異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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傷付けない戦い

 昨日に悪夢の更新がされたことで体調を崩してしまった私、陽炎。大事をとって丸一日休みとされ、そのうちの午前中は身体を動かしたいというのもあり、鎮守府の外を散歩することで費やした。途中、整備班の人達と話す機会もあり、心が大きく癒されたと自分でも思う。

 食欲も戻ってきているため、昼食はガッツリ食べさせてもらった。朝はいつも通りだったが、昨日お粥くらいしかお腹に入れてなかったため、いつもよりも多めに、カロリーも高めに。

 

「さっきちょっと聞いたんだけど、残党狩り終わったんだって」

 

 一緒に食べている沖波からの情報提供。午前中のうちに駆逐水鬼の巣の跡地へと向かっていた部隊から連絡があり、今のところ周辺で深海棲艦を見ることが無くなったらしい。

 昨日の段階で見当たらなくなり、今日の段階でさらに見当たらないのなら、もうそこには深海棲艦はいないと判断するようだ。ただでさえ領海外のことなので、今日いっぱいは探索をし続けるようだが、おおよそ終わったようなものとのこと。

 

「そうなんだ。じゃあ、次からは打倒南方棲戦姫かな」

「多分ね」

 

 わかっている限り、太陽の姫に関連している深海棲艦は今のところ南方棲戦姫だけ。直接太陽の姫を倒したいところだが、その居場所すらわからないのだから、まずやれるところからやっていくというのが妥当。それ以外にもいるというのなら、そちらも叩かなくてはいけないし。

 結果的に、太陽の姫はラスボスとなる。手近なヤツから片付けていき、最後の黒幕に辿り着くとか、どんなゲームだって話だが。

 

「その前に陽炎ちゃんは改二だけどね」

「そうだ、そっちが先だ。今どれくらいになったんだろ」

 

 今まで何のために頑張ってきたかといえば、改二への改装のためだ。南方棲戦姫との戦いの前に、せめて改二になっておかなくてはいけないだろう。改二になったところで、あまりにも堅牢な奴の装甲を撃ち抜けるとは思えないのだが。

 駆逐水鬼との戦いの後も筋トレやら実戦訓練やら哨戒任務やらで練度をひたすらに上げ続けていたのだから、もうそろそろ行けるのではないかと思っていたり。沖波や夕立のことを考えれば流石に早すぎるか。

 

「明日からまた頑張らないとね」

「うん、一緒に頑張ろ」

 

 すぐにでもやりたいところなのだが、今日のところは休むことが任務なので、明日からまた練度を上げて行こう。

 

 

 

 午後は急遽全員を集めての打ち合わせの場が設けられた。休日であろうが関係なしに連絡することなのだから、先程沖波が聞いたという残党狩り終了の件だろうと思う。

 その部隊はまだ鎮守府に戻ってきてはいないが、どれだけ調査しても見つからないとなれば、そこにはもう深海棲艦がいないと考えられる。ならば、事態を先に進めるのが吉だ。

 

「話を聞いた子もいるだろうが、駆逐水鬼の巣を破壊後の残党狩りも今日で終わりになりそうだ。なら次は、南方棲戦姫との戦いに備える必要があるだろうね」

 

 やはり。次の戦いについての話だ。すぐに出撃する必要は無いかもしれないが、段階を進めていることを全員で共有するべき。

 

「南方棲戦姫については多少はこちらでもわかっていることがある。情報提供は萩風だ。すまないね、トラウマを穿り返すようなことばかり聞いちまって」

「い、いえ、お役に立てるのなら」

 

 陸奥さんも筋トレの時に軽く聞いていた内容を、空城司令も聞いていたようだ。

 

 元々あちら側であり、少しだけでも奴と面識がある萩風なら、何かしらの情報を持っていると考えるのは自然なこと。ただし、その記憶が忘れたいくらいの過去であるため、聞くのも躊躇われる。

 それでも萩風はちゃんと話してくれた。それが戦いを終わらせるために必要なら協力は惜しまないという態度でいる。

 

「奴は純然たるパワータイプだそうだ。その異常なパワーを惜しみなく使い、力押しで踏み潰してくる。それを念頭に置いてもらいたい」

 

 簡単には傷付かない陸奥さんや霧島さんが、その火力による力押しをしてくるようなもの。個人戦での実戦訓練をさせてもらったが、手も足も出なかった。それが殺意まで乗せて突っ込んでくるのだから手が付けられない。

