「ああ、その2人なら先に外へ偵察に行ったわよ」
「え?偵察…?」
ミミさんが奥にある扉を指して言いました。
「あなたが起きる前にこの場所について皆に訊いてみたら、ここがどこなのか誰もわからないって言うのよ。だから、ちょっと外に出て辺りを調べてくるって言ってロロナさん達が少し前に出て行ったわ」
「…そうだったんですか」
うーん、何か妙ですね。
皆さん誰もこの場所がどこかわからないなんて。
それに、さっきの話じゃエスカさん達も私達と同じように水晶玉の光を見て眠ってしまったそうじゃないですか。
「そういえば、他の方々は――」
私は思い立ったように後ろを振り返ってみました。
今のごたごたの動揺で、まだ他にどういう人がいるのかよくわかっていません。
「あ、やっとこっちを見てくれた」
「うわっ!?」
鼻面すれすれに顔があって、私はおののいて後ずさりました。
そんな私を見て眼前の女の子がケラケラと笑います。
「にひっ、驚いた?」
「あ、あなたは…?」
「私はシャルロッテ・エルミナス。あなたと同じ錬金術士!ロッテって呼んでくれると嬉しいかな」
「錬金術士…?」
あれ、どうして私が錬金術士だって知ってるんでしょう?
「ああ、それはというとね、さっき君の連れの人達に聞いたんだっ」
「あ、なるほど」
そうか、私が目を覚ます前にミミさん達から話を聞いているんですね。
「もう、ロッテってば。いきなり目の前に顔で寄られたら相手はびっくりするに決まってるじゃない」
「えへへっ、んまあね」
「悪びれないんだから……。あっ、私の連れがすみません。突然失礼を」
ケラケラと笑うロッテさんの後ろから呆れるように別の女の子が出てきました。
彼女は申し訳なさそうに私に頭を下げてきます。
「いや、別にそんな謝らなくてもいいですよ。気にしないでください」
「そうですか…ありがとうございます。んもう、ロッテってば」
ため息をついてロッテさんに注意する彼女は、気を取り直して私に向き直りました。
「あ、自己紹介が遅れました。私はシャリステラっていいます。ステラって呼んでください。よろしくお願いします」
「シャリステラさんですか。どうぞ、こちらこそよろしくお願いします。あ、ちなみに私はメルルリンス・レーデ・アールズっていいます。メルルって呼んでくださいね!」
しかし、ロッテさんと比べると随分と礼儀正しい方ですね。
見た所、お2人はお知り合いのようですが。
「あの、つかぬ事を伺いますが、お2人はお知り合いなんですか?」
「はい、私とロッテは一緒に旅をしている仲なんです。ここにも同じ場所から来ました」
「ずっと組んで各所を回ってきたもんねっ」
なるほど、やっぱりお2人はご友人なんですね。
でも何か意外です。ぱっと見相反する性格のようにも見えるんですが。
「あ、他にあっちのエスカさんとロジーさん、それとアーシャさんも旅仲間なんだっ」
「エスカさん達ともお知り合いなんですか。あれっ?ってことはステラさん達も水晶玉の光で…?」
「はい。一緒に立ち会っていたので私達も光を浴びてしまって……」
「それで、気が付いたらここで寝ちゃってたんだよね」
うーむ、ロッテさん達もエスカさん同様水晶玉の光のせいでここへ来る事になったみたいですね。
いったいこれはどういう事なんでしょうか。
こうも同じパターンが重なるという事は、誰かが仕組んだのでは……?
そういえば、私の所に水晶玉を持ってきたのはステルクさんでしたっけ。
まさか、ステルクさんが私を陥れるために水晶玉を持ってきたのでは……?
