異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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前夜の緊張

 しーちゃんのおかげでD型異端児を狂わせる匂いを抑え込むことに成功した私、陽炎。それを実現するため、普段の制服が大分様変わりし、ほぼ肌を見せない初月インナーを纏うことになる。

 このインナー、ありがたいことに脚への負担を軽減してくれるという追加の効果もあるため、今後の私の戦法を嬉しいくらいにサポートしてくれていた。今後の戦いにとても役に立つものである。

 

 ただ、着慣れない服なので普段の制服以上に慣れが必要。全身に貼り付いている感覚は今までにない感覚である。今までが半袖にスパッツと脚もさらけ出しているような方針だったため、見た目が大きく変わる。本当に首から下が全て真っ黒。艦娘になる前だってこんな格好したことがない。

 出来ることなら、この状態で一度夕立辺りと演習したいところだが、今はあくまでも明日の決戦に向けての休息時間。ぶっつけ本番は流石にまずいので、午後は訓練にならない程度に身体を動かすことにしよう。海防艦の体育を手伝うとかが妥当か。

 

「ホントだ。匂い全然しないっぽい」

 

 惰眠から起きてきた夕立がすぐに抱きついて匂いを確認してきた。いつもならこのまま押し倒される程の勢いで嗅がれるのだが、今はインナーのおかげで殆どシャットアウト。肌がさらけ出されている首から上の匂いが抑えられていない件は黙っておく。

 磯波で効果はわかっていたが、それ以上に反応していた夕立がこう言うのだから、この効果は完璧と言えるだろう。これで由良さんのような被害者を増やすことは無くなった。

 

「んー、ちょっと物足りないっぽい。でもぱふぱふはそのままだし、すごく触り心地いいし、これはこれで夕立的には癒されるっぽい。匂いがあれば完璧」

「匂いにいい思い出無いから勘弁して。夜寝るときはこれ着ないから、それで我慢してよね」

「じゃあ夕立は夜に堪能しまくりっぽーい」

 

 本当に酷い場合は夜用のインナーも作ってもらう必要があるかもしれない。だが磯波はその状態でも首筋に吸い付くような嗅ぎ方をしてきたので安心は出来ないが。

 

「ん、萩風どした?」

 

 そんな中、萩風は少し俯き気味。先日前向きに生きたいと宣言したものの、早速後ろ向きになりそうになっている。

 さらけ出してもいいと私が伝えたものの、しっかり自制しているので、ストレスが溜まってしまっているのだろうか。

 

「い、いえ……そのですね、後遺症が」

「それはいつものことでしょ」

「普段と違う姉さんを見てですね、すごく、その、想像(妄想)が加速してしまってですね」

 

 事あるごとに小さく震えるのは、つまり()()()()()()なのだろう。駆逐水鬼だったらまず酷いことになっているだろうから、萩風も例外ではない。そのせいで直視出来ないとのこと。

 それを直接口に出せるようになったのは、前向きになった証拠なのかもしれない。ほんの少しだけでも気にしなくなったのなら、今までよりも生きやすくなったのではなかろうか。

 

「が、頑張って慣れます」

「そうしてもらえると助かるかな……」

 

 全員救いたいところだが、マイノリティ側にまで手を伸ばすことが出来ないのが今回の件である。萩風には申し訳ないが、早いところ新しい私には見慣れてもらうしかない。

 

 午後はインナーに慣れるためにちょっとした運動。やってるかなと思って見に行ったら、案の定海防艦の体育が開催されていたため、大鷹に理由を話して参加させてもらった。おかげで半日で今の状態での動きには慣れることが出来た。ついでに脚への負担が軽減されているのも、走り回って実感出来た。

 松輪はさておき、占守と大東にはやたら弄られ、引っ張られたり撫で回されたりしたものの、破れる気配が全く無かったのも良かった。本当にいいものを作ってもらえた。

 

 

 

 その日の夜、あとは寝るだけという状況。つまり、寝て起きたら決戦である。

 

 駆逐水鬼のときは、そういうタイミングも与えられず突発的に襲撃を受け、あれよあれよと決戦という体裁になった。知性を持つレ級との戦いもそうだ。想定外の出現で、なんとか戦闘するに至った。

 しかし、今回はあちらがドッシリと構えているため、どうしてもこちらから向かわなくてはならない。準備を続けてはきたが、それで絶対大丈夫と保証出来ないのが戦争。流れでどうにかなるものでも無い。

