異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
翌朝、案の定ガッツリ悪夢を見たものの、途中で止めてもらえたおかげで事無きを得た私、陽炎。これから毎日のようにこの恐怖と隣り合わせになると思うとげんなりする。前回はまだ寝始めくらいだったから良かったが、今回はみんなが熟睡している中での悪夢だったので、少し寝不足気味。
介護されているようで申し訳ない気分になる。これの解決策が見つかればいいのだが、どうにかならないだろうか。私の中に入っている太陽の姫の分霊を抜くとか。
「ふぁあ……おはよう……ごめんね夜中に起こしちゃって……」
「大丈夫だよ。陽炎ちゃんがおかしくなる方が嫌だし、私達は助け合いが基本だから」
にこやかに言ってくれる沖波が本当に眩しい。時間もあってまるで朝日のよう。異端児駆逐艦唯一の希望。全部私のせいとはいえ、たった1人冷静に物事を見てくれるのは頼もしい。
いや、私のせいじゃない。私をこんな身体にした太陽の姫が全面的に悪い。私も被害者だ。罪悪感もあるが、それを作るキッカケとなっているのは太陽の姫が私に分霊したからだ。全部太陽の姫のせい。
「私が元に戻ればこんなことにもならないんだけどねぇ……」
目を覚ましても、夕立にガッチリホールドされて身体を起こすことが出来ない。私を抱き枕にして寝ると毎晩言っており、それを実行するのは別に構わないのだが、朝こうなるのはあまりよろしくないと思う。
それを引き剥がそうと萩風と磯波が奮闘してくれているのだが、改二になってから生身の腕力も強くなっているのか、一筋縄ではいかないようである。以前は私が身体を押し付けて潰したが、今回はそれをやれないように足まで絡めてきているせいで本当に動けない。
「抱き枕は別にもう諦めたけど、起きないのは勘弁してほしい」
「あ、あはは……」
もう笑うしかなかった。
結果的に、最後は磯波が夕立の尻を叩いたことでどうにか起こした。寝不足にさせたのは申し訳ないのだが、時間になったらサクッと起きてほしい。今日は私が休みというわけでは無いのだから。
昨日で改二になるための訓練は終了となったため、今日からは平常運転。異端児駆逐艦が纏まって訓練をするとかそういうことは無くなった。
代わりに、次は鎮守府総動員で南方棲戦姫を打倒するという任務が始まる。昨日の哨戒と襲撃の件から、まだ複数体のレ級がいることを視野に入れた状態での作戦立案となるため、誰でもその部隊に入れるように全員の力を底上げする必要があった。
しかし、そこまで時間があるわけでもない。万が一のことを考えると、なるべく早く片付けたいという気持ちはある。南方棲戦姫は私を観察することが仕事だと言っていたが、まかり間違って陸に襲撃を始めたら大変だ。あのわけのわからない力を振るっての侵略行為は簡単には止められない。
「まだまだ強くならなくちゃいけないんだね。改二になったから終わりってわけじゃないや」
「しばらくゴールは無いと思うよ。基礎も大事だし、今よりも強い力を手に入れないとね」
同じように改二になってからも努力を続ける沖波と今日はコンビで活動する。夕立は今日も萩風についてくれており、磯波は哨戒で鎮守府を出て行っている。
沖波と何をやるかというと、コンビプレーの訓練だ。もっと連携が出来れば、駆逐艦でも戦艦を倒すことが出来る力が手に入るだろう。それこそ生身を的確に狙うための戦術を編み出すわけだ。
「私の訓練でもあるから、本気でかかってきてちょうだいね」
そして相手は霧島さん。以前の訓練のリベンジである。
あの時は磯波と組んでいるときにいいところまで行けたというのがあるが、結局のところ一度も勝つことなど出来ず、身体に弾を掠らせることすら出来なかった。盾を使わせることが出来ただけでも充分に成長出来たとあの時は思ったが、今後のことを考えればそれで止まっていてはいけない。
「私も、複数人を同時に相手にする訓練を何度かしておきたいの。戦場で私が雑魚を引き受けることもあるでしょう。囲まれても打開出来る技を得たいのよね」
「あの時は敵わなかったけど……私達で訓練になるのかな」
「ええ、あの時は貴女達2人は改二でも無かった発展途上だったでしょう。今なら苦戦するんじゃないかしらね」
