「あの。い、今のビデオはいったい……」
重苦しい空気が流れた中、沈黙を嫌うようにロッテさんが言いました。
「私のビデオは何か、知り合いが捕まって酷い目に合わされてたんですけど……あの映像って本物なんですかね……?」
「ロッテ、私の映像もそうだったわ。コルテス兄様やミルカ、ユリエさん達が縛られていて、顔には酷い暴行を受けた痕が――。あれが本当に本人達だったなら……」
「私のもだよ。故郷の街の顔馴染みが手錠で拘束されてて、明らかに乱暴されたような傷を負わされてた…」
ステラさん、ソフィーさんが相次いで言います。
「こちらも同じだ。映像の中では親しい者が囚われ、荒事を見舞われた形跡があった」
「私の所も、お母さんとお父さんが、た、大変な目に……」
ステルクさん、リディーさんも同じく口を揃えました。
やはり、私以外の皆も同様の映像を見せられたようです。
「でもさ、あの映像が本物かどうかなんてわからないんじゃないかな?」
「フィリスさん」
「だって本人が目の前にいるわけじゃなくて、あくまで映像を通した姿でしょ?だったら偽物かもしれないよ」
フィリスさんが映像の信憑性に言及しました。
言われてみれば、さっきのケイナ達は目の前で本人かどうか確認したわけではなく、映像を見せられただけです。
「フィリスちゃんの言う事はもっともだと思う。確かに映像だけじゃあれが本人かどうかは疑わしいよね」
「もしかすると、モノクマの作った偽造動画という可能性もありますね。私達にコロシアイを起こさせるためにでっちあげたものなのでは?」
ソフィーさんとプラフタさんが彼女に同意して頷きました。
続いてエクス君が言います。
「それで決まりだな。あの映像は本人に見立てたただの偽物だ――」
「偽物なんかじゃない!!」
突如つんざくような叫び声が辺りに響き渡りました。
声の主は……スールさんです。
エクス君の言葉を彼女が叫んで遮りました。
「あれが偽物?どこをどう見たらそう見えるの?あれは間違いなく本物のお母さんとお父さんだった――」
あの映像に映る人は紛れもなく本人だった――そう彼女は言います。
「本物かどうかぐらい映像を通してでもわかるよ!あれは……偽物なんかじゃ、ない!」
「私も…そう思う。あそこに映ってたお母さんやお父さんが偽物だとは思えない」
彼女の言葉にリディーさんが頷いて賛同します。
「それに。もしあの光景が本物だったとしたら、一刻も早く助け出さないと危ういです。このまま暴行をされ続ければ、命の危険がありますから」
「そうね。映像が本物の本人達ならすぐにでも救援に向かってあげないとまずいわ」
ステラさんがリディーさんの発言に同調します。
「そうですよ、早く、早く助けに行かないと……!」
「落ち着いて、スールちゃん。気持ちはわかるけど、今はまずは出口を見つけないと」
焦りを見せるスールさんをソフィーさんが落ち着かせるように言いました。
「そうだな、まずは出口を見つけない事には助けに行く事も出来ない」
「ですね。どの道この後は出口を探す予定でしたし、これから手分けして何としてでも脱出口を見つけましょう」
ロジーさんの言葉にロッテさんが意気込むように言いました。
そうだ、今から早急に出口を探し出さないと。
でないと、もしあの映像が本物だったとしたら、ケイナが……。ルーフェスに、お父様も……。
このままじゃ、死――。
いや…!絶対に死なせたりなんかしないんだからね……!
それから視聴覚教室を出た私達は、すぐに皆で手分けして出入り口を探し始めました。
昨日探し切れなかった場所を、念入りに、意識を集中させながら。
くまなくくまなく、探索して調べていきました。
しかし――。
1日中探しましたが、この日はついに出口を探し出す事は出来ませんでした。
「くそっ、今日は見つからなかったか……」
「しょうがないですよロジーさん。これだけ皆で協力しても駄目だったんですから」
「仕方ない。明日また続きをするとしよう」
「でも、それだとお母さん達がまた暴行を加えられて……!」
「まあまあスーちゃん。まだあれが本物だって決まったわけじゃないんだから」
「気持ちはわかりますがスール。ですが、もうじき夜の0時です。これ以上探し続けても私達の体力が先に尽きてしまいますよ」
「そうだね、私もプラフタの言う通りだと思う。癪だけど、とりあえず今は少し休んで休息を取らない?明日またすぐに朝から探索を再開すればいいからさ」
「そう、ですね……睡眠は取らないと、無理をしてもこちらが潰れてしまったら意味がないです」
「リディーまで……」
皆に説得され、スールさんは渋々今日の探索を諦めました。
彼女は寝る間も惜しんで一刻も早くお母さん達を助け出したかったのでしょう。
私も、気持ちは同じです。
ほんとならすぐにでもケイナを助けに向かいたい……!
