異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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鬨の声

 決戦の日の朝。スッキリとした目覚め。だが、今から私、陽炎は、苛烈な戦場に向かう。駆逐水鬼からの襲撃や、知性を持つレ級からの撤退戦とはまた違った、南方棲戦姫が待ち構える巣に対しての攻撃である。今までに無かった、()()()()()()()()という任務。何事もなく終わらせたいところだ。

 

「っし」

 

 昨日から与えられたオカルト仕様の初月インナーを着込む。指先までしっかりと入れ、首から下が全て黒く染まったかのようになった。程よい締め付けで気も引き締まる。これで匂いは失われて、かつ負担が大きい脚のサポートもしてくれる。これからの戦いで自分の力を十全に発揮出来るようにしてくれる最高の装備だ。

 昨日のうちにこれの使い心地はしっかり身につけた。海の上に出るのはぶっつけ本番になってしまうが、身動きに支障が出ることは無いため、今までと同じ、むしろ今まで以上に動けるだろう。

 

「気合充分っぽい! ゲロちゃん、今日はコンビでやるっぽい!」

「だね。基本は2人で動いた方がいいかもしれないね」

 

 今日ばかりは夕立も目覚めがいい。今日の決戦に対し、自分で言うように気合充分である。さすが戦闘狂、緊張感すら感じさせずにいつも以上に元気いっぱい。

 私と夕立は第一艦隊、南方棲戦姫との直接対決の方だ。南方棲戦姫の堅牢な装甲をぶち抜けるとは正直思えないが、夕立とならあの力業な砲撃を掻い潜って本体を狙うことも無茶では無いだろう。

 

「私は援護を頑張るね。多分、対潜とかを受け持つと思うから」

 

 磯波は露払い担当の第二艦隊。私達が南方棲戦姫と戦う最中に邪魔が入らないようにしてくれる部隊だ。その援護があってこそ、私達は何も気にせず戦えるようになる。磯波達の戦いにも期待する。

 

「私と萩風ちゃんは鎮守府防衛だね」

「わ、私は防衛出来るほどまだ力がありませんが……」

 

 そして沖波と萩風は今回お留守番。万が一のために鎮守府で準備を整えておく。待っている者がいるのなら、より気合を入れて戦いに向かえるというもの。2人の存在も、私達の後押しになる。

 

 さぁ、戦いの時間だ。次にここに戻ってくる時は、勝利してからだ。笑顔での帰投を望み、私達は決戦に向かおう。

 

 

 

 朝食をしっかり食べた後、工廠にて最後の準備。艤装も昨日の休息の間にガッツリ整備されていたようで、ピッカピカに磨かれていた。何もかもが最高最善にチューンされ、ミスは一つも無い完璧な状態に仕上げられている。整備班の人達も全力を出してくれていた。

 今回の私の武装は、今までで一番使ってきている主砲2基と魚雷1基の組み合わせ。最も慣れ親しんだスタイルが、今回の戦場では一番役に立つ。魚雷なら装甲を破壊出来る可能性もあるので、使わない理由は無い。

 

 いつになく緊張感が漂う工廠だ。騒がしさも少し違う。少しだけピリピリしているような、それでいて活力が満ち溢れているような、そんな雰囲気。

 

「みんな、準備は出来たかい」

 

 空城司令の声がしたことで、一気に静まり返る。全員の準備が整ったことで、いよいよ出撃の時が迫っていた。

 

「これでまだ前座ってのが辛いところだが、ここで勝てなきゃ太陽の姫にゃ勝つことは出来ないからね。気合入れて行きな」

「俺達も心配はしてないからな。お前らならやれると思って今回の部隊を決めたんだ。キッチリ勝って、しっかり帰ってこい」

 

 2人して割と簡単に滅茶苦茶言っている気がするのだが、私達のことを信頼しているところから出ている言葉だ。緊張感はどうしても高まるものの、やる気は漲る。司令2人共々、自信を持って私達を送り出すのだ。その期待に応えなければ、艦娘では無い。

 

「陸奥、第一艦隊旗艦、頼んだよ。いざとなればアンタが全部決めな」

「ええ、指揮権は私が貰ってるんだもの、一番いい手段を選ぶわ。作戦は『いのちだいじに』でいいわよね?」

「ああ、それでいい。生きて帰ってくるのがアンタ達の最優先事項だ」

 

 あくまでも死なないことを優先する。これは常々言われていることだ。死ななきゃまたやれる。勝つ戦いより負けない戦い。これまでの艦娘生活の中で、私にもしっかりと刻み込まれている心得となった。

 

「隼鷹も頼んだよ。露払いは考えることが多いが、アンタなら出来るね?」

「あたぼーよ。陸奥達の邪魔は誰にもさせないからさ、任せなって」

 

 あちらの部隊も勿論、信念は同じ。露払いなんて、もしかしたら第一艦隊よりも危険な戦いになるかもしれないのだから、より慎重に行かなくては。

 

