異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
南方棲戦姫と2度目の戦いが始まった。1度目は準備不足、というか諜報部隊との調査中に現れてしまったので撤退する羽目になったが、今回は違う。最初から準備万端整えてきた状態からのスタートだ。あちらの戦力が前以上であろうと、その辺りも考慮して部隊が組み上げられている。私、陽炎もその一員として参加していた。
それに対するあちらの部隊も、困ったことに前回よりも強化された部隊である。レ級が2体も存在し、さらには空母対策か対空砲火が強力な軽巡ツ級もいるというかなり厳しい状況。
航空戦は対空砲火も込みでギリギリ互角。これにより私達は陸奥さんを先頭に南方棲戦姫に突撃する。先制攻撃を狙った初撃は残念ながら回避されてしまったが、こちらの勢いは止まらない。
「霧ちゃん、早速行くわ」
「了解。一斉射ね」
突撃の勢いそのまま、陸奥さんと霧島さんが主砲を全て南方棲戦姫に向けた。知性を持つレ級も、一撃で粉砕した合体技、一斉射。身体への負担は大きいが、最初から惜しみなく使っていくようだ。
「私ノ前ニ、コノ子達ヲ相手シテチョウダイ。我ガ軍勢、精鋭モ精鋭ヨ。行キナサイ」
しかし、それも見越したかのように不敵な笑みを浮かべた南方棲戦姫が少し下がると、即座に壁になるかのようにレ級2体が前に躍り出た。航空戦をしているはずなのに、一度発艦したからお構いなしに動き回ってくる。
「ヒヒヒ、来タナ」
「姫様ノ言ッテイタ通リダ」
前回のレ級より、話し方が片言ではなく少しだけ流暢になっている。ということは、さらに知性が高くなっていると考えた方がいいかもしれない。
まるで双子のように、全く同じ動きで現れたかと思ったら、鏡写しのように尻尾を構える。蛇のような頭はどちらも陸奥さんの方を向き、明らかに一斉射を止めてやるという魂胆が見え見え。
「陽炎ダケ生カセバイイ」
「陽炎以外ハ殺シテイイ」
そして乱射。冗談のような威力の戦艦主砲による砲撃が、2体同時に撒き散らされる。あんなことを言いながら、私にだって普通に当たるような砲撃の嵐だ。自分達の前方にいるのなら見境無しという滅茶苦茶さ。さすがにこれを受けては一斉射はキャンセルせざるを得ない。
南方棲戦姫含む敵艦がレ級の後ろ側にいるため、同士討ちなんていう一番残念な決着なんてことは無いのだが、あまりに容赦なさすぎてあちらも前に出づらくなっている。だからだろう、敵艦も一斉に砲撃を始めた。南方棲戦姫はその攻撃に参加せずニヤニヤしながらこちらを眺めているが、おそらくこの砲撃を抜けたものを狙い撃つつもりなのだろう。
幸いなことに密度はそこまで無いため回避は出来るのだが、近付くことは簡単には出来ないような砲撃速度。しかも撃ち続けて止まらない。今は撃っているだけかもしれないが、突然違う動きをする可能性も残っているのだから油断ならない。
「アクィラ、隙はあるな!」
「勿論。威力はあるけど、使ってる子がちょっとおバカさんみたいだから、タッチの隙はあるわ。でも、ちょっと露払いしてもらった方がいいと思うの!」
さすがアクィラさん。こんな悲惨な状況でもしっかり上から全てを見ていた。
攻撃しない視界のみを意識したアクィラさんの鷲の目は、レ級の艦載機とツ級の対空砲火を掻い潜り、
「露払い頼んだよ! あたしゃ制空権争いで忙しいからね!」
今度は隼鷹さんが叫び、第二艦隊が一斉に動き出す。敵はまだまだいるのだから、ここから動いてもらわなくては出来ることも出来ない。
既に第二艦隊の内の2人は制空権争いに駆り出されてしまっているが、残り4人はまだまだフリー。今のところ海上にしか敵艦は見えないため、効かない攻撃は無い。そうなれば、最も火力が出るのは魚雷。
いの一番に駆け出したのは、やはり木曾さんだった。雷撃のスペシャリストは、ここで一番槍を務める。
