異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
戦艦レ級による襲撃の迎撃は、援軍として来てくれた陸奥さん達による一斉射により決着。跳んだことで砲撃の的になり、戦艦主砲による猛烈な砲撃の直撃を受けたことで見事に爆散することとなった。
言語を介し、知能を持った獣は、最期高笑いを残して消滅。他の姫ではない深海棲艦、イロハ級と同じように消えていった。亡骸も残らず、チリとなった。
「追加で援軍が来るかもしれないわ。怪我人は撤退してちょうだい。残った艦娘で哨戒を交代するわね」
今の戦闘で多からず傷を負うことになった者もいたため、そちらはすぐに撤退。動けない程の大きな怪我人はいなかったため、行動に支障は無い。怪我人だけでは危ないということで、護衛をつけてもらいつつの撤退となる。怪我人は木曾さん、加古さん、夕立、そして私、陽炎である。
私は腕に火傷を負う程度で終わっているが、一番酷い木曾さんは血が流れるくらいの被弾をしてしまっている。骨が折れているとかそういったことは無いようだが、おそらく戻ったらすぐに入渠ドックに入ることだろう。あれがいわゆる中破という段階か。
「ゲロちゃん、大丈夫っぽい? 火傷もそうだけど、首にもガッツリ痕残ってるよ」
「ああ、大丈夫。ありがたいことに痛くは無いよ。思いっきり掴まれたからかな」
私には見えないが、レ級に掴まれた首筋の痕がクッキリと残ってしまっているらしい。これは援軍に来た直後の霧島さんにも言われている。
鎮守府のお風呂に入れば消えるとのことなので心配はしていないが、やはりこういうのはあまり嬉しいものではない。
「帰ったらさっさとお風呂に入るよ。火傷もヒリヒリするし」
「なんなのアイツ! 何も考えないで尻尾ブンブン振り回してさ!」
夕立もご立腹のようである。勝てなかったとかで拗ねるように機嫌を損ねるようなことでは無いようだが、あの戦い方には物申したいようだ。本能のままに戦うのは夕立だって近しいと思ったのだが、本人の中ではそういうことではないらしい。
私の改二としての初陣は散々なものになった。ただの哨戒で終わってくれればいいものを。
鎮守府に到着し、そのままお風呂へ。予想通り、木曾さんだけは入渠という形になった。
専用のお風呂でしっかり身体を休めた結果、首筋につけられた痕や、腕に負った火傷は綺麗さっぱり無くなってくれた。女の柔肌に傷を残すわけにはいかないということで、こういうことには他よりも強く力が使われているとのこと。私としてはとてもありがたい。
その頃には、私達の代わりに哨戒をするために残っていた部隊も戻ってきていた。あの後に援軍が来るわけでもなく、ただただレ級が襲撃に来ただけだったようだ。少し安心。
「じゃあ、そのレ級は普通に言葉を話したんだね?」
「普通では無かったけど、言葉は使っていたわ。普通のレ級よりは賢かったと思うわね。まだお子様並みだったみたいだけど」
戻ってきた陸奥さんは、空城司令に今回のレ級のことについて伝えていた。あれは明らかに異質だったため、すぐに報告しなくてはいけないようなものだ。私達は優先的にお風呂に入れられたが、本来なら最初に交戦した私達がちゃんと話さなくてはいけないこと。
「私をアジトに持っていくって言ってたよ。姫に渡すとも」
話の最中ではあったが、陸奥さんが知らないことを私が知っているため、それをすぐに話した。これは確実に重要な情報。知性のない深海棲艦だと思っていたものが、明確に私を判断していたということは前例が無いはずだ。
「首を掴まれて押し倒された後、匂いを嗅がれてから、殺しちゃダメだと言われてるって」
「なるほど、なら奴らの仲間であることは確定だ。イロハ級に知性を与えることすら出来ると思えばいいのかい」
「現状を見るに、そう考えるのが妥当でしょうね。人型限定とかはあるかもしれないけれど」
確かに、あのレ級は完全に人間の形をしていた。姫でもないのにその形を取っている奴というのは何体かいるらしいが、その全てが人語を介することなく、本能のまま、もしくは上司である姫の命令に従って行動をする。駆逐水鬼の時も、比較的人型だったPT小鬼群や潜水艦がいたが、やはり人語は介さなかった。小鬼群はケタケタ笑っていたがそれくらい。
