異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
悪夢が更新されたことにより、身体がガタガタになってしまった私、陽炎。あまりの嫌悪感で、トイレで吐けるだけ吐いた後、磯波と沖波に呼んできてもらった空城司令と速吸さんに2人がかりで運ばれ、検査も兼ねて医務室へ行くことになった。
こんなことになるのもこれで二度目。私としては全くありがたくない。いつになく苦しい体調不良で気分が滅入る。
医務室に到着したところで、速吸さんが用意してくれたスポーツドリンクを一気飲み。胃酸が出なくなる程吐いてしまっているため、水分補給が必要ということで。食欲は無かったが、喉は渇いていたし、口の中の気持ち悪さを洗い流すのにはちょうど良かった。
そうしてる間に簡単な診察をしてくれる。体温を測ったり、首元に触れられたり。口の中を見られたりもした。
「ストレス性の体調不良ですね」
結果、予想通り。風邪とかは当然引いていないので少し安心。
「精神安定剤は必要ですか?」
「ううん、まだ大丈夫。寝足りないくらいに疲れてるけど、心が折れたわけではないから」
「そういうのがストレスに繋がるんだがね」
空城司令に呆れられるが、比較的元気でいられるのだから良しとしてほしい。そりゃあ夢のせいで私が太陽の姫に何をされたかは思い出した。普通なら心が折れるほどの衝撃を受けるだろう。
それでも、まだ私の心は折れていない。あんなことをされたことでより恨みが強くなった。私は私のまま、艦娘陽炎として太陽の姫を討ち倒したいと心の底から願うようになっている。両親の仇であり、私の魂を凌辱した恨みを晴らしたい。
今の私は復讐心を原動力にしているようにも見えた。そういう時こそ、艦娘の心得を思い出さなければ。私は破壊者ではなく守護者。命を奪う存在ではなく、命を護る存在。復讐心に呑まれすぎないようにしなければ。
「明日は休みにしておく。いいね?」
「うん、了解。こんな時間にこんなことになっちゃったしね。明日はゆっくり休むことにするよ」
「そうしておくれ。倒れられたらこちらも困る」
言葉の割にはこちらを心配してくれているのが痛いほどわかる。空城司令に苦労をかけるわけにはいかないため、素直に言うことは聞いておこう。そもそも上司と部下なのだから反抗なんて出来ないし、そもそもするつもりもないが。
改二が遠退いてしまうが仕方あるまい。これはどちらかと言えば私の落ち度だ。その元凶は太陽の姫になるので、復讐心という火に油を注ぐ結果になってしまうわけだが。
「何かあったらすぐに相談するんだよ。アタシにゃアンタ達の受けた仕打ちを理解することは出来ないが、年の功ってのがあるからね。多少なり参考になることは話せるかもしれない」
「話を聞いてもらえるだけでもスッキリするよ。その時はよろしくね」
また何かあれば相談させてもらおう。溜め込むよりは吐き出した方が、ストレスは溜まらない。
「とりあえず、何か腹に入れときな。全部出しちまったんだろ」
「食欲無いんだけどなぁ」
「栄養不足で体調が戻るのが遅くなるのはよろしくないですね。間宮さんにお願いして、適した食事を作ってもらいますから、ちゃんと食べましょうね」
空城司令以上に速吸さんに念を押された。空城司令よりも圧があったため、否が応でも言うことを聞く流れに持っていかれる。まぁでも確かに食べないよりは食べた方がいいのは理解出来る。
腹が減っては戦が出来ぬとも言うことだし、早く復帰するためにも、少し無理してでも規則正しい生活をした方がいいだろう。これで食べた端から吐くような症状が出たら、その後に考えればいい。いいことでは無いが。
「で、どうする。部屋に戻るかい」
「そう……だね。ここで一晩明かすのもいいかもしれないけど、今日は海防艦の子達と一緒に寝る約束をしてて。あっちの部屋に行くのは難しいけど、私の部屋に来てもらうくらいはいいかなって」
「ふむ……まぁ風邪を引いてるわけでもないから、それくらいはいいか。面会謝絶ってわけでもないからね。なら夕飯は誰かに持っていかせるから待ってな」
