異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
午前中の訓練、夕立との演習はここで終了。私、陽炎も夕立も身体中ペイント塗れで工廠に戻ることとなった。
ネルソンさんから多用はやめた方がいいと忠告を受けていたため、本当に必要な時に使うという方針で演習を続けたところ、夕立とはおおよそ五分五分か少しこちらの負けが多いくらい。あの回避方法があってようやく勝てるところに行けるので、やはり下半身のトレーニングが必要であると実感した。
「あー、まだ足りないね。膝が痛むようじゃダメだよホント」
「まだ目が慣れないっぽい。ゲロちゃんのアレ、夕立でも厄介って思えちゃうし、すごいと思うよ」
夕立にそこまで言われるとなると、私の回避技は本格的に強みになりそうだ。艤装を使わずにアレが出来るようになれば完璧なのだが、おそらく今の比にならない程に脚に負担がかかる。戦場でポッキリ行って再起不能とか目も当てられない。
「アンタのアレは何なのさ。空中で方向転換」
「夕立の艤装にしか帆は無いからね。思いっきり使ってみたっぽい!」
「それでもアレは無茶苦茶過ぎるよ。たまにちょっと下がったでしょう」
自分で放った魚雷を即座に自分で破壊というだけでもとんでもないのに、その爆風を使って空中で動きを変えるのはもう神業レベルだと思う。あんなの夕立にしか出来ないだろうに。
相変わらず私達が出来ないことをすぐにやってしまうのだから、夕立の戦闘センスには脱帽する。真似をしようとも思えないような技なのも拍車をかける。
「ま、お互い頑張っていこうよ。今の技を極めたいとこだね」
「ぽい。ゲロちゃんが強くなったから夕立も張り合いがあるっぽい」
夕立が私のことをライバルとして見てくれているのは結構嬉しかったりする。競える相手がいるから、私も強くなっていけるだろう。こういう付き合い方は戦友って感じがしていい。殺し合うような仲じゃないのも喜ばしいことだ。
司令2人の作戦会議が終わったようで、午後イチに全員が集められる。会議室は満員御礼。
「全員集まったね。理解していると思うが、南方棲戦姫の巣の破壊を実行する時が来たよ」
わかっていたことではあるものの、どうしても緊張感に包まれてしまう。誰がその部隊に選ばれたかというのが大きい。
私としては、その戦いには出撃したいと思っている。太陽の姫が絡んでいる都合上、どの戦場も私には関係性のあるものになる。だが、その戦場に出ることによって私の記憶が刺激されるというのもあるので困ったもの。今でこそみんなに起こしてもらっているとはいえ、それすらも間に合わなくなるくらいになる可能性は否定出来ない。
「俺の部隊は全員出てもらう。そのために来たんだからな」
「基本的にはレ級の足止めをしてもらうつもりだ。出てこない可能性だってあるが、最悪を想定するべきだろうからね」
これは当然のこと。何のためにここに来たんだという話になる。
秘書艦はアクィラさんでも、旗艦はネルソンさん。呉内司令からの指示を受け、鼻息荒く自信満々に頷いた。ドヤ顔も崩れない。
「うちからは連合艦隊で行ってもらう。南方棲戦姫を沈めるのはこちらの部隊になるからね」
レ級よりも強敵であることが目に見えている南方棲戦姫を相手取るのは、支援を望んだ私達の仕事である。あくまでも領海で起きたことなので、対処するのはその領海を管理している鎮守府だ。領海外の敵とはいえ、一番近いのがこちらなのだし、あちらの目的が私である限りは、もう切っても切れない関係性である。
「前にも言ったが、少し時間が経っているから1つだけおさらいだ。奴の身体には極力傷をつけないことだ。頭を吹っ飛ばしたりするのは、今回は極力抑えるつもりで行ってもらいたい」
萩風の時と同様に、南方棲戦姫も
しかし、空城司令の次の言葉で一転。
「だが、沈めるつもりでやってもらう。手を抜いてやられるくらいなら、手を抜かずに沈めることだよ。アンタ達に業を背負わせる可能性はあるが、そうなった場合はアタシが全部責任を取る。あまり重く考えるんじゃないよ」
