異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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最凶の追手

 改二艤装のテストの一環で哨戒任務に参加していた私、陽炎。終わりがけまでは平和な海を航行していたのだが、後半、南方棲戦姫の巣に近い領海を哨戒した時に、深海棲艦が現れた。隼鷹さんがレ級と呼ぶそれは、姫よりも強い深海棲艦と呼ばれているらしく、今の状況なら勝ち目が無いという。そのため、突如最大戦速での撤退となった。

 

「そ、そのレ級って何なの!?」

「とにかくヤバい奴なんだ! 戦艦と空母と雷巡を足して3で()()()()()()奴だと思ってりゃいい!」

 

 多少は後ろを気にしながらも木曾さんが説明してくれた。いつも、むしろさっきまで余裕な表情をしていたのに、レ級の名前が出た途端に切羽詰まったものになっていた。木曾さんだけではない。みんながだ。

 

 聞いただけでとんでもないことがわかる。一部例外はあるものの、そもそも戦艦が持たないものを沢山持っているというインチキ深海棲艦らしい。戦艦の火力、空母の航空戦、重雷装巡洋艦の雷撃、その何もかもが意味不明な火力を誇っているわけだ。

 そんな奴と現状でまともにやり合うのは、死にに行くようなものである。とにかく戦力が足りない。それだけ強いというのなら、最低限戦艦のどちらかが欲しいところ。駆逐艦では手も足も出ないのではないか。

 

「隼鷹さんレ級は!?」

「やっべぇ、こっち追いかけてきやがった!」

 

 隼鷹さんは哨戒機を飛ばしながらの撤退になるのだが、それもあってか若干航行速度が遅い。それをどうにかするために、加古さんが無理矢理引っ張りながらの撤退になっている。

 しかし、あちらはこちらを追いかけてきているらしい。最悪なことに、スピードはあちらの方が上とまで来た。何処までインチキな性能なのだ。

 

「敵はレ級だけなんだが……ちょいとまずいね。加古、鎮守府にゃ連絡してんだよな?」

「あったりまえでしょうが! あんなもん6人がかりでもしんどいっつーの!」

 

 こうしている間にも増援を呼び寄せたようだが、領海の端から撤退しているので、どれだけ早くても数十分は合流までに時間がかかるだろう。それまではどうにか耐えなければ。合流出来れば尚良し。

 

「うわ、マジか。アイツ発艦してきたぞ!」

 

 哨戒機からの情報を逐一受けている隼鷹さんが叫んだ。こちらに向かいながらも艦載機を飛ばしてきたらしい。今は正直対空砲火なんて言っていられない。それで足を止めたら確実に追い付かれる。

 深海棲艦の艦載機は艦娘の使うそれとは段違いにスペックが高いが、レ級のそれも例外ではない。その上、一度に出てくる量が普通の空母よりも多いと来た。隼鷹さんも艦載機同士で迎撃しているとはいえ、防空装備をしているのは菊月だけなので、確実に手が足りない。

 

「回避だ回避! 絶対に止まるな!」

 

 こちらも遠退いているというのに、敵艦載機の姿が見えてきてしまった。そもそも艦載機のスピードは艦娘の最大戦速よりも速いものではあるが、これはそのスピードすら何かがおかしい。しかも爆撃機。真上を陣取ったところで一気に爆弾の雨を降らしてきた。

 以前の空母2人がかりの防空訓練を思い出す。あの時はダミーの爆撃で全身余すところなく塗り潰されたが、今回は直撃がそのまま死に繋がる空爆。全力で回避に繋げる。

 

「多少は潰す!」

 

 全力で駆け抜けながらも菊月が身体を反転し、スピードを維持したまま対空砲火を放った。撃った反動があっても体勢は崩さず、1機また1機と確実に墜としていく。しかし、それでも微々たるもの。艦載機の数は減ったようには見えず、爆弾の雨はまるで変わらない。

 

「ならば、この菊月の必殺技をお見せしよう! 初月仕込みの対空砲火だ、受けてみるがいい!」

 

 同じように対空砲火を放つのだが、今回の狙いは艦載機ではなく()()()()()()()()()()()()。回避ではなく撃ち落とし、空中で爆発させることで周りに誘爆まで狙って空爆の密度を下げていく。

 

「ナイスだ菊月! これで多少は抜けやすく」

「すぐに散って! 今度は撃ってきたよアイツ!」

 

 空爆の次は主砲。まだ水平線の向こう側に姿も見えないのに、こちらに向けて砲撃を放ってきた。哨戒機の連絡のみでそれを先読みしているのだが、こちらがあちらの挙動を理解していると同時に、あちらもこちらのことを把握しているのだと思う。回避は可能だろうが、上と横からの同時攻撃で神経を擦り減らされる。

 すぐにある程度散らばったところ、砲撃が部隊のど真ん中を通過した。隼鷹さんが言わなかったら誰かがやられていた可能性がある。命中精度もとんでもない。向こうからちゃんと見えていないのに。

 

