異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
支援艦隊が残り1体のレ級を相手取る中、私、陽炎が属する第一艦隊は南方棲戦姫との激闘を繰り広げていた。たった1体の深海棲艦とはいえ、6人がかりでも簡単には勝たせてくれないような強敵。戦闘経験がまだまだ少ないとはいえ、今まで戦ってきた中では間違いなくトップクラスの強敵である。
私は夕立と共に接近戦を仕掛けようと突撃している。奴は私のことを一切攻撃しようとしないが、私の攻撃は軽くあしらわれているようにも見えた。私の実力ではまだまだ届かないとでも言うのだろうか。
「太陽ノ巫女、陽炎。諦メテコチラニ来ナサイ。思イ出セバイイダケナノヨ?」
「ふざけんな。私は艦娘陽炎、そんな得体の知れないものじゃないから!」
「頑固ナ子ネ。見初メラレテイルノニ、神ノ御心ヲ無下ニスルダナンテ」
顔面を狙った砲撃も、艤装に包まれた腕で軽く払うだけでノーダメージ。駆逐艦の主砲の火力では、直撃でも傷が付かない。
代わりに夕立にはまるで容赦が無い。毎回直撃コースで砲撃を放ち、何とか回避するものの、背中の主砲はそれ自身が意思を持つかのように夕立を照準に合わせ続けていた。
「ウザいっぽい。ゲロちゃんは夕立達の仲間なの。バケモノの仲間なわけ無いでしょ」
「神ノ手ニ触レラレタ者ハ、ソレダケデ貴女達トハ別格ナノ。人ト犬ガ同列ナワケガ無イデショウ。ソレガ理解出来ナイナンテ、本当ニ哀レネ」
軽率な挑発だが、夕立はそんなことでは揺るがない。内心はギラギラと燃え上がっているかもしれないが、それは絶対に表には出さない。
少なくとも私が盾になれば夕立の安全が保証出来るかもしれないが、それでは何も変わらないのも事実。駆逐艦は2人がかりででも進まなくてはダメージも与えられないだろう。
それにそれは夕立が嫌がるから絶対にやらない。プライドとかそういうのを戦場に持ち込むのはどうかと思うが、人間関係の亀裂をこんなところで作るのはくだらないこと。お互いに守り合うのは仲間として当たり前だが、守り方というのもある。
「ならアンタもその類ってわけ?」
「勿論。私モ陽炎ト同ジ、太陽ノ姫ノ洗礼ヲ受ケタコトデ、今ノ力ヲ得タワ。
陸奥さんが問いただすと、ペラペラと自分の気持ちを話してきた。こんなにお喋りな深海棲艦がいるだろうか。これは元々の人間の性質が残っているのだろうか。いや、それは違うか。そうなると萩風が危ない人になってしまうし。
こんな激しい戦闘の最中でも、当たり前のように会話が成立していることがそもそもおかしいと思う。南方棲戦姫はまだまだ余裕ありと言った感じだ。回避も、ガードも、砲撃も、全てが全く精度が変わっていない。
「グダグダ喧しいなホント。自分語りが好きな深海棲艦なんて聞いたことないね」
ここでガードされ続けていた加古さんが猛攻を仕掛ける。今までは多少は間合いを取りながらも砲撃を繰り返していたが、ここから夕立のように前に出た。阿賀野さんはそれをよりスムーズに出来るように援護射撃。
当然巡洋艦チームの方への砲撃は止まっておらず、加古さんも阿賀野さんも常に回避し続けながら砲撃を繰り出していたが、ここで大きく動き出す。
「夕立も言った通り、陽炎はあたし達の仲間なんだわ。本人も嫌だって言ってるんだし、手ぇ引いてくんない?」
「残念ダケド、陽炎ハ太陽ノ姫ノモノナノ。私ダッテ抗エナイ。アノオ方ガソウ望ンデイルノダカラ、覆シヨウガ無イノヨ。諦メナサイ」
「そうかい。ならここで死んでもらうしかねぇな」
私や夕立では出せない火力による砲撃を繰り返しながら突撃する加古さん。戦闘中のイケメンモードは相変わらず、砲撃が簡単にガードされるのも構わず、同じ場所を延々と撃ち続けた。
艤装だって金属。強度にだって限界がある。私達のそれだってダメージを受け続ければ破壊されるのだから、同じ場所だけを撃ち続ければその内そこが弱くなるはずだ。
「シツコイ女ハ嫌ワレルワヨ」
「鏡見てから言えよ」
