異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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陽炎の特性

 午後からも海上での移動訓練に勤しむ私、陽炎。午前中は海の上に立つことは出来たものの、そこから動くことは一切出来なかった。だが、昼食前のお風呂で陸奥さんと霧島さんにアドバイスを受けたことで、いろいろな方法を知ることが出来たため、午後からは違う方法を試してみることにする。

 

 早速工廠で艤装を装備した後、木曾さんに1つだけお願いをした。一度イメージをより良いものにしたいということで、木曾さんが海上を滑走しているところを見てみたいと話すと、確かにそれは必要かもしれないと快諾してくれる。

 

「こんなもんでいいか?」

「うん、ありがとう。イメージしやすくなった」

 

 注意深く見ていたが、それだけでもいろいろとわかることがあるものである。

 木曾さんや沖波は自分のことを船だとイメージして移動をしていると聞いたが、実際客観的に見たら人ならではの動きが所々に散りばめられている。姿勢制御と言えばいいか、別に直立のまま進んでいるわけではなく、若干の前傾姿勢。脚を動かさずに走っているというか、テレビで見たスピードスケートの体勢を緩くしたような、そんな感じ。

 

「ちょっと考え方変えてみる。さっき陸奥さんや霧島さんにも話を聞いたんだ」

「へぇ、それはいいかもな。詰まったら違う方法にした方がいい。どういう手段でもいいから、出来ることが最優先だからな」

 

 手段問わず、目的が達成出来れば良し。海上を移動出来なければ艦娘としての活動が出来ないのだから、まずはどうであれこの訓練を終わらせなくてはならない。

 

 というわけで、陸奥さんに聞いた人間寄りのイメージで訓練を再開することにした。私は人間であり、さっきの木曾さんと同じように滑るように海を駆け抜けるイメージ。

 そして、霧島さんからのアドバイス、自信を持って事に当たる。この方法なら出来る。私には出来ると強くイメージして、私は前に進み出す。

 

「おっ、行ける、行ける!」

 

 今までよりは進めてる。まだスピードは出ていないかもしれないが、バランスを崩さずに前へ前へと進んでいる。だが、

 

「あ、これはダメだね」

 

 体勢を前にし過ぎて、今までにない前方への転倒。艤装に押し潰されることはないにしろ、顔面から海面に叩きつけられ午後一発目の水浸しに。

 そうそう上手くいくことは無いか。そんなことで一発で上手くいったら、最速記録がどうという話は出てこない。

 

「痛た……でもコツ掴んできたかも」

「自転車の練習みたいなもんなんだよ。慣れちまえば失敗が無くなる。ただ、そこに辿り着くまでがな」

「うわぁ、すごくわかりやすい。じゃあ補助輪とか無いかな」

「おかしな癖が付くからやめとけ」

 

 無いとは言わない辺り、本当にダメだったら補助輪が出てくるのだろうか。それはそれで見てみたい。

 もう一度やるためにその場で立ち上がり、次のチャレンジへ。ああもう服がグショグショ。どうせ濡れ続けるのだから最終的には気にならなくなるが、一発目はどうしても気持ち悪さを感じる。

 

「とりあえず思い付くことは全部やってみよう」

「ああ、そうしておけ。時間をかければいつかはやれる。ちなみに一番てこずったのは夕立の1週間な」

 

 一番最初が下手というのは本当のようである。それ以外はやたら早かったようだが。

 得手不得手というのはあると思うわけで、夕立はそこが苦手だっただけ。木曾さん曰く、戦闘に関わることは覚えがやたら早いが、ただの移動にはてこずったとのこと。まさに狂犬。

 

「お前はどれくらいかかるかな」

「なるべく早くがいいなぁ。沖波が2日だったっけ。それくらいで行きたい」

「その意気だ。お前には素質があるからな」

 

 何処を見てその言葉が出たのか。訝しげな顔をしたら、木曾さんは私が無自覚であることを察し、見解を話してくれる。

 

「お前、移動出来ない割には、()()()()()()()()()()()()。さも当然のように」

「……そういえば」

 

 まるで意識してなかった。今考えてみれば、午前中からそうだった気がする。沈むたびに自分の足で立ち上がり、また移動しようとして失敗して沈む。

 訓練の間、私はずっと()()()()()()()()()()()普通に立ち上がっていた。木曾さんは私の訓練をただ見ていただけである。

 

