「さて次は誰にしましょうか」
私はトトリ先生に向いて問いかけました。
「うーん、そうだね……あ、じゃああの2人はどうかな」
先生が指さした方を見ると2人の少女がいました。
1人は黄色い服を着ている快活そうな女の子。
もう1人は紫のゴスロリチックな服を着た落ち着いた感じの女の子です。
……脇腹が大きく露出してるのが何か気になりますけど。
「すみません、ちょっと自己紹介いいですか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「どんと来てください!」
くるりと同時に振り向いて2人は快く応じてくれました。
「私はメルルリンス・レーデ・アールズです。錬金術士をしてます。長いのでメルルって呼んでください」
「メルルさんですね。私はリディー・マーレンっていいます。錬金術士の姉妹です。こっちのスーちゃんとは双子で私が姉になります」
「私はスール・マーレンです!同じく錬金術士をやってる姉妹です。こっちのリディーとは双子で、私の方が妹ですね」
ほうほう、まさかの双子ですか。
確かに言われてみればお2人共少し風貌が似てますね。
でも、顔の造形が滅茶苦茶似てるってわけでもないので、一卵性ではなく二卵性の双子って感じでしょうか。
「あの、メルルさんのフルネームって何か王族っぽいですね」
「え?」
「あ、私もそう思った。“レーデ・アールズ”って部分が何かそれっぽい!」
おおっと、何と私の出自を言い当てられてしまいました。
その通り、正解です。
「あはは、凄い、当たってますよ。私は元王族の出なんです」
「おおーっ!?ほんとに王族だったんですね!」
「やっぱり!だって王冠の飾りも付けてるしそれっぽいもん!じゃあメルルさんってお姫様なんだ」
「まあ“元”ですけどね。住んでた王国が共和制に移行したので今は王族からは退いています」
そう、私はアールズ国の元王女。
王族の姫として国を開拓してきましたが、体制が共和国へと変わった事で王族ではなくなったんです。
「でも凄いですよ!憧れちゃうな~お姫様……」
「うんうん、私達の家って貧乏だったから王宮の生活とか天上の世界って感じで……」
「ふふ、メルルちゃん羨望の的だねえ」
「もう、茶化さないでくださいよ、トトリ先生。それに、王宮暮らしってのも意外と退屈なもんですよ。私はしょっちゅう城を抜け出して城下町に出かけてたくらいですから」
「へえ…!庶民的なお姫様だったんですね!」
あ、あはは……庶民的っていうと何か姫って立場とは場違いな感じがしてちょっとチクチクするかも。
「もちろん、王族がただ華やかなだけじゃないって事はわかっています。だよねスーちゃん?」
「うん。私、王族の王子様と将来一緒になる予定なので、王宮での振る舞いってものを今から意識しておこうかなって思ってまして」
「おや、というと王族の方と付き合っているんですか?」
「いやいや…!まだ付き合ってるとかじゃないんですけど、想い合ってはいるっていうか」
「へえ、王子様とのラブロマンスかあ……とっても素敵だね」
照れ隠しするスールさんを見てトトリ先生がまたころころと微笑みます。
「もう、そんなんじゃないですってば……!」
「ふふ、まあまあ。でも、だからこそスーちゃんも今の内からノブレス・オブリージュを身に付けていかないとね」
「うん…!だからメルルさん、もしよければ今度私に王族としての心得を教えていただけませんか?」
「いいですよ。元王女として、アドバイス出来る事なら何でもしちゃいます」
あんまり真っ当なお姫様っぽくはなかった私だけど、元王族として助言出来る事があれば何なりと訊いてやってください。
何でもお教えしますよ。
「さて、じゃあ次は――」
周囲を見渡して、まだ自己紹介が終わっていない人を探してみます。
ステラさんとロッテさんにはさっきしたので割愛するとして、私達アーランド勢を除けば残りはあと4人いるはず。
「あ、あの人達にもちゃんと自己紹介しておこう」
私は前方にエスカさんとロジ-さんを見つけました。
この2人とはさっき少し話していますが、まだ私の方は名乗っていません。
早速自己紹介に向かいます。
「あの、すみません。自己紹介いいですか?さっきは名乗れなかったので」
「あ、はいっ。いいですよ」
「どうぞ、俺達の方こそ改めて紹介させてください」
2人の元へ行くと、私の方から切り出します。
「私、メルルリンス・レーデ・アールズっていいます。錬金術士をしてます。長いのでメルルって呼んでくださいね」
「メルルさんですか。私も改めて紹介すると、エスカ・メーリエっていいます。同じく錬金術士をしてます。こちらこそよろしくお願いします」
「俺はロジックス・フィクサリオです。俺も錬金術士です。俺のフルネームは言いにくいのでロジーでいいですよ」
「エスカさんに、ロジーさんですね。ばっちり覚えました。これからよろしくお願いしますね!」
ぺこりと挨拶した所で、私は2人に気になっていた事を1つ訊いてみます。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが、お2人は付き合っているんですか?」
「え?」
「え?」
私の質問に、お2人はシンクロして固まりました。
「な、何でそう思われたんですか?」
「だって、とても仲が良さそうですし、お似合いだなって思って」
「あ、ああ……!そ、そんな事はなな、ないですよ。ね、ロジーさん…!」
「お、おお、そうだなエスカ。な、仲はいいけど別に、付き合ってるとかじゃ、な、ないよな」
明らかに挙動不審になるお2人。
何でしょう、そんなに恥ずかしい事でしょうか?
