異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
ついに改二へと改装された私、陽炎。改装の際に痴態を晒してしまったが、なんとか強化が完了したことで、新たな力を得る事が出来た。
だが、どうしても気になる事がある。改二改装で感じた感覚は、私が太陽の姫に分霊された際に感じた感覚とあまりにも似ていた。そのせいで、正直夜が怖い。悪夢の更新がほぼ確定な気がする。
今の状況から悪夢が更新されると、もうそれはゴールな気がする。知ってはいけない記憶まで掘り返すことになり、それは私の目覚めのトリガーだ。それは困る。
「今日はゲロちゃんを抱き枕にするっぽい。悪夢の更新なんて絶対させないから」
「私も部屋に行かせてください。姉さんを私と同じ目に遭わせるわけにはいきません」
改二改装の事後処理も終わった夕食の時間、夕立と萩風が早速言い寄ってきた。
私のことを心配してくれているのはわかるのだが、夕立は先程私の身体に顔面を押し付けてくるくらいになってきているので若干怖く、萩風は逆に私が心配になるくらいに後遺症が残ったままで、本当に一緒にいていいのか戸惑うレベル。
特に萩風は、私の改二改装が終わった時、顔を真っ赤にしながら俯き、何度も何度も震えていたのを私は見ている。その余韻が残っていそうな今の状態で一緒の部屋で一緒に寝るとか大丈夫か。
とはいえ、今1人で寝るのは正直怖かった。誰かに側にいてほしいという気持ちは大きい。
「ん、よろしく。私がおかしくなったらどうにかして」
「了解っぽい! まずおかしくなる前に引っ叩くから!」
「まぁ、うん、それくらい強引でもいいよ。おかしくなるより痛い方がマシだから」
そもそも抱き枕が悪夢で魘され始めたら、夕立も眠れなくなるだろう。その時点で起こしてくれればいい。無理に起こすことになるので申し訳ないのだが。
一度止めてもらえれば、更新された悪夢はそこまでになってくれるというのなら助かるのだが、まだその辺りはわからない。万が一のことがあった場合を考えると、しばらくは誰かが側にいてくれる方がいいと思う。
「沖波と磯波はどうする? 無理にとは言わないけど」
「今日は初日みたいなものだから人数多い方がいいよね。なら、私も便乗するよ。他ならぬ陽炎ちゃんのことだし」
沖波は参加してくれるようだ。確かに何かあった時には人数がいてくれると助かる。
「磯波ちゃんは……あれ、磯波ちゃん?」
「えっ、あ、ご、ごめん、少しボーっとしてた。私も便乗させてもらうね」
何処か心ここにあらずという感じで、沖波に声をかけられてハッとしたように反応した。具合が悪いようには見えないのだが、夕食を摂る手もいつもより遅い気がする。
「磯波、何かあった? 具合が悪いならもう寝た方が……」
「ううん、大丈夫。本当に少しボーっとしてただけだから」
ニコッと笑って食事を続ける。何事もないのならいいのだが、ちょっと心配。逆に同じ部屋で寝ることで調子を見ておいた方がいいかもしれない。
「いつも狭い部屋に詰め込んじゃってごめんねホントに」
「そういうのも楽しいから大丈夫だよ。寝られないわけじゃないし、疲れが取れないわけでもないしね」
「うん、私も大丈夫」
結果的に4人が4人、私に協力してくれると言ってくれた。本当に、持つべきものは友である。
夜、私の部屋に集まって眠くなるまで談笑する。最初は私の改二改装を祝ってもらうところから始まり、今後の方針とか愚痴とか本当にただの世間話とかで、時間が過ぎていった。いろいろ口に出せたことで、心がスッキリしていくような感覚。嫌なことを忘れて、気持ちよく寝られるようにしていく。
こう話している間も夕立はべったりくっついてきて、何かあれば私の匂いを嗅いでくるようになってしまっているが。膝枕みたいになっているので、ちょくちょく頭を撫でるとそれこそ愛玩犬のように声を上げる。
だが、どうしても気になる事があった。こうやって話している間、磯波がまたボーっとしていたことである。