手加減をしたことで部隊全滅なんて起きたら目も当てられない。被害は更に拡がる一方になる。まず少なくとも私は目覚めさせられるだろう。
息さえあれば、最悪な場合は入居ドックでどうにか出来る。火傷などは構わないが、死ぬほどの衝撃などで仕留めなくてはいけないのが難易度が高い。四肢欠損もかなり危ないところか。
「それじゃあ、編成を発表するよ。覚悟して聴きな」
より強い緊張感が会議室を支配する。ざわつきそのものが無くなった。
「南方棲戦姫との直接対決をする第一艦隊は、陸奥、アンタに引っ張ってもらうよ」
「了解よ。アイツには私が思い切り喧嘩売ってるもの。私が出ないわけにはいかないわ」
ここも想定通り。ただでさえ防御力がとんでもない南方棲戦姫なのだから、その防御力を上から殴り飛ばせるくらいの火力が必要。戦艦の火力というのは必要不可欠になる。レ級が多く出てきてしまった場合にも、対処のために火力は絶対に必要、
よって霧島さんも必然的に第一艦隊へ。一斉射は戦艦でなくては効果を発揮しない。暴力的な超火力を叩き込む。うちの戦艦は2人しかいないのだから、選択肢は無い。
「艤装は硬いかもしれないが、本体は軟らかい可能性はある。駆逐水鬼みたいに駆逐艦の主砲くらいなら衝撃だけ与えて身体は火傷で終わりという可能性もある。故に、今回は雷撃よりも砲撃をメインにしていく」
魚雷は脚そのものを吹っ飛ばしてしまいかねないので、今回はパスということになった。中に人間がいるなんて知らなかったら、平気で最高火力で押し潰すなんてことを考えただろうが、こうなっては仕方あるまい。
砲撃そのものは、駆逐水鬼のように直撃しても大火傷で済む可能性はあるにはあるが、万が一を考えるのなら腹とかを狙うべき。
「加古、阿賀野、アンタ達に任せる」
「あいよー。1人は多少は火力がある重巡がいいもんねぇ」
「阿賀野選ばれちゃった!? い、いいよぉ、頑張っちゃう!」
加古さんは知性を持つレ級との戦闘経験があるから。阿賀野さんは無反動砲撃の副次効果で得られた回避性能を買われてである。
今回の敵は一瞬の隙すら死の可能性に繋がるような暴力があるため、それを少しでも軽減したいと考えられたのだろう。
「で、だ。駆逐艦の枠として、夕立と陽炎。アンタ達に行ってもらう」
「ぽい! りょーかい!」
「そ、そっか、私が。いいんだ」
正直驚いた。出撃出来たらしたいとは思っていたが、本当にそうなるとは考えていなかったのだ。
「午前中の演習の件、アクィラから全てのデータを聞いている。アンタ達なら接近しての攻撃が可能と判断したんだ。呉内と考えた結果の採用だよ」
「ああ、俺から見てもお前達は戦場に適応出来ると判断した。当然事前の準備は怠らせねぇ。生きて帰られるように最善を尽くす」
喜ぶべきかはわからないが、手に入れた力を早速使う場が今後の私の道を左右するかもしれない場となると、心が躍るようだった。
夕立もここで選ばれたことに対して喜びを露わにしていた。さすが戦闘狂。
「第二艦隊は露払いが基本だ。あらゆる艦種が現れると聞いているからね。万能な戦力を配分させてもらった」
前回、南方棲戦姫と邂逅した時は、軽空母や軽巡洋艦が出てきているし、私の監視に潜水艦も使われた。それなら、その全てに対応出来るような部隊を用意するべきだろう。
第一艦隊が南方棲戦姫に専念することになった時、敵随伴艦は全て第二艦隊にやってもらいたい。
「旗艦は隼鷹。そこに衣笠、木曾、五月雨、初月、磯波。この6人で行ってもらうよ」
「お、あたしかい。なら、気合入れていきましょうかね」
これだけ揃えば、どんな不規則な部隊が来たとしても対応出来るだろう。航空戦と対空砲火で空を、雷撃で戦艦のような大型艦を対処し、駆逐艦が3人もいれば対潜にも割ける。
いくら潜水艦が出るからと言っても、あの場に海防艦の子供達を連れて行くのは危険すぎる。駆逐水鬼の時のように、潜水艦まで連れて鎮守府に攻め込んでくるならまだしも、領海の外まで向かうのは流石に危険が過ぎる。
