異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
加古さんとの実戦訓練に勤しんだ私、陽炎。今まで私が1対1で相手をしてきた面々とは違う、ある意味本来の砲雷撃戦での実戦により、回避を主にした訓練になっている。じっくりと時間をかけて、焦らずに確実に勝利を掴む方法のため、私としては新鮮な戦術。
訓練終了までで私は全身真っ赤なペイントでグチャグチャ。海上移動訓練のときと違って下に水着を着ていないが、色がついているおかげで大惨事は免れている。それでも最後は加古さんに掠めることが出来るところまでは来れた。連戦に次ぐ連戦で加古さんに疲れが来ていたというのもあるので素直に喜べないが。
「ぶー、夕立には合わないっぽい!」
「押せ押せの夕立にゃあ合わないだろうねぇ。だけど、全部知っときたい陽炎には必要だったんだなぁコレが」
どれが自分に合っているかを模索するためにも、いろいろ知っておく必要がある。それが練度上昇に繋がるわけだし。
夕立は好戦的な割には長々と戦うのが嫌なようだ。加古さんと戦っているときも、だんだんとイライラし始めているのが遠目でもわかるくらいだったし。そのせいで夕立は私についでペイント塗れ。
「私はこちらの方が得意ですね」
「私も。戦況把握は大事です」
磯波と沖波は前のめりではなく耐久型のこちらの戦い方の方が性に合っているようだ。多分これは性格の問題だと思う。おかげで2人のペイントは私よりは控えめである。
私はどちらだろうか。やりやすさでいえば今回の方がいいかなと思ったが、行けると思った時には突っ込んだ方がいいかなと思う。やはり臨機応変にどちらの戦術も使うというのがベストか。
「陽炎はじっくり選びな。やりやすい方をやりゃいいよ。まだまだ相手はいるんだし」
「そうだね。私としてはどっちもやれるようにしておきたいと思ってるけど」
「欲張りだねぇ。どっちも出来れば最高だろうな。戦場で確実に役に立つから」
ケラケラ笑うが否定はしてこないところが寛容。誰にだって得手不得手はあるものであるが、どちらもやれれば言うことは無い。一歩引いた戦術だろうが、前のめりに突っ込む戦術だろうが、被害無く敵を倒せるのなら誰も文句は言わないのだから。流石に仲間に迷惑をかけるような戦術はやるつもりはないが。
「あー、あたしゃもう眠いよ。風呂で寝ちゃったら運んどいて」
「叩き起こすから安心して」
「乱暴は嬉しくないよぉ」
イケメンモードはここいらで終了。訓練も終わったから、風船から空気が抜けるようにダルンダルンに。
「そういえば萩風の海上移動訓練、どうなっただろ」
「意外と一発だったりして」
「逆に大苦戦とか……無くは無い、よね?」
訓練終了で帰っていく先には、萩風が木曾さんに教えられている現場がある。
記憶の中ではスムーズに動けていたのだから、訓練しなくても一発で上手く出来ている可能性もあれば、その記憶とはいろいろと勝手が違うため大苦戦している可能性もある。
で、工廠に到着。萩風はと探してみたら、ビショビショで制服の中の水着がスケスケになりながらも、コツを掴んだかゆるゆる海上を移動出来ているところまで来ていた。今までの最速である私が丸一日かからなかった程度というのに対し、萩風は午後のうちに終わらせたので、結果的に鎮守府の中で最速記録となる。
ずっと萩風の訓練を見てくれていた木曾さんも、午後のうちにここまで来れたことに驚きつつも感心していた。深海棲艦であった時の記憶が悪影響を及ぼして、海上移動すら出来ないくらいの心の傷になっていることも考えられたからだ。
「おう、お疲れさん。コテンパンだな」
「いや普通に加古さん相手は辛い。最後掠めること出来たよ」
「そりゃあ上々」
帰ってきた私達を見て手を振ってくれる。それに気付いた萩風も一旦止まってこちらを見てきたが、ペイントとはいえ大惨事な私を見て大いに驚いた。
「えっ、ね、姉さん!?」
「これダミーのペイント弾ね。簡単に洗い流せるやつだから」
「そ、そうですか、よかった……。流石にそこまで血塗れだったら自力で帰ってこれませんよね」
そりゃそうだ。私は今上から下まで真っ赤みたいなもの。制服が肌に貼り付くほどビショビショになっているのだから、これが全部血だったら私は流石に瀕死の重傷である。こんな飄々と話なんて出来ない。
