異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
知性を持つレ級という厄介な敵が南方棲戦姫の斥候として活動している可能性を考え、別の鎮守府から支援艦隊がやってきた。
呉内司令率いる海外艦のみで構成された部隊は、レ級との交戦経験があるだけではなく、こちらの鎮守府に足りないものを埋めてくれるという最高の援軍。少しキャラのクセが強いものの、こちらとも仲良くやってくれそうなので一安心である。
今日のところは現状と今後の説明で終わり、本格的な活動は明日から。すぐに出撃するわけではなく、ある程度作戦を立ててからの出撃となる。その間に交流をして、親交を深めて連携も完璧にしていきたい。
翌朝、今回は悪夢を見ることなく、誰にも迷惑をかけることなく気持ちのいい目覚めとなった私、陽炎。何かしらのきっかけが無い限りは悪夢も見ないようで何よりである。
私が熟睡出来たということは、異端児駆逐艦のみんなも起こすことなく熟睡出来たということ。私を抱き枕にしている夕立も、一切起きることなく爆睡していた。
「昨日の夜は何も無かったようですね。毎日じゃなくてよかったです」
「ホントにね。そろそろ南方棲戦姫との戦いになるだろうし、そんな時に悪夢なんかで躓かされても困るよ」
一番心配してくれている萩風も、夜中に起きることが無かったことを喜んでくれた。多分一番嬉しいのは私。なんだか久しぶりに気兼ねなくグッスリ寝られた気がする。
「今日は演習なんだっけ。あの支援艦隊の人達と」
「だね。私達が参加出来るかはわからないけど、今日は交流会って流れだったはず」
交流会が戦闘というのはどうかと思うのだが、知らない相手との戦闘というのはそれだけでも大きな経験になる。見ているだけでもいろいろと知ることが出来るだろう。強くなるためにはやれることを全てやらなくてはいけない。
もうこれが南方棲戦姫戦に対する練度上昇の大詰め。ここで得た力を携えて、戦場に出ることになるだろう。ならば、全力で挑まねば。
「よーし、今日も頑張ろう! というわけで、夕立起きれ!」
「ぽいーっ!?」
背中で思い切り押し潰して起こしてやった。今日もいい1日になればいい。
準備万端整った状態で、全員が集まった。今まで決めていた日程は全て変更し、全員が演習に参加する流れに。とはいえ海防艦は活躍出来るような演習では無いため、保護者の管理の上で見学という形になっている。今回は大鷹も空母として演習に参加するため、保護者は基本的にしーちゃんになる。
「せっかく来てくれたんだ。胸を貸してもらおうってわけだが、異存は無いね」
「ああ、構わないぜ。そちらの実力も知っておきたいんでな」
今回の支援艦隊6人の部隊に対して、空城司令の選んだ6人をぶつける。その部隊は南方棲戦姫の巣を破壊しに行くための部隊というわけではなく、組み合わせをいろいろと考えるための戦術研究の一種。
支援艦隊には何度も演習をしてもらうため、途中休憩を挟みつつ進めていく。こちらは人数がいるのにあちらは6人しかいないのだから、基本的にはあちらが主体になる。
「ネルソン、タッチは使って構わない」
「ほう、いいのか?」
「こちらの手の内を知ってもらわなけりゃ、連携もクソも無いだろう。お前達も全部見せてやればいい」
昨日も話していたが、ネルソンさんにはNelson Touchという必殺技があるらしい。それがどんなものかは知らないが、陸奥さんの一斉射とどちらが強いだろう。
「キリシマ! お前はまず出てこい!」
「それを決めるのはうちの司令」
サウスダコタさんはもうこの時点で霧島さんと戦いたくてウズウズしているようである。余程格闘戦を仕掛けた艦娘というのが気になるのか、遠足に行く直前の子供のような表情をしている。あの人、見かけより幼い。夕立タイプか。
それに対する霧島さんは、少し冷めた雰囲気。だが笑みが溢れている辺り、サウスダコタさんのことを嫌っている節は無いようだ。
「最初は対等な部隊をぶつけた方がいいだろう。陸奥、霧島、天城、隼鷹、加古、初月。この6人から行こうか」
