異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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陽炎の進化

 午前中の訓練は終了。天城さんと隼鷹さんによる強烈な空襲を耐える防空訓練によりボロボロにされた私、陽炎は、余すところなくペイントに塗り潰されていた。本当に頭のてっぺんから爪先まで真っ赤に染められているため、遠目から見た私はおそらく人にも見えないかもしれない。

 

 工廠に戻ると、ちょうど萩風側の訓練も終わっていた。流れとしても私と比較的同じ方向性でやっているようで、早速夕立や沖波と共に軽めの実戦訓練をしていたようだ。

 私の時のように五月雨と菊月のような古参ではなく、同じ異端児を使っての訓練なのは、萩風の精神状態を鑑みて、より仲間意識の高い者達を選出したようである。

 

「ね、姉さん!?」

 

 案の定私の姿を見て大いに驚いていた。萩風自身も結構な量のペイントが塗りたくられていたが、今の私には誰もが劣る。

 

「えっ、そ、その、大丈夫……ですか?」

「大丈夫に見える?」

「全く見えませんが……え、えぇ……そこまでやられるものなんですか……」

 

 驚きの後には呆然、そして複雑な感情を含みながらビクンと震えた。私が近いから何か良くない考えが頭を駆け巡ったのだろうか。こんな姿の私に何か思うところがあるとでも。あの駆逐水鬼なら『ドンナ姿デモ陽炎ハ可愛イ』とか言いそうではあるが。

 萩風と一緒にいた夕立はケタケタと笑い出し、沖波も顔を伏せて笑いを堪えていた。今の私の姿はそれほどまでになっているのだろう。鏡を見なくてもわかる。

 

「はいはいどいてー。陽炎ちょっと我慢してね」

「ふぎゃあ!?」

「ね、姉さーんっ!?」

 

 そこにやってきた夕張さんに思い切りホースで水をかけられた。洗車するレベルの衝撃で水をかけられたことで、肌に付いたペンキは少しずつ落ちていってくれた。それくらいされないといけない程の汚れだったようである。ちょくちょく顔面にもかけられるため、私はえらいことになっていたと思う。

 ある程度落としてもらい、さらにはタオルも持ってきてもらって鎮守府内を歩ける程度にまではなったため、トボトボとお風呂へ向かい、細かい部分を洗い流す。湯船に入るまでにも一苦労。どれだけ爆撃を受けたんだ本当に。

 

 そしてある程度洗い流したことで今度は速吸さんのところへ。一応小まめに練度は調べていく方針にはなっていたため、今回のハードすぎる防空訓練のおかげで届いたかどうかを確認。

 

「はい、練度達成です。午後からは改二改装で問題ありません」

「ホントに!? やったぁ!」

 

 本当にあと少しのところだったようだ。それに、防空訓練は少なめだったからか、覚えることが多くて練度の上がり方も他と違ったのかもしれない。

 

「艤装の改修がありますので、午後はお休みで。制服のフィッティングもありますから」

「了解!」

 

 今までの努力が身になった瞬間である。これからもハードな訓練をやっていくとは思うが、1つの目標は達成されたことで、より精神的に余裕が出来た。

 これで次の戦いでもより強い力が発揮出来るというものだ。意気込みも新たに、私は次の道を行く。

 

 

 

 艤装の改修は夕立の時のように午後いっぱいを使うほどに留まった。状況次第では明日の朝イチかもと考えていたが、整備班の人達が夕立の時の以上に張り切ってくれたらしく、夕方には殆ど仕上がっていたらしい。

 

 その時には私も制服の変更が完了。とは言っても、私は沖波や夕立の時とは違い、制服のデザインが変わるようなことは無かった。なんでも、私の制服は殆ど完成形みたいなものらしく、陽炎型の長女としての基本となっているのだとか。なので、残念ながら衣装からの心機一転は無いようである。

 代わりに、手袋が今までから変わって指抜きグローブになっていた。主砲の握りがよりやりやすくなり、手持ちによる砲撃のブレが多少は緩和されるだろうとのこと。あとはリボンの色が変わった程度。

 

「制服はなんだかあっさりだけど、艤装はとんでもなく変わっちゃった?」

「ああ、お嬢ちゃんのデータを汲み取った結果がこれだ。割と無茶させてる部分があったからな、こいつで熱が篭らないようにしたんだぜ」

 

 そもそも形状自体が変化しており、煙突みたいなものがついたりしていた。出力が高くなったことで排気量がどうのこうのと言っていたが、イマイチ掴めなかった。

 この変更のおかげで、今後私がどんなことをやっても艤装側から悲鳴が上がらないと言われたので安心。私の扱い方は、普通とは違う負荷のかかり方をしていたらしい。

 

