プロローグ1
やっほー、私、メルル!
ここ、アールズって国で錬金術士やってます。
錬金術の力で国を発展させるために頑張って調合に励んだり依頼を達成したり……これまで色々やってきたんですよね。
苦労の甲斐あって閑散としていた王国は発展し、住民も増えました。
最初の頃は人口が100人にも満たない………これで国…?村かよっ!ってつっこみを入れたくなるレベルだったんですよ。
それが今や人口は数万人にまで伸び、現在は立派な国家として栄えています。
これも王女である私の頑張りあってこそ、って事でちょっぴり誇らしくもあったり。
あ、そうそう私、錬金術師の他に元王女でもあるんです。
お父様が元国王なので、娘の私はこのアールズ国の元お姫様って事になります。
まあ自分で言うのも何ですが、私はあんまりお姫様っぽくはないんですけどね。
どっちかというと庶民的っていうのかな?堅苦しいのは性に合わない感じで、お城にいるよりは街に出て住民の皆と触れ合うのが好きなんです。といってもここ数年はアトリエが根城なのでお城には全然住んでないんですけどね。
ちなみにアトリエっていうのは、私が普段錬金術をやっている拠点です。ここでは先生に教わりながら――
「メルルちゃん、いったいさっきから誰にお話しているの?」
「あっ、トトリ先生」
おっと、噂をすれば先生のお出ましです。
この方が私の師であるトトリ先生。錬金術のエキスパートで、難しい調合も難なくこなしちゃう凄い人なんですよ。
この国の発展のためにアーランドから派遣されてきた先生は、その見事なまでの腕前で錬金術の力を披露。その光景を目の当たりにした私は、一気に目を奪われてしまいました。
錬金術の凄さに魅了されて先生に弟子入りした私は、このアトリエで手ほどきを受けながら日々調合に励む事に。
先生のわかりやすく的確な教えのおかげもあって、私はみるみる力をつけていきました。そして今では一人前の錬金術士としてやっていけています。これもトトリ先生のおかげです。
「ふふ、もうメルルちゃんたら。褒めても何も出ないよ?」
「いえいえ、事実ですってトトリ先生」
誇張ではなく先生は偉大な人なんです。
その辺の錬金術士じゃトトリ先生の相手にはならないくらいの凄腕なんですから。
「ねーねー、何のお話?私も混ぜてよー」
「あ、ロロナさん」
おおっと、ここでさらにもう一人凄い人が。
この方もまた優れた錬金術士の一人。
その名をロロライナ・フリクセルと言い、通称ロロナさんです。
トトリ先生のそのまた先生で、錬金術の魅力をトトリ先生に伝えた凄い人なんですよ。
私も普段ちょくちょく錬金術に関して教わる事があって色々お世話になってます。
一回り年上だけどぽわぽわした天然な所もチャーミングで、一緒にいるとリラックスできちゃう愛らしい存在ですね。
「もうもう~、そんなふうに言ってくれたら照れちゃうよ~。……って、ひ、一回り……年上……?」
「え…?あ、ああ~!そんな事言いましたっけ?とにかくロロナさんは愛らしい人柄が癒やされるってわけです!」
「そ、そうかな…?」
「ふふ、メルルちゃんの言う通りですよ先生。ロロナ先生は頼りになって、そして愛しい癒やしの存在なんですから」
そう言いつつロロナさんの腕に手を絡めるトトリ先生。
まるでカップルのように腕を組んで先生は身体をロロナさんに預けました。
自然にすり寄る形で近付き、身を預けてくる先生に、ロロナさんもついそちらに意識を逸らされます。
ふー、危ない危ない。ロロナさんに年齢の話は禁句でした。
ここ最近、子供状態から戻って以降ずっと齢の事を気にしているみたいなんですよねロロナさん。
見た目的には全然年齢を感じさせないし、そこまで気にする事はないと思うんだけどなー。
(メルルちゃんメルルちゃん、それでもロロナ先生は気にするから、匂わせる事でも軽率に言っちゃ駄目だよ)
(は、はい……!ちょっと横着しすぎましたね)
トトリ先生からも脳内テレパシーでつっこまれてしまいました。
やはり少々軽はずみな発言だったようです。
以後気をつけるようにしましょう。
しかし流石はトトリ先生。機転を利かせて上手くロロナさんの気を逸らしてくれました。
ロロナさんの腕をあくまで自然な形で組んですり寄って愛撫しています。
これにはロロナさんも気を向けざるを得ません。
「ト、トトリちゃんどうしたの…?そんな密着して……」
「まだ……気付いてくれませんか…?私の気持ち……」
「へ?気持ち……?」
「………甘えたいんですから」
ぼそっと淡く呟くトトリ先生。
僅かに紅潮した頬で先生はロロナさんを見つめています。
え?何ですか、これ?
演技…ですよね?
まさか本当にそういう気があるわけじゃないですよね?
え、まさかあるんですか!?
「ストップ、ストーップ!!!」
「「「うわっ!?」」」
突如、けたたましい声が甘い空気をつんざきました。
びっくりした私達がそちらを振り返ると……。
「ちょ、な、何やってんのよ!トトリ…!」
「ミミちゃん?」
ミミさんが息を荒げてそこに立っていました。
って、いつの間にアトリエの中に入ってきたんですか!?