元々発言が多い方では無い子ではあるが、こんなことは今までにあまり無かった。相槌は打つし、合いの手は入れるし、自分の意見を言うことだってある。それが今日に限って少なすぎる。
「磯波、やっぱり具合が悪いんじゃないの? またボーっとしてた」
「うんうん、夕立でもそう思ってたから、ちょっとおかしいっぽいよ?」
失礼だが割とそういうことに鈍感な夕立ですら、磯波がちょっとおかしいのではないかと思っていたらしい。
「えっ、な、何でもないよ」
「何でも無くないよね。いつもと違うよ」
何かあるのなら話してほしい。具合が悪くないと言うのなら、何か悩み事でもあるのか。磯波は誰にも話さず溜め込みそうな雰囲気があるし、こういう機会に思い切り吐き出してほしいものである。この場はそういう場でもあるのだし。
「……その……引かないでくださいね?」
「引くわけ無いでしょ。改二改装で痴態晒した私に怖いものないぞ」
「ぽい、夕立もだぞ」
ガッと肩を組んで親指を立てた。こういうことで妙に笑いのツボに入るかなと思ったのだが、残念ながら不発。逆に恥ずかしい。
そういうところで私と夕立の友情は深まっている。整備班の皆さんに申し訳ない気分になる程、酷い声を上げてしまっているのだから。
「……私も陽炎ちゃんの匂いがわかるって話したよね」
「D型艤装使ってるもんね。数値的にもそれなりに高かったって聞いてるけど」
「うん……多分この鎮守府のD型異端児の中だと、夕立ちゃんの次に高い数値だった」
私と萩風は例外。測れないのだから上も下もない。そうなると、夕立が越えられない程に離れているとはいえ2番手は磯波ということになるのか。
「その匂いが強くなったことも……私にはわかってるの」
「そうなんだ。夕立がこれだし、D型の人達はみんなわかってるんだろうね」
残りのD型異端児は阿賀野さん、由良さん、天城さん。改二になってから近付いてはいないが、近付いたら何かしら反応があるかもしれない。
とりあえず言えるのは夕立ほど顕著じゃないということ。これは夕立の持つあまりにも大きすぎる同期値が改二改装によりさらに膨れ上がった結果と、私が改二改装したことで匂いが強くなったことが重なり合ったせいだろう。
「……その、ね? わ、私も、私も
おっと、これは予想外。いつも物静かで真面目な磯波にしては、今までにないくらいに欲望を出してきたような気がした。曝け出したからか、ふんすと鼻息荒く私に向き直る。
なるほど、夕食の時やさっきボーっとしていたのは、私の匂いに
「最初はうっすらって感じだったけど、だんだんその匂いが強くなってきてたけど、いい匂いだなって思ってたくらいだったの。でも今は違う……夕立ちゃんが羨ましいって思えるくらいなの!」
「お、オッケー、落ち着いてね磯波。夕立、ちょっと膝枕やめよっか」
「ぽ、ぽい」
磯波の勢いに押され、夕立もタジタジである。普段やらないような者がそういうことをやるから、普通よりも圧が強く感じる。目力も強い。
引くというよりは、驚きが隠せなかった。今まで一度も見たことのない強すぎるくらいの意思をぶつけられて、私もタジタジである。いつものこともあるし、この願いは叶えてあげた方がいいと思う。私に出来ないことではないし、私にしか出来ないことだし。
「あー、わかったわかった。磯波、ちょいちょい」
手招き。一切の抵抗なく磯波が近付いてくる。
「これでいい?」
夕立がさっきまでやっていたように膝枕。夕立と同じように私の腹に顔が向くようにである。磯波相手にこんなことすることになるなんて、昨日までの私は絶対に考えない。
磯波はというと、私にも聞こえるくらいの音でスーハーと息を吸っていた。ここまで来るともう別人に見えてしまった。磯波の属する吹雪型は陽炎型程ではないけど姉妹がそれなりにいるらしいし、あの中の他の1人に置き換わってしまったのではと思えてしまう。
だが、磯波のこの姿を見て、何かピンと来るものがあるのか萩風が反応を示した。
「萩風、どうかした?」
