絶対絶望少女メルル   作:プレイズ

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(非)日常編6

【自由時間開始】

 

さて、自由時間は何をしましょうか?

ここの所ずっと1日中探索続きだったので、ちょっと息抜きをしたい所です。

あ、そういえば調度いい場所がありました。

2階の東廊下を行った奥にプレイルームという部屋があります。

ダーツやビリヤード、ボウリングなどの娯楽ゲームが楽しめる場所ですね。

2日目にエクス君と探索した時には回れなかった部屋なんだけど、後で他の方々からの情報で知りました。

「よし、じゃあ今日はそこで遊ぼうかな」

ガス抜きの意味でも遊びたい気分だった私は、早速そこへと行く事にしました。

 

【2Fプレイルーム】

階段を上がって東の廊下を進むと、程なくして目的の部屋が見えてきました。

プレイルームと書かれた表示を確認して、私はドアを開けてみます。

入室すると、中には娯楽機材が多数取り揃えられていました。

ビリヤード、ルーレット、ダーツ、麻雀、ボウリングまで何でも揃っていますね。

「うわあ、こんなに色々あるんだ」

予想よりも本格的にアミューズメントに特化した環境設備で私は意表を突かれます。

これなら丸1日遊べるかもしれません。

「るんたった~るんたった~♪」

「え?」

不意に部屋の中から誰かの鼻歌が聞こえてきました。

「シャ~ルシャルシャルシャルロッテ~♪」

「…………」

「あ、メルルさんじゃん」

奇妙な鼻歌に私が戸惑っていると、ロッテさんがこちらへ振り向いて言いました。

彼女はビリヤードの球をキューで狙いながら、私を見るとにひっと笑ってみせます。

「メルルさんもここへ息抜きしに来たの?」

「うん、まあここで遊んでたら気が紛れるかなって思って」

「ふふ、私もだよ」

どうやら彼女も気晴らしにここへと遊びに来たようです。

「何なら一緒にゲーム対決でもどうです?」

「ゲーム対決?」

「そう。各娯楽ゲームでどっちが上か、勝負しましょうよ」

突然ゲーム勝負を持ちかけてくるロッテさん。

まあ私としては息抜きに調度いいのでやぶさかでもないですが。

「いいよ。何のゲームで対決する?」

「そうだな~、じゃあまずは手始めにビリヤードからで」

手に持っているキューを見ながら彼女が言います。

「OK。ビリヤードかあ」

一応知識はあるものの、ビリヤードなんて私はやった事がありません。

コツとか全然わかってないと思うけど、ちゃんと出来るのかな?

 

「ルールはこうしましょう。ビリヤードの玉には番号が書いてありますよね?その中で自分の好きな番号の玉をコール(宣言)して、それを狙い打ってポケットの中に落とせれば1個につき1ポイントです」

ロッテさんがルール説明を始めます。どうやら独自のオリジナルルールで行うつもりのようですね。

「コールした玉を狙える回数は各1回ずつ。成功しても失敗しても、1ターンずつで交互に2人が打ち順を交替していく形で。玉は全部で10個あるので、全ての玉がなくなった時点でより多くのポイントを獲得した方が勝ちにしましょうか」

ほうほう、つまり自分が落としたい玉を狙い通り落とせた数の多い方が勝ちってことですね。

「まず盤の中央に10個の玉を三角形になるように固めて並べてください。最初にそこにショットを打ち込んで玉をばらしますから」

言われた通りに私は玉を中央に固めて並べていきます。

玉の数は全部で10個。

それをどれだけ宣言通りに落とせるかどうかを競うルールです。

「並べ終わったよ」

「じゃあメルルさん、最初のブレイクショット(散らし)をお願いします」

笑顔で彼女は自分の持つキューを渡してきます。

初手のショットで玉を散らす役を私にさせるようですね。

「どうやらメルルさんは初心者のようなんでハンデをあげよっかな」

にひっと笑ってロッテさんが言います。

「最初の散らしでポケットに玉が入ったら、その分はメルルさんのポイントでいいですよ」

「へえ、いいの?」

「私の方が手慣れてますからね」

話す感触では彼女は幾分かビリヤードを嗜んだ経験があるみたい。

ですが、ハンデなんてくれちゃっていいんですかね?

