
「直に見るとマジでブレッブレだねそれ。何処に来るかわからないのは厄介だ」
牽制のつもりだったが、しっかり見据えて避けられてしまった。正確には避けたのではなく、ブレた方向に進まなかったという方が正しい。
「よし、今!」
だが足が止まった。このタイミングなら、精密砲撃がうまいこと当てられるはずと考え、加古さんの少し後ろを狙って砲撃。ブレーキをかけたのだから前に出るより後ろに下がる方が早い。だからそちらを狙った。
今までの経験則、特にあの厄介な小鬼から得た教訓で攻撃している。ブレ弾を回避させ、そこを狙って二の矢を放つ。今回は三の矢になっているが、命中率が徐々に上がるのなら何発でも撃てばいいと思う。
「そんな簡単に終わったらつまんないっしょ」
しかし、それすらも躱された。当たり前だが、深海棲艦なんかとは全く違う。本能に任せた行動ではなく、知恵を持っての戦術。私と加古さんの距離はそこそこあるため、
「避けるのそれ……」
「当たったら終わり、掠っても痛い目を見るのが戦場だから、そりゃあ回避が上手くなるのは当たり前ってもんだ。そこが経験の量だね。いっそ回避訓練にしてみるかい。命を守るために一番必要なこった」
反撃のために、左腕側に接続された2基の主砲が同時に私に照準を合わせてきた。そして間髪入れずに同時に砲撃。片方は私の右側へ、もう片方は私の左側へ。
回避方向を固定化する砲撃と、回避方向を封じる砲撃は似たようなものだ。今回放たれたのは後者。最初から当てるつもりはなく、次の砲撃で仕留めるという意思。だからかまともに照準は定めておらず、適当に撃ったようにすら思えるためか砲撃の速度が異様に速い。
「どうやって避けるのさ!」
「自分で考えるのが訓練ってもんだろ」
加古さんからちょっとずつイケメン要素が入り込むうちに、3基目の主砲も放たれる。今は見た時点でわかった。砲門と完全に目が合った。つまり、狙いは顔面だ。容赦なさすぎでは。
顔面を狙ったということは、当たれば一撃轟沈判定。実戦では首から上が無くなるような大惨事。訓練では顔がペイント塗れになって酷い目に遭う。
「う、後ろ!」
撃ったらすぐに当たるわけではない。弾の速さが違うとか言われたらお手上げだが、見たところ3基全てが同じ仕様の主砲なので大丈夫、だと思う。
故に、被弾するタイミングを少しでも遅らせるために、出来る限り速く加古さんから離れる。自分の砲撃も当たらなくなるが、そんなこと言ってられない。
「お、下がるかい。いいんじゃないの」
3発目が放たれる。これだけ離れていれば、見てから避けるが私にも出来る。それに、離れたことで私を狙っていない2発と狙った1発の間の隙間が拡がっているため、その隙間を縫えば回避出来る。それに、顔を狙った3発目は離れたことで当たりどころが変わり、より回避しやすくなる。
結果、掠めることもなく無事に回避成功。今までにないくらい離れているおかげで、動向が見やすくなった。
今までは敵から距離を取ろうとする行為が疎かだったかもしれない。敵の目的が目的だけに私が狙われないというのもあったが、そのせいで回避行動が誰よりも下手とも考えられる。今回はそれを意識していこう。
別にすぐ決着をつけなくてもいいのだ。最終的に勝てれば、時間はいくらかけてもいい。むしろ時間をかけた方が敵も痺れを切らせてムキになるかも。なら、早く早くと焦るよりものんびりやった方が心にも負担がかからない。
「だけどなぁ、私のも当たらなくなるんだよなぁ!」
当然弊害はある。私が避けやすくなるということは、あちらも避けやすくなるということ。だから隙を見て接近しなくてはいけない。もしくは回避出来なくなるくらいに連射か。
仲間がいれば他にやってもらうという手段があるが、今は1人だ。だからこそ焦らず、じっくり時間をかけて戦う。
霧島さんを相手にしているときとは考え方が変わる。あの人は突撃までしてきて強引に距離を詰めてくる。格闘が出来て盾まで持っているため、回避をあまり考えていなかった。というかあの人は回避自体をしなかった。
