異端児だらけの遊撃隊   作:緋寺

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最愛の者を

 南方棲戦姫との戦いも佳境へ。私、陽炎も含めた6人がかりの総攻撃でどうにか隙を作り出したことで、渾身の一斉射が決まった。こちらの戦艦2人の砲撃が吸い込まれるように南方棲戦姫に向かい、そしてそのまま爆炎に巻き込まれる。それだけでは足らないと、まだ撃ち続けている程だ。追撃に追撃を重ねた。

 元々人間であることがわかっている南方棲戦姫にここまでやるのも、今までの強さを見てのことだった。これくらいやらないと、全てあの強固な艤装に阻まれてしまうのではないかという恐れすらあったからである。

 

「ってぇ、どうなった!」

 

 この隙を作る総攻撃の際に吹っ飛ばされていた加古さんも、かなり疲れが見えるが復帰。普通とは違う戦艦主砲による砲撃をギリギリのところで回避した影響で身体に大分ガタが来ているみたいだが、動けないわけではないようである。よかった。

 

「警戒は怠らないで! まだわからないわ!」

 

 さんざん撃ち込んだところで砲撃をやめる。少なくとも爆炎の中から回避してくるような姿は無かったし、念のため回避行動を続けたが、砲撃はおろか、魚雷や艦載機も飛んでこなかった。生きているにしても、完全に防御を徹底していたと思われる。

 それでも、ここで勝ちを確信してはいけない。それだけやっても無傷なんてことだってあり得るのだ。奴は陸奥さんと霧島さんの砲撃だけは徹底して避けていたが、それは当たったらやられるからとは限らない。()()()()()()()()()だけとも考えられる。

 

 今は猛攻を受け続けたことで姿が見えない。爆炎が晴れ、そこに倒れ伏していてほしい。出来ることなら四肢欠損などが無い状態で。いっそ既に人間に戻っていることを強く強く望む。

 

「ッアアアアアア!」

 

 突如爆炎から咆哮が轟き、強烈な風と共に爆炎が晴れた。爆炎のその先で4基の主砲を同時に放ったことで全て吹き飛ばしたのだ。その砲撃は見えていないが故の完全に狙いをつけない乱射だったため、擦り傷を負うくらいはしてしまう。

 陸奥さんが指示していなかったら直撃まであったかもしれない。それだけは本当に感謝。擦り傷ならすぐに治る。

 

 中から現れた南方棲戦姫は、一斉射を全て受け切っていたことにより艤装も本体も傷だらけ。特に本体は殆ど全裸の痴女であるため、生々しい傷がいくつも出来ていた。それでまだ行動してこようとしているのが恐ろしい。

 

「マッタク……ヤッテクレタワネ」

 

 ピンピンしているとは言い難い姿ではあるのだが、まだ戦えると言わんばかりに立っている。傷だらけではあるが艤装はまだ稼働しているようだし、死には届いていないようである。堪ったものでは無い。

 

「陽炎ハトモカク、他ノ連中ハココデ沈メナイト気ガ済マナイワ。私ガココデ散ロウトモ、貴女達ダケハココデ!」

 

 陸奥さんに主砲を構えた瞬間、腕に接続されている艤装が大破。それは、突撃するまでに加古さんと阿賀野さんが撃ち込み続けた成果だ。延々と同じところばかりにダメージを与え、一斉射で限界ギリギリになり、最後の自らの砲撃がトドメとなったようだ。

 今まで見たことの無かった南方棲戦姫の生身の腕は、艤装が破壊されたことでズタズタになっていた。あれではまともに動くことも無いだろう。

 

 その時、私達とは違うところで激しい戦闘音の後、レ級が消滅したことが確定した。支援艦隊の人達も終わらせてくれたようである。

 さらには、随伴艦も軒並み処理されていた。私達が戦っている間も巣の方から増援が来ていたみたいだが、それも全て処理してくれていた。衣笠さんや木曾さんは大型艦を対処していたため相当消耗していたが、全員無事にいてくれた。

 

「ソウ……全員ヤラレタノネ」

 

 これで南方棲戦姫を守るものは何も無くなったはずだ。仲間もやられ、艤装も破壊され、反撃の手段は大分限られている。心が折れるには充分なはず。

 

「マダ私ハ……終ワッテイナイワヨ……」

 

 もう片方の腕の艤装を陸奥さんに向けた。こちらは私と夕立に対して使っていたもの。砲撃を防御するにしても、加古さんと阿賀野さんのものとは火力が違う。まだ破壊まではいかない。つまり、まだ機能するということである。

 故に、ボロボロの身体でも当たり前のように撃ってきた。最後の奉公といえど、それは流石に当たらない。そして数発の砲撃の後、その衝撃で艤装が軋んだのも確認出来た。おそらくもう撃てない。

