異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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好敵手への挑戦

 支援艦隊との演習も終わり、翌日。支援艦隊の方々が鎮守府に来てから3日目。

 昨日の演習の一部始終を見ていた司令2人が今日中に作戦を組むということで、明日か明後日くらいに南方棲戦姫との決戦が迫っている。

 私、陽炎がそのメンバーに抜擢されるかはわからないが、いつでも出撃出来るように体調なども万全にして向かいたい。そして出来ることなら編み出した戦法ももう少し扱えるようになりたいところ。

 

 そして今日の日程。本来ならまだ支援艦隊の方々との演習になるはずだったのだが、夕立がどうしても個人演習がしたいということで、午前中は私と夕立だけは1対1となる。一昨日からずっと演習をやっている気がするが、全ての強化をしていくのなら演習が一番手っ取り早い。その時その時の判断力を鍛えるのには特に使える。

 そろそろ連続での勤務日数が危ないことになってきているので、演習は午前中だけに抑えておいて、午後半休とかにしておいた方がいいかもしれない。その辺りは空城司令に聞いておいた方が良さそう。

 

「うわ……なんかすごく見学者がいる」

「艦載機も飛んでるっぽい。すっごい見られてるね」

 

 どうも私のアレが気になる人が多いようで、昨日の演習の如く私達の演習を眺めている人が多い。それこそ、昨日も使ったオペラグラスまで使って凝視している人まで。艦載機はまず間違いなく鷲の目(アクィラさん)

 演習するはずだったところにこんな申し出があってそれを通してしまったものだから、支援艦隊の方々は全員が私達の演習に注目していた。近くで見るためか、全員が艤装まで装備して海の上での見学である。尚のこと緊張する。

 

「夕立も味わってみたいっぽい。ダコタさんがやられた時、夕立も見てたけど意味わかんなかったし」

「うまく行くかはわからないよ? なるべく使っていくつもりではいるけど」

 

 重要なところで脱力。これが発動の鍵。常に使い続けるのは多分良くない。艤装に私の身体を動かしてもらうというのが正解なら、艤装側にとんでもない負荷がかかっているはずだ。やりすぎると壊れてしまいかねない。

 とはいえ、限界がどれくらいかを知っておきたいというのもある。艤装(この子)を何処まで使っていいのか。だが、酷使しすぎるのも可哀想。昨日から余計に相棒として見ているから、まるで生きているものに見えている。

 

「最初は夕立が完勝したっぽい」

「改になった時に大体互角になったかな」

「で、今はお互いに改二。また夕立が勝つよ」

「このペースで行けば私が勝つでしょ。というかいい加減ちゃんと勝ちたい」

 

 こういう時には私の匂いとかは関係ないらしい。好戦的な夕立には、戦場ではそういう感情は吹き飛んでしまうようである。さすが夕立。

 そもそも匂いを使って勝とうなんて思っていないが、それを理由に勝敗をどうこう言われても困るし。

 

「よし、じゃあやろうか。午前中は付き合ってもらうよ」

「当たり前っぽい。勝っても負けても続けるから」

 

 夕立とはこういう形で友情を育めているように思える。ライバルというのは、いても悪いものではない。お互い切磋琢磨して、高みを目指すのは気分がいいものだ。

 

 

 

 所定の位置についたところで、今回の審判をやってくれると名乗り出たネルソンさんが前へ。演習そのものを無くしてしまったせいで、そんなことまでやってくれるらしい。ノリがいい人だとは思っていたが、ここまでとは。

 

「AquilaはEagle eye(鷲の目)で忙しいのでな、余がこのBattleを見届けさせてもらう。貴様達はこの鎮守府でも要注目の駆逐艦と聞いているぞ。ならば、余にその実力を示してくれ。見込みがあるのならNelson Touchの一員に組み込みたいものだな」

 

 多分これは建前でもあり本音でもある。ネルソンタッチの新たな一員というのもあるだろうが、おそらく目の前で戦いが見たいだけ。後ろの方でサウスダコタさんがズルいぞネルソンと叫んでいるのが聞こえてきたくらいだし。

 それだけ注目されているのはわかった。獰猛に勝利を掴もうとする夕立と、見たこともない力を得た私。どちらも間近でどんなものかを見ておきたいという気持ちが溢れている。

 

「では準備はいいようだな。Admiral(提督)達が見ていないのは惜しいが、存分に戦うがいい。では」

 

 静まり返る。何度もタイマンでやっている夕立が相手でも、この瞬間だけはどうしても緊張してしまうものだ。勝っても負けても恨みっこなし。むしろ勝っても負けても2戦目以降があるのだから関係ない。負けたら次は勝つ。勝ったら次も勝つ。戦いは終わらない。

 