「それは断じて違う!!」
「うわあっ!?」
いきなり大声で叫ばれ、私は飛び上がってしまいました。
後ろを振り返るといつの間にかステルクさんが帰ってきていました。
「び、びっくりしたー。もう、何なんですかいったい」
「君は私を疑っているようだが。私は怪しげな企みなど一切していない。騎士道の精神に誓って言おう」
「は、はあ。でも、じゃあ誰があの罠を仕組んだっていうんですか。水晶玉を持ってきたステルクさんが1番怪しいと思うんですけど」
「そんな企みをして私に何のメリットがある…!ましてや一国の元王女をさらおうなど」
守るべき王族相手にそのような愚行は騎士道精神に則ってありえない、とステルクさんは豪語してみせます。
「でもステルクさんって王族とか貴族相手だと気持ち悪くなる所あるじゃないですか?普段のそういうとこを見てると、ちょっとあり得なくもないかなって」
「な、何を言う…!」
「えー、ステルクさんってメルルちゃんの事普段そういう目で見てたんだ…」
奥でトトリ先生が引いた目でステルクさんを見つめています。
「トトリ君、君まで何を言うんだ!」
「ステルクさん、メルルちゃんをそんな卑猥な目で見てたの……?私ショックなんだけど」
「ロロナ君までか…!ロロナ君までそんな事を言うのか…!くっ、ミミくん、君からも何とか言ってやってくれ!」
「………」
ばつが悪そうにミミさんはステルクさんから目線を逸らしました。
「ミミくん!?何で何も言ってくれないんだ!ええいとにかくだ、私は犯人ではない…!!」
「あの、すみません。その話、もう少し詳しく伺ってもいいですか」
焦りの色を濃くするステルクさん。
しかしその時、横から男性の声がかかりました。
助け船とばかり、ステルクさんがそちらを振り向きます。
声の主は先程エスカさんと話していた、ロジーさんという方ですね。
「俺の所もほぼ似たような事があったんです。俺が“とある依頼人”から依頼を受けて、それをエスカ達に頼んだんですが――」
ロジーさんによると、とある依頼人から水晶玉の呪いを解いてほしいという依頼を受けたんだそうです。
何やら特殊な錬金術を使う必要があるらしく、ロジーさんはそれをエスカさん達と共同で取り組む事にしたようなのですが――。
「それで、突然水晶玉から強い光が出て、我々と同じようにここへやって来た、ということか」
「ええ。そちらの話を聞いていると奇妙なぐらい似ていたもので、もしやと思ったんですが。どうやら全く同じ流れで俺達はここへ来る事になったようですね。これはおそらく“依頼人”によって仕組まれていたとみていいでしょう」
依頼人?
というと、ええと誰になるんでしたっけ?
ステルクさん、ではないですよね。
「私はあくまで依頼人から依頼されたものを持ち込んだだけだ。元の依頼主は私ではなく別にいる」
「それは誰なんですか?確か、呪術師とか言ってたような……」
「そう、呪術師だ。仮面を被っていて顔は見えなかったのだが」
ステルクさんの話によると、ギルドにいるステルクさんを呪術師と名乗る男性が訪ねて来たんだそうです。
その人は仮面を被っていて、黒いコートで全身を覆っていたんだとか。
「って事は、顔とか身体の特徴とかはわからなかったって事ですか?」
「ああ。わかるのは薄気味悪い感じの男だというだけで、外見の特徴はわからないようにされていた」
「じゃあ、声色はどうですか?声の感じでだいたいの年齢はわかると思いますけど」
トトリ先生が推理する様にステルクさんに尋ねます。
「声は初老の男性のものだった。年季の入った呪術師の男、といった所か」
「俺の所もそうですね。呪術師と名乗る者が俺を訪ねてきたんですが、仮面とコートで容姿を隠していました。声もそちらと同じく初老の男とみていいでしょう」
ロジーさんがステルクさんの話に納得したように頷いています。
どうやらあちらもほぼ同じ流れ、経緯でこの場所へと至ったようです。
むむむ、これは何やら事件の香りがしてきましたよ?
「はい、まあそんなこんなで盛り上がってきたところ悪いんだけどさ!」
不意に、傍から誰のものでもない別の声が聞こえました。
話していた私達の中心、その真下の地面から突然表われるように、それは飛び出してきたのです。
「うぷぷぷ。皆さんお待ちかね!看板マスコットである僕の――登場ーー!」