異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
演習の真っ只中、助言を活かして取った行動が最善の動きだった。眼前で放たれたサウスダコタさんの主砲を避けつつも接近し、懐に渾身の砲撃を放っていた。その砲撃は綺麗にサウスダコタさんの腹に直撃。吹っ飛ばすことは出来なくとも、実弾であれば致命傷であるダメージを与えた。
私、陽炎自身も正直なところ予想外だった。戦場のど真ん中で、その場で倒れ伏してもいいと思うくらいに力を抜いた瞬間、殆ど無意識に近い状態で、ユラリと名前の通り陽炎の如く行動していた。
この時だけは全員の動きが止まった。ここで私がサウスダコタさんに一太刀浴びせたのは、誰もが想定外だったのだろう。演習中だというのに、戦場がシーンと静まり返ったと思う。
これは完全な
「お、おお!? カゲロー、お前今何した!」
その静寂を破ったのは、撃たれた側のサウスダコタさんである。
正直なところ、今までは霧島さんとくらいしかまともな戦いが出来ていなかったサウスダコタさんだが、私が初めてしっかりと身体にペイントを付けたことに驚き半分
単純に私が急成長したようなものだからか、それが楽しくて仕方ないという態度で私に掴みかかってきた。これは単純に私もターゲットにされる予感。
「アクィラさんの助言の通りに、ヤバイと思った時に力を抜いただけだよ。そしたら、なんていうか、フワッと動けたというか」
「この私に傷をつける駆逐艦とは大したヤツだ! 気に入ったぞ!」
肩をバンバン叩かれる。感情を露わにするほどの大喜び。戦闘狂か何かなのか、強い者と出会えると嬉しくなるタイプのようである。それなら霧島さんといろんな意味で相性がいい。おそらく夕立とも気が合う。
だが、今はそういうことをしている場合じゃない。演習とはいえ戦闘中。みんなが動きを止めてしまったとはいえ、次の瞬間にはまた敵対の状況である。艦載機だって私達の真上を巡回中。なんだかんだみんなが空気を読んで演習が滞ってしまっているだけ。
「あ、あのさ、今演習中……」
「ああそうだったそうだった。私はこれで轟沈判定だ! 健闘を祈るぞカゲロー!」
最後まで豪快というか何というか。それでも気に入られたのは悪いことではない、後々何度も突っ掛かられそうなのが怖いが、それはそれ。
ここから演習は仕切り直し。サウスダコタさんは素直にこの場から退場し、改めて戦闘続行。そこからは午前中と同じようにタコ殴りに遭う展開にはなってしまうのだが、確実に空気は変わった。私が一矢報いたことにより、確実に他の仲間達に火がついていた。
「こん中で一番新人の陽炎がやれたんだぞ。俺らだって!」
「後を追わないとね!」
たった一度の小さな勝利が全員を鼓舞したことにより、普通以上のパフォーマンスを見せるようになっていた。
午前の部で圧倒的な力の差を見せつけられ、延々と敗け続けたことで、みんな無意識のうちに気落ちしていたのかもしれない。外部の恐ろしく強い部隊とはいえ、ここまで手も足も出ないのかと。それを打開したのが、私の一撃だったわけだ。
結局その演習では勝つことは出来なかったものの、午前中よりはいい戦いが出来る様になっていた。相変わらずアクィラさんには傷一つつけることが出来なかったものの、ネルソンさんを中破まで追い込み、艦載機も半分近く撃ち墜とす快進撃。
誰もが前向きに戦えていたと思う。勿論私も。その先導者になれたのは嬉しい。
そして午後の部も終了。午前の部の疲れも溜まっていたので、少し早めに終わりにすることとなった。ここからは各々反省会となる。
私達異端児駆逐艦も反省会としてまた集まり、演習での成果と今後の課題をお互いに話し合う。だが、話題に上がったのは当然、私のあの時の戦果である。
「ゲロちゃん凄い! 凄いけど、なんか納得出来ないっぽい! 今度演習するからね!」
「わかったわかった。私もあの戦法は完全に使いこなせるようになりたいし、演習付き合ってよ」
夕立にはより強いライバル心を持たれる。改になった時にほぼ引き分けにまで持ち込むことは出来たが、お互い改二になった状態で
「一番身近で見てたのが磯波ちゃんだったよね。陽炎ちゃんの動き、見ててどうだったの?」
「確かに全身の力が抜けていたように見えたよ。砲撃された瞬間に……ゆらりと身体が揺れて。そうしたら、砲撃がもう通り過ぎたところにあって……サウスダコタさんの懐に飛び込んでた」
沖波に聞かれたことで、あんな状況でも私のことを観察してくれていた磯波に話を聞いていた。実際あの瞬間は客観的に見たらどう見えるのか私も知りたかった。
やはり、あの瞬間だけは攻撃を一切気にせずに前へ進んでいたようだった。だが、癖を見つける磯波ですら、それがどういう原理で起きたかがよくわからなかったという。
元々私は無意識でやった方が上手くいく方だった。海上移動の訓練の時も、突発的に占守が突っ込んできたことで身体が勝手に動いたわけだし、今回もそれに似たようなものなのだと思う。
脱力したことで余計な力と思考が抜け、最善の行動を導き出し、身体が勝手に動いて行動を起こした。あの時はただ一つ、
「今までの努力を身体が覚えてたから、あれが出来た……とか?」
「経験はみんなよりも少ない方だよ。何せ、まだまだ新人だからね」
まだ艦娘となって2ヶ月前後。新人の域を越えないのが私だ。経験の数を問われると、まだまだ足りないという答えしか出せない。
