「えっ…!?ぬ、ぬいぐるみ……!?」
突然現われたくまのぬいぐるみに私はおののきました。
だって今喋ったんですよこのぬいぐるみ。
唐突に現われたのにもびっくりですけど、それが言葉を話すとか普通あり得ないじゃないですか。
「……いや、そうでもないか」
ふっと、私は我に返ってクールダウン。
そういえば錬金術を使えば、別に喋るぬいぐるみぐらい簡単に作れますよね。
「ボクはぬいぐるみじゃないよ、モノクマだよ!」
諸手を上げてぬいぐるみが抗議します。
「っていうか何なのさ!その冷めた反応は!喋るクマが出てきたのにもっとこう何かいいリアクションしてよね!」
「は、はあ」
何故か不満をぶちまけられる形になって私はとりあえず空返事してみます。
というか何で私、ぬいぐるみに抗議されてるんでしょうか。
「ロジーさん、あのクマちゃんどう思います?」
「悪趣味だな。俺好みじゃない」
「へえー、変なクマが出てきたよ。何だろね、あれ」
「わかんない……でも何か不気味」
エスカさん達、ロッテさん達も微妙な感想でクマを見ています。
まあそりゃそうですよね。
いきなりこんなのが出てきたら。
「うわ~何これー!ぬいぐるみのくまさんが動いて喋ってるよ!」
その時、私の後ろから誰かが走ってきてぬいぐるみを抱き上げました。
「ちょ、何するのさ!乱暴はよしてよね!」
「うへへ~可愛いぬいぐるみさんだあ」
ぐいぐいっと手足を引っ張ってその人はモノクマと名乗るぬいぐるみ?を触っています。
趣味悪そうな白黒柄なのに、あんなのよく触れるなあ……。
「わーしわしわしわし」
「僕は犬じゃないよ、クマだよ!クマ!」
「あ~可愛いなあこのくまもん……」
「くまもんじゃない!モノクマだよ!!!」
「あーよしよしよし」
「だから放してってば!……もういい……あんまり聞き分けのない子には―――」
ふと、モノクマの醸し出す雰囲気が急に変わりました。
おちゃらけたムードを消すように、クマから表情が失われます。
冷たい空気を一瞬感じさせたように私が感じたその刹那――。
「危ない、フィリスちゃん!」
誰かが彼女に向けて叫びました。
次の瞬間――。
ぬいぐるみが、弾けるように爆ぜたのです。
ドドオオオオオ!
モノクマの内側から閃光が漏れた直後、炎が吹き出して小爆発が起こりました。
辺り一帯を爆風が吹きすさびます。
「ぐ……!」
割と近めの距離で爆発が発生したため、私の所にも結構な衝撃波が……。
咄嗟に眼前に両手をかざし、私は勢いを軽減させます。
先刻水晶玉の光にやられた経験から何とか防御が間に合いました。
「………」
数秒後、爆風の勢いは緩やかに収束。
しかし爆発の影響で周囲に淡い煙が漂っていますね。
「あ、今の人は……!」
そういえば、モノクマの爆発を間近で受けた彼女はどうなったんでしょう。
抱いていたせいで彼女はゼロ距離であれを喰らったはず。
まさか………。
「フィリスちゃん!」
「フィリス!」
「「フィリスさん!?」」
背後から叫び声が放たれます。
おそらく爆発が直撃する形になった彼女の名前でしょう。
あの威力の爆発をもろに受けては、もちろんただでは済まないはず。
「ふぃー、危なかった!」
「……!」
煙幕が晴れた先に、一人の立ち姿が見えました。
白いコートが微風に揺れています。
その姿を見て私は驚きに目を見開きました。
何とさっきの彼女がそこに立っていたのです。それも無傷で。
彼女の前方にはバリアのようなものが張られており、爆風を防いでいました。
あれは、まさか錬金術……?