確かにあの時と比べれば大分成長出来ていると思う。私も沖波も改二になっているし、あの訓練の後も鍛え上げている。駆逐水鬼との戦いも終えているので、心持ちもまた成長しているはずだ。
それに、今回は最初から2対1。沖波との連携はあの時以来は出来ていないとはいえ、心通わせることは常にしているようなものだ。なら戦える。
「勿論、私も最初から本気で行くから」
「鋏も使う感じで……?」
「前もそうだったでしょう。あのレ級は尻尾を使った近接戦闘もしたのだから、それを意識してもらいたいもの」
前回は駆逐水鬼を意識した接近戦だったが、今回はレ級を意識した接近戦。霧島さんの鋏はレ級の尻尾と扱われ方は違うものの、
それにこれは霧島さんの訓練でもあると言っているのだから、霧島さんも持てる力を全て見せてくるはず。
「了解。私と沖波で、霧島さんに勝つよ」
「リベンジだね。頑張ろ」
沖波と拳を合わせて意気込む。霧島さんもその様子にとても満足げだった。
戦いの始まりは以前と同じ。ルールは勿論
対空砲火の時に扱う対空電探や、対潜攻撃の時に扱うソナーのように、この水上電探を使うことで砲撃を当てやすく出来るらしい。それこそ、人間では感知出来ない視界の広さになるようなもの。
「なるほど、こういうことね。これは便利かも」
戦いが始まる前に試しに電探を起動してみたところ、少し後ろにいて視界に入っていない沖波の、位置が理解出来た。表情とかはわからないにしろ、そこにいるとわかれば、備え付けの主砲が狙いを定めてくれる。私とは非常に相性がいい。
「それじゃあ、準備はいいかしら?」
「陽炎、おっけー!」
「沖波、問題ありません!」
相変わらず霧島さんが相手となった時の威圧感が凄まじい。味方でよかったと改めて思える。
「では、始め!」
訓練開始の合図として、砲撃された。先制攻撃を取られたとして考えればこの始まり方もおかしくはない。レ級だってそういうことをやってくるだろう。視界に入った瞬間に撃つ。
だから、私も沖波もすぐに回避。距離は遠くなったものの、連携は身近にいないと出来ないものではない。アイコンタクトと首の振り方くらいで意思疎通をしていく。
「せっかく2人でやらせてくれるんだから!」
私は右から、沖波は左からで、霧島さんを同時に砲撃。霧島さんを中心としたクロスする射線でまずは牽制。
霧島さんには盾があるため、この程度なら簡単に防いでしまうだろう。むしろ防ぎながらこちらを攻撃してきかねない。何せ、盾の根元に主砲が設置されているのだ。こちらの攻撃を食い止めつつ、その主砲で同時に攻撃してきてもおかしくない。
「1人に対して別の方向からの攻撃は無難なところ。3人の場合は回避も必要か」
それを盾で同時にガードし、さらに同じタイミングでの砲撃。ぶつぶつと呟きながら次の行動を頭の中で組み立てて、その場で最善の行動を計算してから即実行しているようである。さらに不利な時のことまで考えて。
その計算は私の予想とドンピシャ。最初から回避を考えて撃っているため、その砲撃は掠ることもない。
「同時に相手取るのは辛いか。なら、片方を追い詰めるのが吉、ね」
突如霧島さんの視線が私のみを捉える。沖波からの攻撃だってあるだろうが、先に片方を終わらせた方が後々の戦いが楽になると判断したのだろう。
先にいなくなるといいのがどちらかとか考えていない。
「斉射!」
そして猛烈な連射。陸奥さんとの同時攻撃の必殺技、一斉射の1人バージョン。つまり、強烈すぎる1方向への物量攻撃である。
レ級は2人がかりの斉射を上に避けるという選択をしたが、私にその選択は不可能。ならば、一気に駆け抜けるしかなかろう。
「っぶなぁ!?」
放たれた瞬間に全速前進。辛うじて斉射の範囲外に飛び出すことが出来たが、攻撃も出来ずに回避一辺倒にされた。今のは本当にギリギリ。
今までの訓練で瞬発力も上がってくれていたおかげで判断がすぐに出来たし、改二になってから速力が上がってくれていたおかげで回避出来る程にまで移動することが出来た。
改めて私はみんなのおかげで強くなれていると実感する。だが、これだけでは勝てない。
「それはわかってるわ、沖波」
