異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
南方棲戦姫との戦い。レ級2体の内1体は、ネルソンさん率いる支援艦隊の荒技、ネルソンタッチにより粉砕し、2体目の撃破に移っていた。敵随伴艦も第二艦隊が引き付けつつ、こちらに被害が及ばないように抑え込んでくれている。私、陽炎が属する第一艦隊は、今回の撃破対象である南方棲戦姫と向かい合う
「別ニ今スグニデモ陽炎ヲ目覚メサセルコトハ出来ルノダケド、ヤッパリ自力デナッテホシイモノ。貴女達ノ血肉ヲ以ッテ、太陽ノ巫女生誕ノ生贄トシテアゲルワ!」
南方棲戦姫の背中側の艤装も迫り上がり、完全な攻撃態勢に移行した。両腕に接続されている主砲だけでも普通の戦艦以上の威力を誇るのに、それが両腕と背中で合わせて4基というとんでもないスペック。それを殆ど無反動で振り回し、殴り付けるような砲撃により強烈な弾幕を張ってくる。
「陽炎、太陽ノ巫女、貴女ハコチラニ来ナサイ」
「お断りだっつーの。しつこい女は嫌われるよ」
「貴女ハ逃レラレナイノ。見初メラレタ時点デ」
この期に及んでまだ私を勧誘してこようとしてくる。私は絶対に目覚めない。奴は今すぐにでも目覚めさせることが出来ると言っているが、それをしてこない時点で私はまだ前に進める。自力で目覚めるなんて絶対にしてやるものか。
「もう能書きはいいわ。ここで確実に仕留めるから覚悟しなさい」
最初の砲撃はやはり陸奥さんからである。先頭にいたし、因縁をつけているのだから、一番ここで決着をつけたいと思っているのは間違いなく陸奥さん。火力の差は歴然としているが、こちらには人数差がある。立ち向かうのも無茶では無くなった。
「ムツ、貴女ヲ生贄ニシマショウカ」
その砲撃を紙一重で回避した後、腕の艤装で弾き飛ばす。前回もそうだったが、あまりにもいい加減な装甲の強度である。掠ったところも、傷一つ付いていない。
萩風には申し訳ないが、南方棲戦姫は駆逐水鬼と比べると完全に別格だった。私をあらゆる方向から監視したかったとしても、力量があまりに違いすぎる。戦艦と駆逐艦という違いもあるとは思うが、それでも異常だ。
「巫女ノ贄トナレルナンテ光栄ナコトヨ。ソノ死スラ糧ニナルンダモノ。無駄死ニデハ無イワ」
「私が死ぬ前提で話を進めるのやめてくれる?」
「何故勝テルト思ウノカシラ。太陽ノ姫ノ加護ヲ得タ私ニ!」
両腕による砲撃が陸奥さんを襲うが、まだ距離があるおかげで回避は可能。しかし、あんなものは掠るだけでも致命傷になりかねない。直撃なんて以ての外だ。
「うっへぇ、酷い火力だな」
「とりあえず、撃ち続けてみる〜?」
「だな。あたしも同じところ狙うから、やっちまえ!」
そんな砲撃の中でも、自分のスタイルを崩さないのは加古さんと阿賀野さんである。撃たないよりは撃った方があちらの行動を縛れるだろうと、回避しながらもガンガン撃ち続けた。それが艤装に阻まれようともだ。
いくら強固すぎる艤装と言えども、砲撃を受け続ければいつかは貫くはずだ。阿賀野さんは無反動での連射が出来る唯一の仲間。同じところに撃ち続けるのもお手の物だ。そこに加古さんの砲撃を噛ませることで、より艤装破壊を狙える。
「ぽい! ゲロちゃん夕立達は前進!」
「そうなるか。そうなるね! やったらぁ!」
私と夕立の駆逐艦組は、この砲撃を掻い潜っての突撃を選択。小柄で小回りが利くことを活かした接近により、生身に直接砲撃を当てることを狙う。艤装は強固でも、生身は艦娘と同じで少し頑丈という程度だろう。なら、私達でも倒せるチャンスは十分にある。
「なら、私達は」
「決まってるわ。一斉射よ!」
「タイミングは私が計るわ。陸奥、準備だけはきっちりとね」