「ネルソン、旗艦はいつも通りお前だ。相手はわかっているな」

「勿論だ。我々のEnemyはレキュー。何体いようが、余のNelson Touchでウミノモズクにしてやろう」

「藻屑な」

 

 このやりとりで磯波がまたもや破裂。ネルソンタッチがまず磯波の腹筋をえぐる。決戦前にこんなでいいのか。いや、だがこれで緊張感が抜けるのならいいか。

 

 程良く緊張感が抜けたところで時間となった。ついに出撃の時。

 

「よし、じゃあ行ってきな」

「了解。期待して待っていて頂戴ね」

 

 ニコッと笑って海の方を向く。陸奥さんのそれに合わせて部隊の全員が同じように海の方へ。

 

「戦艦陸奥、抜錨! 出撃します!」

「よーし、隼鷹さんも出撃しちゃうよー! 抜錨!」

「支援艦隊旗艦Nelson、出撃するぞ! 各艦、遅れるな!」

 

 三者三様に宣言し、そして一気に海に出る。随伴艦の私達も、それを追うように駆け出した。

 ここから先は戦場。どんなタイミングでも気が抜けない、命の遣り取りをする場だ。

 

 

 

 海を駆けて、それなりの時間が経過。そろそろ領海の端に辿り着く。私が含まれる第一艦隊が先頭で、その後ろに第二艦隊。私達の横に支援艦隊が隣り合っている状況で常に進んできたが、ここまで何も妨害無し。野良の深海棲艦すら出ず、全く消耗無くここまで来ることができた。

 しかし、南方棲戦姫の巣は明確な位置がまだわからない。領海の外の、それなりに離れた場所にあることくらいはわかるのだが、それが何処なのかは、調査部隊が出向している時でも判明しなかった。

 

「ここからは慎重に行くわ」

 

 陸奥さんが指示した瞬間、また私は強烈な視線を感じ取った。これで三度目になる、太陽の姫からの視線である。私がここまで来たことを察知したか、また私にもわかる範囲で見つめてきていた。

 相変わらず何処にいるかは皆目見当がつかない。しかし、見られているという感覚は拭い去れないもの。

 

「見られてる。前にここに来た時と同じ」

「了解。隼鷹、哨戒機をお願い」

「あいよ。前はこの辺りでレ級を見つけたんだよな」

 

 陸奥さんの指示で隼鷹さんが艦載機を飛ばす。確かにこの辺りは知性を持つレ級からの襲撃を受けた場所だ。

 

「アクィラ、鷲の目も出そう」

「そうね〜。じゃあ、アクィラ艦載機隊行っちゃって〜」

 

 ここでアクィラさんからも哨戒機発艦。数としては隼鷹さんより少ないくらいではあるが、より高高度での全体監視。隼鷹さんのものが先に哨戒範囲の端にまで辿り着く分、全体的な視野を拡げているのがアクィラさん。

 今までは演習で敵としての相手だったが、今回は鷲の目も味方。戦いの前段階から心強いものである。

 

「巣のおおよその位置って見当ついてるんだっけか」

「ううん、まだ何処かもわかってないわね。だから、前のレ級の発見地点と方位からある程度計算しつつで向かうわ。霧ちゃん、計算出来る?」

「前の諜報部隊の件と、現在地からするに……まだまだ向こう側ね。水平線より向こう」

 

 計算上ではあるが、巣まではまだまだ遠い。巣の位置がバレないように先制を取ろうとしてきていたとも考えられるが、こういうところが面倒。

 

「進みながら巣を探すわ。あちらもそうでもしたら炙り出されるでしょう。ボスを倒しちゃえば後は楽なものだし、それでいいわよね」

 

 全員異論無し。手っ取り早い方がいい。それに、どうせ南方棲戦姫との戦いは避けられないのだ。こちらが向かうことで誘き出した方が幾分か楽。その分危険度も上がりはするが、今日は仲間が多い。不安は少ないと言える。

 

 今までとは打って変わってゆっくりとした航行。領海の外に出たことでより慎重に。緊張感はついて回るが、早く終わらせたいという気持ちも無いわけではなかった。太陽の姫の視線もまだ感じ続けているし、それを早く払拭したい。

 

「焦っちゃダメだよ〜」

 

 そんな私の気持ちを読み取ったかのように、阿賀野さんが頭を撫でてきた。インナーのおかげで突然抱きついてくるようなことはないものの、阿賀野さんだってD型異端児。匂いに惹かれるのは無理もないこと。

 

「そうだぞ陽炎。適度にサボるんだよ適度に」

 

 まだイケメンのモードに入っていない加古さんにまで言われてしまった。やはり何処か気が急いていたのかもしれない。戦闘中ではないので、こういう時こそしっかり深呼吸。

 