 

「だが、頭脳戦を仕掛けてくる可能性もあるだろう。目的が陽炎の監視と言っていたそうだが、力押しならさっさとこの鎮守府を落としに来りゃいいんだからね」

 

 それに、力押しではあるものの本人に知性があるのも考えものである。ただただ真正面から本能のままに突っ込んでくるのならまだ対策が出来るだろう。今はそういう戦い方で全て壊せているだけで、頭が使えないわけではない可能性だって充分あり得る。

 

 普通の深海棲艦と違い、妙に人間味が溢れている深海棲艦だった。何故なら、あの南方棲戦姫も萩風同様に、()()()()()()()()()()()()()()である可能性が非常に高いからだ。空城司令曰く、人の言葉を知りすぎていると。

 故に、戦い方はさらに慎重にせざるを得なかった。前例が萩風しか無い分、何がどう作用してくるかがまだまだわからない。

 

「で、だ。南方棲戦姫を撃破する際、1つだけ念頭に置いてもらいたいことがある。奴の身体には極力傷をつけないことだ。頭を吹っ飛ばしたりするのは、今回は極力抑えるつもりで行ってもらいたい」

 

 これはもう仕方のないことだと思う。そもそも撃破したら必ず人間に戻るかもわからないのだが、戻ったとしても傷をそのまま引き継いでしまう可能性があるからだ。

 萩風の場合、夕立の砲撃が胸に直撃したものの貫通などはしていなかった。服は焼け飛んだし、身体にも死ぬほどの衝撃を与えているものの、萩風自身に傷が残っているかと言われればそうではない。

 

「なら黙らせるために()()()()()のは出来ませんね」

「頭吹っ飛ばせば終わりだと思ってたっぽい」

 

 この親分と子分は相変わらず言うことが物騒である。とはいえ言っていることはわかる。首を刎ねれば誰だって死ぬのだから、それによる一撃必殺を狙うのは必然。ああいう輩に長期戦を挑むのは間違っている。

 そのためには触れられる程までに近付かなければならないのだから、難易度は異常に高いが。

 

「身体を傷付けずに殺すとはどうすればいいのだ。呪術か」

「はっはは、そりゃいい。(まじな)いで殺せりゃ俺達も出撃する必要が無くなるな」

「この菊月も多少は齧ったが、それをするには奴の髪の毛がいる。近付かないといけないな」

 

 菊月と木曾さんは変な盛り上がりを見せていた。艦娘という存在自体が超常現象の類を扱っている兵器なので、呪いをかけるとかも出来ないことはないのではと本気で思えてしまう。何も無いところから艦載機が出たりするくらいだし、呪いの1つや2つ。

 しかし、それが出来たら苦労はしない。藁人形を作って丑の刻参りしたら敵が倒せるというのなら、もう全国にいる鎮守府がやっていることだろう。神社の御神木は藁人形だらけになってそう。

 

「多少の爆発くらいならいいのよね。それに、多少削れてても死んでなければドックで治せるんじゃないかしら」

 

 陸奥さんも思ったより過激な発言。首を刎ねるのは流石に致命傷も致命傷だが、生きていられる程の大怪我なら妖精さんがどうにかしてくれるのでは無いかという考え。

 

「限度はありますが、ある程度は可能です。時間さえかければ、失われた腕を復元したという報告もあります」

 

 そこを説明するのはしーちゃん。全国の鎮守府の情報を一手に引き受けているので、そういうデータもあることは知っているようである。

 死者の蘇生は出来ないが、瀕死の重傷は可能ということだ。つくづくとんでもない環境で戦っているものだ。そういう形で死を回避しようとしてもらえるのはありがたいものであるが。

 

「なら、魚雷で足を止めるのは有効でしょ。あとは空爆……は頭を吹っ飛ばしかねないから危ないかもしれないわね。戦艦の主砲を本体に叩き込むくらいでちょうどいいんじゃないかしらね」

 

 一番因縁をつけた陸奥さんは、今までずっと南方棲戦姫を倒すことを考えてきたらしい。萩風のことも鑑みて、如何に最大限のダメージを与えつつ、()()に傷を負わせないか。これが今回の戦いの鍵。

 

