異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
悪夢が更新されたが、大事に至る前に萩風に起こしてもらったおかげで事無きを得た。消耗はしたものの、その後にもう一眠りしたことで体調不良もなく、改二改装された艤装のテストもやっていけるだろう。
その前に私、陽炎は、萩風と共に空城司令に昨晩の件を伝えることにした。朝食後、テストの前の空いた時間を使って詳細に説明すると、さすがの空城司令も困った表情をする。
「悪夢自体はギリギリで止まったわけだ」
「うん、萩風のおかげでね。今後はまだどうなるかわからないけど、少しの間は誰かと一緒に寝ていいかな」
「ああ、それは許可する。アタシが添い寝してやりたいくらいだが、生活のリズムが普通とは違うからね。同じ艦娘に見てもらった方がいいだろう」
司令に添い寝してもらうとか艦娘として大丈夫かと思えてしまうが、そこは残念ながら無し。空城司令は正直どのタイミングで寝てどのタイミングで起きているかもわからないような不規則な生活をしているため、艦娘とはどうしても合わない。
結果的に、私達が勝手に決めていた今晩からもみんなで一緒に寝るが正攻法になりそうである。これからも迷惑をかけそうだ。
「アンタの状況は理解した。匂いの方は少し様子を見てみようか。あまり酷いようなら考えるべきだろう」
悪夢が進んだこともそうだが、大きな観点になったのは磯波の豹変である。
とんでもないことになったわけではないのだが、物静かな磯波が夕立に似た積極性を見せたというだけでも結構えらいこと。しかも私に抱き付いた挙句に鼻息が聞こえる程の嗅ぎ回しを見せてしまっている。あの後すぐに正気に戻っているが、朝にはまた積極性を復活させていた。
あれは私も匂いがD型異端児に対して影響を与えているものだ。今まではただただいい匂いというだけだったのが、それ以上の何かを発揮してしまっているのだから要注意とされてもおかしくはない。
「方針は決まりだ。今日は予定通りに動いてくれるかい」
「了解。私は木曾さんに雷撃訓練をしてもらう予定です」
「私は改二艤装のテストだね。誰に見てもらうのかな」
「艤装のことだから夕張だね。あとは由良が付き合う予定だが……」
ここで少し空城司令が顔を顰める。由良さんはD型異端児。つまり、私の匂いに何かしらの影響を受ける可能性があるということ。
磯波ほどガッツリ顔を突き合わせるような関係ではないものの、同じ空間で朝食を摂っていたり、お風呂で一緒になることは多々ある。
それこそ、鎮守府の人達というのは毎日顔を合わせるような仲なのだから、昨日から発現してしまったこの特性は何かしらの影響を与えそうである。
「由良の同期値は異端児ではあるが、夕立はさておき磯波ほど大きくはないから、それに対してどういう影響を与えるかは知っておいた方がいいだろうね。何かあったらすぐに報告しておくれ」
「ん、了解。何事もないかもしれないしね」
改二とはいえ由良さんなら何事もなくただいい匂いっていうだけで終わってくれるのではないかなと淡い期待があったりした。駆逐艦である夕立と磯波とは違い、軽巡洋艦なのだから耐性が高いとかあるかも。
これが艦種問わずだとお手上げである。何かしらの対策を考えなければならない。
「アンタのその特性については、しーがいろいろ調べている。万が一の時の対策もね」
「わ、そうなんだ。しーちゃんホントにありがとね」
「いえいえ、こういう時にこそ私が動かなくてはいけませんから」
事務担当なのだからデスクワークは任せてくれと言わんばかりである。萩風の戸籍のこととかまでやれるのだから、私の特性への解答も見つけてくれるのではないかと思える。期待は大きい。
「じゃあ、今日もよろしく頼むよ」
そんなこんなで1日が始まる。改二となった私の、ある意味心機一転の始まりである。
工廠にて、夕張さんと由良さんが見守る中、新たな艤装での砲撃訓練が開始される。夕張さんは艤装の性能チェック、由良さんは私の砲撃姿勢などをチェック。
最初は魚雷が備え付けられていたが、有事の時を考慮してそちらにも主砲を接続した、いわゆる