艦種もなるべく揃えた6人が選出される。うちにはアトランタさんに対応出来る防空巡洋艦はいないため、同じ立ち位置になるであろう初月が選出された。
それ以外の者は遠くから見学となる。見づらければ使えとオペラグラスまで渡された。
「なんだか観劇みたいになってるね」
「交流会だし、多少は気楽にやれってことかな」
だが、この演習を見学させてもらうことで、私に取り入れられるものがあれば取り入れていきたいところである。
海上で向かい合う2つの部隊。そういえば、艦娘同士の戦いをこうやって客観的に見ることは初めてだった。初めてここに来たときに陸奥さんと霧島さんの演習を見たが、ちゃんとした部隊による演習は初めてだ。自分でやるのも2対2だったし。
各々好きな場所での見学になるが、私達異端児駆逐艦は案の定一緒に行動。見やすいかはさておき、堤防の辺りを陣取って演習を見守る。
「磯波、ああいうことってよくやることなの?」
「全くやらないってことは無いんだけど、ここ最近はやれてなかったかな」
何処の鎮守府も自分達の領海を守ることが優先なのだから、他の鎮守府に援軍に駆けつけるということ自体、余程のことが無いと起きないようなイベントらしい。そもそもが多めの鎮守府に艦娘を小分けにして置いているのだから、何人か離れると領海が大変なことになる可能性もある。
呉内司令はそれでもこちらを優先してくれたのだから、余程自信があるということになる。鎮守府に残った人員だけで、鎮守府並びに領海全ても護り切ることが出来るのだろう。
「ふぉお! 親分頑張るっぽい! みんな勝つっぽーい!」
まだ始まってもいないのに、夕立のテンションは最高潮。次は自分があの場に立つんだと拳を握り締め、少しでも詳細な情報を手に入れようとオペラグラスで戦場を凝視。
それに倣って私もオペラグラスで確認。陸奥さんと霧島さんは最初から一斉射を狙っているような表情。天城さんと隼鷹さんもそれに合わせて一気に発艦の構え。サポートするように加古さんが後ろを陣取り、初月はあちらの航空戦の状況を見ての行動となる。
対するネルソンさん率いる支援艦隊は、最初からやることは決まっていると言わんばかりに相談すらしていない。いつでも自信満々な表情。最初から敗けなんてないと信じて止まない強者の構え。
『準備は整ったようだね』
全員に聞こえる空城司令の声。そろそろ演習を始めるとわかり、観客である私達も気が引き締まる。
この演習は一挙手一投足すら見逃してはいけない。うちの鎮守府トップと、外の強者とのぶつかり合いは、確実に私の成長にも繋がるだろう。
『これはお互いの実力を見合う演習だよ。手は抜くな。その方が相手に失礼だからね』
『どちらがやられても恨みっこ無しだ。何かあったら後から反省会でも開いてくれ』
呉内司令の声も聞こえる。2人はおそらく同じ場所にいるのだろう。お互いにお互いの部隊を見合って、今後の作戦立案に活かしていく。むしろこの演習を見ながら作戦を完璧にしていくまである。
『それじゃあ、もういいね』
ついに始まる。ざわつきも無くなり、海の上がシンと静まり返る。本来の戦場とはまた違った緊張感。生死をかけた戦いでは無いが、プライドをかけた戦いではある。恨みっこ無しでも勝敗は出るのだから、どうせなら勝ちたい。
『互いに、全力でぶつかり合いな。始め!』
演習開始の合図と同時に、互いの空母が艦載機を発艦。まずは制空権の取り合いから開始。
隼鷹さんの陰陽師のような発艦や、天城さんの旗竿を使った発艦を見慣れているからか、あちら側の発艦は物珍しいものに見えた。
イントレピッドさんは猟銃なのかなんなのかわからないが銃を放つことで弾丸が艦載機へと変化し飛び立つ。アクィラさんは弓。なんだかロビン・フッドみたいに矢を放つと、その矢が艦載機へと変化していく。
「うわ……なにあの量」
「レ級と同じくらいっぽい?」
「だね……やっば。あれ押し潰されそう」
驚くべきはその艦載機の数。イントレピッドさんのものだけで隼鷹さんと天城さんのものを塗り潰さんばかりの数が飛んだ。そこに加えて、アクィラさんの艦載機が追撃に入るため、制空権は完全に奪われてしまっている。