私に専念したことで沖波が完全にフリーになったわけだが、殆ど背後から放った砲撃を知っていたかのように盾でガード。その方向すら見ていない。
なるほど、私がさっき確認したのと同じで、霧島さんも電探を使っているわけだ。それも、私が今持っているものより高性能な。私達が駆逐艦だからそれで間に合っているというのもあるか。戦艦主砲相手ならガードなんてしていられないだろうし。
「ならこっちも!」
斉射をした後は少しだけ間が出来てしまうようなので、そこを狙って力いっぱいの連射。霧島さんの斉射の真似事になるが、威力は段違いに低い。代わりに小回りを利かせ、ちょこまかと動きながら撃ち続けた。手も足も止めず、出来る限り霧島さんが攻撃に転身出来ないように、動きを封じるかのように。
私がそれをやり始めたことで沖波も察してくれていた。私よりも状況判断力が優れている沖波は、磯波よりは前に出るが後方支援に向いている方だと思う。私が率先して前に出て、それを援護してもらう形がおそらく一番合っている。
「挟んでの斉射、これは回避しかないわね」
これはガードではなく回避を選択。当然回避した方向に連射の向きを変えていくが、霧島さんにはなかなか当たらない。というか思っている以上に素早い。駆逐艦よりも身体も艤装も大きいのに。
「なら次の段階」
今度の手近は沖波になったようで、視線があちらを向く。そのため私がフリーに。それならさらに猛攻を仕掛けるべきだ。撃て撃て撃て。
「止めながら、避けながら、
沖波の砲撃は盾でガード、私の砲撃は回避。それを繰り返しながら沖波に徐々に接近していく。その圧力で沖波が押され始めている。
これはまずいと真後ろから私も接近。電探を使って回避方向を決めているのかもしれないが、近ければ近い方がこちらの命中率は比例して上がっていくはず。ゼロ距離で撃てば必ず当たるのだから、これは間違っていない。
それでも当たらないのが霧島さんである。本当にゼロ距離まで近付かないとまともに当てられないのではと錯覚してしまいそう。勘弁してくれ。もっと近付かないといけないのか。
「近付き過ぎるのは不用意よ陽炎」
ここまで沖波を追い詰めておきながら、急に反転して私に対して斉射。1人で戦っているのだから切替も自分のタイミングで出来てしまう。
近付きすぎているので、この砲撃は最大戦速でも回避不可能。霧島さんのように盾を持っているわけでもあるまいし。ならば被害を最小限にするために動くしかない。艤装を盾にするように背中を向けて、私自身に対してのダメージを極力軽減した。
だが、これが功を奏した。霧島さんが私に主砲を向けた瞬間、沖波が霧島さんの懐に潜り込んでいた。盾の内側に入ってしまえば砲撃も回避出来ない。改二になったことで沖波もかなりのスペックアップを果たしている。
「あら……少し見誤っていたわ」
そして砲撃。ギリギリで回避したが、脇腹をえぐるようにペイントがついた。そして私は大変なことになった。
ある意味、私が囮になり身を犠牲にした結果、かなり強引に勝利をもぎ取った形になる。1人の犠牲で1人を倒すというのは、私達としてはあまり良くない勝利。
「今のは私達の負けだよ。あれは私が死んでるもん。倒したうちに入らない」
「どっちも生きてる状態で勝たないと意味がないよね……陽炎ちゃん大丈夫?」
「後頭部に当たっちゃってるんだよね……一応大丈夫。せめてもう少し身を屈めないと」
あとは艤装にも心の中で謝っておく。盾にしてゴメンと。実弾だった場合、艤装も木っ端微塵になっていた可能性がある。その上で私が死んでいたらお話にならない。
「良い心がけね。なら、一切の被弾無しで勝てるようになるまでやりましょうか。勿論私も。もう懐に潜り込ませるなんてことはさせないのでそのつもりで」
あ、これ沖波根に持たれたかもしれない。あんな形でも当てられると思っていなかったのではなかろうか。
「さ、じゃあ少し反省会をしてから次の戦いよ。今回は貴女達に付きっきりでいけるから、確実に底上げしてあげる。レ級にも2人で勝てるくらいにね」
「うん、よろしくお願いします!」
そこからの霧島さんとの実戦訓練は熾烈を極めることになる。それでも楽しいと思えた。
誰も死なないように戦うのがこの鎮守府のやり方。元が人間なのだから、死んでもらいたくないと考えるのが親心というもの。