異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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陽炎の如く

 支援艦隊との演習、午後の部。まずは見学から始まった私、陽炎。昼食前のお風呂でアクィラさんに聞いていたことが本当かどうかを確認してみる。

 戦艦の砲撃の間の隙、艦載機からの爆弾投下の隙、その他諸々。実際遠目に、客観的に見ているとわかることがある。

 

「ホントだ……ネルソンタッチの変形で隙がある。その隙をプリンツさんが埋めてるんだ。すごいなぁ……」

 

 アクィラさんがあれだけ言えるのだから、それが全て仲間達に伝わっているのは当然のこと。それでも埋められない隙は、仲間が埋めているというわけだ。あとは個人のテクニック。眼前にいるものにその隙を悟られないように、見えないところでやったり別事で気を紛らわせたり。

 空爆はアクィラさんが言っていた通り、イントレピッドさんの爆撃の隙に合わせるように、アクィラさんの艦載機がタイミングよく追加の爆撃をすることで隙を埋めていた。

 

 それでもよく見ればタイミングが合いきらないところもある。そこが攻撃する絶好のタイミングなのだと思うのだが、遠くから見ているのと現場で戦うのとでは雲泥の差。その圧と緊張感で、隙が見えなくなってしまう。

 だからこそ、戦場のど真ん中で居眠り出来るくらいに力を抜けと言ってきたわけだ。緊張感を払拭して、圧を受け流す。

 

「とんでもない相手と演習させてもらってるって思っちゃう」

「だよね。あれは一朝一夕でどうにかなるものじゃないよ」

 

 一緒に見ている沖波も、あの戦いを見学しながら感嘆の声をあげる。何度見てもすごい。あれならレ級どころか南方棲戦姫にも対抗出来そうだ。

 そして、あれと対等に戦えるようになれば、私達でもそれだけの戦果が上げられるだろう。短時間でそこまでいけるかはわからないが、せめていいところまでは行きたいものだ。

 

「磯波、どう?」

「うん……教えてもらった通りだね。癖がわかってきたかも」

 

 口伝ではあるが、事前に磯波にもアクィラさんから聞いたことを教えておいた。見れば見るほどのめり込んでいく。

 

「次こそは一矢報いなくちゃ。午前はコテンパンだったからね」

「だね。せめて何処かに1撃入れたいよ」

 

 夕立は今現場にいるのだが、どんどんその場で学んでいき、被弾率が下がっている。それでもまだ当てられていないのだから相当だ。才能の塊でも苦戦するくらいなのだから、私達が苦戦しないわけがない。

 せめて次は。教えられたことを全てこなして、そして最高の出来が見せられるように。

 

 

 

 少しして私の番。いろいろな部隊で試しているが、今回は哨戒中に会敵したパターンを想定しているため、戦艦無し部隊での戦い。さすがに武装は哨戒仕様では無いにしろ、小型と中型の艦娘のみになっている。私の他には、衣笠さん、木曾さん、由良さん、五月雨、磯波。如何にもありそうな部隊編成である。

 最大火力は木曾さんの雷撃。その次が衣笠さんの主砲と言ったところ。駆逐艦3人で受けなくてはならない難易度の高い演習である。狙うのは本体。もしくは艤装の隙間となる。

 

「なるほどな、意外と隙はあるわけだ」

「聞いただけで、打開出来たら苦労しないけどね」

「知ってるってだけでも大分楽なもんだぜ」

 

 この場でも教えてもらったことを披露しておいた。木曾さんの言う通り、知っているのと知らないのとでは、心持ちが大きく変わる。

 

「んなら、俺と由良でネルソンタッチは抑え込めるかもしれないな。その隙に魚雷を叩き込んでみる」

「まず間違いなく邪魔されるだろうけどね。空襲が止まらないよ」

「私も最低限対空砲火しますけど、全部抑えるのは無理ですよね……」

 

 今回はあちらの空襲を対処する手段が無いと言っても過言では無い。一応五月雨が防空装備ではあるものの、初月ほどのスペシャリストでは無いので限界がある。初月ですら押し潰される数だというのに。

 

「その場その場で連携していくしかないな。駆逐艦は基本固まって動け。小型で連携とった方がいいだろ」

「だね。じゃあ私は基本磯波と行動する。五月雨は対空砲火に専念?」

「うん。一番危なそうなのだけ墜とすようにする。必要最小限でね」

 

 というわけで、私は磯波との連携であの部隊をどうにか対処する。木曾さんは由良さんと雷撃により牽制。当てられれば御の字。衣笠さんと五月雨は単独行動。五月雨は対空砲火で要所要所の艦載機を撃墜し、衣笠さんは全体的に戦場を見て必要なところに加わる。各々の鍛えられる場所が決まったようなものだ。

 

「磯波、今回もよろしく」

「うん、頑張る。さっき癖の件も教えてもらってるし、午前よりは動けるようにするよ」

「オッケー。私もみんなからのアドバイスをちゃんと活かせるように頑張ろう」

 