とってもいい感じにお似合いじゃないですか。さっきもモノクマから庇ってましたし。
「もう、素直じゃないなー2人とも」
「!」
「!」
不意に後ろから声がかけられ、振り返ると1人の女性が立っていました。
そこに居たのは黄緑色の服を着た美しい女性。
まるで妖精かと見まがうような衣装を身に纏っています。
「誰が見てもお似合いのカップルよ、あなたたち」
「ア、アーシャさん…!ちゃ、茶化さないでくださいよ」
「そうですよ、お、俺達別にそういうんじゃ…」
彼女に言われて、ますます赤面の度合いが強まるお2人。
ああもう可愛いなあ。
「あ、申し遅れました。私はアーシャ・アルトゥール。錬金術士兼薬士をしているの」
「アーシャさんですか。私はメルルリンス・レーデ・アールズっていいます。錬金術士をしてます。メルルって呼んでください」
この妖精のような衣装を着た方はアーシャさんというようです。
衣装だけじゃなく実際に綺麗な方ですね。
「アーシャさんは錬金術士であるのと同時に薬士でもあって、薬に関するエキスパートなんだよ」
「あの、薬士って事はお医者さんですか?」
「まあ患者さんにとって最適な薬の処方をしてるって所かしら。手術とかの高度な医療は出来ないけど、簡単な応急処置程度なら出来るよ」
へえ…!それでも十分凄いですよ。
錬金術士をしながらそんな事もこなせるなんて。
「もし、何か怪我とかした時は遠慮なく言ってね。私が良い薬を出して手当てしてあげるから」
「はい、それは心強いです!」
怪我をした時はアーシャさんに診てもらいましょう。薬に通じた方がいるならもしもの時も安心ですね。
さて、という事で、残るはついにあと1人。
まだ話してない人はどこにいるのかなー。
と私が辺りを見回していると、体育館の隅にポツンと立っている人を見つけました。
「あ、あの人は……」
腕組みをして帽子を被っている男の人がいます。
ツバが下を向いているので顔はよく見えないけど……。
雰囲気からして何となく男性だというのはわかります。
私はそちらまで近付いていって声をかけました。
「あのーすみません、自己紹介してもいいですか?」
「…………」
私の問いかけにも無言のままの男性。
「おーい、聞こえてますかー?」
「…………」
おや、まだ無反応のようです。
もしやほんとに聞こえてないんでしょうか?
耳元に口を寄せた私は大声で言いました。
「おーーい!!」
「うおおっ!!?」
びっくりしたように彼は肩を飛び上がらせました。
何だちゃんと聞こえてたんですね。
っていうか、この感じだと寝ていたのかな?
