異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
支援艦隊との演習、午前の部が終了。あちらは戦いっぱなしで流石に疲れたと一度ブレイクタイムとなった。お風呂で身体を休め、昼食で腹を満たし、改めて演習再開となる。その間にこちらもしっかりと身体を休めて、午後の部に挑む。
私、陽炎も午前の部で戦わせてもらったが、それはもう完膚なきまでに負けた。霧島さんとの演習と同じ程に塗り潰され、ネルソンタッチも空襲もどちらも喰らっている。やはり、見るのとやるのではまるで違った。
それだけやられて、特に酷かったのは回避だった。無茶をしているつもりは無いのだが、演習だからという理由でいろいろと試したくなり、結果的にボコボコにされている。私が狙ったのは、ネルソンさんの足止め。
駆逐艦の火力では装甲をぶち抜くことは出来ない。故に本体をダイレクトに狙いに行くのが一番手っ取り早い。しかし、実行するためには近付かなければならない。そのためには爆弾の雨と飛び交う弾幕を潜り抜ける必要がある。それが上手くいかない。
「ありゃ大変だなぁホント」
足を止めるのが一番確実な回避方法だった。むしろ下がる。そうすることで爆撃の危機から免れることが出来る上に、砲撃からも避けやすくなる。
しかし、それはこちらの砲撃も当たらなくなるということに繋がる。ただでさえ遠退いたら威力的にもダメージが小さくなっていくというのに、さらに当たらなくなるのなら、ぶっちゃけいる意味すら無くなる。強いて言えば、本命を通すための囮か。それはよろしくない。
「近付けば空襲は無くなるけど、砲撃が避けられなくなるし……中途半端な距離だと空襲にやられるし……遠いと当たらない上にダメージ無いし……」
湯船に浸かりながら考える。私に出来ること、仲間の力を借りて出来ること、それらを駆使して打開出来るか。まぁそんな簡単には思い浮かばないのだが。
「あらあら、悩める子がいるわね」
うんうん唸っている私の隣に腰掛けたのはアクィラさん。
あの演習の中でも、あくまでもイントレピッドさんのバックアップに徹していたかのような動きだった。初月が対空砲火でガンガン撃墜していく中、アクィラさんの艦載機だけはヒョイヒョイと避けていたように見えた。
「あはは……あれだけボッコボコにされたから、どうやったらああならずに済むかなって」
隠すこともなく素直に話した。貴女達の倒し方を教えてくださいと聞いているようなものなので、自分で考えろと言われても何も文句は言えない。
「そうねぇ……例えばネルソンは、ネルソンタッチのところで隙があるのよ。艤装が変形するときは無防備ね。というか、戦艦は砲撃と砲撃の合間にそれなりに隙があるわよ? そちらのムツやキリシマも」
予想外にも普通に教えてくれる。
「ダコタは結構直情的で、ちょっと応用が利きづらいかな? 想定外が来ると少し動きが止まるの。ピッドは艦載機の数に気を取られると思うけれど、爆撃って垂れ流しに出来るわけじゃないし、当然隙はあるのよね。あ、それを埋めるのが私の役目なんだけど」
「ちょ、ちょっといいかな」
あまりにもペラペラ話してくれるので、逆に私からストップをかけてしまった。そんなに教えていいのだろうかと不安になってしまう。
「い、いいの? そんなに情報流して」
「勿論。だって仲間なんだもの。長所も短所もちゃんと知っておかなくちゃ」
にこやかに話すアクィラさん。確かに今は、というか同じ志を持つ艦娘同士なのだから、良いも悪いも全て知っておくべき。演習という形で戦い合う状態とはいえ、明日には背中を預け合う戦友である。
「えぇと、カゲローよね。カゲローはちょっと前に行こうとしすぎて焦ってないかしら。ネルソンに近付くにつれ、動きが硬くなってたわ」
「げ、マジ!?」
「戦艦に近付くなんて緊張することかもしれないけれど、それだと貴女の全部が出せないわよね」
味方の情報を提供するどころか、私の悪いところまで指摘してくれた。なるほど、回避が上手くいかないのは、無意識のうちに緊張していたからか。
