異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
哨戒任務中、最凶の深海棲艦、戦艦レ級に襲撃された私、陽炎の属する部隊。撤退戦を優先するも、その尋常ではない強さにより追い詰められ、そのまま迎撃戦へと移行。改めて攻撃の姿勢になってもまるで歯が立たないという状況の中、私は不意に隙を作ってしまい、首根っこを掴まれて捕らえられてしまった。
本来言葉を介さないはずのレ級が姫の配下であることを告げ、私をアジトに連れて帰るとまで言い出したその瞬間、援軍が到着する。私を捕まえていたレ級の頭を蹴り飛ばし、その拘束を解いてくれた。
「援軍到着。ゲロちゃん、大丈夫?」
その人は陸奥さん。私達の仲間の最高戦力。今の私には救世主に見えた。
「ッヘッ、ゲホッ、た、助かった……」
「げ、ゲロちゃん大丈夫っぽい!?」
「ああもう、首に痕がついちゃってるわね。帰ったらお風呂で治しなさいね」
陸奥さんと一緒に援軍として来た霧島さんに引き起こされてなんとか姿勢を戻す。
レ級が相手と聞いて、ここに来たのは攻撃力特化のパワープレイ部隊。陸奥さんと霧島さんから始まり、足りない部分を補うために航空戦の天城さんと万能型の由良さん、さらには駆逐艦最高戦力となりつつある夕立と、レ級の艦載機を封殺するためにやってきた初月。
これにより、私達はたった1体の深海棲艦に対して連合艦隊12人で挑むことになる。それほどまでにレ級はまずいという認識のようだ。ならば、それを飼い慣らしている姫はどれほどだというのだ。南方棲戦姫の配下なのか太陽の姫の配下なのかは知らないが、これを下に付けることが出来るほどの実力ということなのだろう。
「ごめんなさいね。確実に過剰戦力だと思うけれど、貴女はそれくらい厄介なの。用心に用心を重ねた方がいいわよね?」
なんて、言葉なんてわからないかと溜息をつきながら倒れているレ級に語りかける陸奥さんだが、あのレ級は普通と違う。私と会話が出来ている。少ないながらも知能がある。一切油断ならない。
「ヒヒヒ、イタイ、イタイ、アタマガイタイ。ヒハハハハハ!」
跳ねるように起き上がり、その反動を使って陸奥さんに突撃してくる。私が側にいるからか主砲は使わず、その巨大な尻尾を振り回すかのように身体を回転させて。あれだけの渾身の蹴りを喰らって痛いで済むらしい。頑丈すぎる。
「それは駆逐水鬼で似たようなものを見ているの。当たらないわよ。というか喋るのね。下品なことこの上ないわ」
極太の丸太を振り回されているようなものなのだから、直撃なんてしようものなら艤装により強化されているにしても致命傷になりかねないため、即座にバックステップで範囲外に退避。
からの主砲斉射。撃つ方向にレ級以外の仲間がいるものの、余程のことが無い限り当たることはないため、容赦なく放った。
「ヒヒヒヒ! アタラナイ、アタラナイ!」
殆どゼロ距離からの砲撃だったというのに、しかも尻尾を振り回して体勢が崩れていたというのに、当たり前のようにステップを踏んでその砲撃を回避。ケダモノのような四つん這いの姿勢になり、尻尾が真上に立ち上がる。
直後、四方八方に魚雷が撒き散らされた。さっきの量の比ではない。全方向に高密度の弾幕のようなもの。さらには吐き出し終わった後に艦載機まで溢れ出てきた。海中と上空、2方向からの膨大な攻撃が開始される。
「初月、我々の出番だ!」
「ああ、ここでやらなければ防空駆逐艦の名が廃る」
魚雷の数はもう置いておいて、今すぐ出来ることをやるために、防空担当である菊月と初月が、あの意味がわからない量の艦載機に挑む。
菊月1人では爆弾を空中で爆発させることで被害を最小限に食い止めたが、初月が加わったことで攻撃に打って出ることが出来るようになった。初月専用装備の長10cm砲がガチャガチャと音を立てて動き、上空の爆撃機に狙いを定めた。
「天城、いいタイミングで来てくれたよ」
「はい、相手がレ級と言うのなら、私と隼鷹さん2人がかりでも制空権が取れないでしょう。ならばせめて拮抗を狙います」
「助かるねぇ。防空の子供達を手伝うぜぇ!」
防空駆逐艦の対空砲火だけではあの密度を打開することはほぼ不可能だ。故に、空母の航空隊の力も借りて、強引に制空拮抗に持っていく。艦載機1つに対して艦載機1つをぶつけ、足りないところに対空砲火。これで理論上拮抗。子供の計算じゃあるまいしと思うものの、現状はこれが最適解になってしまう酷い戦場である。