遠目で見ていてこれなのだから、戦場だともっと威圧感があるだろう。レ級の時と同じくらいの艦載機の数に匹敵している。
それをどうにかしようと動き出すのが初月だ。防空駆逐艦の意地と誇りにかけ、その数を少しでも減らそうと対空砲火を繰り出す。
そしてそれはこちらだけに限ったわけではない。あちらにも防空の専門家、アトランタさんがいる。何処かぼんやりした表情で艦載機を眺めたかと思ったら、小さく空を指差した。瞬間、猛烈な対空砲火が撃ち出され、こちらの艦載機は次々と撃墜されていく。
「隼鷹さん、もう笑うしかなくなっちゃってるよ」
「うん……あれだけされたらそうなっちゃうよね……」
繰り出した艦載機が次から次へと失われていくのは、苦笑以外何も出てこない。あの対空砲火は、艦載機側の熟練度とかそういうものを一切考えずに行なわれている。数も関係ない。
そうなると今度は砲雷撃戦側へ。制空権が取られて圧倒的不利な状況下での撃ち合いになるわけだが、陸奥さんは速攻を仕掛けようとしていた。霧島さんと並び立ち、真正面のネルソンさんとサウスダコタさんに向けて一斉射を仕掛けた。あのレ級すらも粉砕した渾身の一撃を、開幕直後にお見舞いする。
だが、一筋縄ではいかないのがあの艦隊だ。盾があるわけでも無いのに余裕綽々と言わんばかりに突撃。一斉射にある僅かな穴を潜り抜けるように突き進むと、なんとネルソンさんの艤装が
「えっ、何あれ!?」
「かっこいいっぽい! お菊ちゃんとか絶対反応してるっぽい!」
わかる。菊月は目をキラキラさせながらあの艤装を見ているだろう。何かいろいろとロマンが詰まっている。
その変形はロマンだけではない。いわゆる突撃姿勢というもので、そのまま陸奥さんと霧島さんの中を割るかの如く砲撃しながらの突撃。砲撃の中を突き抜けてくるため、その圧力に気圧されそうになっているが、それを食い止めるためにさらなる猛攻を仕掛ける。
「あれ、被弾無しで潜れるの?」
「無理だよ……あんなの滅茶苦茶な戦術だよ」
磯波が唖然としていた。砲撃に突っ込むようなその戦法は普通ではない。だが事実、ネルソンさんは魔法でも使っているのではと思えるくらいに無傷で距離を詰めていく。
そしてそれに追従するようにサウスダコタさんとプリンツさんが縦に並び、各々が陸奥さんと霧島さんに向けて砲撃していた。縦一列の突撃姿勢に圧倒されたか、中央から分断されてしまう。
「2人を分けて各個撃破する突撃戦法……ネルソンタッチってそれだったんだ……」
誰がどう見ても無茶苦茶な戦い方だが、自信満々に突撃するものだから、その戦術が最善手に見えてしまった。それもこれも、ネルソンさん達の練度が異常に高いから成せる技なのだが。
分断してからはやりたいようにやるのが向こうのやり方のようだった。当たり前のようにサウスダコタさんは霧島さんの方に向かい、星条旗はためくマストのような棒で格闘戦を仕掛けていた。なるほど、霧島さんに大きく反応していたのは、戦い方が近しいからか。
ネルソンさんとプリンツさんは陸奥さんの方へ。後ろに控えていた加古さんもそちらへ突っ込み、2対2を無理矢理作りに行く。しかし、制空権が取られているということは、こちらには空爆の危険性も常に孕んでいるというわけで、正式にはあちらの方が数が多い。
「うわぁ……あの陸奥さんが押し潰されてく……」
「単体の練度は同じくらいなんだろうけど、空が取られてるからすごく不利なんだね」
勝敗は制空権で決まったと言っても過言ではないだろう。圧倒的な物量と、的確すぎる対空砲火によって成す術が無くなっていた。こうしている間も、アトランタさんが常に撃墜し続けているのが大きすぎる。初月も負けず劣らずなのだが、最初の量が違いすぎた。
そしてそのまま圧殺。あちらが無傷というわけでは無いのだが、こちらの方が傷が多すぎることにより、完全に敗北。
多分互角に戦えていたのは、最終的に完全な個人戦になっていた霧島さんだけだろう。1対1ならトントン。だが2人になられると一気に均衡が崩されるという典型的な例だった。
世の中にはまだまだ強い相手がいるというのを、まざまざと見せつけられた。
演習で一斉射とネルソンタッチをやるとか正気では無いんですが。