初心者とはいえ勝負事ですから、私本気出しちゃいますよ?

 

早速ショットを打ち込む体勢に入った私は玉の固まっている中央を狙ってキューを打ち込みました。

勢いよく放たれた打ち玉が10個の玉をバラバラに弾き飛ばします。

各玉はレールにバウンドして、様々な軌道を描いて方々に飛散。

 

ゴトン

 

私が弾いた玉の内の1つがコーナーポケットに落ちました。

やった!これで幸先良く1点先取です。

「お、上手く落としましたね」

「えへへ」

私は気をよくしてどや顔を決めて見せます。

この勝負もらいましたよ。

 

「じゃあ次はこれから交互に打っていきます。まずはメルルさんが先攻でいいですよ」

先攻を私に譲ったロッテさんは腕を後ろ手に組んで後ろに下がりました。

まずはお手並み拝見ってわけですね。

いいでしょう、私の巧みなファーストショットをその目に焼き付けてください。

「じゃあ私は1番の玉狙いで」

目標の玉をコールした私は、ポケットに落とすための軌道を頭の中で思い描きます。

1番球は間に邪魔な玉がないため、狙いやすそう。

それにそのボールのある位置はポケットから見て直線上。

真っ直ぐ玉を転がして当てられればそのまま落とせるはず。

イメージが描けた私は早速かがんでショットを打ち込む体勢を整えます。

玉に真っ直ぐキューが当てられるよう、慎重に狙いを定める私。

そして――。

 

カツン

 

コン

 

カタン

 

上手く打ち玉の中心にキューの先端を打ち込んだ私は、まっすぐに玉を転がす事に成功。

ショットはそのまま1番球に命中し、押し出された玉は見事ポケットの中に吸い込まれました。

「っし!」

「お見事。なかなか上手いじゃないですか」

思わずガッツポーズを決める私。

ロッテさんは率直に感心しているようですね。

ふふ、この調子で勝利まで一直線です。

 

 

 

「次は私行きますよ」

続いて後攻のロッテさんが射出の準備に入ります。

キューを構えて狙いを定めた彼女のコールした玉は――。

「落とすのは3番と4番と7番で」

ふぁっ!?

いきなり3個も宣告しましたよこの人。

普通はまず1個ずつ狙うでしょう。

3個も同時に狙うなんて、さては今の私のショットで焦りましたね?

3頭を追う者は1頭も得ず、になりますよ?

「全 集 中」

意味深な言葉を吐いてロッテさんが神経を研ぎ澄ませます。

彼女の瞳にロックオンされた玉は果たして……。

 

カツン

 

コン

 

コン

 

カン

 

カタン

 

カン

 

カタン

 

コン

 

………カタン

 

勢いよく打ち出されたショットが盤上を巧妙に跳ね返りながら玉を弾いていきます。

最初に弾かれた玉……狙いの3番球がまずはポケットの中へと吸い込まれました。

続いてレールにバウンドした玉にさらにもう1球が弾かれ、今度は4番球が図ったようにコーナーポケットへ。

そして、彼女の放ったショットは最後に7番球を捉えました。

そのまままっすぐに玉が当たり、まるでゴルフの絶妙なパターショットのようにゆっくりポケットの中へと吸い込まれたのです。

「う、嘘だ!?」

まさかのトリプル落としに私は仰天して声を出してしまいました。

こんな芸当あり!?

「シャ~ルシャルシャルシャルロッテ~♪」

軽快に鼻歌を歌いながらロッテさんが天井に向けてキューを突き上げてみせます。

これで一気に逆転を許し、スコアカウントは2-3になりました。

「はい、次はメルルさんの番ですよ」

「くっ」

にこやかにキューを渡してくる彼女に私は焦りを募らせます。

 

いや待て、まだ慌てる時間じゃない。

だったらこっちも複数落としを狙えばいいんだよ。

そう考えた私は宣言します。

「今度は2番と6番と9番を落とす」

「おっ、いいんですか?そんな一杯狙っちゃって」

ふん、あなたに出来て私に出来ないわけがないでしょうが。

さくっと3つ穴に落としちゃいますよ。

 