まだ身体はガタガタだが、ここではなく部屋に戻ることにした。医務室だと変に緊張してストレスが溜まりそうというのもある。それにさっき言った通り、海防艦の子達との約束もある。目の前で倒れてしまったから心配をかけているかもしれないし、多少は調子が戻ってきたことを見せておいた方がいいだろう。
「夕立、そこにいるね。陽炎を部屋に送り届けてくれるかい」
「ぽーい。任せて任せて」
医務室の外から夕立が入ってきた。こうなった時に私を部屋まで運んでくれる者として、検査が終わるのをずっと待っていてくれたらしい。
「じゃあゲロちゃん、夕立と一緒に戻るっぽい」
「悪いね夕立」
「歩くのも億劫でしょ。なら、夕立がしっかりがっつり運ぶっぽい」
そう言いながら何をするかと思いきや、完全なお姫様抱っこである。確かにこれならフラフラな私に歩きを強要する必要が無くなるし、だからといって背負ったりすると腹に負荷がかかるため、最悪また吐きかねない。
だからといってこれはなかなか恥ずかしいものである。今は改二改装のおかげで夕立の方が背が高いし、今までの数々の訓練で筋力も付いている。私くらいなら簡単に持ち上げられ、さらには負担も少ない。他意があろうがなかろうが、今の私の身体に一番いい運ばれ方になるか。
「あれ、ゲロちゃんの匂い、また強くなってるっぽいよ」
「えっ」
前回倒れた時から始まった匂いの話。これまでも悪夢が更新されると匂いが強くなるという時があった。今回もそれだと思う。
流石にこの言葉には空城司令が反応。速吸さんも首を傾げる。この中で私の匂いを感知出来るのは夕立しかいない。当人である私にすらわからないのだから。
「夕立、陽炎を運ぶ前に聞いておきたいことがある」
「ぽい? 提督さんなぁに?」
「その匂いってのは、陽炎からしか感じないのかい。同じ境遇の萩風や、それこそ敵の姫からは」
空城司令からの問いかけに、私を抱えながらも頭を捻る。そして、少しだけ時間を使った後にすぐ答えを出した。
「無かったっぽい。ハギィからも、いっちばん近付いた変態クソヤンデレの時も、こんな匂いは無かったっぽい」
つまり、私特有のものと。私と萩風の違いといえば、太陽の姫に直接分霊をされたかどうか。萩風は駆逐水鬼となってから太陽の姫に出会ったと言っていたし、直接されたら匂いを放つようである。
ならこれは何なのか。D型異端児だからこそ感じ取れるというのがミソな気がする。D型異端児といえば、深海棲艦からドロップした原初の艤装を扱い、さらには同期値が普通より高すぎるので影響も激しい。それがこの匂いを感じ取ることが出来る理由になりそう。
「陽炎、アンタは理由を考えなくていい。今は何も考えずに休むことだけに専念しな」
「うっ、司令は心を読めるの?」
「顔に出てんだよ。萩風に深追いするなと言われなかったかい。そういうことを考えるだけでも、トリガーを引く可能性はあるんだ」
太陽の姫の核心に迫ろうとすると悪夢が更新されるというのは確かにある。何故こんな匂いがするのかというのも、太陽の姫を知ろうとする行為なので、何が起きるかわからないだろう。
なので、空城司令の言う通り、これ以上考えないことにした。いずれ誰かが解明してくれる。するのは私じゃない。なら私のいる場で夕立に聞かなくてもいいと思うのだが。
「夕立、運んでやんな」
「ぽーい」
そのまま夕立に運ばれて医務室を後にする。とりあえずはグッスリ眠るところから始めよう。身体はそれで休まるはずだ。
誰かが近くにいてくれれば、余計なことを考えずに済む。今日は海防艦の子達が来てくれるだろうし、それで癒されようと思う。
部屋の前が既に騒がしかった。私が倒れたことで心配していた海防艦の子供達が待ち構えていたのである。勿論その保護者の大鷹も。
私が眠っている間にも度々部屋に来ていたようだが、まだ起きていないなら撤退、またしちゃ来訪と繰り返していたそうで、今回はその隙間時間に私が目を覚ましていたことで、次に来たら部屋がもぬけの殻。戻ってくるのを萩風の部屋で待っていたようだ。
「かげろうおねぇちゃん!」
涙目で駆け寄ってくる松輪。初めて聞くかのような大きな声だった。
「ごめんね、心配かけちゃったね」
「だ、だいじょうぶ、なんですか」