だがそこは最新型で整備班の技術の結晶、私の身体には反動が殆ど感じられない。さらには艤装の従い方が以前に増して極まっており、察するどころか完全に意思通りの砲撃になっている。命中精度は以前も変わらないどころか、綺麗にど真ん中を撃ち抜いた。
「すごいねこれ。威力も精度も全部上がってる」
「陽炎仕様のC型砲ってヤツね。今までの戦闘データから陽炎に一番使いやすくなるように最適化した結果だよ」
夕張さんが説明してくれた。つまり、今までの私のデータからいろいろと計算して、私にとって使い勝手がよくなるように改良してくれたわけだ。艤装の形状変化で取り回しそのものが変化しているのだが、クセまでもデータに入っているおかげでそこすら考慮されている。
加えて、艤装そのものが私に完全に従ってくれているのだから、当たらない道理が無いという状況である。止まってる的には百発百中。テストなのでペイント弾なのだが、撃ち抜いた場所にさらに撃ち込むなんて芸当まで出してしまった。
「今まで以上だよ。さすが私の相棒。今後もよろしくね」
艤装に向けて声かけ。ここまで従ってくれるのだから、意思があろうが無かろうが、この子は私の相棒なのだから今後も持ちつ持たれつで行きたい。私はイメージを、艤装が実行をするという意味では、私の中では対等の関係だ。主従ではない。
「相変わらず艤装側はすっごい精度。イメージ通りに動くってのは基本的なことなのに、艤装が艦娘を
私の砲撃訓練を見ながら一人で納得していく夕張さん。整備員としての視点で確認しているので、私ではなく艤装を見ているわけだ。
逆に由良さんが私側を見てくれているわけだが、ここに来て声を聞いていない気がする。とても嫌な予感がするのだが、当たらないでほしい。
「うん、陽炎ちゃんの砲撃、全くブレも無くていい感じだね。手持ちの方は未だにブレ弾みたいだけど、それは個性だから問題ないかな。でも、主砲が手持ちだけになった時のことはちゃんと考えておかなくちゃいけないね」
よかった、ただジッと私の砲撃を見ていてくれただけのようだ。昨晩の磯波のように匂いにやられてボーッとし始めているのかと思ってしまった。やはり同期値が大きすぎることが豹変のポイントになっているのだろうか。
まぁ今は私がこういうことをするのもあり、間近にいるわけではなく少し離れた位置である。磯波のときのように至近距離で向かい合うようなことはしていない。実はそれが問題点となったら困る。
「改二改装の時に大変だったって聞いてるから少し心配だったけど、ちゃんと成長してるみたいで良かったね」
「ね。アレはまぁ陽炎の名誉のために内緒にしておくよ」
「そんなに凄かったんだ……由良も酷かった方だから、なんだか同情しちゃう」
由良さんもかなり激しかったと聞いている。私でまだ3人目ではあるが、D型異端児の改二全員影響が大きいということが実証されてしまった。今後私達と同じような被害を被る者がまた出てくるかもしれない。
「よーし、主砲はその辺でいいよ。次は魚雷にしてもらうから、一度戻ってきてー」
「はーい」
砲撃のテストはこの辺で終了。今日中に私が出来ることを全て見ていくのだから、少しだけ巻きで。今度は魚雷なので、一度艤装を下ろして接続する武装を変える必要があるため、一旦海から陸に上がる。
その間に由良さんが私の撃った的を片付けてくれるのだが、その時にチラッと通り過ぎた瞬間に由良さんの動きが止まる。おそらくこの瞬間が一番私と由良さんが近付いたタイミング。
「陽炎ちゃん、また匂いが強くなった?」
「あ、うん。そうみたい。改二になってからまた」
わざわざ足を止めてまで私の匂いを嗅ぎに来た。磯波のように抱きついて鼻を私の身体に付けて嗅ぐようなことは無いが、かなり近いことは確か。今はテスト中であるため、少し汗ばんでしまっている。それもあってか、こうされるのは物凄く抵抗がある。
「あ、あのー、由良さん?」
「なんだかずっと嗅いでたい匂い……アロマみたいな、気分が落ち着く匂いっていうのかな、部屋に置いておきたい匂いなの。わかってくれるかな。くれるよね。ねっ」
これ、磯波くらいになっているのでは。目が血走っているとかでは無いのだが、いつもの雰囲気が少しずつ薄れてきて、顔がどんどん私に近付いてくる。