そしてこの時、南方棲戦姫の意識が加古さんに向いた。その隙を霧島さんが逃すわけが無い。
「陸奥!」
「オッケー。主砲、一斉射! てぇーっ!」
合図と同時に陸奥さんと霧島さんの突撃も始まった。私達駆逐艦のそれや、加古さんのそれとは全く違う、大型艦の
これだけは喰らってはいけないと直感的に判断出来たのだろう。回避行動を取りながら意識を即座に陸奥さんの方に向け、4基の内の2基、一番自信があるのだろう両腕の主砲を陸奥さん1人に集中させる。
「ゲロちゃん、夕立達も!」
「当然!」
そしてそれは私達駆逐艦組からより意識が外れるのと同じ。突撃するなら今しか無い。一斉射に巻き込まれないよう、しかしこの勢いを止めずに立ち向かう。
これで3方向からの突撃になる。誰も犠牲になるつもりはなく、あちらの砲撃はしっかり回避しながら距離を詰めていく。誰か1人でも近付くことが出来れば、本体にダメージを与えることが出来るかもしれない。
それが誰になってもいい。南方棲戦姫を倒すことが出来るのなら、手柄なんて誰も考えていない。
「ソレハ避ケザルヲ得ナイワネ。デモ、ソレハ美シクナインジャナイカシラ。タダ突ッ込ンデ撃ツダケナンテ」
「そうかしら。駄々を捏ねるような砲撃よりも、美しく優雅だと思わないかしら?」
南方棲戦姫の殴り付けるような砲撃よりは、艦娘らしい綺麗な砲撃だとは私は思う。主観もあるかもしれないが。
「当たるまで撃ち続けるわよ。もう逃がさない」
「ソウ、デモ、ソレハ無理ネ」
3方向からの突撃でも、それを的確に対処してくるのが南方棲戦姫である。砲撃により突撃を食い止めつつ、何か艤装がおかしな音を立てたように聞こえた。
「
両腕による砲撃が突如止んだかと思いきや、新たに放たれたのは
戦艦が魚雷を放つなんて聞いたことが無かった。勉強不足なのかもしれないが、少なくとも私の知る戦艦の艦娘はそんなことを出来る人はいなかった。破天荒な行動をする支援艦隊の人達にもそんな人はいない。
今の今まで南方棲戦姫は主砲による砲撃しかしてこなかったため、『戦艦は主砲で攻撃するもの』と固定観念が出来上がっていたのか。それも全員が。
「雷撃……!?」
「ソレダケジャナイワヨ」
さらにはその両腕を私達と加古さんに向けてくる。砲撃かと回避しようとしたら、今度は
突撃をしている陸奥さんと霧島さんには、それの足止めをする魚雷。それよりも軽めな私達や加古さんには艦載機による直撃。その勢いを止めるには充分過ぎた。
「うおっ!?」
「ぽい!?」
加古さんはその直撃を受けてしまい、突撃の勢いまであったため大きく吹っ飛ばされてしまった。殆ど交通事故のようなもので、ダメージもそれ相応と言える。折れてはいないようなので少しだけ安心。
夕立は持ち前の戦闘センスによる直感で紙一重での回避。しかし突撃の勢いは完全に殺され、攻撃もキャンセルされてしまった。
「陽炎、少シオイタガ過ギルワ。少シ痛イ目ヲ見ナイト理解シテクレナイミタイネ」
艦載機は私に対しても放たれており、死にはしないがダメージは受ける。殺しはしないが、痛めつけるくらいには考え方が変わったらしい。その方が私も目覚めやすくなるとでもいうのだろうか。なら、その思惑を全て無にしてやるしかない。
ここで脱力。艦載機の直撃を免れるため、倒れんばかりに全身から力を抜いた。
その瞬間、向かってくる艦載機をすり抜けたかのように回避し、今まで届かなかった程の南方棲戦姫の近くにまで移動する。脚への負担は感じられない。まだ1回目なのだからいつも通りだが、インナーの効果はおそらく絶大。
「ナッ……」
「通った……!」
備え付けの主砲で南方棲戦姫の本体を狙い撃つ。手持ちの主砲ではブレるだろうから、確実性のある方を選択。
「ダメヨ陽炎。マダ届カセナイ」
「充分!」
その砲撃は腕の艤装によりガードされる。だが、上出来だ。これで今だけは4基の内の1基からの砲撃を止めることになる。
「ぽーい!」