「大丈夫大丈夫。ちょっと疲れが溜まりすぎちゃって」
夕立に下ろしてもらう。ここまで来ればもう自分の足でも部屋に戻れるはずだ。
地に足をつけた途端にフラついたため、壁に手をつきバランスを保つ。その姿さえも松輪には不安にしかならないようで、私が倒れないようにするためか、足にしっかと掴まってきた。その方がバランスが崩れかねないのだが、流石にそれを口に出すのは野暮というもの。
「おねーさん、本当に大丈夫っしゅか? どう見てもフラフラっす」
「なー。マラソンやった後のまつみたいにヘロヘロだよなー」
子供達の目から見ても私は芳しくないようである。自覚出来るくらい体調が悪いのだからそうもなるか。
「ガタガタなのは確かかな。だから、残された時間は部屋でゆっくりするよ。部屋に行く約束だったけど、ごめんね」
「しゃーないっす! 病気の人に来いっていうほど、占守達は鬼じゃないっしゅ!」
「でも、部屋に来るのはいいだろー。今日は陽炎ねーちゃんの部屋で寝るぜー!」
元々そのつもりだったのだから、その提案も難なく受け入れる。騒ぎ立てる占守と大東もそうだが、それを一番望んでいたのは松輪のようだった。今も私を掴んで離さないし、2人の言葉に自分も賛同するかのように顔を押し付けてきていた。
甘えん坊なのはわかっていたが、不安がさらにその要素を引き立ててしまっているようだ。こんな子供に対して離れろとは流石に言えない。
「私は大歓迎だから、松輪も来てね。今は本当に癒されたいから、また抱き枕やってくれる?」
「は、はい、まつわ、おやくにたちます……!」
涙目でも満面の笑み。多少なり安心させることが出来たか。実際、松輪に抱き枕をやってもらうと、とてもよく眠れる。むしろ私が強く望んでしまうわけで。
「私は何かあったときのために萩風さんの部屋に泊まらせてもらいます。子供達をよろしくお願いしますね」
「任せて……と言いたいところだけど、私はこんなにフラフラだからなぁ。むしろ大鷹と萩風2人とも私の部屋で寝る?」
1人部屋に6人とか鮨詰め状態になりそうな気がするが、この前は私と同い年5人で雑魚寝出来たくらいだし、子供3人なら許容できるだろう。
それに、子供1人に保護者1人の方が子供達には楽しいだろうし。私が松輪を受け持つから、大鷹と萩風に占守と大東を割り当てるみたいな。私が帰るまでに大鷹と萩風は仲良くなっていたようであるが、今後の対潜訓練のことも考えて、もっと仲良くなっておいた方がいいと思うし。
「じゃ、じゃあ……よろしくお願いします」
「やったー! 萩風おねーさんも一緒っす!」
既に子供達からもある程度懐かれているようである。私の前で無ければ普通の生活は送れるわけだし、今は子供の前だからか後遺症も表に出さないようにしているようだし。ひとまずは萩風も安心出来るだろう。
「じゃあ、陽炎おねーさんのご飯とかも持ってくるっしゅ! かんびょーするっすよー!」
「間宮さんに聞きゃいいんだよな! お粥くれーって!」
時間的にはもうそれくらいの時間か。それまでも子供達が準備しようとしていたが、流石にそれは危ないと判断したか、駆け出そうとした占守と大東を夕立が取り押さえた。
「もうソナーとオキがやってくれてるから、子供達は大人しくしておくっぽい。はいはいゲロちゃんの部屋に入るよー」
これ以上バタバタしても何も変わらないし、子供達には部屋で大人しくしておいてもらおう。私達が相手をしておけば部屋からでていくこともないだろうし、布団とかも用意してもらわなくては。
そこからは看病されながら一晩を過ごすことになる。お風呂に行くのもしんどかったため、濡れタオルで身体を拭いてもらったりもしたが、こういうことを手伝うだけでも子供達は楽しいようだった。
子供達とこうやって付き合っているだけでもとても癒される。まるで孤児院で生活している時のようだった。
明日も休みだし、久しぶりに孤児院に電話するのもいいかもしれない。今は身体よりも心を癒すべきだと思う。先生や子供達の声を聞きたいものだ。
子供達と遊べばストレスも解消出来るでしょう。陽炎は身体を動かしていた方がストレス発散出来るような性格な気がします。