とはいえ、ここまで来るのにいくつもの経験をしてきている。実戦としてみれば、霧島さんや加古さんを相手に実戦訓練したのが大きく効いていた。そこで覚えたことは、しっかりと身についていると自覚出来ている。
そう考えれば、無意識にあの行動を選択することもあり得るのではないか。こうしなくてはを汲み取って、それを実現する。無意識だからこそ、身体が伸び伸びと動いてくれる。
「なら……艤装の方かな。陽炎ちゃん、艤装を従わせるって言ってたよね」
「数値ではそうだったね」
「だから、もしかしたら艤装が陽炎ちゃんが脱力した時に『こう動かせ』って命令されたと思って、陽炎ちゃんの身体を動かした……なんてことがあったり」
割と辻褄が合うから困る。そういう意味では、あの時の私は真の意味で艤装と心通わせ、艤装を私の意のままに操り、艤装
最初は従わせ、改で察する程になり、改二となった今は私自身を動かすまでに。私の意思を汲み取り、私が脱力した時点でコントロールが利くようになったわけだ。それなら納得が行く。
改二改装の時に私にもガッツリ影響を与えてきたわけだし、そういうことが出来てもおかしくない。あれだけの痴態を晒す羽目になったのだから、そういうところで艤装との意思疎通も出来たか。意思があるわけではないが。
「あー、だからあんな滅茶苦茶な動きが出来たのかもしれないね。明らかに自分で意識した動きじゃなかったし」
「前から無意識の方が上手く行ってたみたいだし……最初からその素質はあったのかもしれないね」
確かに。あの時は艤装も装備していない占守が海に飛び込んできたため、完全に無意識で動くことが出来た。海上移動訓練の時からその兆しはあったのだ。
ある意味人馬一体。お互いにお互いを乗りこなす感じがそれ。どっちが人でどっちが馬かわからなくなってきてしまったが。いや、さすがに私が人でありたい。
「なら、もっとマスターしないと。南方棲戦姫との戦いには間に合わないかもしれないけど、太陽の姫との決戦までには形にしたいね」
「ぽい! いくらでもやるっぽい!」
当たり前のように夕立が抱きつこうとしてくるが、とりあえず頭を押さえて寸止め。手をジタバタさせるが、そろそろ夕立の扱い方がわかってきた。
「みんなで手伝うよ。司令官にもそうやってスケジュール組んでもらおうね」
「だね。こりゃ忙しくなりそうだ」
なんて話していてもずっと静かだったのは萩風。萩風が静かだと、私の今の状況がまずい方向に向かっているのではないかと不安になる。
「萩風、どしたー? 何か気になることでもあった?」
「えっ、い、いえ……名は体を表すようなことがやれると……それは太陽の姫の思惑なのかなと……どうしても勘繰ってしまって」
太陽の姫は、私に対して『陽炎となれ』と言って分霊をしている。まさにゆらゆらと揺れる陽炎のような回避を今回の演習で見せたのだが、それすらも太陽の姫の意図通りの結果だとしたら。萩風はそう考えてしまったようだ。
「うーん、そうだったとしても、もうこれは私のモンよ。太陽の姫がどうのこうのは関係無し。私が私でマスターして、むしろこれで太陽の姫をぶっ飛ばしてやるって。私に力を与えたことを後悔させちゃる。だからさ、心配しないでよ」
少し俯いていた萩風の頭をポンポンと撫でてやった。その度に身体が跳ねたり小さく吐息も聞こえたが、今回はもうお構い無し。
「むしろ不安がってる方が太陽の姫の思うツボかもしれないからさ。私は前向きに生きるよ。その方が目覚めない気もしない?」
「……そうですね。トリガーは、良くない感情に起因しますから……明るく楽しく生きる方がいいと思います」
「でしょー?」
それならば、今以上に前向きに生きていこう。幸いにも頼れる仲間は沢山いる。
良くない感情が起因となるというのなら尚更だ。私はもっと明るい道を歩いていきたい。
「私も……もっと前向きに生きたいです」
「さらけ出してもいいよ。私が受け止めてあげよう。もう今は何も怖くない」
「私が困るんです」
クスリと萩風が笑う。私の前向きな生き方が萩風にも伝播してくれるのなら嬉しいものだ。みんなで仲良く、前向きに歩いていこう。
夕食前に少し工廠へ。私に陽炎の力をくれているかもしれないと磯波が提示してくれたことで、今まで以上に愛着が湧いた艤装を見に来た。
演習の時についたペイントは、すっかり綺麗に洗い流されていた。演習前のピカピカな状態でそこに鎮座している。何の用が無くても見るくらいならいつでも出来るのがここの工廠のいいところ。
「アンタのおかげで私は戦えるみたいだ」
艤装を撫でて呟いた。それくらいにもうこの艤装は仲間として考えている。元々声がけはしていたものの、ここまでハッキリと面と向かって話しかけるのは初めてかも。
見る人によっては滑稽かもしれないが、私がこうしたいのだから誰にも文句は言わせない。
「アンタには意思があるのかな。あるのなら話がしてみたいもんだよ」
まぁそれは叶わない夢だろうが、希望を口に出すくらいはいいだろう。
私の艤装はD型艤装、原初の艤装だ。深海棲艦に近いものなのだから、意思くらい持っていてもおかしくはない。そもそも私の意思を聞き取ってくれるのだから、まず間違いなく何かを持っているはずだ。
「アンタの力をしっかり引き出せるように、もっと強くなるからさ。背中は任せたよ。相棒」
タンと機関部を叩いて、工廠を後にした。
仲間は艦娘や整備の人達だけじゃない。艤装だって仲間の一員だ。今後もずっと一緒に、私を艦娘として成立させてくれる相棒として戦っていきたい。
艤装が意思を持っているとこ普通にあり得ますからね。ただでさえここの鎮守府には初月の長10cm砲がありますし。