自分よりも大きな相手に立ち向かうジャイアントキリング的なことをしようとするのは、嫌でも不安を感じるものがある。失敗したら木っ端微塵。実弾なら生か死かの大きな賭けみたいなもの。そりゃ身体が嫌がるのは無理もない。
「そっか……力を抜けって言われてるのに、それが出来てなかったんだ」
「あらあら、そういうことを言ってくれる人がいたのね。なら大丈夫、意識してやれば身体は応えてくれるわ」
よしよしと頭を撫でられた。急に子供扱いされて気恥ずかしい気分になる。アクィラさんから見れば私は子供なのだろうが。しかも今はお風呂。裸の付き合いでこれなので、余計に恥ずかしかった。
それにしても、アクィラさんは戦場のことをよく見ている。長く一緒に戦ってきた仲間達の癖などならまだしも、昨日初めて会って、今日初めて戦う姿を見せたにもかかわらず、私のよくない部分を即座に指摘してくれた。
「驚いちゃった。すぐに私の悪いとこ教えてもらえるなんて、思ってなかったよ。すごく目がいいんだね」
「うーん、そうねぇ。私は頑張って頑張って頑張ったからこういうことが出来るようになったのよね」
少し懐かしいものを思い出すような表情に。
「私の艤装、つまりAquilaなんだけど、あれは空母の中でもすっっっごく弱い方の艤装なの。もしかしたら最弱かもしれないわね。軽空母に劣る正規空母なんて嫌な言われ方もあったくらいにね」
そんなこと言われてもまるで実感出来ない。普通に強力な空母なのだという認識である。
確かにイントレピッドさんが扱う艦載機の数がとんでもないせいで陰に隠れてしまっているかもしれないが、相手をしている限りアクィラさんの援護は恐ろしく的確だったし、演習中にも被弾しているようなところは見ていない。
「だけど、うちの提督はそんな私でも拾ってくれたんだもの。恩を返したくなるじゃない?」
「確かに」
「だから私、い〜〜〜〜っぱい努力しちゃった。私そういうキャラじゃないんだけどね」
茶目っ気たっぷりの笑顔で話しているが、その裏側では血の滲むような努力をしているのだろう。それを表に出さないようにしているだけで。
「そのおかげでね、周りを見る力
その結果、手に入れたのがとんでもない観察眼。うちの磯波を数倍強くしたものと考えればいいか。
あの子も後ろからみんなを支えるために、仲間の癖などを見て覚えているが、アクィラさんはパッと見で看破していくタイプ。弛まぬ努力が生み出した力の結晶。
「後ろを陣取ってみんなに戦ってもらうのって、なんだかアレみたいよね。スケサーン、カクサーン、やっておしまいなさぁい、みたいなね」
「あはは、それみんなに怒られないかな」
ちょくちょく冗談みたいな言動も入れてくるため、その指摘にも嫌味がない。聞いていてもなるほどと全部納得させられる。
だからこそ、ネルソンさんを始めとした仲間達はアクィラさんの指摘などを嫌な顔せずに聞くだろうし、改善していくのだろう。それでも隙が出来るのは仕方のないこと。それは仲間がコンビプレーで解消したら良い話。
「話を戻しましょっか。カゲローは駆逐艦でしょう。なら、もっと駆逐艦の良さを出していきましょう。はいではカゲロー君、駆逐艦の長所は?」
そこにない上にそもそもかけていない眼鏡を上げるような仕草をしながら、突然先生みたいに質問をしてくる。海外の人とは思えないくらいである。
それはさておき、駆逐艦の特徴といえば、わかりやすいのは小回りが利くところだろう。戦艦より艤装そのものが小さいのだから、それを活かしてちょこまか動く。私達に対しての小鬼群みたいなことが出来るのではなかろうか。ということは。
「回避性能が高い?」
「正解! 全部避けちゃえばいいの。そしたら負けないでしょう?」
それは当たり前の戦法ではある。当たらなければ負けない。相手が相手なら、それでムキになって私に引き付けられる。そしてそれも全て回避し続ければ、その間だけは誰も狙われない。その隙に誰かにやってもらうなんてことも出来る。