「始め!」

 

 ネルソンさんの合図と同時に突撃。改二となった夕立は、艤装に備え付けられた帆まで使った回避システムを使ってくる。戦場の風まで扱うとなるとかなり厄介だ。

 

 今回は主砲2基と魚雷発射管1基。夕立は主砲1基と魚雷発射管2基。火力は夕立の方が上かもしれないが、私にはブレ弾と精密射撃の二段構えがある。見た目は互角か。

 だが、使いこなしているのは確実に夕立。私は艤装に()()()()()()()()()部分も多いので、真の意味で自分の手足のように扱っている夕立には敵わない部分もある。

 

「先制っぽい!」

 

 早速夕立が砲撃。まだ始まったばかりで間合いがある状態なので、放った直後に横に避ける。そしてお返しと言わんばかりにブレ弾による反撃。

 何処に飛ぶかわからない、回避しづらい砲撃であるはずなのだが、夕立には何度も見せているため、どう避ければいいのかは完全に理解されている。今回はほとんど真正面からの砲撃のため、大きく真横に跳んだことで軽々と回避。

 

「そこっ!」

 

 ならば着水に合わせる。ブレ弾と精密射撃のコンビネーションは今までに何度も訓練で使ってきているのだから、私も手慣れたものだ。艤装もかなり早いタイミングでそれを察したか、そこに撃ちたいとイメージした瞬間に照準を合わせていた。さすが相棒、空気を読んでくれる。

 だが、夕立は帆を使った動きで()()()()()()()()()()という荒技をやってのける。帆を使うなら着水は遅くなり、使わないなら想定通りの速度に。それが完全に二択。

 

「ぽい!」

 

 そこを三択に変える行動をしてきた。自らの魚雷を着水地点に放ったかと思いきや、それを自ら撃ち抜くことで爆破。その風を帆で受けて方向転換してしまった。結果、私の精密射撃はあらぬ方向を撃つことに。

 自由過ぎるにも程がある。艦娘が空中戦をこなすとか意味がわからない。夕立だけに与えられた技能なのはわかるが、ここまでするかと。いや、駆逐水鬼相手の時も、爆風を使った大きなバックステップとかしてたみたいだし、これくらいなら朝飯前なのか。

 

「ホントそれインチキくさいねまったく!」

 

 魚雷を爆発させられたことで軽めの視界妨害にもなっている。その間に着水を許し、その水飛沫の逆側から急旋回して突っ込んでくるのがチラリと見えた。それと同時に魚雷が発射されたことも。

 魚雷を撃ち抜くことは、精密射撃の方を使えば私にだって出来る。だが、それは自ら視界を塞ぐことにもなる。夕立はむしろそれを狙ってるのではないかと思えるので、ここは回避を選択。

 

「夕立突撃するっぽーい!」

 

 私が雷撃を回避したところを見計らって、一気に距離を詰めてきた。

 当たり前だが、誰だって近ければ近い方が命中率は上がる。私だってそうだ。その中でも夕立は特に当ててくるので、近付かれることは死を意味するのだが、ここはあえて立ち向かうことにした。避けてばかりでは決着がつかない。

 

「脱力……」

 

 全身の力を抜く。自分の身体が支えられない程にまで脱力して、その場に倒れ伏すつもりで。サウスダコタさんの時と同じように、前のめりに。

 結果、夕立の砲撃を潜り抜けて、こちらから急接近。ゆらりゆらりと紙一重で全てを回避して、夕立の真正面に抜けた。

 

 普通なら正面から相対するのも難しい弾幕でも、人1人抜けられる隙間があればおそらく抜けられる。過信は禁物だが、艤装のおかげで私の回避性能は一瞬だけでも極限にまで達していた。

 

「ぽい!?」

 

 反応からして、夕立の目からは私がおかしな動きをしたように見えたのだろう。動揺で砲撃が一瞬途切れた。そこで脱力解除。今度は私の脚で踏ん張って姿勢を正し、夕立に向けて雷撃。

 近付けば砲撃以上に命中率が上がるのが雷撃だ。しかし、私自身にも被害が出る可能性があるため、そこは慎重に。

 

「な、何今の」

 

 それですぐにやられてくれる夕立ではない。私の魚雷は簡単に飛び越えられて、さらに近付いてくる。今の距離で当たらないなら、さらに近付いて撃てば当たるのではと判断したのか。もう目と鼻の先と言えるほどにまで近付いている。

 ここから撃たれたら、さすがに回避する間もなく直撃してしまうだろう。だからこそ、再び脱力。今度は真横に倒れるように力を抜いた。

 

「っ……」

 