 

「ゲロちゃん、緊張してるっぽい?」

 

 勝手に私の膝枕を堪能している夕立に指摘された。多分脚が震えたんだと思う。

 

 そう、私は緊張しているのだ。大きな敵に対して、日程を決めて討伐するということが初めて。今までの戦いは緊張する暇も無かったが、今回は別格である。

 明日の戦いで南方棲戦姫との戦いは決着がつくはず。勝てばあの海域の平和を取り戻せるだろうが、敗ければいろいろと大惨事が起きる。仲間が死ぬかもしれない。私が目覚めてしまうかもしれない。そう考えると、今更ながら緊張してくる。

 

「明日は南方棲戦姫との戦いなわけでしょ。流石に緊張するよ。部隊に選ばれるとも思ってなかったしさ」

「日程決めての戦いは、陽炎ちゃん初めてだもんね……」

 

 磯波や沖波は当たり前だがその辺りは経験済み。夕立も今回が初めてなのだが、性格上そんなことで緊張するほど繊細では無い。

 

「2人はさ、こんな時どうしてた? 緊張で寝られないなんてこともあったりした?」

「私は……初めての時どころか、ずっと緊張してるよ」

 

 磯波がオズオズと話してくれる。古参なのだから、こうやって日程を決めて深海棲艦殲滅任務に出撃することもそれなりに経験している。それこそ、一度や二度では利かないくらいに。その都度、緊張に苛まれて眠れない夜を過ごすことになっていたらしい。その日どれだけ疲れていても、変に目が冴えてしまうと。

 そしてそれは今もだと言う。磯波は明日の決戦には参加する予定。敵が強大であることがわかっているため、怪我を負ってしまうかもしれないし、下手したら命を落としてしまうかもしれないという不安で、どうしても眠れなくなる。

 

「私も磯波ちゃんと同じかな……戦いの前はどうしても緊張するよ。意識しないようにする方が無理だしね」

 

 沖波も似たようなものだと話してくれた。今回の沖波は部隊には組み込まれておらず、万が一の時の鎮守府防衛に就く。いわば、直接戦闘に関わりが無いところでの待機だ。それでも、仲間が失われるかもしれない、もしかしたら自分のところまで敵が来るかもしれないという不安がどうしても尽きない。

 自分だけではなく他人のことでも不安になってしまうのは、この業界ならではの話だろう。生死をかけた戦場に送り出すのは怖い。

 

「ホットミルクとか飲んで、安眠法みたいなのは全部試すかな。今日はみんなと一緒に寝るから少しは安心出来てるし」

「私も……陽炎ちゃんの匂いが戻ってきてるから」

 

 戻ってきているという表現はアレだが、今はあのインナーを身につけていないのでありのまま。夕立だけでなく磯波も距離は近い。

 確かに、周りにみんながいる状態で寝るのは不安が解消される。悪夢に苛まれても起こしてもらえる保証があるというだけでも安心だし、今回のことに関しては、同じ思いをしている者が身を寄り添うという安心感もある。

 

「とりあえずホットミルクの案は採用。気持ちよく寝るためにちょっと食堂行こっか」

「ぽい! おやつっぽい!」

「食べないから。ちょっと飲むだけだから」

 

 それでこの緊張感が取り払えるとは到底思えないが、みんなで一緒に行動するということである程度の安心感が生まれるものだ。決戦前夜の心の安寧のためにも、私はみんなを頼ることにした。

 

 

 

 5人でゾロゾロと食堂に行くと、まだ普通に電気がついていた。時間で考えればもう暗くてもおかしくない時間。私達と同じように、ここで身体を落ち着かせに来た者がいるのかもしれない。

 先客は誰かと確認してみたら、正直意外な人物だった。

 

「え、呉内司令?」

「ん……ああ、お前らか。眠れないのか」

 

 椅子に座ってお酒を飲んでいたのは、支援艦隊の長、呉内司令。それに付き合っているのか、イントレピッドさんも私達の姿を見て手を振ってくれた。

 2人ともいつもの制服というわけではなく寝る前といった感じ。ここで飲み終わったらすぐにでも寝るつもりなのだろう。

 

「貴女達はMinors(未成年)だし、Hot milkでいいかしら。Liquor(お酒)はまだダメだものね」

 