「な、何だお前は……」
「驚かせちゃいましたか?もしかして寝てました?」
「ああ……少し仮眠を取っていたところだ」
あらら、それは悪い事をしてしまいましたね。
「で、用件は何だ?」
「えっと、自己紹介をさせてもらおうかと」
「勝手にしろ。出来れば手短に済ませてくれ」
随分とぶっきらぼうな物言いですね。
まあいいでしょう。千差万別色んな人がいますからね。
「私の名前はメルルリンス・レーデ・アールズっていいます。錬金術士をしてます。長いのでメルルって呼んでください」
「また錬金術士か……」
「え?」
「さっきから錬金術士ばかりやってくる。ここには錬金術士しかいないのか?まあ何人かはそうでない者もいたようだが」
言われてみれば、確かにここには錬金術士の方が多いですね。
ここへ来てから私が自己紹介をした相手は全員が錬金術士でしたし。
でもこっちのミミさんやステルクさんは錬金術士じゃないですけど。
「かくいうあなたは錬金術士じゃないんですか?」
「俺は……記憶が思い出せない」
「え?」
「自分が何の仕事をしていた人間か、ここへ来る前の記憶がないんだ」
「彼は記憶を一部失っているらしいよ。だから他の皆よりも今の現状に不安を抱いているみたい」
トトリ先生が横から解説してくれます。
何と、記憶喪失という奴ですか。
「じゃあ、まさか自分の名前も覚えてないんですか?」
「いや、流石にそれは覚えている。俺の名はデウス・エクス・マキナだ……」
デウス・エクス・マキナ……?
それはまた随分と凄く意味深な名前ですね。
「長くて言いにくいから好きに呼ぶといい」
「そうですか。なら……エクス君で」
「…いいだろう。ところで」
そこで言葉を切って、エクス君はクククと笑いを漏らしました。
?何がおかしいんでしょう。
「お前のその衣装……何だそれは」
「はい…?」
「その歳でかぼちゃパンツはないだろう……クク」
!?
まさか、私のドロワーズを見て笑っているんでしょうか?
「失敬な!これはれっきとした王族の衣装ですよ」
「そうだよエクス君、女性の服装を笑うなんて良くないんじゃないかな」
「ふっ……そっちのあんたは随分と田舎くさいな。いかにも田舎娘が背伸びしてひらひらした服を着てるって感じだ」
「な…!」
ビキリ、とトトリ先生の顔に青筋が走りました。
あ、やばいやつだこれ。
「あー知りませんよ。私はともかくトトリ先生を怒らせたら地獄を見ますよ」
「ふふ、それはちょっと言い過ぎじゃないかなメルルちゃん?」
「ヒィっ!」
優し気な、しかし内側からドス黒いオーラが溢れ出したトトリ先生の笑顔が私に向けられました。
怖すぎる。命がいくつあっても足りないよ……!
「エクス君?」
「おお、何だよ」
「覚悟はいいかな?」
や、やばい…!
目が血走ってる!これは殺る気だ…!
南無三……!!
「あーはいはい、その辺にしときなさいトトリ」
「!?」
不意にトトリ先生の襟首を誰かの手が掴みました。
そちらを見ると、いつの間にかミミさんがやって来ていました。
「あんたが本気を出したら彼が死んじゃうわよ。そんな事でモノクマの言うコロシアイを開幕させないでちょうだい」
「ミミちゃん……」
はあ、と呆れ顔でため息をつくミミさん。
彼女にストップをかけられた事で、トトリ先生は気勢を削がれた形になったようです。
「ふぅ……もう、しょうがないなあ。ミミちゃんが言うなら」
ミミさんはそのままトトリ先生の襟首を引っ張って奥に行ってしまいました。
「は、はあ……た、助かった……」
何とか“暴発”の危機が去り、私はその場にへたり込みます。
「何だよあの女は……いきなりあんなキレる事ないだろ」
「エクス君が悪いんだよ。トトリ先生に田舎娘が背伸びしてるなんて言うから」
「はっ、んな程度で取り乱すとか面倒な女だ」
「エクス君、君は女性への言動はもう少し慎むべき!さっきの私への暴言といい、私が寛大な性格じゃなきゃ君は既に2度死んでるんだよ」
無礼極まりない彼に私は説教をかまします。
あれ、何だか私ルーフェスみたいだ。
ふふ、何かいつもと逆で笑っちゃうよね。
「つまらん説教なら願い下げだ。さっさと他に自己紹介に行けよ」
「あ、ちょっと……!」
彼はすたすたと足早に歩いて去って行ってしまいました。
せっかく女性へのマナ-を手ほどきしてあげようと思ったのに。
まったくもう。