 そこから導き出される最善の選択。砲撃される前に、ゆらりと夕立の眼前に移動していた。回避するだけではなく、単に妙な動きによる接近になる。

 私からしたら揺れる動きで近付いただけなのだが、夕立からしてみれば目の前にいた私が眼前から消え、即座に近い位置に現れたように見えたらしい。

 

「ぽいぃ!?」

 

 そのため、撃つのが遅れた。私に照準を合わせようとした時、逆に私が照準を合わせ終わっていた。手持ちの主砲も、備え付けの主砲も、どちらも夕立を真正面に捉えていた。

 夕立だって相当な回避性能を持っている。かなり近い位置で撃っても紙一重で回避して攻撃に転じてくる。しかし、今回はそういうレベルとは違うところにいた。これで外したら怒られるレベル。

 

「っっ!」

 

 そして砲撃。脱力からの復帰直後だからか、砲撃の姿勢制御が少しだけ上手く行かず、若干フラついたものの、私の砲撃は夕立の胸を見事に撃ち抜いた。

 

 これにて勝敗は決する。大敗から始まり、今まで何度やってきても引き分けくらいまでしか行けなかった夕立との個人演習に、初めて勝利という決着をつけられた。

 

 

 

 演習初戦は私の勝利。今の演習でわかったのは、脱力を2回連続でやった場合は、2度目で姿勢制御が甘くなったこと。2回連続でこれなら、3回連続となったらもっと酷いことになっていたかもしれない。

 力を抜きすぎて復帰出来ないとか戦場では絶対にあってはならないことなので、ここは要改善ポイント。これに関しては私の筋力とかの問題なので、また陸奥さんや霧島さんに筋トレを教えてもらうか。

 

「悔しいっぽい! 悔しいっぽい!」

「やっと勝てたよ。それだけ夕立は強いんだから、たまには勝ちを譲ってよね」

「うー」

 

 駄々を捏ねるように悔しがる夕立。今回は私のアレを相対して見る初めての演習だったので、見慣れない技に対応しきれずに敗北を喫したというイメージ。夕立のことだから、あと数回見せたらキッチリ対応してきそうで怖い。

 それでも、これは私しか持たない唯一無二の力。こちらも簡単には突破出来ないように鍛え上げ、もっともっと使いこなせるようにしていきたい。

 

「次は負けないから。今目の前で見たし。初めて見たから驚いただけだし」

「アンタそれで本当に対応してくるから怖いんだよ」

「ゲロちゃんは夕立の宿命のライバルだからね。抜きつ抜かれつでいいっぽい!」

 

 悔しさは滲み出ているが、満面の笑みで拳を突き出してきた。なんだかんだで私をそういう目で見てくれているのは嬉しい。その拳に私も拳を打ち付けた。

 

「カゲロー、すまないが調べたいことがあるのでな。ジッとしていてもらえないか」

 

 ここまで演習を見ていてくれていたネルソンさんが不意に私の脚に触れてきた。この演習の最中に何か感じるものがあったらしい。

 触れられたのは主に膝から脹脛の辺り。そして足首まで。つまり、関節を重点的に見た後、それを繋ぐ場所を確認された。

 

「余としては、貴様の技は多用はやめておけと言わざるを得ない。脚へのDamageが考えられる。抜いた力をいきなり入れれば、嫌でも負荷はかかるだろう。最悪、回避の途中で()()()()()

 

 ゾクッとしたが、薄々気付いていたことだ。やはり下半身の筋トレは必要そうである。出来るようになった今はまだ諸刃の剣に近いようであるが、これをしっかり鍛え上げれば、負荷が気にならない超絶回避性能に進化させることが出来そうだ。

 

「だが、いい戦いだったぞ! カゲロー、ユーダチ、貴様らもNelson Touchに組み込んでいいものとしよう! 鍛錬を重ねるがいい! ハッハッハッ!」

 

 高笑いしながら去っていった。演習を見るのはこれで終わりとでも言わんばかりに。呆気に取られそうになったが気を取り直して。

 

「っし、ならもう少し演習やろうか。次も負けないから」

「ぽい! でも脚がおかしいってなったらすぐにやめるっぽい。脚が痛いから負けたとか言われたら、夕立気持ち良くなれないからね」

「了解。まだやれるようになって間もないからね。上手く付き合っていかなくちゃ」

 

 

 

 新しい戦術はこうしてより洗練されていく。ネルソンさんからの忠告も守りつつ、私は強くなっていくのだ。

 南方棲戦姫との戦いまでに何処まで強くなれるかはわからないが、出来るところまでは全力で駆け抜けよう。脚を壊さない程度に。

 




力を抜いたところに一気に力を入れたら、そりゃ負荷がかかって脚がおかしくなるに決まってるわけですよ。艤装ちゃんだってそこまで考慮は出来ません。
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