異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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練度を高めて

 翌朝、気持ちいい目覚め。辟易していた悪夢を見ず、そろそろどころか頑張れば今日中くらいに改二になれる可能性が見えてきたことで、寝起きから少しテンションが高い私、陽炎。昨日は体調不良のぶり返しが無いようにガッツリ休んだため、心身共に完璧に癒されている。

 

 今度は打倒南方棲戦姫。小型艦で取り揃えていた駆逐水鬼とは違い、あらゆる艦種を使ってくる強敵だ。本体も当然インチキ級のスペックを誇り、戦艦主砲が掠める程度では殆どノーダメージというくらいに堅く、火力も尋常では無い難敵。

 しかもそれをなるべく欠損なしで倒したいということになっている。萩風(駆逐水鬼)と同様に、倒した後から元にされた人間が助かった場合、首とか刎ね飛ばしていたら助けられるものも助けられない。

 

 その辺りは空城司令と戦艦2人が作戦会議中。なるべく最善最高の作戦を練り上げて、勝率を限りなく上げて実戦に向かう。

 私達はまず、それを待つことになる。それまでに改二になれればベスト。

 

「追い込みですね。思い切り鍛えましょうか」

 

 そこに放り込まれた訓練が、天城さんと隼鷹さんの2人がかりで行なわれる防空訓練である。

 

 今までは基本的に天城さん1人にやってもらうものだったのだが、そこに隼鷹さんの姿が見えた時、これは本当にヤバい訓練だと腹を括った。一緒に来てくれた磯波も顔が引き攣っている。沖波と夕立は萩風の砲撃訓練に便乗しているため不参加。

 最後の追い込みは基本的に私だけ。今までは萩風がいなかったため、全員が私に付き合ってくれていたが、今は他にも見ておくべき子がいる。ならそちらを優先してくれればいい。

 

「陽炎、僕もこれはあまり体験したことがない。楽しみだな」

 

 沖波と夕立の代わりと言ってはなんだが、防空特化の初月が便乗してくれることになった。その初月も、2人がかりの空襲をどうにかする訓練など、数回しか無いらしい。数回でもやったことがある上に、楽しみとまで言い放つとは恐ろしい。

 

「これ見りゃわかると思うけど、あたしら2人がかりの空襲を1人で処理してもらうよ。被弾したらそれで終わり。いいかい?」

「了解。次の奴らは空母とかも引き連れてたもんね」

「そういうこったね。あんときゃ軽空母が2体しかいなかったけど、それ以上に出てくる可能性も全然あるからね。あたしらのくらい耐えてもらわなきゃ困るわけよ」

 

 ケラケラ笑いながら訓練の説明をしてくれるが、やる側としては堪ったものではない。

 とはいえ、これ程のことをやれば練度は確実に上がる。今日中の改二改装も夢では無くなることだろう。そう考えればやる気は無限に湧いてくるというものだ。

 

「ではやりましょうか。それとも、まずは初月ちゃんにお手本を見せてもらいますか?」

「その方向で!」

「いいだろう。僕がまずやるところを見てくれればいい」

 

 まずは防空に自信のある初月の実戦を見て参考にさせてもらおう。強くなるためにはまず模倣というのも全然あり。何も間違ってはいない。

 

 

 

 一通りの流れを見せてもらって、私は開いた口が塞がらなかった。初月ですら当然大苦戦する、圧倒的な数の暴力。全て墜とし切る前に被弾してしまい、結果的には()()()()()()()()()という訓練になってしまっている。

 これを敵がやってくる可能性はゼロではなく、むしろ頻繁に仕掛けてきてもおかしくはない。太陽の姫だって使ってくるのだ。これくらいは軽く対応出来るようにならなくては。

 

「くっ……7割は削れたと思ったんだが……僕もまだまだだな」

「1人であれだけやれれば充分だと思うんだけど。戦場では仲間もいるんだし」

「だが、この被弾は致命傷だ。実際の戦場でこんなことがあったら僕は死んでいる。それだけはダメだ」

 

 確かに、今回の初月の被弾箇所は肩から胸にかけてだ。ペイントだからこれで済んでいるが、実弾なら腕を捥ぎ取られた挙げ句に絶命しているだろう。訓練でもそんな傷を受けないようにしなくてはと、初月は一人反省会みたいなものを脳内で繰り広げていた。

 

「よし、なら次は私。磯波、何か変なところがあったら後から教えてね」

「うん、ちゃんと見ておくから、安心して行ってきて」

 

 一瞬『散ってきて』に聞こえてドキリとした。ちょっと緊張し過ぎなのかもしれない。

 