そして陸奥さんと霧島さんは一斉射の準備。私達が近付こうとしているので少し邪魔をしてしまいかねないのだが、そこは何とかしてくれると勝手に信じて。それに、一斉射があれば私達がより近付きやすくなるはずなので、もう互いに自由に撃ち続けることを選択した。
今は南方棲戦姫のふざけた砲撃を止めない限りはどうにもならない。ただでさえ腕と背中の主砲が別々に狙いを定めることが出来てしまうため、2人3組3方向からの攻撃くらいでは全てに対応出来てしまっている。
「艦娘ハ貧弱ヨネ。ソノ程度デハ我ガ姫ノ足元ニモ及バナイ。前座ノ私ニスラ手ガ届カナインダモノ」
「嘗めていられるのも今のうちよ。みんな鍛え上げてきたんだもの。何も変わらないアンタにはわからないでしょうね」
陸奥さんと霧島さんの砲撃は回避し、加古さんと阿賀野さんの砲撃は艤装で弾き、私と夕立の接近は砲撃により潰す。6人がかりでもまだ届いていないのは確かだ。
しかし、こちらも無傷。誰1人として屈することなく、仕掛けるタイミングを計っている。1つ崩すことが出来れば、そのまま猛攻を繰り出すことが出来るだろう。
一方その頃、支援艦隊。2体のレ級の内、1体を真のネルソンタッチにより粉砕したことで、次の2体目を南方棲戦姫から引き剥がすことに成功していた。おかげで第一艦隊は余計なことを考えずに戦うことが出来る。
「ヒヒヒ、ヨクモヤッタナ。ヨクモ、キヒヒハハハ!」
相方がやられたというのに笑顔を絶やさず、むしろ余計に狂った声を上げる。知性が高くなっているようにも見えたが、やることはそんなに変わらない本能のままのばら撒き。
だが、やはり奴は
「ほう、ただ突っ込んでくるばかりの
「笑っていられないだろ。賢いレキューとか厄介だぞ」
豪快に笑い飛ばすネルソンさんに対し、ツッコミを入れるサウスダコタさん。
この状況で笑っていられる豪胆さは見習うべきところかもしれない。切羽詰まった戦場でも、心に余裕を持ち、緊張感すらも感じさせずに立ち向かうことが出来るのは、一種の才能にすら見えた。
「Ah、大分良くなったわ。
1体いなくなったことで制空権争いに向かってくる艦載機がガツッと減ったようで、イントレピッドさんに若干余裕が出来たらしい。
「そうね、半分くらい持っていっちゃって大丈夫かしら」
「Okay! Squadron, attack!」
アクィラさんからの許可が出たところで、空で戦う艦載機の一部が残ったレ級に向かって急降下を始める。明らかに爆撃目的。命中率を極限にまで高めた渾身の空爆。
レ級自身が間合いを取ってくれたおかげで、何の気兼ねなくくりだせるようである。あまり激しいと仲間まで被害を被るのが範囲攻撃だし。
「お、いいねぇ。あたしもやろうかね」
制空権争いに参加している隼鷹さんも一部をそれに追従させる。1体に対しての空爆では無いのだが、それくらいしなくてはまずいと思える程の力を秘めているのがレ級だ。出来ることなら艦載機全てで嗾けたいくらいである。
「ヒヒ!」
それに対し、真上に向かって砲撃。戦艦主砲を対空砲火として扱う荒技も荒技。当然反動は凄まじく、レ級自身も海面にめり込むかのように脚が沈む。それで何も異常が無いのだから、深海棲艦のスペックは凄まじい。
「ホント滅茶苦茶! でも、今は撃たれないよね!」
尻尾が真上に向いている上に、脚が少し沈んだことで動くこと自体が鈍くなると判断したプリンツさんが、その胴体に向かって砲撃。あれならば回避も簡単には出来まいと放たれた弾は、真っ直ぐレ級に向かって飛ぶ。
「ヒヒャア! 効カナイ効カナイ!」
しかし、レ級が振り向きプリンツさんを見据えたかと思った瞬間、自分の今の状態を省みることすらせずに身体を急激に回転させ、猛烈な勢いで尻尾を振り回す。それによりプリンツさんの砲撃は尻尾で弾き飛ばされ、さらには沈んでいた脚がもう海面に現れていた。
「うぇえっ!?」
「1体目は殆ど不意打ちみたいなものだったし、学習されてるみたいだから、やっぱり一筋縄ではいかないわねぇ」
