異端児だらけの遊撃隊 作:緋寺
悪夢に苛まれ、本格的にまずいところまで来てしまった私、陽炎。夢の中の幼女な私は、一時的にでも完全に深海棲艦と化していた。今は何処からどう見ても人間なのだが、何故今そうなっているかは現状不明。何かがきっかけで人間に戻ったのだろうが、それが何かはわからない。
しかし、それを深追いしようとすると、思い出してはいけないところまで思い出さなくてはいけなくなるため、謎は謎のままで置いておくことにした。今は南方棲戦姫の最期の言葉の件もあるため、尚のこと考えないことにしたい。
そのためには、仲間達と楽しく生きていくのが一番簡単。楽しければ嫌なことは忘れられるし、別事でてんやわんやになればそんなことには構っていられなくなる。
南方棲戦姫との戦いが終わった今、最優先なのは、そこから現れた女性が目覚めることである。昨日は入渠が終わらず、目が覚めていたとしても私達が寝静まった後。そしてそれを司令2人が確認してから、お披露目出来るかを判断するとのこと。
「昨日救出した子は、昨晩に目を覚ました。今は医務室にいる」
朝食後に集会が開かれ、そこであの女性のことが語られる。就寝時間近くに入渠が終わり、今では怪我ひとつ無いピンピンとした状態らしい。萩風の時もそうだったが、目覚めた女性はまず医務室に運ばれたとのこと。見た目だけは健康体といえど、精密検査をしてみないとわからないので、ひとまずは医務室というのが通例になりそうだ。萩風もそうなったし。
「さっきも見てきたが、今は比較的精神的にも落ち着いている。朝飯もちゃんと食えていたみたいだしな」
呉内司令も確認したようで、2人が見た感じでは人間らしい精神状態にはなっているようだった。会話も出来るし、食欲もあるとのこと。
しかし、まだ油断出来ないところはある。萩風のような後遺症が残っている可能性は高いのだから、取り扱いはどうしても慎重になってしまう。特に思考、人間的な考え方がちゃんと出来ているかは重要。
「午前中はいくつか尋問、もとい問診をしていくつもりだ。ここに置いておけるかどうかは俺達で判断する」
「そういうわけだから、医務室にはなるべく近付かないようにしておくれ。まともに見えても中身がどうなっているかはアタシらにも判断つかないからね。速吸だけは手伝ってもらえるかい」
「了解です、精密検査ですね」
この忠告はしっかりと守ることにした。特に私は万が一を考えると絶対に近付けない。ここはちゃんと自衛しておかなければ。やることはないが。
それでも速吸さんはその医療知識を買われてお呼び出し。診断は上から下まで全てを行なうようだ。
「大丈夫なら午後に何人か面会してもらうよ」
「その時にゃ、俺達は帰投する。全員、準備だけはしておけ。もしかしたら俺達がそいつを連れていく可能性もあるからな」
支援艦隊は今日の午後で帰投となった。まだ巣の破壊は出来ていないものの、予定だった知性を持つレ級と南方棲戦姫の撃破までは行けたので、ここにいるべき任務は完了となる。
少し名残惜しいが、帰る場所があるのだから仕方あるまい。演習で鍛えてもらい、私はアクィラさんに教えてもらえたことで力を得た。その感謝は忘れることは無いだろう。
「ならこれで解散だ。今日は全員休みということにしておくれ。巣の破壊については明日から始める」
明確な巣の場所がわからない以上、無駄に動いても意味がないだろう。聞けるのなら、目覚めた女性から聞き出したい。そうでなければ、またあの領海の外に出て巣を探さなくてはいけない。時間がかかるのは明らかなため、またしっかりと準備を整えて向かう必要がある。
方針がまだ決まっていないため、一時的に全員が休息ということになった。戦いが終わって昨日の今日ということで、それでも構わないだろう。
実際は、全員を鎮守府に留めることで、目覚めた女性に何かあった場合に対応出来るようにするというのが目的のようだ。誰がどのように適応出来るかわからないし、緊急時にすぐ呼び出せるようにしておくことは大事だ。
私達が休日を満喫している裏側で、医務室では問診が続けられている。当たり前だが、調べられるところは全て調べるべきである。速吸さんが取り仕切る精密検査も、今頃順調に進められていることだろう。