第二の矢、夕立。自分の真後ろに魚雷を放ったかと思いきや、自らそれを撃ち抜くことで爆発させ、その風圧を艤装の帆で受けて急加速。砲撃が少しだけ止んだ今だからこそ、夕立ならではの爆発を背にした突撃。
この急加速は南方棲戦姫も予測出来ていなかったようで、ほんの少しだけ顔が歪んだ。いくら火力の低い駆逐艦とはいえ、その行動が何を引き起こすかはわからない。
「貴女ガ1人目ノ贄ニナリタイノネ!」
急加速に追い付く速度で背中の主砲が旋回。夕立に狙いを定める。
はずだった。
その主砲は、夕立に狙いを定める前に不自然な音と共に動きを止めた。どう見ても突然の故障。深海棲艦の艤装がどのように整備されているかは知らないが、今までスムーズに動いていたものが動かなくなるのだから、南方棲戦姫はより顔が歪む。
「ふっふーん、見えちゃった見えちゃった♪」
その犯人は阿賀野さんだった。艤装の限界強度を狙って同じところを撃ち続けていたのだが、それが功を奏したわけではない。私と夕立を止めるために多少体勢をこちらに寄せた瞬間を狙い、若干背後に回っていたのだ。
そこで脚などの本体を狙うわけでもなく、あえて背中の艤装の
「コノ……ッ」
私の砲撃をガードした腕をそのまま振り上げ、夕立の猛進を食い止めようと砲撃。そんなことをやらせるわけにはいかない。
「夕立!」
今度は私が魚雷を夕立の少し横へ放って、私自らで撃ち抜く。備え付けの主砲ならその精度でも砲撃は可能。そして即座に脱力して、自分の魚雷の爆発を陽炎の如くゆらりと回避。艤装との連携により実現したそれは、タイミングが完璧。夕立を急遽真横に持っていく爆風を作り出した。
私の行動の意図を察した夕立は、その爆風を受けるべく身体を横へ。するとすぐさま帆がそれを受けて緊急回避。南方棲戦姫の砲撃は夕立に当たることなく通過。代わりに夕立はあまりに急なことだったので、少しだけ痛みに顔を歪めた。だが、生きているので良し。
私が南方棲戦姫自体を狙うことも出来たであろうが、そうしたら夕立は確実に砲撃の直撃を受けていた。それではダメだ。全員が命を落とすことなく戦いを終わらせなければならない。だから、チャンスであったかもしれないが、私は夕立を助けることに注力した。それが艦娘だから。
「陽炎、何故ワカラナイノ。貴女ハ逃レラレナイ。ナラヨリ気持チヨクナレル道ノ方ガイイデショウ。抵抗ガ馬鹿ラシクナルワ。モウ知ッテイルデショウ。アノ快感ヲ、太陽ノ姫ニ身ヲ委ネル心地良サヲ!」
知ってしまったからこそ、拭い去りたい。夢で何度も何度も見せられて、それに屈したらどうなるかを理解しているからこそ、それを嫌う。
私は艦娘だ。侵略なんてしたくない。仲間を殺すなんてしたくない。破壊者じゃない、守護者だ。
「気持ちよくなれるだの、心地良さだの、ただの変態野郎だなお前!」
吹っ飛ばされたものの何とか復帰してきた加古さんがさらに突撃。一瞥したかと思うと、夕立の時と同じように背中の主砲、機能不全を起こした方ではない主砲を旋回させる。
が、勿論それも機能不全を起こした。動き出した瞬間に、その関節部を阿賀野さんが狙い撃った。本来合わせたい照準まで行くことが無くなったため、加古さんの突撃は止まらない。
「貴女モ、神ノ御心ガ何故ワカラナイノカシラネ!」
「神かゴミか知らないけど、無理強いするのはどんな奴であれクソだっつーの!」
その隙にさらに進み、確実に本体が狙える位置から砲撃を繰り出す。ならばと夕立の時と同じようにもう片方の腕でそれをガードし、返り討ちにするかの如く砲撃。直撃を免れるために緊急回避をするが、どうしても風圧だけは受けてしまい、またもや吹っ飛ばされる羽目に。
だが、ここまでやったことで大きな隙が出来た。左右同時に攻撃して、それを回避したということは、一番大事など真ん中が筒抜けになるということだ。砲撃も魚雷も艦載機も、両腕の艤装が取り扱うというのなら、今は完全に攻撃が出来ない状態。
その隙を見逃すわけがない。だからこそ鎮守府の最高戦力になるのだ。
「主砲、一斉射!」
雷撃を躱しきった陸奥さんの叫びと共に、霧島さんと同時に一斉射が繰り出された。