夕立との個人演習とも少し違う。あの子は回避しながら突撃してきた。私から大きく離れるなんてことはせず、むしろ徐々に間合いを詰めながら必要最小限の回避を織り交ぜるイメージ。
加古さんは自分から近付こうとしない。どれだけ時間がかかってもいいから、確実に安全に戦う手段を使ってくる。早期決着をまるで考えていない。
「今度は近付く方法を考えてみ」
加古さんの当てるつもりがない砲撃が続く。進路妨害が基本となり、私の行動範囲を狭めていくのが目的なのはすぐにわかった。離れていても、動きが悪くなればそのうち当たる。それ狙いでのんびり戦っているわけだ。
常に緊張感がある突撃とは違う、心に余裕のある戦い方。なるほど、これは参考になる。状況次第かもしれないが、こういう戦い方を常に心がけておけば精神的にも余裕が出来る。おそらく少し短気な夕立には出来ない。
「なら少し真似させてもらおう」
模倣も力をつけるためには必要な技術。今やられていることをそのままやり返してみる。当てるつもりなしで、加古さんの足下や進行方向を狙って進路妨害。重巡洋艦よりは威力が少ないため、妨害にしてもそこまでのものとは思う。
だからいろいろな手段を織り交ぜるわけだ。今回は何でもありで、魚雷だって使える。ならそれを使わない理由はない。
「私にしか、出来ないこと!」
5本の魚雷を1本ずつ、タイミングをずらして放って行った。海上だけでなく海中からも進路妨害。
「うわ、噂には聞いてたけどすごいなそれ。跳びゃいいってわけじゃないか」
同じところに2本とかも出来るため、普通の回避はさせない。むしろ跳んだら跳んだで狙い撃ちしやすくなるから大歓迎。
しかし、加古さんはそれに対して、
おそらく今が近付くチャンス。しかし場所がわからないからどう突っ込んでいいものか。
などと考えているうちに、水飛沫を突き破って加古さんが突撃してきた。ビショビショになることも厭わず、確実に当てられると考えて。
「いやぁ、いいんじゃないかな。出来てる出来てる。それをもっとやれるようになろうな」
そして即座に砲撃。加古さんの行動に驚いてしまったことですぐに動けなかったせいで回避が遅れ、その砲撃は私の腹に直撃。モロに体勢を崩し、その場に倒れ伏す羽目に。
ペイントは洗い流されるかもしれないが、加古さんとは違った形でビショビショになってしまった。
「ほい、お疲れさん。初めてにしては結構考えられてる方だと思うよ」
倒れた私を引き起こしてくれた。ケラケラ笑う加古さんは、水飛沫を浴びたことで制服スケスケ。黒いサラシのような帯が全身に巻かれていることが見えてしまっている。濡れた髪をかきあげる仕草とかもイケメン。
「まぁ自分でやったことなんだから、予想外の突破されて足踏みしちゃあダメだな。うん、それくらい。あたしが教えたいことはわかったかい?」
「無理に突撃しないで、勝てるタイミングを待てってことかな。つまり、焦るなと」
「おー、よくわかってんじゃん。勝てりゃいいんだから、時間なんて気にすんなってことよ。むしろ力を抜いてたっていいから。適度にサボれば精神的にも楽だからさ」
適度にサボる。これは結構重要なことかもしれない。常に緊張感を張り巡らせていると、それだけで動きが鈍くなってしまいそう。あと疲れるのも早くなる。焦っていたら尚更。
「え、加古さんサボってるの?」
「人聞きが悪いなぁ。あたしゃ定期的に力抜いてるだけ。サボってるわけじゃないから」
言い繕っているようにも感じたが深追いしないことにする。これが加古さんのやり方なんだろうし。
だが、加古さんが定期的に哨戒部隊の旗艦に選ばれる理由がわかった気がする。適切な判断を確実に出来るからだ。旗艦が焦らないというのは大きなアドバンテージ。
これはこれで参考になる。サボるというのはどうかと思うが。
加古はイケメン枠。改二のイケメン具合は半端ない。でもあのサラシはどうかと思う。やっぱりスケベティックインナーの方が良くない?