 そう言いながらイントレピッドさんがサクサクと私達の飲み物を作ってくれる。こちらが何も言わずともやってくれる辺り、すごく面倒見がいい。まるでお母さんのような振る舞いである。

 

「夕立はお酒でもいいっぽいよ?」

「ガキが背伸びするんじゃねぇよ。ミルクでも飲んでとっとと寝ろ」

 

 口はあまりよろしくないが、こちらのことを思っての言葉である。嫌味が無い。だからか、夕立も反抗的な態度を取ることなく素直に従う。

 

「呉内司令も眠れないの?」

「まぁ……そんなところだ。明日はデカい戦いだろう。その前の夜ってのは、嫌でも目が冴えちまう」

 

 歴戦の猛者でも、決戦前夜は緊張すると話してくれる。今回もそうだし、うちの空城司令だってそうだが、司令官というのは私達の命をその手に置いて、作戦指揮だけして後ろから見守る者。指示のミス一つで艦娘が沈むことだってあり得るので、責任感も私達以上に大きい。それが上に立つ者。

 だからここで少しのアルコールを入れているらしい。程よく使えば気持ちよく眠れるとのこと。未成年の私達には無縁な話ではある。

 

「お前らもか」

「うん……やっぱり命を張りに行くのは怖いよ。艦娘なのにね。命を張るのが仕事だってのに」

「んなことは無いだろ。むしろその緊張感は大切にしておけ。怖がってる奴の方が長生き出来るからな」

 

 呉内司令も勝ち負けより生き死にを大切にする人のようだ。だからここまでの実力を持っているのだろうし、部下がついてきてくれる。支援艦隊の誰もが、この呉内司令を信頼しているように見えた。

 

「人間誰だって死にたくは無いんだ。むしろこれで緊張しない奴は何処かおかしい」

「あれ、夕立ディスられてるっぽい?」

「お前、緊張してないのか。だったら何処かおかしいな。死に急ぐなよ」

 

 夕立にここまでハッキリ言ってくれる人も珍しいので、呉内司令はそれだけでも信用に値した。

 

「はい、Hot milkよ。これで温まって、グッスリ眠ってね」

 

 話しているうちに準備が出来たようで、イントレピッドさんが人数分のホットミルクを持ってきてくれた。

 ちょっと熱くてすぐには飲めなかったが、ちびちびと飲んでいくと身体がポカポカと温まる感覚が広がる。

 

「イントレピッドさんも緊張とかするの?」

「勿論。私だって不安で仕方ないもの。制空権取れなかったらどうしようーってね。明日は特に危険なEnemyなんだから。私もLiqueur(お酒)に逃げちゃったわ」

「お前はいつも俺に付き合ってくれるからな」

 

 そういう形ででもよく眠れる手段を持っているのは悪いことではないと追加する。不安は誰にだってあるのだから。

 

「そう考えると、ネルソンやプリンツは豪胆だな。不安があってもすぐに寝ちまう」

「そうねー。ネルソンは体調が万全で無ければNelson Touchが上手くいかないってもう寝ちゃってるものね。プリンツは……まぁちょっと抜けてるところあるし、不安があってもグッスリかナ?」

 

 何というかその辺りは少し予想通りである。特にネルソンさん。あの人には怖いものがないように思えた。決死の戦場に向かう前夜でも、一切関係無しに爆睡してそうな雰囲気。

 

「何だっけ、プリンツに仕込まれて、ネルソンも冗談みたいなこと言ってたわよね」

「……ああ、あれはやめろって言ったんだがな。『今日はもう寝るそん』っつって部屋に戻っていった」

 

 磯波破裂。あのネルソンさんがそういうことを言ったという事実で上乗せされている。ミルクを口に含んでいない時で本当によかった。崩れ落ちた後、ずっと震える羽目に。

 

 

 

 そこからは軽く雑談してから、程よく眠くなったところで部屋に戻って就寝。緊張感が無くなったわけではないのだが、それでも眠れないということは無くなった。

 呉内司令のおかげで、少し心が落ち着いたように思える。おかげで、悪夢も見ることなく翌朝に行くことが出来た。万全な態勢で戦いに赴くことが出来そうだ。

 




そろそろバレてるとは思いますが、今回の人間キャラの名前の法則は、苗字が某有名映画タイトル、名前がその映画の主人公声優の名前になっています。
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