「よし、萩風、お前はもう海上移動訓練はクリアだ。これで艦娘として一歩踏み出せたわけだな」
「ありがとうございます。木曾さんのおかげですぐに進むことが出来ました」
「これはお前の実力だぜ。イメージが記憶と直結したからな。コツさえ掴めば割とあっさりだったじゃねぇか」
やはり駆逐水鬼の記憶が影響を与えたようである。今回はいい方向に影響したようで何より。辛い思い出だが、明るい未来の糧に出来ているのなら、今のところは心配は要らなそうだ。
「ひとまずは陽炎と同じ進め方で行くつもりだ。提督にもちゃんと説明しておくから、お前は風呂入ってこい。最初の水没の分があるからな。そのままにしておくと風邪引くぞ」
「あっ、そ、そうですね。重ね重ねありがとうございました」
ちょうどいい。早々に洗い流したい私達と一緒に行けばいいだろう。
別に一緒にお風呂に入るくらいは、萩風がこの鎮守府に所属してから毎日のようにやっていること。流石に私の裸体にも慣れつつある。初日は大変なことになりかけたが、もう大丈夫。
なんて危ないフラグを立てたものの、萩風だって成長しているのだ。他のみんなもいたことだし、酷いことにはならずに済んだ、私を見てくる視線は午前中の筋トレの時と同じように痛かったが。胸と尻ばかり見てくるんじゃありません。
翌日は残党狩りに参加。こちらで深海棲艦相手の実戦経験を伸ばす。相手が小型艦でも、戦って勝つという経験は確実に練度に繋がるのだから、なるべく参加しておきたい。
そこでは巣を破壊したときのように駆逐艦やら小鬼やらが徒党を組んで彷徨いていた。巣が破壊されたことで斥候は野良へと変わっていき、もう当たり前のように私も狙ってくる。駆逐水鬼の影響も、3日目ともなると以前見たとき以上に抜けていた。
「前より動けてる気がする!」
加古さんとの実戦訓練は、確実に身になっていた。焦らず、冷静に戦況を判断して、今の最善を掴む。野良の深海棲艦は単純思考なのか、生存本能から回避は妙に上手いが、逆に砲撃がかなり回避しやすい。正面からの砲撃にはもう当たらない。
そこに、回避方向まで考えての砲撃を当てるだけ。それだけで、致命傷に近いダメージを与えることが出来た。急所らしい急所はパッと見ではわからないが、タイミングが掴めれば装甲の上からの破壊も可能。
倒したら一旦脱力。適度にサボりを入れて緊張感を緩和させる。そうすれば体力も長続きするものだ。攻撃が無いとわかったところで小さく深呼吸。
今回の戦いでは昨日加古さんから学んだことを早速活かして戦ってみたが、意外と自分に合っているように思えた。精神的な疲労もそこまで感じないし。
「わ、陽炎ちゃん凄いね。もしかしたら今日のMVPかも!」
「ありがと。訓練してくれてるみんなのおかげだよ」
五月雨からもそう言われ、素直に嬉しかった。さすが最古参、そういうところは見てわかるものなのか。
だからといって調子に乗ってはいけない。慢心は事故の元。私がダメになったら、背負っている人々の生活に危機が訪れる可能性も少なくないのだから。最後まで気を抜かずに戦闘を続けていく。
「とりあえず見える分は全部だよね?」
「そうそう、今ここにいるのは1体残らずお願いね。ねっ」
この部隊旗艦の由良さんに言われ、俄然やる気を出していく。1回で現れる数はそこまで多くないのだが、倒しているうちに突然浮上してきたりするので、見た感じで全部終わったとしても、まだ終わりではない可能性はある。
海中に潜む残党は、潜水艦と共に対潜部隊が確認している。今回の対潜部隊も勿論海防艦達。普段あまり出撃しない分、こういうときは出ずっぱり。代わりに残党狩りが終われば数日はお休みとなるそうだ。子供達にこれは少し荷が重いとは思うし、それが丁度いいくらいか。
「潜水艦の感じ、しないっしゅね」
「海の中に何にも無い感じがするぜー」
「もう……おわったのかも……?」
もう何体も沈めて、反応自体は感じ取れなくなったらしい。後から突然ということが無いように、出来るもの全員で念入りに調べてはいるが、小さな反応も読み取れないようである。