 今回の課題はとにかく落ち着くことだ。無意識のうちに身体が強張るところを、意識して力を抜く。うまく出来ないならまずは深呼吸だけでもいい。とにかく力むのをやめたい。恐怖心が払拭出来れば尚更。

 

「っし、じゃあやるか。健闘を祈る」

「了解。今回は勝つ戦いじゃなくて、負けない戦いってのをやってみる。演習なんだもん、試せるのは全部試さなくちゃ」

 

 出せるものは全て出す。試せるものは全て試す。それで敗けたら次を考える。

 

 

 

 演習が開始した瞬間、イントレピッドさんとアクィラさんの艦載機発艦と同時に、木曾さんと由良さんが魚雷を発射。艦載機は発艦した直後なのだから、空襲が届く前に魚雷があちらに届く算段である。これにより、開幕1発目、空襲前のネルソンタッチを防いだ。

 そういう戦い方をすることは午前中にもあったため、用心に用心を重ねていた。ネルソンタッチはやられるだけでも本当にまずい。トンデモ火力による突撃で圧もあり、回避したくても身体が強張って動けなくなる。

 

「ネルソン、()()全部叩き割るぞ!」

「うむ、任せるぞ」

「ああ、Open fire(放てぇ)!」

 

 それに対してすぐさま対応してくるのがサウスダコタさん。海面に向かってそのトンデモ火力を撃ち込み、激しい水飛沫と共に正面からやってくる魚雷を一掃。

 これも午前中に見た。先制雷撃を砲撃で破壊し回避する力業である。私達の中でもそういうことをやる者は何人かいるが、サウスダコタさんのそれは豪快且つ()。強烈な火力による一撃で誘爆すら誘発し、その1発で全てを吹き飛ばす。

 サウスダコタさんだからこそ、何も考えずにその選択を取る。直情的と聞いていたが、あの攻撃自体は想定外でも何でもないようだ。一度見ているわけだし。

 

Intrepid squadron(イントレピッド航空隊), attack!」

 

 その間に、イントレピッドさんの艦載機が私達の真上に来ていた。航空隊が届く前に魚雷を届かせる算段だったが、その魚雷が破壊されたことで、ここまでやってくる時間を作ってしまった。

 ネルソンタッチ要員の3人の姿はまだ見えておらず、空には確実に塗り潰されるであろう数の艦載機に陣取られた状態。最初から制空権は投げ捨てている戦いだったが、実際こうなるとなかなかに怖い。

 

「一回下がるよ」

「うん、その方がいいよね」

 

 流石にこの状況で突っ込むのは得策じゃない。ちゃんと見るため、磯波と共に一旦後ろへ。これは全員が同じ考えになったようで、前のめりな気持ちは一度抑えた。懐に入るくらいでないとダメージは通らないだろうが、今はその時じゃない。

 アクィラさんの助言のおかげで、午前よりも冷静でいられた。やっぱり焦っていたのだろう。早くアレを止めないと被害が拡がると、戦いを急いでしまっていた。

 

「来た来た来た!」

「まずは、私のお仕事です!」

 

 爆撃が開始されたところを見計らって、一番前に出たのは五月雨。レ級の時の菊月と同じように、降ってくる爆弾に向けて対空砲火を行なうことで誘爆を誘い、必要最小限の範囲に被害を抑えていく。

 

 これも今回の訓練の課題だった。全部止めようとするからかえって被害が大きくなる。故に、()()()()()()()()()()()()()()ことをあえて選択して、自分への負担を抑えることにした。

 雨はどうやっても止めることは出来ないが、傘をさせば自分は守れる。それと同じだ。その範囲が少し大きいだけ。海全域を守ろうとしたらその前に潰れるのがオチだ。だから、まずは見える範囲だけを守る。

 

「それじゃあ、衣笠さんもちょいと援護だよ! 三式弾、斉射!」

 

 そこへ衣笠さんが援護。空中にばら撒かれる花火のような弾、三式弾でイントレピッドさんの航空隊を撹乱する。

 対地戦闘、拠点破壊に多く使われる三式弾も、実際の用途は対空砲火。ただし命中率はお察し。とはいえ、あれだけの数がある航空隊に対してならば、普通よりも効果的だろうという判断である。事実、数は減らせていないが空爆の質自体は若干落ちていた。

 

「ああもう、叩き落とせ。Fire!」

 

 そしてその三式弾すらも墜とすべく、アトランタさんが対空砲火。対空砲火に対空砲火をぶつけるとかどういう理屈なのかはわからないが、空はこれで大きく混戦。

 

 おかげで、多少意識を上に持っていくだけで回避しながら行動出来るくらいになってくれた。

 

「連打だ!」

 

 そこへさらに木曾さんが雷撃。水飛沫が晴れる前に追加で魚雷を撃ち込むことで、より命中率を上げた状態になる。いわば見えない魚雷。

 

 しかし、あちらはそんなことお構いなしだった。見えていないわけではないのだ。真上にアクィラさんの艦載機がある。よく見たら、攻撃しているのはイントレピッドさんの艦載機だけ。アクィラさんの艦載機は完全に()()()()()()だ。