何て私の突っ込みは置いといてミミさんはまくしたてだしました。
「こんなおおっぴらな所で…そんな恥ずかしい事を……!それに何なのよ!私を差し置いてロロナさんとやるっていうの!?」
「えっ?もしかして妬いてるのミミちゃん?それにここは別に人目につく所じゃないし、区切られた室内だよ?」
あっけらかんとしてトトリ先生は答えます。
「なっ!や、妬いてなんか……!」
「まあメルルちゃんはいるけど……別にメルルちゃんの前でなら見られても私は平気だしね」
「いや、そんな堂々と言いますか先生。目の前で見せられる私は平常心じゃないんですけど……」
何食わぬ顔で言い放つトトリ先生には何というか……末恐ろしいというか、まあ平常運転ですね、はい。
「と・に・か・く!そんなハレンチな事はやめなさい!あんたにはまだ早いわ!」
「えー、私もうとっくに成人してるしこれくらい普通だよ?ねえ先生」
「えー?ああ、うん。まあちょくちょくこうして甘えてくるよねトトリちゃん」
「んなっ!?」
ミミさんの顔が紅潮して驚愕に見開かれました。
まさか常態化しているとは思わなかったのでしょう。
まあ私もここまで2人の関係が進展しているとは思いませんでしたが。
あれ?って事はミミさんは?
トトリ先生の事が好きでゾッコンloveのミミさんからしたらこれはまずいのでは……?
「ちょ、メルル!何がゾッコンloveよ!?」
「え、違ったんですか?前にピュアトリフで盛大にカミングアウ―――もがが…!」
「だまりなさいっ!」
私の口を慌てて塞ぐミミさん。ちょ、苦しいですってミミさん!
コンコン
ふと、ドアをノックする音が響きました。
おそらくアトリエにやってきたお客さんでしょう。
「あ、誰か来たみたい。私が出てくるね」
すくっとソファから立ち上がったロロナさんが玄関の元へ歩いて行きます。
愛撫していた腕が解かれてトトリ先生は名残惜しそうにしています。
「はーい、ようこそアトリエへ……って、ステルクさん?」
「おや、ロロナ君ではないか」
ドアを開けた先にいたのは背の高い怖い顔をしたおじさんでした。
といっても変質者というわけではなく、私もよく知る顔見知りの方です。
名をステルケンブルク・クラナッハ。長いので通称はステルクさん。
アーランドの元騎士で、剣の腕は折り紙付き。
戦闘では頼りになりますが、王族や貴族相手だと変な性癖を発動させちゃう困った所も。
「何やら心地よくない物言いが聞こえたのだが……」
「いえいえ私は何も言ってませんよ。お気になさらずどーぞ!」
「むぅ……」
「ステルクさん、今日はどうされたんですか?」
私を見てしょげるステルクさんにロロナさんが促します。
「ああ、そうだったな。実はメルル君……いや君たち3人に依頼が来ていてな」
「私達3人に依頼ですか?」
ステルクさんは何やら大きな風呂敷包みを持っています。
机の上にひとまずそれを置くと、ステルクさんは早速封を解き始めました。
「これは……水晶玉ですか?」
「そうだ。とある呪術師から預かった」
包みの中から出てきたのは両手に収まるくらいの大きな水晶玉。
占い師が使うあの水晶玉です。それよりもちょっと大きいサイズかな。
「何でも曰く付きの代物らしくてな。この水晶玉には強力な“呪い”がかかっているそうだ」
「呪い?そんな恐ろしい物を持ってくるなんて……」
しらけた顔でステルクさんを見るトトリ先生。
その引いた視線を気にしつつステルクさんは続けます。
「ゴホン。そのかかった呪いを解呪してほしいというのが先方からの依頼だ」
「解呪……つまり呪いを解けって事ですよね」
「そうなる。錬金術の力で何とかならないだろうか」
ロロナさん、トトリ先生、私の順に目を移すステルクさん。
「いいですよ。私が錬金術の力で何とかしてみせます」
「出来るか、メルル君」
「もちろんです。それにここはといえば本来“私の”アトリエですからね。ステルクさんがここへ来たのも私に依頼するためなんでしょう?」
「……ああ、そうなるな」
「あれっ?ステルクさんさっき私達3人に依頼するって言ってませんでした?」
トトリ先生がステルクさんに尋ねます。
「それは……メルル君1人に頼むよりもロロナ君やトトリ君にも頼む方がメルル君も肩の荷が下りるかと思ってな」
「あはは、つまり私に気を使ったわけですね。まったくー、見くびられたもんです。確かに私はトトリ先生やロロナさんに比べれば錬金術の腕は劣りますけど、舐めてもらっちゃ困りますね。これでももう立派に一人前の錬金術士なんですよ」
ふんっと鼻を鳴らして私は言います。
気を使ってくれたのは有り難いですがあまり面白くはありませんね。
「あーステルクさん酷い!メルルちゃんの事信頼してないんだ」
「いやそんな事はないぞ。ただこの水晶玉には危険な呪いがかかっている。3人であたる方が安全面でよいのではと思ったのだ」
「まあ確かにその方がいいかもしれませんね。メルルちゃんはもう立派に一人前だけど、それでも念には念を入れた方がいいかもしれませんから」
「あら、珍しいわねトトリ。てっきりロロナさんと同意見だと思ったけど」
ミミさんがトトリ先生に尋ねます。
確かに私も同意です。
危険かもしれませんけど、これくらいの案件私1人でも何とか出来ますよ。
「うん、メルルちゃん1人でもいけるとは思う。………でも、」
言葉を切って、トトリ先生は視線を水晶玉に移しました。
その瞳は、心なしか物憂げな様子を抱いています。
「何だか、嫌な予感がするの」
ピ カ ッ
次の瞬間、水晶玉が光を放ちました。
何の予兆もなく、突然に玉が激しく光り出したのです。
強い光線が部屋中を満たし、眩しさで何も見えません――!
「うわっ、何よこれ……!」
「ま、まぶしいよーー!」
「くっ…!光で不意打ちとは卑怯な……!」
「この光は……!?」
「め、目が眩む……!」
凄まじい光の放射に私達は目をつぶらざるを得ませんでした。