さっきのロッテさんのショットを参考にするに、強めにキューを打突する事でパワーショットを飛ばすのが有効そうですね。

そして複数回レールをバウンドさせる中で狙い玉の端に当てて弾き、それをコーナーポケットに入れると。

ようは強力な打ち込み、バウンドする軌道が狙い玉の端に当たるように計算して打てばいいわけです。もちろん狙うのはポケットに近い位置にある玉でないといけませんが。

さて、そうと決まれば実行するのみ。

かがんで射的準備に入った私はキューを構えて狙いを定めました。

今度はさっきよりもかなり強めに打たないといけません。

重要なのはパワーと精度。

腕のバネを効かせて出来る限り強力なショットをしないと。

「…………」

神経を研ぎ澄ませた私は、腕に力を込めて一気に解き放ちました。

 

バゴ!

 

ガツン!

 

「あっ…!」

私が放った一撃は痛快なパワーショット。

目論見通りに強力な打突を玉に打ち込む事が出来ました。

しかし――。

あまりにも力を入れすぎたためか、打った玉は跳弾せずにそのままレールを乗り越えてしまったのです。

盤の外に飛び出た玉はそのまま場外へ。

まさかのミスショット…!?

「あーこれはやっちまいましたね」

苦笑いしたロッテさんが転がった玉を見つめます。

「え!?今のってやり直しだよね?もう一回打ち直し出来るよね?」

「いや、今のはファール扱いでちゃんと一回分にカウントしますよ。だからこれで交替ですね」

「えーー!?」

無情にも打ち直しは不可。

これでターン一回分が無駄になってしまいました。

い、いやまだまだ。

この後挽回すればいいし余裕だよ。

 

そしてその後――。

 

コン

 

コン

 

カタン

 

カタン

 

コン

 

ゴトン

 

「よし、これで5番と8番と9番もゲットだね!」

「なあ!?」

またしてもロッテさんが3連落としを決め、さらに点差を広げられました。

これでスコアは2-6。

盤上に残る玉は2つなので、この後全部取っても逆転は不可能に……。

 

「というわけで」

ロッテさんがむかつくほどのどや顔を向けて言いました。

「シャルロッテの 大・大・大・勝・利~☆~!」

「~~っ……!」

キューをくるくると回してバトントワリングのように空中へ放り投げるロッテさん。

勝利の舞を踊る彼女を尻目に私は苦虫をかみつぶした顔をしています。

くそっ、調子に乗るなよこの野郎。

「へへへっ、いやーやっぱり勝つと気分がいいですなあ」

「……ちっ!」

「あれ?今舌打ちしませんでした??」

「え?何の事?多分空耳じゃない?」

何食わぬ顔をして私はやりすごします。

「しかし負けっぱなしは気分がよくないね。次は別のゲームをしようよ」

「いいですよ。じゃあ今度はダーツで勝負しましょうか」

私は気を取り直して別のゲーム勝負を提案します。

それに対してロッテさんが提案してきたのはダーツ勝負。

なるほど次はダーツですか。いいでしょう、今度こそ負けませんから。

 

その後――。

 

「よっしゃああ!また真ん中に的中来たあ!」

「あああああ!?また外れたッ!?」

立て続けにど真ん中にダーツを的中させるロッテさん。

対して私はてんで中心に当たらず……。

10連敗で私はダーツ対決でも負けを喫したのでした。

 

「く、くそぉ……!」

「またまた私の大勝ちですかー、いやー勝つって最高ですね!」

「まだ、まだだよ!今度はトランプで勝負で!」

このまま連敗で終わるわけにはいきません。

次こそこの女をぎゃふんと言わせてやるんだから…!

 

 

 

「よし!これなら……!」

2枚チェンジした私はにやりと笑みを浮かべました。

これで並び目はフルハウスの完成。

ようやくロッテさんのお株を奪えそうです。

「では、オープン!」

合図と共に私達は伏せていたカードを開示しました。

私の役はフルハウス。

向こうは――。

「ロイヤルストレートフラッシュで」

「はあああああ!?」

は…?冗談でしょ……?