「多分だけどな、俺達とお前は逆だ。イメージしないでやった方がいいのかもしれない。無意識で全部出来ちまうパターンかもしれない。意識してやろうとするから出力がおかしくなるんじゃないか?」

「そんなことあるの……?」

「少なくとも俺はそんな奴見たことないな。だが、出来るに越したことは無いだろ」

 

 これも異端児の特性なのかと言いたいところだが、少なくとも夕立と沖波はそんなことは無かったはずだ。木曾さんが言うには私が初めてのパターンなので、参考に出来る前例が無い。

 力んでしまっているのなら上手くいくものも上手くいかない。引っくり返るのもわかる。

 

「意識するなって言われると、余計に意識しちゃうよね」

「まぁそうだな」

「とりあえず、イメージの方向で訓練していくよ。それでも上手くいくかもしれないし」

 

 木曾さんの見解が正しいとは限らない。今は前例があるパターンで訓練を続けていこう。それで出来るようになれるかもしれないし。

 その間に木曾さんが何かいい手段を考えてくれるそうだ。とはいえまだ初日。じっくり腰を据えて挑んでもいい時期である。

 

 

 

 それからしばらくして。何度も何度も引っくり返ったところで木曾さんが一時的に席を外す。何かしら思い付いたのか、別件か。木曾さんが席を外している間は、夕張さんに見てもらっている。

 

「確かに力んでるように見えるね。足に力が入っちゃってる」

「うーん、やっぱり? でもイメージするとこうなっちゃうんだよなぁ」

「船は力まないよ。ちょっと流れに身を任せてみたら?」

 

 力ばかり入れてるからよろしくないと、今度は力を抜く戦法。深呼吸をして目を瞑り、全身から力を抜く。ギリギリ立っているくらいの力加減にして、波に身を任せる。

 工廠内の海面は、そこまで波打ってはいない。それでも少しは流れがある。そこに係留されたボートのようなイメージで。

 

「それだと倒れないんだよねぇ。なのに、移動を意識すると力むと」

「うん。なんでだろう」

「リンクが強すぎて、ちょっとのイメージで出力がおかしくなるのかな。そういうところがマイナス同期値の特殊性なのかも」

 

 あまり意識していなかったが、私特有のマイナス同期値がこんなところで足を引っ張っているのかもと夕張さんは言う。

 私のリンクの後に、私にさらに馴染むようにメンテナンスをしてくれたはずなのだが、整備工としても想定外のことが起きてしまっている可能性が出てきた。前例が無いために対策方法は0からの調査。かなりしんどい。

 

「一回値取ってみた方がいいかもしれないね。なんだかデバッグしてるみたい。ただでさえ最初のリンクの時に……」

 

 夕張さんが何か口走ろうとした時、不意に工廠の入り口に視線が向いた。さっき出ていった木曾さんが戻ってきたのだろうと思って私もそちらを向いたら、そこには木曾さん以外の艦娘もついてきていた。だが、そこから想定外のことが起きる。

 その艦娘、駆逐艦よりも小さい艦種である海防艦の占守(しむしゅ)は鎮守府指定の競泳水着を着ていた。だからだろうか、突如私に向かって猛ダッシュを仕掛けてきたのである。

 

「うおーっ! しむしゅしゅしゅーっ!」

「うえ、ええええっ!?」

 

 そして岸に着いた途端にダイブ。完全にフライングボディプレス方式で私に突撃。上半身に抱き着く形となり、不意打ちだったせいでそのまま押し込まれそうになる。

 これはよろしくない。私は艤装を装備しているが、この子は何も装備していない生身。下手に私が押し潰すような状態になったら、ただでは済まない。最悪な場合、命の危険すらある。

 ならば、倒れるわけにはいかない。この子を受け止めたまま、バランスを崩すことなく衝撃を吸収する。こういうことは孤児院にいた時に子供達にやられたことがあるため、多少なり慣れている。

 

「おっととととと!」

 

 その子を抱きしめたまま、うまいこと移動やらステップやらを繰り返して、何とか崩しかけたバランスを取り戻し、大分不格好にはなったものの倒れずに済んだ。抱き付かれているために思い切りガニ股で姿勢を整えたが、まぁこれは仕方ない。

 

「あっぶないなぁ! 訓練中に飛び付くのは良くないよ!」

「陽炎おねーさんなら支えてくれるって木曾おねーさんが言ってたっす!」

 