何かしらの力を加えた場合、そういう常識も関係なく、どんなものにも知能を与えることが出来るのかもしれない。レ級の場合はいろいろと足りなかったようだが、会話が出来るくらいの知能はあった。そうだとしたら、とんでもなく恐ろしい力だ。
「考えるってことは、それだけでも姫みたいなもんだ。本能のままに動くからまだ対処がしやすかったってのに」
「本当にね。知性があるってことは、狡い事もしてくるってことだものね。姫がそこにいなくても」
そうやって聞くと相当厄介である。指示が無くても独自に状況を見てその場で行動を考えるような、まさに
「しかもレ級だものね。イロハ級なんだから、アイツ多分1体じゃないわよ。あんなのが何体もいる可能性があるんだから」
「南方棲戦姫のところにゃ1体以上残ってると考えた方がいいだろうね。あれだけじゃない。むしろ、アレより賢いのがいる可能性だってある」
2体同時に出てきた例もあるらしく、複数体で現れる可能性も考えておいた方がいいとのこと。まるで害虫じゃないか。あんな強烈な力を持つ深海棲艦が群れのように押し寄せてきたら、どうにもこうにもならない。1体でも総動員だったというのに。
だが、常に最悪を考えた方がいいだろう。南方棲戦姫の巣の破壊には、レ級という最大級の障害がいることを視野に入れた方がいい。そして、それを突破出来たとしても、それ以上の存在である南方棲戦姫が立ち塞がることも。
「こいつは難儀だね。アタシらだけじゃしんどいかもしれない」
「そうね。これは支援が必要かもだわ」
つまり、他の鎮守府から応援を募ると。鎮守府の艦娘総動員で行くにしても、それですらどうにか出来ない可能性がある。それこそレ級が1体ならず2体3体と出てこようものなら、押し潰される可能性はさらに高くなるのだ。
ならば、人員をさらに増やして、こちらが押し潰す方向で考えた方がいい。南方棲戦姫との直接対決は私達がやるにしても、その随伴の足止めを誰かにしてもらう必要はある。
「よし、なら大本営に掛け合ってみるかい。そもそも人語を介するレ級が現れたってだけでも連絡するに値するんだ。萩風の時と同じくらいのスクープだろうよ」
レ級のことについては全ての鎮守府が知っておくべき事情。すぐにでも上に連絡して、全鎮守府に通達してもらうようだ。
そうすれば、何処かが対策を考えてくれるかもしれない。我こそはと支援に来てくれるかもしれない。
「アンタ達は今は自分のやれることをやっておいておくれ。戦いは任せるが、そこに至る道はアタシが作ってやるさね。なるべく綺麗に舗装された道をね」
「ええ、よろしくお願いね、提督。頼りにしてるわよ」
「大船に乗ったつもりで訓練に励みな」
なんて心強い。姫でもない強敵の存在を聞いても、次のステップにすぐに切り替えていく度胸。それに、多少はマイナスな言葉を出したとしてもすぐに前向きな言葉しか出さなくするのは本当に強い。
これだからみんなが空城司令についていく。この人となら勝てると信じられる。
今日の日程はこれで終了。予期せぬトラブルでまさかの実戦になってしまったものの、改二艤装は良好に動くことがテスト出来た。明日からは正式に改二として活動していくことになるだろう。
とはいえ、今日こんなことがあったのだから、昨日に引き続きまた悪夢を見ることは必然と言える。夜も同じように、みんなにいてもらうことで悪夢を乗り切りたいと思う。
その日の夜、悪夢から回避させてもらうために集まってくれた異端児駆逐艦達。寝るまでは適当な雑談で時間を潰して精神的な癒しを得るのだが、今晩の話題は専ら、哨戒中の戦いのことだ。
「知性を持つレ級……ですか」
もしかしたら知っているかもしれないということで、萩風にもあのレ級のことは話しておいた。太陽の姫との面識が少ないために何も知らない可能性はあるが、作戦に何か役立つ情報があればどんな小さな情報でも欲しいもの。
「私にはわかりませんね……そんなもの与えられませんでしたし」
「駆逐水鬼の斥候は小型のが多かったもんね」
「はい……私が駆逐艦だったからか、周りに生まれるのは小型のものばかりでした。それ自体が仕組まれたものかどうかはわかりませんが……」