「フィリスちゃん!よかった、無事で…!」
「いや~間一髪でしたぁ…。ソフィー先生の声のおかげで咄嗟にアイテムを投げたんですけど、うまくいって結果オーライ?みたいな…!」
「まったく……あなたという人は。大事に至らなかったからよかったものの、危険にもほどがあります」
「もう、心配させないでくださいよフィリスさん!死んじゃったかと思ったじゃないですか!」
「ほんとですよ!いきなり走っていったかと思えば、不審物を触って抱き寄せるなんて。警戒心がなさすぎです」
「あはは、ごめんごめん」
爆発の影響を逃れた彼女の元に、仲間と思われる方達が群がってきます。
どうやら本当に無傷みたいですね。
あの間近の爆発に咄嗟に対処してみせるとは、いったい彼女は何者なんでしょうか。
「あれ、そういえばぬいぐるみは?今ので死んじゃったのかな」
「だからぬいぐるみじゃなくて、モノクマだってば!」
「うわっ!?」
私の足下から、それは再び飛び出てきました。
今爆発したはずの、モノクマです。
「んもう、失礼しちゃうよね!ぬいぐるみだの不審物だの、ボクの名前はモノクマだってば」
「い、今爆発して死んだはずじゃ……!」
「ん?うぷぷ、ボクはスペアがたくさんいるからね。あんなちょっと爆発した程度じゃ死なないよ」
両手を口元にあてて、モノクマが楽しそうに笑いを浮かべます。
「ちょっと!あなた何てことしてくれたの!」
「んん?」
笑うモノクマの前に、一人の女性が歩み出ました。
白いコートに身を包んだ彼女は、先程危ないと声をかけた方です。
「突然爆発して、フィリスちゃんが大怪我する所だったじゃない!」
「ああ、でも今のはそっちが悪いよ。ボクの忠告を無視して好き勝手もてあそぶんだから」
ふう、とため息をついてモノクマは言います。
「ボクに対する無礼な行為は禁止。校則を破れば相応のペナルティを受けてもらうんだからね」
「はあ?校則って……何」
「これを見てちょーだい」
そう言ってモノクマが天井に向けて何かを放り投げました。
空中にバラまかれたそれは、私達の手元に降ってきます。
おっと、私の手元にも落ちてきましたよ。
パシッとそれをキャッチして私はそれを見てみました。
【生徒手帳】
端末上の電子画面にはそう表示されています。
これはいったい…?
「ええとね、これはお前らの“生徒手帳”になります。この学園で生活する上で必要不可欠になるから、なくさないように気をつけてね!」
「生徒手帳って……それに、学園?意味がわからないんだけど」
「ここは希望ヶ峰学園だからね。お前らがこれから毎日暮らすことになる学園施設だよ。その校則がここに書かれていますので、よく目を通して見ておいてください!」
…………。
希望ヶ峰学園?
ここは何かの学校って事なんでしょうか…?
で、いったい何でそこに私達が連れてこられたんでしょう。
「うぷぷ、そういえばまだ言ってなかったね。お前らにはこれからここで“殺しあい”をしてもらいます」
「え?」
え……?
今なんて言ったんでしょう?
「“殺しあい”をしてもらいます」
………。
………。
へ………?
「………」
「………」
「………」
殺しあい?
ええっと……。
ここで、それをしろと……?
「ふふ、それはなかなか面白い冗談ですね」
「おろ?」
私の横に控えていたトトリ先生が呟きました。
モノクマがそちらに目線を向けます。
「殺しあいっていうのは何かのゲームで皆で遊ぼうっていう比喩ですよね」
「そうだよ。うぷぷ、ただしただのゲームじゃなくて“デスゲーム”だけどね」
「デスゲーム……」
どくん。
その言葉を聞いた時に、私は何か怖気のようなものを感じました。
まさか、本気で言ってるわけじゃないですよね。
「ちなみにさっきの爆発はその知らしめのためにやったのもあるんだけどさ。残念ながら失敗しちゃったけどね」
「あなたねぇ……!」
白コートの女性がモノクマにくってかかりました。
「そんなふざけた理由でフィリスちゃんに危害を加えようとするなんて、冗談じゃ済まさないんだから!」
「うぷぷ。だから冗談なんかじゃないんだってば。ボクは本気だよ?」
「そう…、なら……!」
彼女は持っていた杖を眼前にかざしました。
そして殺気をモノクマに向けます。
まさか、その杖で何か攻撃を――。
「よしなさい、ソフィー!」