数値としては、おそらく私や萩風と同様に、D型の同期値が計測不能ということになるだろう。それ以外は普通な人間となっているのではなかろうか。
「どうせなら仲良くしたいよね」
「そうですね……せっかく助かったわけですし」
食堂で甘味をつつきながら萩風と話す。降って湧いた休日だったため、夕立は二度寝すると部屋に戻り、沖波と磯波は資料室へ読書しに向かった。そして私は萩風とこれ。ちょっとしたデートみたいになっているため、萩風がまず大きく反応したのは言うまでも無い。
今回の件は私や萩風に強く関与している内容。出来ることならその問診にも参加したいくらいである。そこで変なことを口走られたらおしまいなので、迂闊に近付くことも出来ないのだが。
「こそっと見に行けたらなぁ」
「ダメですよ。私が許しませんから」
「わかってる。冗談だよ冗談」
後遺症はあっても萩風が私の側についているのは、うっかり私にダメな情報が入りそうになった時に、すぐに対策するため。
今回の件、当事者だったこともある萩風が当然一番詳しい。私のトリガーのことだって知っているくらいなのだから、頼りきるのが手っ取り早かったりする。そして、私のことを一番心配してくれてもいる。
「あの人は、艦娘になるのかな」
「どうでしょう……」
南方棲戦姫は戦艦だったため、おそらく艦娘として活動するとしても戦艦になるだろう。亡骸から現れた時、萩風と同様にドロップした艤装を装備した状態だった。その艤装はかなり大きく、どう見ても戦艦とわかるくらいだったし。
もし仲間になってくれるのなら、これはとんでもない戦力強化だ。多いか少ないかで言えば少ない方である戦艦戦力の補充になるため、今後の戦いで確実に役に立つだろう。
「心が深海棲艦のままだったら、武器を渡すのはよろしくないですよね」
「そうだねぇ。いきなり叛逆なんてことがあり得るわけだもんね」
しかし、本人にその意思が無ければ意味はないし、重要なところで後ろから撃つなんてことまで考えられる。
それは一番あってはならないことだ。艦娘の叛逆なんて笑えない事件があった場合、最悪な場合鎮守府運営にまで影響が出てしまいそう。
「ここは慎重に行くしか無いかな。決めるのは司令だけど」
「ですね。私達は座して待つしか無いです」
こんなことを話していたところで、決定権があるわけでは無い。どういう結末になるかは司令頼りになる。きっと最善を掴み取ってくれるだろうから心配はしていないが、万が一は覚悟しておいた方がいい。
「あ、ここにいたんですね。陽炎さん、萩風さん」
ちょうど甘味も食べ終えたというところで、食堂にパタパタと入ってきたのはしーちゃん。確か司令2人と一緒に女性の問診に付き合っていたはずだ。そのしーちゃんが私達を探していたということは、問診が終わったということか。
「提督からお呼び出しです。2人とも医務室に来てもらえますか」
「ん、了解。それって、あの人が私達に害が無いってことでいいのかな」
「今のところは、ですね」
不穏な言葉ではあるものの、指示は指示なので断る理由はない。大丈夫だと考えての呼び出しなんだろうし。足取り軽やかとは行かないが、私達はしーちゃんについていくことに。
私だけでなく萩風もというのは、やはり深海棲艦に変えられていた仲間ということで精神的に安定するかもしれないからだろうか。
医務室に到着。中が騒がしいとかそういうことは無いようなので、こちらの調査には比較的協力的のようである。諦めているという可能性もあるが。
中に入ると、萩風の時と同じように速吸さんが作業中。だがそれ以上に目を見張ったのは、救出された女性が
萩風の時は医務室だったということもあり検査着だったが、女性はそれでもない
「えーっと、これは」
「ああ……この子が自分でこうしてくれと言ったんだ」
その自ら拘束を選択した女性は、神妙な面持ちで目を瞑り、ベッドに腰掛けていた。見た目だけなら物凄く真面目だが、その内面がどうなっているのかは見ただけではわからない。
「これは
口を開いたかと思えばこれ。やはりこの人の後遺症は、太陽の姫への信奉。しかし、人間に戻れたことにより思考自体は人間に寄ったため、それが問題ある思考であることを自覚している。