 変更はそれだけではなく武装の接続まで。今まではマジックアームに接続されていた主砲と魚雷発射管が、艤装に殆ど直付けにされていた。これも煙突並みにかなり大きい変化。

 

「あのアームは悪いが廃止にした。お嬢ちゃんの扱い方からして、アームへの負荷が大きすぎる。なら、艤装に近付けた方が砲撃がもっと安定するだろうよ。それと、基本は魚雷発射管にした。主砲も接続出来るから安心してくれ」

 

 武装の扱い方もどうしても変わってしまうらしい。これは艤装のリンクをした後に改めて訓練した方がいいだろう。

 

 それもこれも、私の扱い方に問題があるからである。艤装に従わせ、察する程の反応速度に対応しようとすると、艤装側に大きい負荷がかかる。

 よくここまで頑張ってくれたものだ。これからもよろしくとなってしまうのだが、あまり無茶をさせないようにはしたい。無茶が利くような改修がされてしまったとはいえ、あまりやりすぎると破損の一因になる。

 

「説明は聞いたかい」

 

 空城司令がしーちゃんを引き連れて工廠に到着。これで準備万端。あとはリンクするのみ。

 今回のリンクも周りに人は少なめで、異端児駆逐艦の私除く4人と陸奥さんがいる程度に収まった。陸奥さんは艤装まで装備した状態であり、私に万が一のことがあった場合に押さえ付ける役を買って出てくれた。

 

「アンタは今までで一番特殊だ。艤装の影響を受けず、艤装を従わせ、リンクも一瞬で終わった。だが、改二改装はそうもいかないかもしれない。覚悟はいいね?」

 

 ここまで来て怖気付くわけにはいかない。みんなが手伝ってくれて辿り着いた目標だ。こうなるためにここまで来たのだ。痴態を晒すことになろうと関係ない。いや、それ以上のことだってあり得る。

 

「勿論。私はここで改二になって、もっと強い力を手に入れて、あの太陽の姫の思惑を潰すんだ」

「そうかい、なら一思いにやりな。アタシらはここで見届けてやるさね。何かあったらぶん殴って止めてやる」

 

 心強い言葉だ。だからこそ、やらないという選択肢が無くなる。

 

「よし、じゃあ始めるよ!」

 

 初めてのリンクの時と同じように、この艤装は自分の身体であるとして、自分の中に艤装の一部が流れ込むような、それでいて自分の何かが艤装の中に流れ込むような、そんなイメージをしてリンクを開始した。

 

 その瞬間だった。今までに感じたことのない衝撃が身体を疾る。

 

「はぁん!?」

 

 思い切り声を上げてしまったのが恥ずかしいが、一気に余裕が無くなった。イメージ通り、私の中に艤装の一部が流れ込んでくるような感覚が全身に拡がっていた。

 沖波が身体中がモゾモゾすると言っていた意味がわかった。接続部を中心に()()が拡がり、くすぐったさが駆け回るようなもどかしさを感じた。

 

「んくっ、あっ、ぐっ」

 

 声を抑えたくても抑えられない。夕立は抑えるつもりがなかったのだろうからあんなことになっていたようである。これは我慢しなくてはいけないものだ。

 嫌でも身体が震える。身体が熱い。力が漲る。気を抜いたら本当にやらかしてしまいそうな感覚。

 

「っああっ」

 

 身体中の熱が薄れた瞬間に、身体に大きな衝撃が疾る。それにより、私の身体は大きく震え、身体中が敏感になったかのように錯覚した。

 この感覚は耐えようがないと理解したが、これ以上の痴態を晒さないようになんとか歯を食いしばる。先に夕立のそれを見ていたおかげで、その気持ちだけは手放さずにいられた。

 

 しかしこの感覚、何処かで味わったことがあるような気がした。一定の箇所から流れ込むその奔流により、身体が熱くなり力を得ていく感覚。こんな余裕のない状況でも、それが何かに簡単に辿り着いてしまった。それが本来嫌悪するものなのだから。

 

 これは、()()()()()()()()()だ。

 

 私の艤装はD型艤装。つまり海で手に入れた原初の艤装だ。改二改装によりその影響力が強まるということは、()()()()()()()()()()()()と同義。この艤装にそんな意思があろうが無かろうが、その時と同じ感覚が戻ってきてもおかしくはない。