そんな最高役がそんな簡単に出るわけないじゃん。

しかし、現実に私の目の前には整然と揃った絵柄が示されています。

「そ、そんな……」

これでトランプでも7連敗。

もう何をやっても勝てる気がしなくなってきました。

「ふふっ。何だか私、今日は凄く調子がいいみたいです」

好調なロッテさんはまさに敵無し状態。

残念ですが、どうやら今日の私に勝ちの目はないようです……。

 

 

「あれっ、もうこんな時間ですか」

ふと、ロッテさんが時計を見て言いました。

部屋の時計を見てみると、時刻は午前11時50分。

いつの間にか3時間近くも経っていたようです。

「そろそろお昼ですね。ここは一度お開きにしましょうか」

「くっ……勝ち逃げする気?」

「ふふ、まあまあ、気を取り直してまたお昼からリベンジすればいいじゃないですか。いつでも受けて立ちますよ?」

くそっ、この女余裕かよ。

お昼を食べたら今度こそ全力で叩き潰してやる……!

私は煮えたぎる気持ちを何とか抑え、一度昼食を取りに切り上げる事にしました。

 

【食堂】

「はあ~~」

「どうしたのメルルちゃん?溜め息なんかついちゃって」

隣の席に座っているトトリ先生が不思議そうに私に訊いてきました。

「いや、ちょっとフラストレーションが溜まっちゃって」

「それは良くないね。閉鎖空間にずっと居るせいで鬱屈した気分になってるんじゃないかな」

憂うように言うと、トトリ先生は懐から何かを取り出して差し出してきます。

「メルルちゃん、よかったらこれを飲んでみて」

「え?何ですかこれ…?」

先生の手に握られていたのは、何かのカプセル剤。

これはもしやお薬でしょうか。

「精神が不安定な時によく効く薬だよ」

「お薬、ですか」

やっぱりこれは薬みたいです。

気分が下がっている私を見て先生が気を使ったのでしょう。

「ありがとうございます。でも、折角ですけどいいですよ。薬を飲むほどの重いものじゃないですし」

「そう?でも別に危ない薬なんかじゃないし、気休めみたいなものだから大丈夫だと思うけどな~」

安心させるように微笑んで先生が言います。

「これはアーシャさんにもらった薬なの」

「アーシャさんから?」

「私、あのビデオを見てからしばらく気分が優れなくてね。家族の皆の事が心配でたまらなくて。それでアーシャさんに相談したら、不安な気分をほぐしてくれるっていうお薬を私に出してくれて」

そういえば、先生はモノクマのビデオを見せられてからかなり滅入っていたようでした。

ご家族が危険な目に合っているかもしれない、という可能性を見せられて、その不安が排除出来なかったのでしょう。

それを案じたアーシャさんが先生に不安を取り除く薬を処方したようですね。

「飲んでみたら、気休めかもしれないけど気分が落ち着いたの。不安でたまらなかった気持ちが柔らかく和んでいく感じ」

「なるほど、そういう精神の不安に効くお薬なんですね」

「うん、おかげでかなり体調はよくなったよ」

微笑む先生の様子は確かに先日の青ざめた表情からは上向いています。

薬の効果か、それともプラシーボ効果なのかはわかりませんが、今の先生には効果てきめんな薬だったようですね。

「だから、メルルちゃんにももしよかったらあげるね」

「はい、じゃあ1つもらっておきます」

折角先生が勧めてくれたので、私は1錠もらう事にしました。

「でもこれって他人が飲んでも大丈夫な薬なんですか?」

「アーシャさんが言うには、別に特殊なお薬じゃなくて汎用性のある薬らしいよ。効能としては気持ちが不調な人に効くお薬だけど、別に健康な人が飲んでも問題ないお薬なんだってさ」

「そうですか、なら大丈夫そうですね」

薬士アーシャさんのお墨付きという事なら危険はなさそうです。

では昼食の後に試しに飲んでみましょう。

 

その後、昼食時間になり、卓上に料理が運ばれてきました。

今日の昼食担当はエスカさん、ロロナさん、そしてソフィーさんです。

昨日料理担当だったアーシャさんとリディーさんが保健室に行っているため、代役としてソフィーさんが代わりを申し出ました。

「さて、ソフィーの料理の腕前拝見といきましょうか」

「もう、私の作った料理よく食べてるから知ってるくせに」

含み顔で言うプラフタさんに苦笑してソフィーさんが言います。

やはり彼女もなかなかの料理上手なのでしょう。

ちょっと見ただけですが、見栄えのいい各料理を見れば上手く作れているのがわかります。

これから食べるのが楽しみです。

 