でも、それは叶いそうにありません。
今はとにかく我慢して睡眠を取るしかないみたい。
「………」
「もう、メルルちゃん暗いよ~!」
「…えっ」
突然朗らかに言われて私は振り向きました。
するとフィリスさんが笑顔で立っていました。
「暗い、暗いよ!こういう時こそ明るくいかなきゃね!」
「フィリスさん……」
こんな時でも底抜けに明るい彼女。
彼女もたしか家族が人質に取られている可能性があるはずですが、どうしてそんなに楽観的でいられるんでしょうか。
「フィリスさん……家族の皆さんが、心配じゃないんですか?」
「いやいや心配だよ!?まあそもそもあれが本物かどうかもわかんないしね」
当然心配だよ!と彼女は弁解するように言います。
「でも、焦ってばっかりいてもしょうがないもん!余裕がない顔してると心にまで余裕がなくなっちゃうよ」
「まあ……たしかに、そうかも」
「うんうん、そうそう」
スマイルスマイル、と言って彼女はおちゃらけて見せます。
「笑顔は心にゆとりを生むからね。メルルちゃん、ほら笑って~」
「………にへら」
私はとりあえず笑顔を作ってみます。
「うんうん!……なんかすっごくニヒルな笑顔だけど、まあとにかく笑顔っていいよね!」
あはは!と笑って彼女は頷きました。
彼女なりに元気づけようとしてくれたのでしょうか。
まあそう受け取っておきましょう。
「皆さん、今日はここで一旦解散にしましょう。部屋でゆっくり休んで、また明日探索を頑張るとしましょうか」
「そうですね、今はまずは自分の身体を休めないと。皆例の映像が心配なのはわかるけど、やっぱり体が資本ですから」
「うー……明日こそは、絶対に出口を見つけ出してやる……!」
プラフタさんが解散の口上を取り、今日の探索はここでお開きになりました。
スールさんはまだ探したがっていましたが、とりあえず我慢して引き下がったようです。
「ああそれと、念のため言っておきますが。皆さんモノクマの映像に刺激されて変な気を起こさないように」
「もちろんです。早く皆を助け出したいからってコロシアイに走ったりなんてしませんよ」
「焦りを募らせて凶行に向かわせるのがあいつの狙いだろうからね」
ロッテさんとソフィーさんが頷き合います。
たしかにモノクマからの“プレゼント”にはそういう魂胆があったのかも。
でも、確かに気持ち的には結構焦っている私がいる。
もし、あの映像が偽物なんかでなく本物だったとしたら。
そしてこのまま成果なく日が経っていったとしたら……。
私は自分が何もしないでいられる自信が正直ありません。
まあ、でもそんな事は起こり得ないでしょう。
この優秀な精鋭達で協力していけば、1日2日もあれば脱出口が見つかるはずですから。
そして翌日。
さらに翌々日。
……残念ながら、いずれも私達は出口を見つけ出す事が、出来ませんでした。
5日目。
そろそろ皆心理的にも余裕がなくなってきました。
「どうして、何で出口がどこにも見当たらないの……?」
「既に探せる場所はあらかた探し終えたはず。あと残っている所といえば――」
「封鎖されている立ち入り禁止区域くらいだな」
ステルクさんが腕組みをして言います。
確かに、残っている場所というともうそのくらいしか思い当たりません。
「でも、モノクマが言うには封鎖区域は条件を満たさないと探索可能にならないって話らしいですよ」
「ロッテ、その条件って…?」
「私達が裁判でクロ相手に勝ち抜いたら、だってさ」
「そんな……それってつまり、私達の誰かがコロシアイに手を染める事が必須って事じゃない」
えっ、そんな条件をモノクマはつけていたんですか?
それじゃ、もし出口が封鎖区域にあったら万事休すじゃないですか。
「これじゃ、探索も手詰まりですよ」
「ロジーさん、何とかならないんでしょうか…?」
エスカさんが困り果てたようにロジーさんに言います。
「既にモノクマに封鎖区域を解くように交渉はしたんだが。条件を変えるつもりはないの一点張りでな。どうにもしようがない」
「そんな……」
「もう我慢ならない!無理矢理にでも封鎖区域に入って探索してやる!」
いきり立ったスールさんが立ち上がりました。
彼女は抑えていたたがが外れたのか、封鎖区域でも構わず潜入して捜査するつもりのようです。
「待ちなさい、スール!」
「うるさい!もうこれ以上待ってなんかいられない!」
プラフタさんの制止にも耳を貸さず、彼女は走り出してしまいました。
「ちょっと、スーちゃん!」
「まずい、止めるんだ…!」
ソフィーさんとステルクさんが慌てて後を追います。
私も2人の後から走って追随しました。
しかし、先行しているスールさんは足が速く、なかなか追いつけません。
一気に廊下を走り抜けて2階への階段を上り始めた彼女は、封鎖区域である3階に足を踏み入れようとしています。
3階は現在封鎖区域に指定されているはず。
ただし、他の封鎖区域と違って門で通行止めになっているわけではありませんでした。
あそこにはKeep outのテープガードが貼られているだけで、突破しようと思えば出来る状態になっています。
スールさんは俊足を飛ばして階段を駆け上がり、
いけない、間に合わない……!