忠義を尽くす相手が敵であると理解した上で、相反する思考の葛藤の末にこの姿を選んだらしい。余計なことを言ってしまわないように口すらも拘束を望んだようだが、問診の邪魔だと司令が却下した。
「君はあの時の駆逐艦か。私と同じように人間に戻ることが出来たんだな」
「はい……無事とは言い難いですが」
「君の後遺症の話はこの人達から聞いている。辛い思いをしているだろう。私は力になれないが、強く生きてほしい」
南方棲戦姫と違って、本当に生真面目な性格に思える。何処か武人然とした態度に、仲間になってくれたら心強いなと思うのだが、この人はおそらく自分が納得しないだろう。頭の中の葛藤のせいで、おそらく戦闘にすらならない。
深海棲艦には撃てるかもしれないが、いざ太陽の姫が前に現れた時、そのまま屈して敵対する可能性だってあり得てしまうのだ。私達ですらこう考えるのだから、司令達がその考えに至っていないわけがない。
「太陽の姫の巫女……君には何と言えばいいか」
「大丈夫。まだ目覚めてないから」
「……すまない。私の発言で取り返しのつかないことになりそうだ。発言は控えることにする」
そこまで自覚が出来ていても、不意に太陽の姫への忠義が表に出てしまい、あの時の言葉の続きを口走ってしまうことを恐れている。萩風以上にまずい後遺症。
もう私とは関わらない方がいいのだろう。少なくとも今のうちは。自ら拘束を選ぶようでは、艦娘として、仲間として活動するなんて選択はしないだろうし。残念だが、他人の選択を変えられる権利を私は持っていない。
「私はどうすればいい。どんな罰でも受ける。死罪と言われても無理もないことをしていたのだ。私の身柄は貴女達に全て任せる」
萩風のような不安定な雰囲気は無いのだが、覚悟を決め過ぎていて逆に不安になる。自分の命を蔑ろにしすぎ。
「アンタの身柄はアタシが預からせてもらう。呉内、それでいいかい」
「ああ、構わない。これに関しては任せた方がいいと思うんでな。俺の管轄からは大きく外れ過ぎている」
萩風を引き取った時点で、こういう特殊なケースはうちの鎮守府が受け持つことになりそうである。萩風を許してくれているのだから、大本営はこの人についても一任してきそうだし。というか、こんな面倒な案件は誰も手元に置きたくないと考えるだろう。
「アンタが罰を受けたいというのなら、罰を与えようか」
「ああ、頼む。私を罰してくれ」
「陽炎と仲良く出来るように努力することだ。その葛藤で苦しむことが贖罪になるだろう」
女性が目を見開いた。それでは償いにはならないと訴えようとしていたが、そんなこと言わせずに空城司令はまくし立てる。
「太陽の姫への忠誠心が後遺症だというのなら、どうにかしてでも振り払いな。そのテストのために、定期的に陽炎とは話をしてもらうからそのつもりでいること。いいね」
勿論、余計なことを言いそうならぶん殴ってでも止めるから覚悟しろと。
「艦娘の力は与えない。だが、事務か整備くらいは手伝ってもらいたいね。贖罪だからと言っても、何もしないで三食用意してもらえるなんて思っちゃいないだろ。どうだい、いい提案だと思うんだが」
もう何も言えずにキョトンとしてしまっていた。
そもそも罪と思わないでもらいたいのだ。この人だって自分の意思で太陽の姫に屈したわけではないだろうし。今でこそ植え付けられてしまった忠誠心も、結局のところは作られた感情なのだから。
「……今は貴女に従おう。私には反発する権利もないからな」
「よろしい。なら、今日からはここでの名前で生活してもらうよ。アンタはこの世にいない人物だ。新しい名前で、心機一転人生を歩いてくれればいい」
萩風の時と同じように、解析されたあの艤装から名前をもらうことになる。そして、その名は。
「アンタは今日から、長門と名乗るんだ。いいね」
「……ああ、わかった。この長門、贖罪のために生きよう」
「重く考えるんじゃないよ。まったく」
仲間とは言い難いが、鎮守府の新たな一員として、長門さんが加わった。前途多難ではあるものの、ここから開き直ってもらいたいものである。
南方棲戦姫から現れたのは長門でした。艦娘として働くことがあるかはわかりませんが、鎮守府の新たな一員となります。