「こ、これ1体でやってんの!?」

「そうだよ! 魚雷まで来るからな!」

 

 海上も海中も空までもを1体で制覇してしまっている。それはもうズルなのでは。私達がこれだけ人数を揃えてやってることをたった1体で。滅茶苦茶すぎる。

 

「くぅ、数が減らぬ……!」

「まずいね。こりゃあジリ貧だ。迎撃も覚悟した方がいいかねぇ」

 

 なるべく死を遠ざけるための行動を優先した結果、最大戦速では無くなってしまっていた。そのせいで、振り返ればもう水平線の向こうに何者かの姿が確認出来る程にまでなっていた。

 人影程度であるため、まだどんな奴かはわからない。だが、たった1体であることはわかる。人影とはいえ遠目でも異形に見える辺り、やはりアレは深海棲艦。

 

「くっそ、もうあんなとこかよ。ギリギリまで逃げっかい」

「いや、こりゃあもう無理だ。完全に射程圏内だろ」

 

 諦めたような木曾さんの言葉で撤退はおしまい。ここまで来たら、撤退戦よりも迎撃戦の方が生き延びられる確率が上がるだろうという判断。

 

 今までは背中を見せながら隼鷹さんの哨戒機頼りで回避行動をとっていたが、この距離ではもう背中を見せること自体が危険。だからといってバックしながらでの撤退戦は、バランスを崩して狙われる可能性もあって危険極まる。

 ならば、増援が来るまでの時間を稼ぐため、死なないように私達が足止めをするしかあるまい。

 

「あちらさんも止まるつもりは無いみたいだ」

「ど、どうしよう、私対潜装備なんですけど」

「五月雨はやれることをやってくれればいいよ。無茶だけはしないでよね」

 

 五月雨は直接攻撃する手立てが無い。故に、回避しながら状況を見るしか無くなっている。相手は潜水艦では無いのだから、ソナーと爆雷は残念ながら使い物にならない。

 

 そうこうしている間に、敵の姿が詳細にわかるくらいになっていた。

 その姿は、どう見ても私達と同い年か少し下の女の子でしかない。黒いフードの付いたコートを着込み、首にストールを巻いた色白の人間と言われても遜色が無かった。そういう意味では姫に近いか。

 だが、艤装がとんでもなかった。尻から生えたそれは、それ自体が女の子の上半身に匹敵するほどの大きさを持つ大蛇のような形状。海なのだしウミヘビとかウツボとかに形容した方がいいか。

 

「姫じゃ無いんだよね!?」

「一応な! だから、言葉とかは話さねぇし、こっちの言ってること理解してるかもわかんねぇ!」

 

 人間の形をしている獣だと思えばいいとのこと。意思や理性など無く、本能のままに殺戮を繰り返す最凶の深海棲艦。こうして近付いてくる間も攻撃の手は一切緩めず、ただただ破壊活動が楽しいと言わんばかりに歪んだ笑みを浮かべていた。

 さながら、腹を空かせたライオンの檻に入れられたような感覚。私達は全員、狩りの対象とでも言わんばかりである。

 

「私も狙ってくる……南方棲戦姫の斥候じゃないの……?」

 

 レ級の攻撃は完全に見境無し。今までの敵と違って私にもしっかり照準を合わせてきている。理性のない力任せな砲撃のため比較的回避しやすいものの、掠るだけで死ぬのではないかという威力をこれでもかと連射してくるため厄介極まりない。

 動きだけ見たら野良だ。視界に入ったもの全てが敵であると言わんばかりに、まるで疲れすらも見せずに激しい攻撃を繰り出してくる。正直回避するだけでも精一杯。

 

「なんてスピードだよクソが! 魚雷が当たらねぇ!」

「滅茶苦茶すぎんだろ! 砲撃も効かないとかさぁ!」

「空爆も全部避けんのかい! かぁーっ、インチキだねぇ!」

 

 撤退戦をやめた時点でこちらからも攻撃を始めているが、こちらの攻撃は全く当たる気配が無かった。いや、言い方が違う。()()()()()()()

 木曾さんによるとんでもない密度の雷撃は、飛び越えたり大きく迂回したりで完全に回避。私や加古さんによる砲撃は、ウミヘビのような艤装で跳ね返したりまでしてきた。隼鷹さんの空襲は、自分の艦載機で拮抗させつつ、被害を最小限に食い止めている。

 

「魚雷来るぞ! 避けろ!」

 

 今度はあちら側からの雷撃。あのウミヘビのような艤装が真上に立ち上がると、その口から理解出来ない量の魚雷が吐き出された。戦艦だというのに、木曾さんと同じくらいの密度の雷撃である。

 幸いにも全てが横並びになって向かってきたため、飛び越えることでどうにか回避は出来るだろう。しかし、そうしている間は他の攻撃への回避が出来なくなる。

 

「私が処理します! 出来るか、わからないけど!」

 