ド ン
「かはッ…!」
鈍い音が響き、彼女の身体が地面へと崩れ落ちました。
3階へと続く階段の手前でいきなり彼女の動きが止まったのです。
いったい何が……?
「勝手にルール違反をされたら困る。規則は守ってもらうぞ」
彼女の前にはエクス君が立ち塞がっていました。
彼の手には拳が握られています。
どうやら走ってくる彼女の鳩尾に拳を打ち込んだようです。
「スーちゃん!」
いつの間にか後から1番にやってきたリディーさんが倒れ込んだスールさんに駆け寄りました。
しかし彼女の呼びかけにも応答はありません。
「エクス君…!」
「慌てるな。気絶させただけだ」
問いただす私にそう答えると、彼は踵を返して階段の下へと降りていきました。
スールさんを見ると、呼吸はちゃんとしているようです。
どうやらエクス君の言う通り意識を失っているだけみたいですね。
「スーちゃん、よかった……」
ほっとしたようにリディーさんが胸をなで下ろしました。
「リディーちゃん!スーちゃんは」
「無事か!」
階段の下からは後れてフィリスさんやロジーさん達が駆けつけました。
その後、追ってきた皆に経緯を説明し、とりあえず彼女の無事が確認出来た事を伝えました。
気絶した彼女をステルクさんに背負ってもらい、とりあえず保健室に運ぶ事にします。
「どうですか、スールさんの容態は」
「アーシャ君に診てもらったが、意識を失っているだけで命に別状はないようだ。彼女にはリディー君が付いてくれているし、ひとまず安静にしてベッドに寝かせておこう」
しばらくして保健室から出てきたステルクさんに彼女の状態を訊いた所、気絶はしているものの安全な状態だということで私はひとまず安心しました。
よかった……。
しかし、まさかエクス君がああやって止めてくれるとは。
やり方は乱暴だったけど、あのまま封鎖区域に入っていたら彼女は校則違反で殺処分されていたはず。
それを防いだ彼には感謝しないといけませんね。
「ところでエクス君はどこに?」
「わからん。階段ですれ違ったきりだ。多分どこかで1人調査を続けているのだろう」
「まったくもう。相変わらず1匹狼なんだから」
それにしても、彼は何であんな所にいたんだろう?
何かを調べていたとか?まさか彼も封鎖区域を越えて捜査しようとしていたんじゃないよね?
「しかし事なきを得たからよかったものの、危なかったな。やはり日数が経過してきて心理的に追い詰められていたのが原因だろう」
「そうね、もう今日で5日目だもの。既にあのビデオを見せられてから3日が経っているわ。もしあの映像を本物だと思っているなら、焦って我を忘れるのも無理もないかもね」
ステルクさんとミミさんが憂うように言いました。
そうです。あれからもう3日。
もしあの映像に映っていたケイナ達が偽物ではないとするなら。
あの後もさらに暴行を受け続けているって事になります。
そんな可能性は考えたくもありませんが。
でも、考えずにはいられません……。
「皆、ちょっと落ち着く時間が必要じゃないかな?」
この場にいないスールさんとリディーさん、アーシャさんとエクス君を除いた皆にむけてソフィーさんが言いました。
一同は今、今後の予定を話し合うために食堂に再集合しています。
「ここ数日皆で出口を懸命に探してたけど、ちょっと根詰めすぎてた部分もあると思うの」
「言われてみればそうですね。あの映像が気になって、早く出口を探さなきゃって前のめりになってたかもです」
「そうねロッテ。私も兄様達の安否が心配で、心に余裕がなかったのは否定できないわ」
ロッテさん、ステラさんがソフィーさんの意見に頷きました。
「うん。そういう意味ではモノクマの狙いに乗せられちゃってたとこがあったかなって。だから、この後はしばらく自由時間にしない?」
「自由時間ですか?」
「一度気持ちをクールダウンさせる意味でも、ゆとりを持つ時間を作った方がいいと思うの」
確かに、ここの所毎日探索探索探索ばかりでした。
しかし一向に出口は見つからず、焦りだけが募るばかり。
そういう意味では、ソフィーさんの言う通り、ここは思い切ってしばしフリーの時間を取った方がいいのかもしれません。
「そうだな。私もソフィー君の意見に賛成だ。一度気を休める意味でもその方がいいだろう」
「私も賛成ー。連日頑張りすぎて流石に疲れちゃった」
ステルクさんとロロナさんも彼女に賛同します。
他の皆も異論はないらしく、この後はしばらくの間フリーの自由時間を過ごす事になりました。