「あれっ、そういえばエクス君は?」

「おや、そういえば姿が見当たりませんね」

既に昼食を取る時間帯ですが、エクス君の姿が食堂にありません。

私の指摘に気付いた他の方々も、辺りを見渡して彼の姿を探します。

保健室に居るスールさん、リディーさん、アーシャさんを除いた全員が今この場には揃っています。エクス君を除いて。

「彼はさっき階段を降りていってからは見ていないが、どうしたのだろうな」

「まさか部屋に引きこもってるんじゃないでしょうか?あの人、1人が好きそうでしたし」

エスカさんが類推するように言います。

でも、私は違和感を感じてしまいました。

「いや、それはないんじゃないかな。だって私が似たような事言った時にエクス君言ってたもん。『何で俺がそんな事をしなければならん、皆の集まりには参加するし、規則はちゃんと守らせてもらうぞ』って」

「そうですね。彼はぶっきらぼうでいて意外に規則には忠実なようですから」

プラフタさんが私の意見に頷きます。

「はい、だから何か別の理由で来れてないんじゃないかなって思ったんです」

私がそう言った時でした。

 

「ぎゃあああああああ!!!!」

 

「!?」

突然大きな絶叫が辺りに響き渡りました。

まるで雷にでも打たれたかのような、激しい叫び声が。

空気を凝縮して震わせるほどの叫喚に、食堂の皆に動揺が走ります。

「うひぃ!」

「な、何?今の凄い声……」

「今のって、悲鳴ですよね?」

「あの声は……スーちゃん?」

ソフィーさんが気付いたように言いました。

そういえば、スールさんの声に似ていたような気がします。

ただ、あまりにも苛烈に叫んでいたので私は彼女の声とはすぐにはわかりませんでした。

そのぐらい、常軌を逸したような叫びだったのです。

「何かあったのかな?私ちょっと行って見てくる」

「あ、待ってくださいフィリスさん、私も行きます」

席を立ったフィリスさんが食堂の出口に向けて走り出しました。

その後を私もすぐに追いかけます。

スールさんは意識を失ってずっと寝ていたはず。

その彼女があんな悲鳴を上げるという事は、おそらく目を覚ました彼女に何かアクシデントがあったんだ。

焦燥感を抱かずにいられない私は、自然とフィリスさんに追随するように走り出していました。

 

いったい何があったんだろう?

……そうだ、きっと悪い夢でも見たんだよ。

それで恐怖であんな悲鳴を上げて飛び起きたんだ。

だから、何も不安に感じる事なんてない。

私はそう自分の心を落ち着かせて平静を保とうとします。

大丈夫、何も問題なんて起きるはずがないよ――。

 

階段で2階に上がった私達は、そのまま西の廊下を走り抜けました。

その突き当たりに保健室があります。

部屋の前まで到達した私達は、ほぼ同時にドアを開けて中に足を踏み入れました。

 

「…え………?」

 

一瞬、時間が止まる。

 

私達の目に飛び込んできたのは――。

 

『ピンポンパンポーン♪』

 

直後、部屋の中にチャイムが鳴った。

 

それに続いて…モノクマの酔狂した声が響いた。

 

『死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!おまえら、現場の2階保健室に全員集合してください!』

 

そこには、床に膝をついて呆然としているスールさんの姿が。

 

そして、その脇にはアーシャさんが立ち尽くしていました。

 

彼女は口を両手で覆って食い入るように一点を見つめています。

 

その手は震えていて、動揺していました。

 

 

床にへたり込んでいるスールさんの目の前に、何かが倒れています。

 

 

目に入ったのは紫のゴスロリ衣装。

 

 

眠るように目を閉じた彼女が、そこに横たわっていました。

 

 

「何で………リディー………目を開けてよ………」

 

 

スールさんが消え入るような声で呟きます。

 

 

しかし、眼前の彼女が応える事はありませんでした。

 

 

彼女の双子の姉であるリディー・マーレンさんは、既に永遠の眠りについてしまっていた後だったから――。


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