「デカいのから潰す! ガサさんも頼む!」
「はーい! まずは戦艦からね!」
レ級の流れ弾はあちらにも飛んでいってしまっているのだが、私達よりは若干遠いところにいたおかげでより避けやすい状態にはなっている。
そこですかさず雷撃を開始。連射をするのはいいが、海中にまで気は回らないだろう。結果、雷撃は現状最も適した攻撃になった。衣笠さんも魚雷は1基装備してきているため、木曾さんの補助をするように雷撃を被せた。
おかげで敵戦艦は一撃で致命傷を受けて消滅。1本でも戦艦主砲に匹敵する火力を発揮する魚雷なのだから、いくら戦艦とはいえひとたまりも無い。
「っし、1体撃破! どんどん行くぞ!」
「主砲も入れてくよ!」
木曾さんはそのまま雷撃を続け、衣笠さんは主砲による砲撃も織り交ぜ、小型な敵を着実に減らしていった。
「よし、私は……狙えるかな! やってみよう!」
砲撃を掻い潜りながら少しだけ敵艦隊に近付いていたのは五月雨。予想外な行動を取る夕立と違う、長い時間で培われた回避性能は駆逐艦随一。レ級の無差別砲撃などお構いなしに突っ込む。
狙いは敵艦隊の中でも今一番厄介なところにいるもの、ツ級である。南方棲戦姫やレ級を直接狙わないところが五月雨らしい。ここでツ級が抜ければ、制空権争いが有利になる。
「そこっ! たぁーっ!」
ツ級は完全に対空砲火に専念しているため、五月雨の砲撃は見えていない。つまり、回避が疎かということだ。
しかし、周りの敵駆逐艦が身を挺してツ級を守ってしまう。それだけ今回の戦いの対空砲火が重要だと認識しているようだ。しかもその駆逐艦が思ったより硬く、五月雨の一撃を耐えた。
「多分周り全部倒さないと、対空砲火終わらないですぅ!」
「五月雨も俺達に加わってくれ! 磯波、そっちは!」
「現状潜水艦はいません! 私もなるべくそちらに加わります!」
磯波は対潜装備での参戦。以前に潜水艦が現れたこともあったので、今回もそれがある可能性を見ていた。今の段階ではそれを逆手に取られてしまっているが、戦闘中に現れる可能性だってあるのだから、随時ソナーで海中の反応を調査し続けている。
いない時は手が空くかと言われればそうではなく、爆雷を駆逐艦に直撃させるなどして牽制していた。海中で爆発して潜水艦が一撃で葬れる程の威力なのだから、海上の艦にもそれなりのダメージが与えられるはず。
「今!」
「了解だ。皆の者、準備はいいな!」
この露払いのおかげで、多少弾幕が緩くなった。アクィラさんが合図を出す頃には艤装の変形を終えていたネルソンさんが、未だに乱射を続けるレ級2体に狙いを定めた。ネルソンタッチの随伴艦は、勿論サウスダコタさんとプリンツさん。
「Nelson Touch! 主砲、1番! 2番! 行くぞ!」
「任せろ! キリシマ、ちゃんと私の活躍、ちゃんと見てろよ!」
「行っきますよぉ! Feuer! Feuer!」
敵随伴艦の砲撃がある程度止み、レ級の砲撃の隙間を突いた渾身の突撃。その勢いも然ることながら、そのタイミングを導き出したアクィラさんの手腕も光る。
「ヒヒヒ!」
「突撃シテキタ!」
「狙イ撃ツ、狙イ撃ツ!」
それをしっかりと見据えてきたのがレ級である。連射をこの瞬間だけ止め、2体同時に尻尾をネルソンさんに向けた。
ネルソンさん自体も激しい砲撃をしながらの突撃であり、その後ろからサウスダコタさんとプリンツさんが同じように前方へ砲撃しながらの追従。一直線上に並んでいるのだから、ネルソンさんを狙った砲撃は基本的には誰かに当たる。
しかし、そこはネルソンさん達の練度がモノを言う。陸奥さんと霧島さんの猛攻すら掻い潜りながらの突撃が出来たのだから、横槍さえ入らなければ当たり前のように突っ込んでしまうのがネルソンタッチ。
「貴様らには