 つまり、こちらがやろうとしていることは筒抜け。木曾さんの追加の雷撃も、五月雨と衣笠さんの対空砲火も、場所から何から全て見られている。あの観察眼を持つアクィラさんのそれなのだから、もうそれだけで脅威になり得た。

 

Feuer(撃て)Feuer(撃て)!」

 

 水飛沫を突き破るように放たれた、プリンツさんの砲撃。追加の魚雷すら、殆ど見えていない状態で撃ち抜いていき、水飛沫が新たに作られていく。

 これはまず先にアクィラさんを止めないとダメだ。監視カメラの下で動き続けるなんて、その時点で大きな不利。というか制空権を取られているのだから、空母を抑えないとこの不利は延々と続く。

 

「磯波、空母の方行くよ!」

「りょ、了解。突っ込むの!?」

「それっきゃ無いでしょ。今動けるのは私らだけ。空母は近付けば攻撃の手段無いから、行こう!」

 

 幸い、空襲そのものは避けやすいくらいにまで散らされている。なら、ちょこまかと動ける駆逐艦(私達)が懐に入り込むのは今だ。

 別に急いでいるわけではない。このタイミングが的確だと判断したから向かう。まだ気持ちは落ち着いている。

 

「Nelson Touch」

 

 しかし、プリンツさんの砲撃で守られたネルソンさんの艤装の変形が終わっていた。追加で立ち上った水飛沫もあり、隙も完全に塞がれていた。

 ということは、ここから水飛沫もお構いなしにネルソンタッチが実行されるということ。あれは止められない暴走列車のようなものだ。連射しながらど真ん中を突っ切り、私達の陣形をグチャグチャに乱した挙句に各個撃破を狙う技。

 

「由良が止めるからね。ねっ」

 

 それを見越して由良さんがあえて真正面へ。

 ネルソンタッチは突撃技。急に方向を変えることは出来ない。そのため、正面からの魚雷には弱いはず。午前の部ではそれすらも跳ね返されて大変な目に遭っているのだが。

 故に、ちゃんと考えて魚雷を正面で発射した時点でその場から退避。そうしながらも砲撃を続けて牽制。突撃だから横からの攻撃が多少効きやすくなっている。

 

「衣笠さんにも、お任せ!」

 

 そして衣笠さんも。三式弾を撃ちつつ、主砲はネルソンさんの方に向けてその動きを止める砲撃を放っていた。

 

「逃さんぞ! Shoot(撃て)!」

 

 それでもやはりお構いなし。突撃を無理矢理の敢行。それこそがネルソンタッチ。正面に放たれた魚雷はしっかりプリンツさんが処理し、水飛沫をぶち破るかのようにネルソンさんが突撃していた。後ろからは当然プリンツさんと……。

 

「サウスダコタさんがいない!?」

「呼んだかカゲロー」

 

 しまった。ネルソンタッチはネルソンさん、プリンツさん、そしてサウスダコタさんの3人による突撃戦法だと思っていた。だが、今あそこで突撃しているのは2人だ。サウスダコタさんは、()()()()()()()

 空母が、鷲の目(アクィラさん)がやられることの方が問題と考えていたのだろう。ネルソンタッチの攻撃力を下げる代わりに、こちらを確実に沈めに来た。

 

 多分これもアクィラさんの指示。誰か1人寄越せとでも伝えたんだろう。結果がこれだ。

 

「悪いが、こっちはやらせんよ。アクィラの目は私らには必要なんでな」

 

 間近で主砲を構えられた。これはまずい。直撃コースだ。

 

 だからこそ、()()()()()()()。強張っていたら避けられるものも避けられない。適度にサボることで、最大限の力を発揮するのだ。加古さんに続きアクィラさんにも助言を受けているのだから、実行しないわけにはいかない。

 避けるでもなく、その場で身体から全ての力を抜いた。そのまま倒れてしまいかねないくらいの脱力。居眠りするなんて言わないが、あちらの砲撃が当たらないのならあえて倒れ伏してもいいかもなんて考えていた。

 

 それが、私の最善の動きであることに気付くのは少し後。

 

「fire!」

 

 サウスダコタさんから放たれる砲撃。

 

 瞬間、私の身体は風に乗るかのようにヒラリと砲撃を避け、前に進んでいた。無意識に近い。脱力していたから無駄な力もかかっていない。

 

「消え、た!?」

 

 サウスダコタさんからはそう見えたらしい。目の前にいた的が、突然その場からいなくなったと。

 

「ああ、そうか、ここか」

 

 フワリと進んで、サウスダコタさんの懐へ。想定外のことが起きたため、動きが少し止まっていた。アクィラさんの助言通りである。

 あちらからしたら、私が突然目の前から消えたと思ったらまた戻ってきたようにしか見えなかったらしい。

 

Heat haze(陽炎)……かよ……!」

 

 ゆらゆらと揺らめく陽炎の如く、その攻撃をすり抜けた私は、サウスダコタさんの本体に砲撃を喰らわせた。

 

 

 

 私の戦法、陽炎としての戦いが確立した瞬間だった。

 




陽炎覚醒の時。でもまだ目覚めない。
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