「だよね、うん、焦らずちょっとサボるくらいでないと」

「そうだぞー。あたしなんて今でもダラダラしてんだから。戦いの時だけ気を引き締めるくらいがちょうどいいんだって」

「わかるわかる〜。阿賀野もそんな感じだよぉ」

 

 それくらい力を抜く方がいざ戦闘となったときに最大の力が発揮出来るのかもしれない。

 

「っと、じゃあそのサボりはもうおしまいな。哨戒機が何か見つけたぜ」

 

 なんて話している内に隼鷹さんの緊張走る言葉。このタイミングで何かを発見したとなれば、それはもう答えが出ているようなもの。

 

「こちらの視界にも入ったわ。でも、うーん、これは困ったわねぇ」

「だよな。こりゃあ困った」

 

 アクィラさんの鷲の目にもその何かが入ったようだ。しかし、その言葉からして結構まずい様子。

 

「敵部隊、こちらに向かってきてるわ。向かってきてるんだけど……ちゃんと言った方がいい?」

「当然だ。勿体ぶらずに言え」

 

 困ったような笑みを浮かべたアクィラさんが敵部隊の詳細を話す。

 

「南方棲戦姫と、レ級2体」

 

 レ級2体の時点で誰もがうわぁって顔した。私もそうだった。最悪な予想というのは得てして当たるものである。そのどちらもが知性を持つレ級である可能性は高い。

 

「あと軽巡のツ級だったかしら。あの空母キラー」

「アトランタの真似事をする奴か」

「あんなのと一緒にしないで」

 

 アトランタさんが文句を言うが、こちらとしては戦々恐々である。アトランタさんの真似事ということは、空母が機能しなくなるレベルでの対空砲火が飛んでくるということ。ただでさえレ級2体となると艦載機の数がとんでもないのに、それと拮抗するための材料を撃ち墜とされるとなるともう笑えない。

 

「後はいろんなのがそれなりって感じかな。戦艦から駆逐艦まで取り揃えてんな。滅茶苦茶な数ってわけじゃないが、露払いだけでなんとかなるのかありゃあ」

「何とかするんだろ。それだけ俺達は用意してきてんだ」

 

 第二艦隊だけでどうにか出来る数かどうかは不明ではあるが、やるしかないというのもある。こちらもかなり人数を揃えてきたが、それでもあちらの方が圧倒的に数が多い。巣に近いというのはそういうところもある。

 だからこそ南方棲戦姫はここで待ち構えていたのかもしれない。わざわざ襲撃せずとも、本来の目的はドッシリ構えてこちらを監視すること。動こうが動くまいが、目的は達成出来る。

 

 水平線の向こうに敵部隊が見えてきた。埋め尽くすとかそういうものでは無かったが、遠目でも威圧感が凄かった。特にその部隊の真ん中。久しぶりに見るあの痴女と、つい先日見たレ級が2体。あの3体だけでも苦戦しそうなのが辛い。

 そのレ級の尻尾が空に向かって伸ばされたかと思うと、その口から止め処なく艦載機が吐き出された。

 

「ピッド、攻撃隊!」

「OK! Intrepid squadron, attack!」

 

 イントレピッドさんも対抗するように発艦。それだけではレ級2体分の艦載機には追いつかないものの、制空権争いに圧倒的な敗北というわけでは無くなる。そこに隼鷹さんとアクィラさんも哨戒機から攻撃隊に変更して発艦させたため、より拮抗に向かう。

 しかし、先程アクィラさんが言っていたツ級が対空砲火を始めたことにより、次々とこちら側の艦載機が撃墜されていった。アトランタさんの真似事というのも理解出来てしまう。

 

「アト、対空砲火お願いね!」

「了解。ハツ、アンタも来な」

「了解だ。僕はこちらの露払いを先決する!」

 

 防空班としてのアトランタさんと初月が早速対空砲火を開始。これを抑え込むことが出来れば、ある程度は戦いやすくなるはずだ。だが、結果的にこれで何とか拮抗と言えるほどに。既にこちらは5人出しているようなもの。

 

「それじゃあ行くわよ。ここで決着をつけるわ!」

 

 陸奥さんの鬨の声と共に、一斉に突撃。砲撃を交えつつ、先制攻撃を放つ。だが、そう簡単には当たらないのがあの痴女の強さ。余裕そうな顔でこちらを眺めている。

 

「久シブリニシテハ、イイゴ挨拶ジャナイカ。ムツ、ダッタカシラ?」

「名前、覚えていてくれたのね。嬉しいわ」

「興味ハ無イケレド、セッカク名乗ッテクレタンダモノ。記憶ノ片隅ニクライハ置イテオイテアゲタワヨ。チャントココデ殺シテアゲル。ソシテ、我ガ姫ノタメニ、陽炎ヲ目覚メサセルワ」

 

 

 

 もうここからは命の遣り取り。生きるか死ぬかの戦場だ。

 




痴女との戦い開始。最初は厨二要素抑えめ。
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