 そこに動き出したのは、今一番攻撃がしづらいであろう五月雨。出来ることは爆雷の投下くらいなのだが、それを魚雷目掛けて投げまくった。私達に辿り着く前に爆発させてしまえば回避する必要は無くなる。

 微々たるものでも効果的に作用し、魚雷同士の密度が高いおかげで1つが爆発したら次々と誘爆してくれる。爆雷の爆発もそれを助長しているが、それでも限界はあるため、それは回避しなくてはならない。

 

「それなら私も!」

 

 ならばと、私も魚雷に向けて砲撃を放つ。艤装に備え付けられた方の主砲ならばピンポイントで狙うことが出来るはずだ。魚雷の動きはさんざん訓練で見てきた。突然曲がるわけでもあるまいし、直進するものくらいなら動きは予想出来た。

 

 だが、魚雷が一度に大量に爆発したことにより、夥しい数の水柱が立ってしまったことで、レ級の姿が全く見えなくなってしまう。これでは誰が狙われるかもわかりづらい。

 これは駆逐水鬼の時にもあったことだ。あの時も水飛沫で視界を塞がれたことでその間に接近を許してしまって、本来あり得ないような近接戦闘を挑まれてジリ貧となってしまった。レ級もそういうことをやってくるのではないか。

 

「動き続けろ!」

 

 こちらはあちらを見ることが出来ないが、あちらは尋常ではない数の艦載機を飛ばし続けることで上空からこちらを監視しているのだ。止まっていたら狙い撃ちにされる。とにかく動き続けて、狙いを定めさせないように努めるしかない。

 

 しかし、ここでまた想定外の動きをされた。

 

 水柱が無くなるよりも前に、私達の部隊のど真ん中に()()()()()()()()。もしや、あの場所からただ跳んだだけでここまで来たというのか。

 最悪なことに、レ級の視界の真正面にいるのは私だ。ニチャリと笑みを浮かべたレ級が着水と同時にさらに海面を蹴り、私に向かって突撃してきた。

 

「嘘……っ!?」

 

 この動きの速さには誰も追いつけなかった。私も砲撃をしようと思った瞬間には首を掴まれて押し倒された後。

 

「かはっ……!?」

「陽炎!?」

 

 そのまま尻尾のような艤装を振り回して、仲間達を私に近付けさせないように砲撃を繰り出した。これでは助けを求めたくても求められない。仲間達は手が届かない場所に行ってしまう。

 私が近くにいすぎるせいで攻撃も出来ず、近付こうにも砲撃のせいで近付けず、私は完全に孤立させられた。

 

「なんの……つもり……!?」

 

 首を掴むレ級の腕をどうにか引き剥がそうと、私自身が砲撃を繰り出そうとするが、それを見越したかのように私の主砲が殴り飛ばされて手から離れてしまった。艤装に備え付けられた主砲は近すぎてレ級を狙えない。

 するとレ級は、私の胸元に顔を押し付けて匂いを嗅ぎ始めた。深海棲艦なのだから、私の匂いはわかるはずだ。それが太陽の姫の特性と同じならば、萩風が言っていた通り深海棲艦を従わせる匂い。もしかしたらこの状況を打開出来るかもしれない。

 

「フヒ、ヒヒヒ、ハハハハハ!」

「なっ、なに!?」

「オマエダ。オマエダ。コノニオイ、()()()()()()()()()()、イワレテイタヤツダ!」

 

 普通に人の言葉を使っているではないか。姫とは違いかなり片言ではあるが、子供くらいの知性はあるような話し方。しかし、私の匂いを嗅いでうっとりしたような表情を浮かべる辺り、本能に忠実なのも窺える。

 

「オマエハコロサナイ。コロシチャダメダッテイワレテル」

「ならどうするのさ!」

「ツレテカエル。アジトニモッテイク。ヒメニワタス」

 

 そんなことされて堪るか。今すぐ拘束を解かないとどうにもならない。ジタバタと暴れるが、レ級はビクともしなかった。あまりにも強すぎる。だが、抵抗はやめない。

 連れて帰られたら私がどうなるかなんて一目瞭然だ。確実に目覚めさせられる。記憶を取り戻し、深海棲艦へと覚醒させられる。そんなのは嫌だ。そんなことあって堪るか。

 

「アバレルナ。オマエハツレテカエル」

「放しなさいよ……!」

「ジャマナヤツハコロスケド、オマエハコロサナイ」

 

 

 

「いいや、放してもらうわよ」

 

 

 

 突然レ級が吹き飛んだ。元々ここにいた仲間達への砲撃と私の拘束に専念していたからか、ここまで近付く者の影に気付いていなかった。私も気付いていなかったくらいだ。

 その人はたった今、レ級の頭をサッカーボールのように蹴り飛ばしたのだ。渾身の力を込めて、破裂させるくらいの勢いで。戦艦の力があれば拘束くらい外せるらしい。

 

「援軍到着。ゲロちゃん、大丈夫?」

 

 その人は陸奥さん。私達の仲間の最高戦力。今の私には救世主に見えた。

 




今回のレ級は原始人のような言動になっています。
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