「残りは万が一の時の追加部隊だ。基本は鎮守府防衛でここに残ってもらうからね」
今回向かう部隊以上の戦力が欲しい場合は、随時来てもらうことになるだろう。基本的にはそうならないように立ち回りたいものだが。何が起こるかわからないのがこの戦場だ。援軍が必要になるかもしれないし、鎮守府に流れてきた敵を倒す必要が出てくるかもしれない。
残されるものは、そのどちらにも対応出来るようにしてもらう。その中に天城さんや衣笠さんが含まれているのがありがたいところ。異端児駆逐艦では沖波もここの組に入るし、背中を任せるには充分だ。
「作戦開始は明後日の朝だ。部隊に選ばれたものは、それまで休息を取ること。万全な態勢で出撃出来るように、体調管理をしっかりしておくように。もし今でも何かあるようなら、速吸に言っておきな」
残り1日半が突然休暇となったが、ある意味都合が良かった。司令の指示なのだから、これはありがたく休ませてもらおう。
幸いなことに体調不良などは何もなく健康体そのものだ。強いて言えば毎晩の悪夢が怖いところではあるものの、こればっかりは防ぎようがない。また見てしまった時は仲間達に頼るしかないだろう。今日の夜に見て、明日の夜は見ないというのがベスト。
「じゃあ解散だ。各々、ベストを尽くしておくれ」
ここからは心身共に休むことが任務だ。昼寝でもいいし、お茶会でもいい。とにかく、心を落ち着けるのが一番。
「か、かげろうおねぇちゃん……すこし……いいですか……」
解散してパラパラと艦娘が会議室から出て行く中、松輪に声をかけられる。
ここ最近は悪夢の更新のせいで松輪抱き枕に頼ることが出来なかった。万が一のことを考えると、松輪には、というか海防艦には荷が重い。それに、いろいろな証言からして海防艦には見せられない姿を見せることになるので自重していた。
「おねぇちゃん……あさって、たたかいにいくんですよね」
「うん、そう決まったね。だから、今からはお休みだよ」
「ま、まつわたちはいまから……おひるねのじかん、です」
なるほど、だから一緒に寝ないかとお誘いに来てくれたわけだ。最近一緒に寝ていないというのもあるし、松輪は松輪なりに私のことを心配してくれている。
ここで断るほど私は悪い奴じゃない。子供にまで気を使ってもらったのなら、その思いはしっかり受け入れる。だが、どうしても
「よし、じゃあ私も身体を休めるためにお昼寝しようかな。松輪、付き合ってもらうよ。抱き枕があれば嫌な夢見ないだろうしね」
松輪の表情がパァーッと明るくなる。どうやらお望みの解答が出来たようだ。
「よかったなー。ずっと気にしてたんだぜー」
「松輪は陽炎おねーさんのこと大好きっしゅからね」
大東と占守に言われ、恥ずかしげに顔を伏せる松輪だが、別に困っているとかそういうのでは無さそうなので良し。
「悪いね大鷹、またお世話になるよ」
「いえいえ、こちらはいつでも大歓迎ですよ。たまには違うこともあった方がいいですしね」
「嫌な夢を見ないことを祈るだけだよ。でも、松輪がいてくれれば見ないかな」
松輪の頭を撫でてやる。身をよじるでもなく、もう即座に受け入れるようになっただけ、松輪は本当に私に懐いてくれているとわかる。子供に嫌われる方が辛いし、これは嬉しいものだ。
「大鷹には後から説明しておく。嫌な夢を見たらどうなるか」
「はい……あまり子供達に見せられない姿になると、萩風さんから少しだけ聞いています。いざという時は私が起こしますから安心してお昼寝してください」
「助かるよ。ホント持つべきものは仲間だね」
結局、その日のお昼寝では悪夢は見ずに済んだ。やはり松輪抱き枕、性能が非常に高い。これを使えば悪夢は一切見ることが無いのでは。
明後日、南方棲戦姫との決戦。それに勝利することで鎮守府としても勢いに乗りたいところ。
それの裏にはまだ太陽の姫がいるのだ。本命に勝利しなくてはいけないのだが、前座に苦戦するわけにはいかない。
南方棲戦姫との決戦の日時が決まりました。あとは戦って勝つだけ。