レ級2体がかりの砲撃もなんのその、ほぼ無傷で潜り抜けたネルソンさんはさらに距離を詰める。
本来ならここで敵の部隊を二分して各個撃破と行くのだが、今回はそれでもない。2体の内の片方に向けて、一切のブレーキを踏まずに突撃し、前方に突出するように変形した艤装を
「続け!」
「おうよ!」
「追撃しまーす!」
そこにすかさずサウスダコタさんとプリンツさんが集中砲火。あまりにも滅茶苦茶すぎて、直撃を受けたレ級は何も出来ずにその砲撃を受け、悲鳴すら上げることなく爆散。
本来分断に使う突撃の火力を、一点集中させてぶち込む真のネルソンタッチ。分断したのは部隊ではなく
あまりのことにもう片方のレ級は顔が引き攣ったようにも見えた。知性を持つということは、本能的な動きに自分の考えが混ざり込んでしまい、想定外を突きつけられた瞬間に思考がバグってしまうこともあり得る。それがたった今引き起こされた。
誰だってあんなことを目の前でやられれば動きが止まる。あの南方棲戦姫も、このネルソンタッチを見たら目を見開いていた。これが知性を持った弊害だ。手を加えていないレ級ならこんなことにならなかっただろう。
「何ボーッとしてるっぽい?」
その隙を見逃すはずもなく、もう片方のレ級には夕立が迫撃していた。猛烈な砲撃が一時的に止んだことで、ある程度好き勝手動けるようになった。
「ヒ、ヒヒヒヒヒ! スゴイナ、オ前ラ。面白イ、面白イ!」
しかし、今ので接近されることがまずいと
一番近くにいたネルソンさん達も流石に魚雷はまずいと回避行動に移った。プリンツさん先導で魚雷を撃ち抜きつつ、すぐに駆け抜けてその間合いの外へ。
「もう片方も余が沈めてやろう。ムツよ、道は拓いたぞ!」
「ええ、ありがと! みんな、行くわよ!」
残り1体なら支援艦隊が引き付けてくれるだろう。この隙にレ級を任せて南方棲戦姫に突撃。
これで第一艦隊は南方棲戦姫1体に集中出来るようになる。流れ弾などは気を付けなければならないが、少なくとも今までより戦況は良くなったと言えるだろう。
「フフ、ソレハ予想外ダッタワ。面白イ仲間ヲ連レテキタノネ」
「でしょう。私も驚いてるわ」
改めて面と向かい合う陸奥さんと南方棲戦姫。レ級2体という強烈すぎる壁があったため、ある程度余裕があったのだと思うが、いきなりこの場を作られたことで笑顔が消えていく。
「陽炎、マダ目覚メテイナイノ? トイウカ、随分ト様変ワリシタヨウネ。似合ッテイルトハ思ウワ」
「私は目覚めないよ。このままで太陽の姫も沈める」
「ソレハ無理ネ。我ガ姫ハ、
それは痛いほど理解している。分霊なんてことをしでかすくらいだし、今でも奴の視線は感じ続けている。まるでこの戦いでの私の結末を見届けようとしている視線だ。
やっていることがいちいち神様のような行動。姿形も他の深海棲艦とは一線を画しているし、外側にいると言われても納得せざるを得ない。
「ソノ太陽ノ姫ニ見初メラレタコトヲ、何故光栄ニ思ワナイノカシラ。太陽ノ巫女ニシテ、神ノ現シ身。日天ノ前ヲ疾ル陽炎」
「勝手に見初めておいて何言ってんの。こっちのことも考えてよ」
「神トハソウイウモノヨ。貴女モイズレワカルワ。背徳ト従順ノ悦楽、心地ヨサノ中デ、貴女ハ我ガ姫ニ感謝スルデショウ。
やはり、南方棲戦姫も元々は人間だ。私や萩風のように太陽の姫に姿と心を変えられ、今に至っているわけだ。
ならば助けなければならない。萩風のように。
「御託はいいかしら。一応アンタの話に付き合ってあげたけど」
「エエ、別ニ今スグニデモ陽炎ヲ目覚メサセルコトハ出来ルノダケド、ヤッパリ自力デナッテホシイモノ。貴女達ノ血肉ヲ以ッテ、太陽ノ巫女生誕ノ生贄トシテアゲルワ!」
南方棲戦姫の背中側の艤装も迫り上がり、完全な攻撃態勢に移行した。
ここからが本当の戦いだ。周りは仲間達が抑え込んでくれている。私達は南方棲戦姫に集中しよう。
南方棲戦姫本領発揮。