「それについてはちゃんと作戦を練る。今すぐには答えが出ないだろうが、最善を取るようにするさね。陸奥と霧島は時間を貰えるかい。早速作戦会議だ」

「了解。艦隊の頭脳として、司令のお役に立ちましょう」

「まぁ私達よね。アイツ、火力が無いとどうにもならなそうだし」

 

 ここは年長者且つ作戦立案に長けた2人の戦艦に任せることにしよう。私達は枝葉のようなもの、戦場では臨機応変に立ち回る必要があるかもしれないが、作戦の根幹を組み立てる程の力は持ち合わせていない。

 言われたことを言われた通りにやるわけではないが、本筋だけは作っておいてもらいたいというのが本音。考えることを放棄しているわけではないので悪しからず。

 

「今は策を練る時間だ。出撃の日程が決まり次第、追って伝えるよ。今回は以上だ。時間を貰って悪かったね」

 

 打ち合わせはこれにて終了。次の戦場への準備がこの時から始まったわけだ。私はまず改二になるところからスタートである。

 

 

 

 その日の夜に速吸さんに再度検査をしてもらった。言いつけを守って安静にしていたので、体調不良のぶり返しは無く、身体も健康そのもの。食欲だけちょっと増した程度である。

 そのついでに、練度も測ってもらった。今どこまで来ているかを知っておけば、今後の訓練にも何かしら活かせるかもしれないし。

 

「改二まであと少しですね。明日くらいには達成出来ると思いますよ」

「わ、もうそこまで来てたんだ。ガムシャラに頑張ってきたからかな」

「努力の成果ですね。ちゃんと身になっているということです」

 

 あと1日訓練したら達成出来そうな程にまで私は成長していたらしい。短期間で詰め込んだ感はあるものの、身体がそこに追いついてくれたのは嬉しい限りである。

 

「ただ、脅すわけではないですけど、陽炎ちゃんは改二でも安心出来ませんからね。普通と違う艤装とのリンクがありますし、それでも身体に負荷がかかる可能性はあるんですから」

 

 夕立の改二改装を思い出す。激しい衝撃と身体の変化で、あの夕立が息も絶え絶えな状態に陥っていた。それに妙に艶っぽい声も上げていたため、艤装側からの影響が激しい快楽を伴っているようにすら見えた。

 私は他の子と比べると全く逆な性質を持っているということは知っている。影響を受けるのでは無く、影響を与える側。艤装を支配する暴君であると。それが改二になった時にどうなるか。それでも身体に影響をもたらす可能性は無くはない。

 

「覚悟だけはしておく。でも、通らないといけない道だしね」

「そうですね。改二がきっかけで何か酷い目に遭うとか、そういうことは無いと思います。強いて言うなら、ちょっとした()()()()()()くらいで」

「それ一番重要じゃないかな!?」

 

 髪や目の色が変わったり、背丈やスタイルすら変化してしまっている夕立以上になるかもしれないと考えると、ちょっと怖い。痛いのか、苦しいのか、気持ちいいのか、考えるだけで不安になる。

 だが、これをやらなければ私はより強くなれないのだから、避けては通れない道である。覚悟をしなければ。

 

「同期値は相変わらず計測不能ですし、本来値に変化があるであろう場所には変化はありません。やっぱり少し異質ですね」

「分霊だからなのかなぁ」

「おそらくは。萩風ちゃんも似たような感じでしたから」

 

 だが、萩風には匂いが無い。私だけのものである。これが直に巫女にされるか間接的に堕とされたかの違いなのだろう。この匂いに何があるのかはさておき。

 

「検査は終了です。明日からは訓練再開が可能と提督さんに伝えておきますね」

「うん、ありがと。頑張るよ」

「無理はしちゃダメですけどね。あとは、また悪夢を見て体調が悪くなったら教えてください。必要なら精神安定剤も出しますから」

 

 至れり尽くせりである。本当に頼りになる人だ。

 

 

 

 これで明日からはまた通常通りの生活に戻る。そして、すぐに改二への改装だ。やることは多いが、艦娘人生としては充実していると言えるだろう。

 不安もまだまだ多い。だが、期待にも満ちている。何事もないことを祈るが、何かあったところで乗り越えてしまえばいい。仲間達もついていてくれるのだから。

 




陽炎改二も近々となりました。沖波のハイライトが消えることなく改装を終えることが出来るか。
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