1体目を犠牲にして2体目を強化しているようなものだ。戦場でリアルタイムで強化され続けるとか、実は南方棲戦姫よりも厄介なのでは。知性を持つということはそういうことなのかもしれない。
「ならば、もう一撃だ! Nelson Touch、行くぞ!」
「おいおいおい、連続でやるのは艤装への負担がまずいだろ!」
「構わぬ! まぁ学習はされているだろうが、な!」
ネルソンさんが艤装を変形させた。ネルソンタッチの構えではあるが、それは一度レ級に見せている。回避の方法も当然学習してしまっているだろう。それも、真のネルソンタッチの方を。
それでもやろうと言い出しているのだ。ネルソンさんは分の悪い賭けでも平気でやりそうな性格をしているのはここ数日間で理解しているが、それでもあの自信満々な態度からして勝てる見込みがあってのことだ。
「まぁいい。旗艦はお前だからな。私は従おう。プリンツ!」
「
その意気に押されたか、サウスダコタさんもプリンツさんもネルソンタッチの体勢へ。
しかし、学習したレ級はそもそもやらせまいと行動を開始する。主砲のみならず魚雷もありったけ吐き出して、ネルソンさん達の進路を封じ込めに入った。
ネルソンタッチは突撃技であり、進路妨害は一番の天敵。さらに言えば、砲撃自体は避けられても範囲を拡げた雷撃に関しては、基本的にはどうにもならない。
だがそれをどうにかするのが随伴艦である。
「私は上専門なんだけど?」
その雷撃を、ネルソンタッチの進路上だけ撃ち抜いたのはなんとアトランタさんだった。制空権争いを初月に任せ、今の瞬間だけ下に向けての砲撃を繰り出していたのである。
初月の持つ長10cm砲とは違う形状をした高角砲を持っていると思っていたが、アトランタさんのそれは高角砲ではなく両用砲。防空巡洋艦とはいえ、真上以外にも当たり前のように撃つことが出来たのだ。攻撃範囲が広い、本人にとっては奥の手とも言える
「実にいい! さすがはアトランタだ!」
「さっさと行って。ハツヅキだけだとギリギリなの」
「ハッハー! では、行くぞ!」
アトランタさんが作り上げた道をぶち抜くように突撃開始。当然砲撃だって飛んでくるが、お構いなしに突っ込んでいく。回避距離も以前以上に紙一重。ギリギリのギリギリで突撃をやめず、所々に擦り傷を負いながらもレ級に対して迫撃。
あまりの猛進さにレ級が砲撃をやめ、全力で回避することを選択した。1体目が直撃を受けて爆散しているのを見ていたのだから、その選択は間違っていない。知性を持ち、学習した成果だろう。回避して擦り抜け際に一撃入れるという、本能と知性の中間のような行動に打って出る。
「回避の方向を間違えたみたいだな!」
ネルソンタッチの隊列をその時点で崩した。そして即レ級に飛び込んだのはサウスダコタさん。
「行け!」
「当然だ!」
かなりの近距離になったが躊躇いなく砲撃。
ネルソンさんに負けず劣らない威力の砲撃を前に、レ級は爆散……するかと思いきや、それすらも本能的に回避した。それも上に。
サウスダコタさんの後ろから、プリンツさんが回避先を狙ってしっかり砲撃をしていたからだ。横に避けられないと直感的に判断して、跳ぶことで直撃を免れた。
だが、このレ級は知らない。最初のレ級は跳んだことで沈められたことを。一斉射ではないためあの時のようにはならないとは思うが、おそらくそれよりも残酷な目に遭う。
「もう回避出来ないな。
そこでサウスダコタさんが手に持つマストを思い切り投擲。空中で体勢を変えられるのなんて、何処ぞの狂犬だけだ。
それを止めようと尻尾を前に持ってこようとするが、砲撃よりも速いほどの投擲にそんなもの間に合うわけがない。サウスダコタさんの投擲したマストは、レ級の心の臓を綺麗に貫いた。
最後のレ級は、死の恐怖に塗れた表情をしていた。知性が無ければ恐怖も知らなかっただろうに、皮肉なものである。