 

「もう無意味よ。アレだけのダメージが入ったんだもの。アンタももうおしまい」

「……フフ、ハハハ、ソウミタイネ。ナラ……私ニ出来ルコトハ1ツシカ無イワ。我ガ姫ノ、私ノ神ヘノ、最後ノ奉公ヨ」

 

 駆逐水鬼の時と同じように、死に体を攻撃するようなことはしない。以前夕立が言っていた通り、介錯を望まれていないのなら死体蹴りは無礼。

 しかし、最後に何かしでかそうとしていた。それが何かはわからないが、何事も無いように全員が警戒する。いざという時には、すぐに前言撤回して死に体にすら攻撃が仕掛けられるように。

 

「陽炎……思イ出シナサイ……貴女ハ一度太陽ノ巫女ニナッテイルデショウ……何ヲシテソウナッタカ……」

 

 私を案じるような事を言い残した駆逐水鬼とは違う、最後まで陥れようとする言葉を放つ南方棲戦姫。

 結局欲望のために太陽の姫のことなんてお構いなしになった駆逐水鬼とは違い、太陽の姫を心酔しているような南方棲戦姫なので、命の灯火が消えようとしている今でも、その役に立つ事をしようとしているわけだ。

 南方棲戦姫はすぐにでも私を目覚めさせることが出来ると言っていた。だが、おそらく太陽の姫の方針からして、それをやらないように言われているのだろう。だから、直接ではなく私にきっかけを与えることを言ってくる。

 

 これ以上喋らせるわけにはいかない。だが、死体蹴りに抵抗があることで、少し動くのが遅れた。

 

「貴女ニハ染ミ付イテイルンダモノ……()()()()()()()()

「余計なこと言うな!」

 

 何かを言いかけた瞬間、南方棲戦姫が最期の言葉を言い始めたくらいから動き出していた夕立が、大きく跳んで南方棲戦姫の頭を蹴り飛ばした。この空気の読まなさは本当に助かった。撃たない分、大分譲歩している。

 あの言葉は本当に私を目覚めさせに来た言葉だ。最後のその言葉は嫌でもこびりついてしまう。

 

()()()()()

 

 これは絶対に深く考えてはいけない。考えた時点でドツボにハマり、そのまま目覚めまで一直線に向かってしまう。

 忘れたい。忘れたいけど、刻まれてしまっている。だからといって誰かに殴ってもらうとかして気絶しても、まず間違いなく悪夢を見る、そうしたら確実に取り返しのつかないことになるだろう。

 

「陽炎、気にしない方がいいわ。どうせ『最愛の人を失った悲しみ』とか、『最愛の人に先立たれた寂しさ』とか、そういうものよ」

 

 思考を巡らせる前に、霧島さんに先んじて言われる。そうだ、多分その辺りだ。私が分霊を受けた時というのは、最愛の者(父さんと母さん)を目の前で失った時の負の感情がトリガーになっているのだろう。

 だから、仲間が死んだことがトリガーになると何度も言ってきたのだ。今は抑えつけられているものの、今目の前で誰かが命を落としたら、あの記憶が一気に蘇ってしまいそう。

 

「ッカ……ハ、ハハハ、残念……モウ……無理ネ……」

 

 夕立の最後の蹴りは確実にトドメとなり、立ち上がることも出来なくなった。元々限界だったようで、ここで諦めたようだ。

 こうした後でも、余計な事を言わないように夕立が近くで待機しているくらいなのだから、諦めざるを得ない。

 

「太陽ノ姫……我ガ姫……神ノ如キオ方……私ハ……」

 

 最期まで太陽の姫の事を考えながら息絶えた。神に見初められ、歪められ、心酔するまでに壊された姫の末路である。

 そして指先から塵になっていく。これも駆逐水鬼と同じ。本来ならこのまま全てが霧散するのだが、この塵の中から人間が現れれば救出完了。

 

「割と容赦なく撃ち続けたから、欠損とかあったかと思ったけど、頑丈さに助けられたわね」

 

 終わったことが確認出来たため、陸奥さんも大きく息を吐いた。同時に、艤装が大きく煙を上げ始めてしまう。

 一斉射は艤装に大分負担をかけるらしい。演習の時ならまだしも、今回は実弾をありったけ、限界以上の速度で撃ち込んだようなもの。戦いが終わったからまだしも、アレでまだ南方棲戦姫が倒れていなかったら、対抗する術がかなり限られていただろう。

 

「ムツ! こちらも終わったぞ!」

「ええ、レ級の処理、ありがと」

「構わぬ。それが余の、我々の仕事だから、な!」

 