これで後は魚雷。それは先程と同じように私達駆逐艦が処理していけばいい。ただし、誘爆させると視界を封じるという先程の二の舞になりかねない。こちらも必要最小限に留めたいところ。
少なくとも防空班の足下だけは安全な状態にしておきたい。上だけに専念してもらいたい。
「こっちはこっちで避けるから、あの子達をサポートしてあげて」
「了解。五月雨ちゃん、由良と行きましょう」
「了解です! 爆雷でも魚雷は処理できることは証明済みですから!」
あちらには由良さんが五月雨を連れて向かった。これならきっと大丈夫。安全な対空砲火が出来るはずだ。
残った私達がレ級退治に専念する。艦載機からの空爆が無くなれば、立ち回りも多少は楽になるはずだ。それでも6人がかり。うち戦艦2人。酷いものである。
「じゃあ改めて。霧ちゃんよろしく」
「後のことは知らないわよ」
陸奥さんの合図により、霧島さんが海面に向けて主砲を放った。駆逐艦が処理するのとは雲泥の差である威力で、いくつかの魚雷を纏めて薙ぎ払う。そしてその爆発が他の魚雷と誘爆し、次々と水柱が立っていった。
「この状態で勝てないと、南方棲戦姫には勝てないでしょう。レ級は前座の前座よ。本当なら余裕を持って勝ちたいんだけれど、ね!」
その水柱を掻き消すかのように陸奥さんの主砲が撃ち込まれた。水飛沫の向こう側にレ級がいることはわかっているのだから、当たろうが当たるまいがお構いなしに1発。
「ヒハハハハハ!」
まるで陸奥さんのそれを読んでいたかのように、その砲撃に砲撃をぶち当てるという神業みたいなことを目隠し状態でやってのけた。おそらくたまたまであり、狙ってやれるようなことでは無いのだが、目の前でそれを見せつけられると驚きが隠せない。
空中でぶつかり合った砲弾はその場で拮抗して爆発。水柱だけでなく、爆炎でまた姿が見えなくなる。
「後ろはガラ空きじゃねぇか!」
逆方向に向かった魚雷を避け切った木曾さんが、お返しと言わんばかりに魚雷を放っていた。密度はレ級より少なくとも、精度はレ級以上。数の暴力という力押しではなく、回避方向まで視野に入れたピンポイントの一撃。
あれを回避するには、撃ち抜くか跳ぶしかない。だが、レ級はそれすらもエグい。砲撃は言わずもがな、回避も一跳びで部隊の真ん中に襲来してくるほどの身体能力だ。
「フヒヒヒ、ムダムダ!」
案の定、驚異の身体能力を発揮して跳躍し、木曾さんの雷撃を軽く回避。さらには、その跳躍により木曾さんに大きく接近。重力を無視しているのではと思えるような俊敏な動きで、眼前に着水した。
そんなところにいる敵相手に魚雷を放とうものなら、爆発に巻き込まれて自分の方が大惨事になりかねない。雷撃特化にしてあるため、主砲すら持たない木曾さんには、ここまで接近されるとなす術が無い。
はずだった。
「アホみたいに近付いてくるんじゃねぇよ!」
すかさず腰に差していた軍刀を抜き、何かされる前にレ級の顔面に向けて一太刀浴びせる。
駆逐水鬼の件があってから、木曾さんも近接戦闘を視野に入れていた。いくら深海棲艦とはいえ、生身の部分は斬れるはず。それこそ全身が艤装で覆われていない限り、軍刀は効く。
私達の鎮守府では木曾さんしか持たない唯一無二の力があれば、戦況を打開出来る可能性が格段に上がるのだ。ならばと木曾さんも喜んで訓練していた。
「フヒ!」
それを上半身を反らせることで緊急回避しつつ、股の下から潜らせるように尻尾を前方に伸ばしてきた。
軍刀を振るっているということは、相当に近い位置にいたということ。その尻尾の一撃は海面に擦り付けながらのおかげで多少は威力が落ちていたものの、喰らったら小さくない被害を受けるだろう。
「やらせねぇっての!」
そこに今度は加古さんの砲撃。木曾さんには当たらないように殆ど真横から、レ級の身体を狙って。
回避がかなりしづらい場所だ。大きく動かない限りはほぼ確実に被弾する。被弾を避けるのなら、回避するにしてもガードするにしても木曾さんへの攻撃は不発になるはずだ。
「ヒヒヒヒ!」
想定通り、自分の身を守るために身体を捻り、砲撃側に尻尾を向けてガード。急激な尻尾の移動で風圧が生じ、最も近い位置にいた木曾さんは軽く押されてしまったものの、未だに無傷で闘えている。