 同期値が膨大な数値をマークした夕立が、あれだけ悶えたのも理解出来た。この身体を駆け巡る感覚は、どう考えても快感である。同期値が大きければ大きいほど、この快感は酷くなるのだろう。本来マイナス、現在計測不能の私の同期値の場合では、こんなにも凄まじい影響を及ぼしてしまう。

 

「っうっ!?」

 

 今度は骨がメキリと音を立てた。どうやら私も身体に若干の変化があるらしい。

 制服が少しだけサイズが合わなくなったかのように感じる。単純に私の身体が成長している。夕立ほど過剰な変化ではないものの、全体的に()()()()()()ようだった。誤差範囲内だと思うが。

 

 そして、トドメと言わんばかりに一際大きな衝撃が身体を駆け巡った。これ以上の痴態を晒さないように覚悟していたが、その衝撃は半端なかった。

 何とか声を上げなくて済んだものの、もう息も絶え絶え。影響が失われたことで力む必要が無くなり、結果そのまま脱力して艤装にもたれかかる形に。

 

「お、終わった、みたい」

 

 時間にして1分もかかっていなかった。初期のリンクが数秒で終わっただけあり、改二改装のリンクもそれなりに早め。だが、私にはそれ以上に長い時間に感じた。

 

「お疲れさん。無事では無いみたいだね」

「うん……リンクの時と同じかと思ってたから驚いた。数値的にはどうなのかな」

「前と同じで、お嬢ちゃんが艤装に干渉してるな。その値も飛び抜けてた」

 

 整備長の話でも、やはり私は変わらず艤装側に影響を与えているらしい。なら何故私の身体にここまでの影響が出たのだ。

 私が影響を与えているのなら、艤装から私に影響を与えていないと考えるのが妥当。だがそんなことはなく、力いっぱい私に干渉してきた。

 

「見えていない値の増加か。そこが一番妥当だ。本来の艦娘では触られないところが影響を受けて、陽炎は艦娘として成立しているわけだが、そこの値が増幅したことであれだけの影響が出たようだね」

 

 やはり私は本来の艦娘とは別の立ち位置にいるらしい。それはおそらく萩風も。分霊の影響でこうなっているのなら、私は艦娘として活動しているものの、実際は深海棲艦に近しいものなのかもしれない。考えたくもないが。

 

「サイズが合わなくなっちまったみたいだね。制服やら何やらを全部直してもらいな」

「うん、そうしてもらう。その前にお風呂行くよ。その間に直してもらえたりするかな」

「ああ、それでいいだろうね」

 

 艤装を外すと一気に力が抜け、その場に膝をついてしまう。足がおぼつかないくらいに疲労困憊。

 

「ご、ごめん、誰か肩貸して……」

「夕立が貸すっぽい!」

 

 前回の夕立に私が肩を貸したからか、今度は立場が逆転。立ち上がらない私を夕立が担ぎ上げてくれた。肩を貸せと言ったのに相変わらずお姫様抱っこである。

 

「ゲロちゃんの匂い、もっともっと強くなってるっぽい。ふぁあ、堪らないっぽぃい」

「ちょ、夕立!?」

 

 抱き抱えながらも、私の身体に顔を押しつけてくる。動けないのだから拒否が出来ず成すがまま。

 匂いが強くなるというのは今まででもよくあったが、夕立がここまでしてくるのは初めてなので、流石に戸惑ってしまう。

 

「ゲロちゃんすごいよ。甘い匂いっていうか、ずっと嗅いでたい匂いなの。抱き枕にしたら絶対よく寝られる。というか夜に抱き枕にする。ゲロちゃん今日は嫌な夢見るかもしれないから近くにいた方がいいよね」

「だ、誰か助けて……」

「はいはい夕立離れなさいな」

 

 陸奥さんが夕立を引き剥がしてくれた。艤装は流石に外していたが、それでも私達とは力が違う。いくら強化された夕立でも簡単に剥がされ、今度は陸奥さんにお姫様抱っこされる形に。

 

「むー、むっちゃんさんズルいっぽい!」

「事が先に進まないでしょうに。一緒にお風呂に来ることはいいんだから、今はまずゲロちゃんのこと考えてあげなさいね」

「ぽーい……」

 

 こうして私の改二改装は終わる。さらなる力を得たことで、私はより戦えるようになったのだ。

 

 だが、別の方向でなんだか身の危険を感じてしまった。何事も無ければいいのだが。

 




陽炎改二実装。陽炎も改二になると若干頭身が上がる子なので、ほんの少しの成長ということにしました。安心してくれおっきー、あそこは変わっていない。
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