 レ級を沈めた支援艦隊とも合流。ネルソンさんの艤装が陸奥さんのものと同様に煙を上げてしまっている。聞けば、ネルソンタッチを連続使用したことによる弊害らしい。今のネルソンさんも言ってしまえば戦力外。

 それ以外にも多かれ少なかれ傷付いている者はいる。こちらで言えば加古さんの消耗が激しいし、随伴艦の処理に追われていた第二艦隊も大分消耗していた。この状態で新しい敵でも現れようものなら、苦戦は必至。

 

「すぐに撤退するわ。南方棲戦姫の亡骸は誰かが運んで。私の艤装、結構悲鳴あげちゃってるの」

「なら私が運ぶわ。サウスダコタ、手伝ってちょうだい」

「おう! キリシマがそういうのなら手伝ってやろう!」

 

 未だ塵になり続けている南方棲戦姫は、霧島さんとサウスダコタさんが2人で担ぎ上げる。その瞬間、纏わりついていた塵が払われ、駆逐水鬼の時と同様に女性の姿が現れた。

 2回目だから驚かないが、本当に元人間であることが実証されたことになる。萩風だけではない。ならば、太陽の姫の配下達は、全員元人間であると考えるのが妥当そうである。知っている限りではこれで終わりだが。

 

 

 

 なんとか鎮守府に帰投。萩風の件で知っていたことで準備万端だったこともあり、南方棲戦姫の中から現れた女性はすぐに入渠ドックに運ばれていった。それ以外でも、消耗が激しい者は次々と休息に入る。入渠する者もそれなりにいた。

 艤装が酷いことになっている人も多数おり、今度は整備班の戦いが始まるようだ。特に陸奥さんの艤装とネルソンさんの艤装。破損はしていなくとも未だにモクモクと煙を上げており、最悪な場合爆発してしまうのではないかという恐れまである。

 

「全員すぐに休みな! 艤装は下ろしてその辺に転がしておいてくれりゃいい!」

 

 空城司令の声が工廠中に響き渡る。無事に帰ってこれたことを喜ぶ前に、やることをやらなくてはいけない。喜ぶのは全て終わってから。南方棲戦姫の亡骸から現れた女性が目を覚ましてからだ。

 

 私も艤装を外した瞬間に崩れ落ちるほどの疲労に襲われた。回避技の連続使用の弊害で、疲れがとんでもない。ただ、インナーのおかげで脚に痛みや熱があるわけではないので助かっている。これは本当に有用だった。

 

「陽炎ちゃん!」

「姉さん!」

 

 鎮守府で待っていてくれた沖波と萩風が駆け寄ってきた。私はほぼ無傷なので安心してほしい。

 

「ぽ、ぽい……夕立、こんなに疲れたの初めて……」

 

 夕立も立ち上がるのに苦労しそうなくらいに消耗していた。お風呂で回復は出来そうだが、そこまで行くのには手助けが必要だろう。比較的消耗していない磯波が、夕立に肩を貸していた。

 

「お疲れ様。あの時咄嗟にやったけど、身体大丈夫?」

「ちょっと身体が軋むっぽいけど、大丈夫大丈夫。あれが無かったら夕立死んでたかもしれないし、ゲロちゃんすごいよ」

「判断出来て良かったよ」

 

 あの時の技は本当に咄嗟に思い付いたものだ。何度も夕立のあの空中移動を見ていたから出来ただけであり、本当にギリギリだったと思う。お互い殆ど無傷なのだからそれでいい。

 

「姉さん、南方棲戦姫から変なことは言われませんでしたか」

 

 萩風としてはそれが一番心配だったようだ。私の目覚めのトリガーを知っているのだから、それをすぐに知りたがるのも無理はない。

 

「『最愛の者を』って言われたけど、全部言われる前に夕立が蹴り飛ばしたからそれだけ」

「……そうですか、そのあと、何もなっていませんか」

「大丈夫。ただ、ちょっと夜が怖いね。いろいろ刺激されちゃったし」

 

 その言葉にも萩風は思い当たる節があるようである。だからか、それ以上追求はしてこなかった。

 萩風だって、おそらく目の前で家族や友人が殺されている。それがトリガーになって駆逐水鬼へと変わり果てているのだから、その恐怖は全て知っているはずだ。それが私に起こらないように、細心の注意を払ってくれている。

 

「今は休もう。夕立もしんどいでしょ」

「しんどいっぽーい。ゲロちゃんの匂いで癒されたいから早く脱いで」

「言い方!」

 

 ひとまず戦闘はこれで終了だ。今までがトントン拍子で行けているのだから、このペースで太陽の姫まで撃破したいところである。

 




南方棲戦姫戦、終了。最後に残した言葉の真意は如何に。
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