「まず脚止めるよ」
さらに夕立の追撃。尻尾が届かないギリギリの位置まで突撃しての脚への砲撃。あれだけすばしっこい動きが出来るのは、わけのわからない身体能力を支えている脚があるからと考えたようだ。ならば、そこを潰せばおおよそ全てが終わる。
「キヒッ、イヤダネ!」
体勢が滅茶苦茶にもかかわらず、そこからでも尻尾が足下に伸びて夕立の砲撃をガード。柔らかそうな素材に見える尻尾の肌の部分は、それでも殆ど傷付いていない。
「なら私も足止めだね! 夕立、手伝うよ!」
「ぽーい!」
それなら足止めの砲撃を2方向から。私も夕立と同様にレ級の脚を狙って砲撃。自分ならではのブレ弾と精密射撃の交叉砲撃でより命中率を上げ、木曾さんと加古さんも含めた4方向からの攻撃により確実に仕留めていく。これなら回避が出来ないはずだ。上以外は。
さっきと同じように跳んでくれれば、余計に回避が出来なくなるはずだ。そこを狙い撃てば、多少なりダメージは与えられる。
「キヒヒヒッ! オマエハコロサナイ、コロサナイケド、ウットウシイ!」
しかし、それも力業でどうにかしようとしてきた。尻尾を大きく振りながら主砲を乱射し、私達の砲撃を邪魔しながら全ての攻撃をガードしてしまった。
木曾さんは近付けなくなったことで軍刀も使えなくなり、飛び退きながらも魚雷を発射したが、それは私達がやったことと同じように砲撃により破壊。
「痛ぇっ、なんなんだアイツは!」
さすがにそこまで撃たれると嫌でも被弾する。致命傷には至らないものの、砲撃の密度が高いせいでみんなが多かれ少なかれ傷を負っていった。私も主砲を持つ腕が火傷するくらいに。一番近かった木曾さんは、自分の魚雷の爆発もあったためにマントが焼け焦げ、腕や脚に血が滴るほどになってしまった。
姫より強いというのを嫌というほどに実感してしまう。傷付かないように若干後ろ向きな戦いになってしまっているかもしれないが、こうまでダメージが与えられないと焦りそうになる。
「ならここよね、霧ちゃん」
「ええ。あれは捥いじゃいけないなんてないもの。陸奥に付き合うわ」
ここで私達4人がレ級から間合いを取ったことで、戦艦2人の射線が完全に開いた。レ級は未だに尻尾を振り回し続け、私達に絶え間なく砲撃を繰り出してくるが、雑な力押しのおかげで回避は出来ている。
そのタイミングを見計らって、2人が同時に主砲を構えた。さらには陸奥さん先頭での突撃姿勢。
「戦艦陸奥、突撃するわ! 主砲一斉射! てぇーっ!」
そして、強烈な砲撃をしながらの突撃。
戦艦の主砲を放ちながらの突撃なんて、身体にかかる負荷が尋常では無いだろう。今までの戦い方からして、砲撃は自身をその場に固定しての連射がギリギリだったと思う。
だが、今回は違う。身体への負荷なんてお構いなしに、命中させることを念頭に置いた危険な必殺技である。
「ヒヒヒ、アタラナイ、ソンナモノ、アタラナイ」
「当たるのよ。当てるまで撃つんだもの」
さらに陸奥さんのやや後ろから霧島さんも突撃しながらの砲撃。戦艦同士だからこそ出来る連携技で、レ級の逃げ道を確実に減らしていく。
砲撃が激しすぎて、右にも左にも回避が出来ず、ご自慢の尻尾でのガードもままならない状況を作り上げた。どれだけ素早くても、ここまで強引な砲撃を前にしたらレ級と言えども即座に対応は出来ない。それこそ、先程の私達の目論見のように上に跳ぶくらいしか。
「アタラナイッテ、イッテルダロ!」
やはり跳んだ。砲撃の全てを回避するため、唯一の逃げ道である上へ。
「当てるまで撃つって言ったでしょう?」
それすらも見越した陸奥さんが、射軸をさらに強引に上へ引き上げた。砲撃の角度が急に変化し、空中で姿勢を変えることが出来ないレ級を完全に狙い撃ちにした。
「ああ、もう。なるべくならコレはやりたくなかったんだけど、やらないと南方棲戦姫倒せないものね。実戦投入は初めてだったけど、いろいろとわかったこともあったわ。ありがと。それじゃあ、バイバイ」
「ヒッ、ヒヒヒッ、ハハハハハッ!」
その砲撃に呑み込まれ、レ級は空中で見事に爆散することになった。けたたましいほどの笑い声と共に。
トドメは陸奥の特殊攻撃【長門、いい? いくわよ! 主砲一斉射ッ!】(正式名称)。戦艦2人いるんだもの。使うよね。