確かに駆逐水鬼の周りは駆逐艦と潜水艦、そして小鬼群しかいなかった。意図してそれを生み出していたわけではないのなら、巣の主によって斥候として生まれる深海棲艦は固定化されるとかあるのかもしれない。
南方棲戦姫はあらゆる艦種の斥候が出てきたので、何か実力とかそういうものが関係していそうである。レ級自体も南方棲戦姫の巣だからこそ生まれた可能性もある。
「そっか。ごめんねまたほじくり返すようなこと聞いちゃって」
「い、いえ……私の記憶がお役に立てるならよかったんですが」
顔が赤くなっていき、そして大きく震えた。私が頼りにしたことで妄想が捗ってしまったのだろう。後遺症はまだまだ重い。
「ゲロちゃん治ってよかったね。やっぱりあんな痕あるのは良くないっぽい」
夕立が私の首筋を撫でてきた。不意打ちだったので声を上げそうになったが、なんとか我慢。
「ホントだよ。首を鷲掴みにされるとか初めてだし」
「腕も火傷してたんだよね……痣とか残らなくてよかったね」
腕の方は磯波が撫で回してくる。相変わらず匂いにやられてしまっている模様。
夕立も少し怪我をしていたが、今では綺麗さっぱり無くなっていたので、ここのお風呂の効果は偉大だと改めて実感する。それだけ効き目が強いのだから多用は禁止だろうが。
「むっちゃんさんと親分がぶちかましてくれたから倒せたけど、あんなのインチキっぽい。堅いし速いし気持ち悪いし!」
「レ級はどうしてもね……」
磯波は古参なため、レ級のことは多少知っているらしい。戦ったことはないようだが、ここの艦娘の一部は戦闘する羽目にもなったらしい。
「野良のレ級が現れたことがあるの……たった1体で」
「ここの領海であんなのが!?」
「知性は無くて本能のままに動くのだけどね。その時も陸奥さんや霧島さんがどうにかしたんだけど、酷い戦いだったよ」
あの時の部隊のみんながレ級の名前を聞いて顔を顰めたのは、過去の経験があったからか。私以外は結構古くから鎮守府に所属しているような人達が多かったし。
だが、その経験があったからこそ、今回は知性を持っていたとはいえあの押し込みが出来たのかもしれない。そこまで賢くなかったことが功を奏したか。
「沖波はレ級って知ってた?」
「知ってたって程度だけど。今の磯波ちゃんの話は、私が所属する前のことみたいだし」
「うん……沖波ちゃんが所属する何ヶ月か前の話だから……」
私や夕立が知らない話。1年以上前の話で、完全なイレギュラーだったらしい。レ級とは存在そのものが結構レアなもののようである。あんなのにバカスカ出てこられても困るが。
故に、どんな状況であれ、レ級というのは何処の鎮守府でも忌避されているような深海棲艦なのだとか。むしろ姫よりも危険視されているまである。
「次は絶対勝つっぽい! あんなのでも、夕立の攻撃が通らないわけじゃないっぽいだろうし!」
「1人じゃ無理でも、連携が出来れば私達でも立ち向かえるかもしれないからね。今回でどんなことしてくるかは私達もわかったし」
「ぽい! 夕立とゲロちゃんとみんなでボッコボコのギッタギタにしてやるっぽーい!」
押し倒すかのような勢いで抱きついてきた。危なく体勢を崩しそうになるが、そろそろ夕立の行動も予想出来るようになってきたため、しっかりと踏ん張って倒されるのは耐える。
「わ、私も頑張る。部隊に入れるかはわからないけど……!」
夕立を見て対抗心を持ったか、磯波すらも抱きついてきた。そして思い切り匂いを嗅ぐ。
私といる時だけはもう曝け出してきているような気がする。あまり躊躇しなくなってきた。
「勿論私も。せっかく私も改二になれたんだし、力を使わないとね」
「だね。もしかしたら総力戦になるかもしれないんだし、みんなが意気込んでおくことが一番だよ」
沖波は匂いにやられていないので抱きつくなんてしてこないが、軽く拳を突き合わせる。
異端児駆逐艦は一致団結している。またあのレ級が襲撃してくるようなことがあっても、心は折れていない。立ち向かうことが出来る。
その前にまずはこの夜を乗り越える必要があるが。悪夢の更新だけは避けたい。
5-5上ルートでは最大3体(ボス前1体ボスマス2体)のレ級と戦う羽目になります。今回のお話もそれがあり得るということですね。そして5-5は道中支援と決戦支援が出せる海域でもありますので、外部からの支援も期待出来るということに。