そうだ、勝つ戦いではなく、
「つまり、力を抜いて全部避ける……でいいのかな」
「極端なことを言えばそうなるわよね。力まずに自然体で、無理せず避け続けるの。そうしたら、100%の
簡単に言ってくれる。それが出来れば苦労はしない。だが、念頭に置いておく必要はあるだろう。
せっかく加古さんが教えてくれた適度にサボる戦術も、戦艦を前に身体が忘れてしまっていたのだ。だったらもう、常にサボるくらいの勢いで行かないと力み続けるのでは。
「なーんて、実はこれ、あの人の受け売りなのよね」
「あの人?」
「私達の提督よ」
ああ、なるほど。あの人なら言いそうだ。
「とにかく、午後からはそれを念頭においてやってみてね。敵の真ん中で居眠りするくらいでいいんだから」
「そんな勇気は無いなぁ。ていうか、寝たら死ぬよね」
とはいえ、参考になる意見が聞けたのは良かった。これが活かせるように戦っていければと思う。
お風呂の後は昼食。午後の部に向けて英気を養う時間。なんだか今日はいつもよりもみんなの食欲が増している気がする。それに加えて人数が増えたというのもあり、間宮さんと伊良湖さんがてんてこまいであった。
かくいう私もオカズを一品増やしているくらい。新しいことを全力でやるということで、普通より身体がカロリーを欲している。頭も回しているため甘味も欲しい。
「み、皆さんいっぱい食べますね」
それを見て唖然としているのが萩風。一番の新人であるということで今回の演習は殆ど見ているだけだった萩風なので、みんなほど疲れてはいない。食欲も普通。
私だけではなく、みんなが大食い中である。夕立だけならともかく、沖波や磯波すらもちょっと量を増やしているレベル。萩風が驚くのも無理はない。
「なんだかお腹空いちゃって。あれだけ動き回ってるから太ることも無いだろうし」
「ぽい。いっぱい食べて、いっぱい育つっぽい」
「覚えることが多くって、頭が疲れてて……」
「わかる。やりたいことがいっぱい出てくるんだよね」
みんなが私と同じだった。いろいろ試して、そしてこっ酷くやられるというのが午前中の流れだった。
「さっきアクィラさんにアドバイスされたから、午後からはそれに倣ってやってみるよ。戦場のど真ん中で力を抜けって」
「私には出来てるようにも見えたけど……」
「ネルソンさんに近付くごとに動きが硬くなってるんだってさ。完全に無意識だったよ」
磯波にはわからない程度のものだったらしく、アクィラさんの目の良さを改めて思い知った。味方でこれなのに、演習の場では敵として振る舞っていたアクィラさんにそこまで見透かされたのだから、これはホンモノ。
「わ、私もアクィラさんくらい、みんなを観察出来るようになれるかな」
「磯波なら出来るよ。でも、一度話を聞いてみるのもいいかもしれないね。コツとかあるかもしれないし」
「うん、演習が終わったら聞いてみる。むしろ今から聞いてみる!」
磯波にしてはものすごく積極的に動いていた。自分のやりたいことの先の先に行く者がこの場にいるのなら、話を聞きたくなるのもわかる、
「あれだけやって一度も勝てなかったの悔しいっぽい! 午後は絶対勝つんだから!」
「だね。せめて一矢報いたいよ」
そのためには、まずアドバイスを実現させなければ。私の全力を戦場で出せるように、力を抜いて。今までのみんなからの教えを全部取り入れて。
「じゃあ、その前に英気を養うっぽい。ゲロちゃん、覚悟するっぽーい」
「ちょっ、食べてる途中!」
そして突然のハグである。匂いを全力で嗅ぐために体当たり気味に腹に突撃して、クンカクンカと音が聞こえるほどに行為を実行。もう夕立にそれをされるのも慣れてしまった。
「ふぁあ……やっぱり落ち着くっぽい。もっと下の方嗅いでいいかな。前にソナーがやってたやつ」
「今ここでするのはやめれ」
頭を叩いて無理矢理引き剥がした。せめてやるなら夜にしてくれ。
そして午後の部に突入する。今度こそ、何かしら結果を残したいものだ。
Aquilaとはイタリア語で鷲を意味する単語なんですよね。なら、