少し怖いのは、私は武装を替えるために艤装を下ろしているが、由良さんはまだ装備中ということ。このまま押さえ付けられたら身動きすら取れなくなってしまう。最悪な場合、私は
「由良さん、タンマ。とりあえず的を片付けてきてもらえると」
「えっ……あ、ご、ごめんなさい。由良ったらうっかり」
本来の仕事を思い出してもらうことですぐに正気を取り戻してくれるが、今止めなかったらずっと嗅ぎ続けていたと思う。それこそ、あの時の磯波の時のように満足するまで。
だが、由良さんすらも歪めてしまった事実は変わらない。磯波よりは正気に戻りやすいのかもしれないが、言わなければ戻らないという時点でいろいろと困った話である。
「どうかした?」
「あ、あー……うん、ちょっと」
まだ私の特性については周りに報告されていないため、簡単にだが説明しておく。由良さんは的を片付けてくれているためこの場にはいないが。
話を聞いていくにつれ、夕張さんは呆れつつも笑うしか無くなったようである。今までにそんな特性を持つ艦娘なんて見たことがないのは当然のこと。整備班としてもかなり興味深い存在になってしまっているらしい。とはいえ艤装は一切関係ないため、何か変えることが出来るかと言われれば答えはNoなのだが。
「速吸さんと相談して、その匂い抑え込める装備とか考えてみよっか。消臭剤とかになるのかな」
「すっごく聞こえが悪いんだよなぁ」
だが、どういう形であれ匂いが抑えられると私としては嬉しい。自分が壊れるならまだしも、周りを壊すのは後ろめたい。完全に巻き込み事故みたいなものだし。
「気をつけてどうにかなるものじゃないのなら、対策をどうにかして作るか、受け入れて生活していくかしかないからね」
「今しーちゃんがいろいろ調べてくれてるんだ。それを待つしかないかな」
「しーちゃんが? なら期待出来そうだね。あの子、何処からかとんでもない情報手に入れてくることあるし」
流石
「的、片付けたよ。魚雷用のも出してきたからね」
「ああ、ありがと由良」
由良さんが戻ってきた途端、スンと鼻が鳴り、ゆっくりと私の方を向いてきた。近付いた時点で効果が出てしまっているように見える。
それを見た夕張さんはすごい悪い顔をしたように見えた。説明してしまったことを後悔したのも束の間、ニッコリ笑って由良さんの手を取る。
「由良、ちょっと実験させてー」
「えっ、何を……!?」
思い切り引っ張ったことでつんのめり、由良さんの顔が私の胸へ。
「ちょっと夕張さん!?」
「いやぁどうなるのかなって思って。話を聞く限り結構興味深いことだし、いろんな例があった方がいいんじゃない?」
「そういうことじゃなくて! ゆ、由良さん大丈夫……?」
私の胸に顔を埋めた由良さんが動かない。本当に大丈夫かと思った瞬間、すごい勢いの息遣いが聞こえた。昨晩の磯波と同じ。しかも手を腰に回してきて、離れないようにガッチリホールドまでされた。
「うわ、ホントだ。こりゃ凄いや。由良とはそれなりに付き合い長いけど、こんなに理性吹っ飛ばしたところ見るのは初めてかもしれない」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 由良さん離れて離れて!」
ここまで効いてしまうとは正直思っていなかった。クンクン程度で済むと思っていたのだが、今の由良さんは夕立くらいの積極性で貪欲に匂いを嗅いでしまっている。
「はふ……大満足……あ」
ツヤツヤした表情の由良さんが我に返った途端、顔がだんだん赤く染まっていき、手のひらで顔を覆う。
「わ、忘れて、なんか由良おかしかったの。ごめんね、ねっ!?」
「大丈夫、大丈夫だから。ちゃんと説明するから!」
説明をしても納得出来るかと言われれば簡単には出来ないものである。艤装テストの間、由良さんはずっと頭を抱えていた。
私のこの特性は、鎮守府に混乱を招くものなのではないだろうか。早いところどうにか対策を取りたいものである。
由良までもが陽炎の特性に囚われてしまいました。残りは阿賀野と天城ですが、あちらは改二ではないのでまだマシかも?