「よろしくお願いしまーす!」

 

 所定の位置に立ち、手を上げながら声を出す。それが聞こえたか、天城さんの持つ旗竿が大きく振られた。初月の時にもあった、今から始めるという合図である。ここから過酷な防空訓練の始まりだ。

 

 私の高角砲は艤装への備え付け。私の意思を察するかの如く、思い通りに照準が定められる。艦載機相手でもそれは変わりない。反動とタイミングが主砲と違うだけだ。

 艦載機の動きは、先にやってくれた初月のおかげで少しはわかっている。密集しての編隊飛行、アクロバティックな方向転換、それと急降下爆撃。

 

「よーし、まずは回避を確実に……!」

 

 上を見ながらの回避行動なので、少しだけ勝手が違う。微妙な波に足を取られる時もある。そんなタイミングで爆撃が来ようものなら、ほぼ確実に直撃。実弾なら頭をかち割られてそのまま死亡。そうでなくても正面で爆発して大火傷か、艤装を破壊されて死を待つ状態にされる。それだけは避けなくてはいけない。

 故に、足下を見つつ、対空砲火のタイミングも計らなくてはいけない。特にタイミングは非常に重要。これは事前に初月に教えられているが、直撃させるのではなく少し前に置くようにするのがいいようだ。何故なら、艦載機は停止したりバックしたり出来ないのだから。

 

「って、数多すぎ!」

 

 だが、そんなこと言ってられないくらいの数が一斉にこちらに向かってきた。今までは3機とか5機とかの爆撃を回避しながら対空砲火というのが基本だったが、今回は2人がかりのほぼ全力。あれは100は優に来ている。

 先程初月がやっているところを見ているのだが、見るのとやるのでは体感が全く違った。天井が押し寄せてくるような圧力に、変に力んでしまいそうになった。これではダメだ。

 

「ふぅ……」

 

 軽く力を抜き、深呼吸。まだ艦載機が私のところに辿り着くまでには時間がある。その間に、加古さんの教えを思い出す。

 勝てればいいのだから、時間なんて気にしない。適度にサボれば精神的にも楽。長々とやることになっても焦らず、多少サボるくらいの気持ちで。

 

「よしっ、行くぞー!」

 

 早速対空砲火を開始。まだ爆撃は始まっていないが、初月に教えてもらった通り、艦載機の進路に弾を置くような感じで放った。

 相変わらず反動は主砲よりもキツイ。艤装は私のイメージを完璧に再現してくれるが、それに私がついていけないのなら意味がない。撃つたびに腰に力を入れて強く踏ん張り、軸がブレないように心掛ける。

 

「連射出来ないのがキツイけど、ある程度は速く!」

 

 撃っては次弾装填、撃っては次弾装填と繰り返し、なるべく最速で空に向けて撃ち続けた。思惑通りに艦載機の進路を妨害することは出来ており、一部の艦載機はそれにより撃墜。

 墜としたと言っても当然訓練なのだから、破壊ではなく撃墜判定。ペイントがまともについた艦載機は、空母の元に戻ってそこからは発艦しないルール。

 

「減った感じしないんだけど!?」

 

 いくつか墜とせたとしても、あの圧の一部が減ったくらいで殆ど変わっていなかった。

 

 そしてそのまま私の上空へ。見てわかるレベルで一斉に爆弾を投下。大量の艦載機のほぼ全てが同じタイミングで投下したため、回避出来る場所が極端に狭められていた。だが避けられないことはない。

 対空砲火を一時的にやめ、その爆撃を回避するために全速力で真正面へ。あの爆撃を正面から潜り抜ける作戦だ。むしろ回避方向はそこにしかない。

 

「き、ギリギリっ!」

 

 やれるものなら、降ってくる爆弾を対空砲火で撃ち落としたい。着水する前に空で爆発させれば、真下にあるものの被害はカケラが降ってくる程度になる。だが、私にはそんなことは出来ないため、必死に回避するしかない。

 

 点ではなく面で降り注ぐ爆撃は、並の敵ならそれだけで簡単に押し潰されるものなのだろう。範囲も広く、回避に専念しない限り確実に被弾するような圧力。

 だが、一度潜り抜けてしまえば脅威は少しの間先延ばしに出来る。艦載機は前にしか進めないのだから、その後ろさえとってしまえばいい。

 

「後ろから狙うって難しいなぁ!」

 