海の上にもようやく見当たらなくなってきた。全員がかりで360度抜け無く目視確認をしているが、今のところは見当たらない。ひとまず今は静かな海。
「艦載機により確認しました。周辺の深海棲艦も今は見当たりません」
対潜と制空の両方を担う大鷹も、敵が全滅したことを確認。これでここに外から入ってくるようなものもいないことが確定。
「今日のところは一旦おしまいですかね」
「そうだね。一旦帰投して、時間を置いた方がいいかも」
本能的に行動する深海棲艦ではあるが、その本能により危険を察知する輩というのも少なからず存在する。私達がここにいることで表舞台に出てこないものは、一度撤退して気を緩ませる必要もあるだろう。
そこまでしても、明日姿が見えないなら残党狩りはこれでおしまいだ。戦い、全滅させ、翌日に現れないことを確認することが今回の任務の最終地点。
「では少し予定より早いですが帰投します。皆さん、お疲れ様でした」
帰投が終わるまでが任務なのでまだ緊張感は抜けないが、敵からの襲撃の危険性が一旦拭えたのでここでまた大きく深呼吸。
「今日のMVPは陽炎ちゃんだね」
「たまたまだよたまたま。今回は私の近くに出てくることも多かったし、当たりどころが良かったしね」
「ちゃんと敵の動きが見えているということだからね」
訓練による成長が確実に私を強くしてくれている。足りなかった経験が満たされていくような感覚である。それと、やっぱり褒められるのは嬉しい。強くなったと認められる感覚は、いつでも喜ばしいものである。
「これなら改二も近いかもしれないね」
「だね。私としては早くなりたいところだけど、焦ったら遠退きそうだし、うん、気長に頑張るよ」
「ふふ、その調子。加古さんの訓練が余程効いたのかな?」
そうかもしれない。あの方針は今後も使わせもらおう。長期戦が出来る戦い方というのはかなり戦いやすい。
なんて話していた次の瞬間、強烈な視線を感じて身震いした。
「っえっ!?」
「ど、どうしたの陽炎ちゃん」
私の反応を見て驚いた五月雨が駆け寄ってくる。心配そうに海防艦達までこちらへ。
今までの比ではない視線の力。艦載機に見られているとか、潜水艦に見られているとか、そういうものとは段違いの悪寒に、私は金縛りにあったかのように動けなくなった。
「い、今誰かに見られてるような感覚がした……」
「ここの視線の元凶はもういないはずなのに……どっちの方から?」
「あ、あっち」
私が指差す方は、陸からは大きくかけ離れた場所。そして領海の真反対の場所である。
あちらにあるものといえば、南方棲戦姫と戦った場所、だったはず。周りに目印があるわけでも無いので確証は持てないが、多分そっちの方面。
「真反対の領海外……南方棲戦姫がいたっていう場所だね。いや、それよりももっと領海から離れてるかな」
事実そうだったとして、そこからここまでどれだけ離れている。数kmでは利かない、水平線のもっともっと向こう側だ。このまま真っ直ぐ突き進んでも数時間はかかるような距離。
そこから視線を感じるとかどういうことだ。むしろ、誰がそんなことを……と考えたところで、すぐに答えが出た。こんな長距離でも私の動向を確認しようとするものなんて1人しか思いつかない。
「太陽の……姫……!」
陸からは大きく離れたところからでも、私のことを見ていたと思われる太陽の姫。あのときは視線なんてまるで感じなかったが、私が成長したことでついにそれすらもわかるようになってしまったのかもしれない。
おそらく視線といっても直接見ているわけではないのだろう。艦載機とかそういうものがあるわけでもない。分霊たる私の場所は、どれだけ離れていても把握出来るということなのではなかろうか。
それなら駆逐水鬼が倒されたことも気付いていてもおかしくない。次の敵を差し向けてくる可能性だって出てきた。それこそ、南方棲戦姫が直接鎮守府を襲うようなことだってあり得る。
「早く帰ろう……ちょっと嫌な気分になっちゃったよ」
「だね。陽炎ちゃんはすぐに休んだ方がいいかも」
残党狩りは終わりそうだが、また次の戦いはすぐに始まりそうである。
あと怖いのは、悪夢の更新。こんな視線を受けたら、嫌でも先に進んでしまいそう。
駆逐水鬼の海域の奪還はもうすぐ終わります。次は南方棲戦姫になるわけですが、太陽の姫も少し動き出したようです。