「……多分なんですが、磯波さんがそうなってしまっている理由、わかります」
流石元駆逐水鬼。そういった事情を先に知ってしまっている経験が活きている。そんなことを口に出したら萩風が傷付くので心の中で留めておくが。
「姉さんのその匂い……太陽の姫からもした匂いなんです」
「あー……そうなんだ。匂いが強くなってるってのは、私が太陽の姫に近付いてるって証拠だ」
「はい……そしてその匂いの効果は……
これも萩風の憶測ではあるが、実体験を基にした考えであるので信憑性は比較的高い。
深海棲艦の姫として活動していた
つまり、この匂いは仲間を従わせるための『フェロモン』みたいなものなのだろう。性別種別関係なしに、誰もが太陽の姫を好くように。離叛の可能性を極限まで減らすように。それでも駆逐水鬼が暴走したのは、欲望があまりにも大きすぎたせいか。手綱をつけなかった太陽の姫が悪い。
だが、その匂いが磯波の豹変と何が関係あるのか、と考えた時点で答えは出ているようなもの。D型異端児は他の艦娘よりも
「艤装の次は仲間にまで干渉しちゃうとか嫌なんだけど……」
「匂いは抑えられませんから……太陽の姫は抑える必要が無いとも考えていそうですし」
「あー……うん、だろうね。なんかアレ、深海棲艦の頂点に立ってるみたいな立ち振る舞いだったし」
自分を神であるとでも思っているようなヤツだった。何せ、『我ハ日』である。
一方こう話している間も磯波は私の匂いを嗅いでいる。膝枕のつもりだったが、もう顔面がお腹にくっついてしまうくらいに近付いていた。私の匂いは磯波をここまで豹変させてしまうくらいに強化されてしまったらしい。
なら、ポワポワした阿賀野さんや、おっとりとした由良さん、慈悲深い天城さんにもコレが効いてしまうのだろうか。特に由良さんは改二であり、D型艤装からの影響は強め。
「スー……ハー……ん、んん、ありがとう陽炎ちゃん。満足しました」
なんだか肌がツヤツヤした感じの磯波が私から離れた。今まで溜め込んでいたモノを解き放ったからか、ストレス解消した感じに清々しい笑顔。ここまでの表情を見るのは初めてかもしれない。
そしてここで正気に戻ったのだろう、今まで自分がやっていたことを思い返してどんどん顔が赤くなっていく。物凄く恥ずかしいことをやっていたと理解し、アワアワした挙句に布団を被った。
「わ、私、なんてことを……」
「大丈夫大丈夫、磯波もストレス溜め込むタイプなんだなぁって」
「うわぁぁぁ……恥ずかしい、恥ずかしい……」
一過性のものだったようだが、定期的にこうなってしまう可能性も出てきている。夕立ほどベタベタしてくるわけでもなし、磯波の人柄からしてこれくらいなら別に平気だ。羞恥心が残っているのなら尚良し。
この程度なら別に定期的にやってくれても構わない。夕立みたいに抱きつくわ揉むわとしないだけでも充分である。
「なんだろう、やっぱり匂いわからなくてよかったなって思えちゃった」
「沖波は最後の希望だから」
「そっか、影響を受けない異端児駆逐艦、私だけなんだ……わかった、いざという時は私が頑張る」
萩風は違う理由でまだ難しいので、このメンバーで一番正気を保っていられるのは沖波ということになる。故に、最後の希望。万が一のことがあったら、沖波に頼らざるを得ない状況である。
「でも、ゲロちゃんこれは女王様の素質っぽい。ぜーんぶ自分の思い通りで、こっちの意思はぽいぽいぽーい」
「いやいやいや、勘弁してよ。女王様だの暴君だの、完全に不名誉でしょ」
「ゲロ様の方がいいっぽい?」
布団を被った磯波が破裂した。ゲロちゃん呼びにはもう慣れていたが、ゲロ様は流石にまずい。私はそういう関係を求めているわけではないのに。
しかし、この匂いは夕立の言う通り暴君の素質なのかもしれない。太陽の姫のせいで、私の人生はこの辺りからグチャグチャになっていく。
一時的に磯波すらも夕立っぽくなってしまいました。今後たびたび崩れる可能性あり。夕立と萩風に次いで陽炎の身の危険要因にならないことを祈るしかありません。