 なるほど、木曾さんの差し金。それにしてもこれは危険なのでは無いだろうか。私が上手く受け止められたから良かったものの、出来なかったら大惨事になっていたかもしれないだろうに。

 

「木曾さんちょっと!」

「悪い悪い。とりあえず占守をこっちに寄越してくれ」

 

 ゆっくりと岸まで歩いてきた木曾さんは、ニヤニヤしながら手招きしてきた。ちょっとイラッとしたが、私をしっかりしがみついている占守を岸まで運んだ。

 

「うひひ、ありがとっしゅ!」

「はいはいどういたしまして。で、木曾さん、何か言うことは」

 

 軽く睨み付けるが、木曾さんはニヤニヤをやめない。

 

「ほらな、無意識ならやれるんだよ。もうお前、海上移動出来るだろ」

 

 言われてみれば確かに。今は占守の身を守るために必死になっていたからか、何も考えることなく姿勢制御をしていた。地上で活動しているようでいて、しっかりと艦娘ならではの滑走も出来ていた。

 海上に立ち上がるのと同様、無意識ならば私は出来てしまうらしい。変に力を入れず、考えもせず、咄嗟の行動をしたことによって身体にそれが染み付いた。

 

「これはちょっと意地が悪いんじゃないの?」

「目的のためには手段を選ばないって言ったろ。それに、これは提督の許可も貰ってる。あと、事前に教えてた方が占守が危ない」

「言い返せないなぁくっそー……」

 

 今からやられると言われていたら、しがみつかれた時に体勢を崩して大変なことになっていたかもしれない。咄嗟だったから全て上手く行っている。

 木曾さんはここから離れている間にいろいろと手を回していたわけだ。空城司令に私の現状を話し、今回の案を出し、占守にその件を伝え、今に至ると。占守もよくこれを受け入れたものである。

 

「よし占守、もう一回陽炎に飛び掛かれ」

「らじゃーっす! 陽炎おねーさんにダイブっしゅ!」

「ちょっ!?」

 

 木曾さんの指示に目を輝かせた占守が再び私に飛び付いてきた。今回は事前にわかっていたことなのでしっかりと受け止める。

 無意識のうちに出来るようになった海上移動はしっかりと身につき、占守を抱えながらの移動も難なく出来るようになっていた。艤装を装備しているおかげで、占守の重さは全く気にならない。これならずっと運び続けることが出来るだろう。

 荷物運びの任務というのもあるらしく、そういうときはこんな感じに物を運んだりするだろうし、それをいち早く体験出来たのは良かったかもしれない。そういう任務に私が出るかはわからないが。

 

「占守役に立ったっすか?」

「まぁ、うん、そうだね。すごく驚いたけど、占守のおかげで海上移動をモノに出来たよ。ありがとね」

「うひひ、どういたしましてっしゅ!」

 

 おそらく適性検査の適齢最年少で艦娘になれたのだろう。見た目と同様やたら子供っぽい占守に、どうしても孤児院の弟妹達を重ねてしまう。そのため、あまり強く文句は言えない。全部木曾さんが悪いんだから、占守には何の罪もないし。

 

「そういえば夕張さん、さっき何か言いかけてなかった?」

「ん、何にも無いよ。海上移動出来るようになってよかったね」

 

 何か隠したように思えたが、今は先に進めたことを喜ぶことにしよう。

 本当に危ないことならその場で教えてくれていたはずだ。何も言わないということは、取るに足らないことなのだろう。

 

「なんか今まで教えてもらったこと全部無駄にしちゃった感じで申し訳無いなぁ」

「そんなもんだ。人には人の得手不得手ってものがある。お前の得手は他と全く違ったってことだろ。気にするな」

 

 他と全く違うというのがどうにも気になる。そういうところもマイナス同期値の影響なのだろうか。なんでそんなことになってしまったかはわからないが、私はそういうものなのだと納得するしかないか。

 

「まぁこれでお前は次の段階だ。最速記録だな」

「あ、そっか。霧島さんよりも早いことになるんだ」

「おめでとっしゅ!」

 

 占守にも祝福されて、私は次の段階に行けるようになる。海上移動が出来るようになったのだから、次は戦闘訓練だろう。

 

 一歩一歩艦娘としての道を進むことが出来ている。両親の仇討ちに出られる日は近いかもしれない。

 




前作、前々作とついぞ出すことが無かった海防艦、今回は登場します。まず1人目は占守。
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