 初月はそれも軽くやっていたが、私にはなかなか難しい。遠退いていく艦載機に向けての対空砲火は、向かってくるものや真横に向かうものに当てるより数倍難しいと実感。

 さらには、一部の艦載機がアクロバット飛行をして即座に反転してきた。これも一度見ているため過剰に驚くことはしないが、やはりそれを相手取るとなると感覚がまるで違う。

 

「ちょっ、ちょっちょっ!?」

 

 潜り抜けたと思った艦載機の群れは、あっという間に進行方向を逆転させて私の真上へ。そして数機が急降下爆撃の態勢に入っていた。面での爆撃の中に交じる点での攻撃。しかも、下に向けて爆弾を放り投げるようなものなのだから、着弾自体もタイミングが早くなり、さらに私に向かって突っ込んでくるのだから命中率が他の艦載機とは比較出来ない程に上がっている。

 艦載機側が狙われやすくなるリスクはあるものの、そこは熟練者。私の対空砲火をいとも簡単に回避して、乱暴だが正確に私を狙ってきている。多分あれは隼鷹さんの艦載機だ。

 

「っぶな!?」

 

 それを何とか回避。しかし、他への対空砲火が疎かになったところを見逃されるわけもなく、回避方向がその中心となるように、面の爆撃が繰り出されていた。急降下爆撃してきた艦載機は、味方の爆撃に当たるはずもなくヒョイヒョイ避けながら上と合流している。

 

「ま、マジかーいっ!」

 

 分の悪い賭けではあったが、その爆弾を狙って対空砲火。自分のいる場所だけでも爆撃の脅威を払えれば、まだ先がある。

 真下から狙えばまだ当てられることがわかった。艦載機よりも小さい爆弾であろうが、見て狙えば何とかなるものだ。

 

 数が無ければ。

 

「ですよねーっ!?」

 

 その圧力に押し潰され、爆撃の雨で私はペイント塗れにされる羽目になった。掠るとかそういうレベルではない。上から下までグッチャグチャである。結果的にそれにより立っていることすら出来なくなり、海面に倒れ伏すことになってしまった。

 

 

 

「ひ、酷い目に遭った……」

 

 この1回だけで余すとこなく塗り潰され、さらには衝撃で息も絶え絶えである。倒れ伏した後も喰らったことで、本来喰らっていなかった背中にまでペイントが回ってしまっている。

 

「そりゃあ一発で上手く行かれちゃあ、鎮守府の空母隊としては嬉しくはないわなぁ」

 

 すごい笑顔で隼鷹さんがこちらへ。天城さんも私の有り様に申し訳なさそうな顔。

 

「やりたいことはやれていると思いますよ。練度が足りないだけで」

「手厳しいなぁ……」

「でも、新しいことをやるということは、その分練度が上がるということですよね」

 

 確かに。今までやったことがないようなことをやって経験を積んでいけば、その分大きな練度の上昇が見込めるはずだ。あと少しで改二になれるくらいの練度に来ているのだから、ここでこの訓練をこなしていけば、きっと改二の練度に辿り着けるだろう。

 そう考えれば、この今のペイント塗れで倒れ伏す私も、今後のためになるのではなかろうか。こういう経験をしたからこそ見えてくる道があるのでは。

 

「磯波、何かわかったことはある? 初月と比較してとかでいいんだけど」

「回避のタイミングが初月ちゃんより遅いかなって思うよ。初月ちゃんは終始動き回って艦載機の次の位置を予測してたからすぐに切り替えが出来たけど、陽炎ちゃんはその……行き当たりばったりみたいな」

「僕もそれは思っていた。まだわからないかもしれないが、艦載機のクセをもう少し知った方がいい」

 

 2人に言われてしまっては立つ瀬がない。専門家とはスペックが違うのは仕方ないとして、行き当たりばったりなところは正直あったかもしれない。もう少しいろいろなことを知らなければ。観察と実戦で経験をどんどん積んでいくべき。

 

「っし、じゃあもう一回見たい! その後にまたやらせて!」

「お、いいねぇやる気満々じゃあないの。隼鷹さん、そういうの好きだぜぇ」

 

 この発言のせいで火をつけてしまったか、私の時は多種多様な技が織り交ぜられた爆撃に見舞われることになった。既に余すとこなく塗り潰されていたペイントは上書きに上書きを重ねられ、服の中までグッチャグチャになるまで続けられる。それこそ、ペンキで満たされた湯船に頭から沈んだかの如く。

 

 それでも練度が上がっていくことは実感出来た。私は強くなっている。改二も近い。

 




隼鷹改二と天城改の搭載数は、合わせて135(66+69)。それが全て艦爆で、たった1人に対して全部飛んでくるとか悪夢でしかない。
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