黒潮お姉ちゃんシリーズ外伝   作:雨宮季弥99

1 / 26
霞編
霞編


 今日、私は提督の元で秘書艦をしているわ。まったくこの司令官は……司令官としての立場にあるのに微妙にポンコツなのよね。だから、私がしっかりとお尻を叩いて動かさないと……。あ、実際に叩くわけじゃないけどね。

 

 普段からそんな事を思っているせいか、私が普段彼に対して口にするのはクズ司令官という呼び名と数々の悪態。でも、彼はそれを許してくれていた。だから私はそれを変えることなく、そのままずっとこんな日が続くと思っていた。

 

「まったく、あの司令官は……」

 

 今日も私はそんな事を呟きながら書類の束を持って廊下を歩いている。まったくもう、私みたいなのに書類まで運ばせるなんてあの司令官は……。でも仕方ないじゃわよね、あの司令官、私がいないとちゃんと仕事ができないんだから。私がちゃんと支えてあげないと。

 

 そんな事を思いながら歩いて、提督室に到着した私は部屋の扉を開けようとして……ふいに中から声が聞こえてきたのに気付いたわ。相手は……司令官と、黒潮?

 

「司令はん、どういうことやねん! 霞を転属させるって!」

 

 え? 転属? わた……しの?

 

 聞こえてきた言葉が信じられなくて、私は少しだけ扉を開ける。すると、より明瞭に、話の内容が聞こえてきた。

 

「ああ。私の友人の鎮守府へ転属させるつもりだ。霞なら十分やっていけるはずだ」

 

「んなもん聞いとるんちゃうで! あんま接点のないウチから見ても霞はようやっとるんや、なのになんで転属させるや。あの子、なんか落ち度でもあったんかいな?」

 

 そうよ、私に一体なんの落ち度があるって言うのよ。私はずっと、司令の為に頑張ってきた。なのになんで!?

 

 怒りに任せて扉を開けようとして、でも、私は次の司令の言葉で動きを止めてしまっていた。

 

「彼女に落ち度はない。落ち度があるのは私だ。私はいつも彼女にクズと言われている……。だからだ」

 

 ……え? 私の……せい? 私がクズって言ってた……から? 許してたわけじゃなく……て?

 

「はあ? そないな理由かいな! そないな理由で霞を転属させよう言うんかい!」

 

 黒潮が更に追求しようとしてる。でも、私はこれ以上聞けなかった。……何も聞けなかった。

 

 

 そこから後の事はよく覚えていない。気づいたら私は自分の部屋で座り込んでいた。でも、私の耳にはあの司令と黒潮の話の内容が鮮明に残っていた。嘘じゃない……のね。

 

「わたし……わた……し……」

 

 なんでこんな事に? 理由なんてわかりきっている。司令官が許してると思っていた。それだけ信頼関係があると思っていた……。でも違ったのね。そう思っていたのは私だけ……。私の一方的な勘違い。私の言葉に、態度に司令官は傷ついていたんだ。

 

「アハハ……バカ……みたい……」

 

 ああ、これは罰なんだ。司令官にあんな態度をしていた私への罰なんだ。なら受け入れないと。……うけい……れな……いと……。

 

「霞、霞! 居るんか? 居るんやな? 入るで!」

 

 突然そんな声が聞こえてきたと思うと、黒潮が乱暴に入ってきた。なによ、なんでアンタが……?

 

「……霞、さっきの司令はんとの会話聞いとったな? ……書類が落ちとったで」

 

「……そうよ。聞いてたわよ……アハハ、バカみたいよね。転属だなんて」

 

「霞、よう聞き。あれはな……」

 

「ウルサイ! あんたに何か言われたって仕方ないじゃない! 司令は……司令は……私が嫌いだったんだから!」

 

 黒潮が何か言うより早く私は怒鳴っていた。なんでよ、なんで、言ってくれなかったのよ! そんなにクズって呼ばれるのが嫌だっていうならハッキリ言ってくれれば良かったのに、なんで勝手に転属なんてさせるのよ! 私が……私がどんな気持ちで司令官の為に働いていたと思ってるのよ!

 

「ちょっ、落ち着きいや、霞。そんなに嫌や言うなら、司令はんに直接言えばええやん」

 

「! 言えるわけないじゃない! 司令官はもうそうやって命令を下すんでしょ! だったら従うわよ! 艦娘なんだから……従うしかないじゃないのよ!」

 

「……おい霞。なんやねんそれは。ウチマジギレするで?」

 

 突然私の胸倉が掴まれたと思うと一気に引き寄せられる。抵抗する間もなく引き寄せられた私の目の前にあったのは、今まで見たこともないほどの怒りに満ちた黒潮の顔だった。

 

「命令に従わなあかん? そらそうや、軍隊なんやから当然や。でもなぁ、ウチらはもう船やない。自分の意思で動いて、喋って。表現ができる艦娘や。やのに命令に不服があるのにはいそうですかで受諾? アホ抜かすんやないで。……霞はホンマにそれでええんか? 何もせんと、このまま司令はんのもとから離れて、ホンマにええんか?」

 

 ……何よ、何よ何よ何よ! なんで黒潮がこんなに怒ってるのよ! 怒りたいのは私なのに! 文句を言いたいのは私なのに! 何なのよこれ!

 

「そんなわけ……ないでしょうが! 嫌よ! 絶対に嫌! 別の鎮守府に行く? 冗談じゃない! 私はね、あの司令官がいいの! あの司令官じゃなきゃダメなの! 例え微妙に仕事ができなくても、いっつも秘書艦するたんびに手を煩わされても! わた……私……私は……! あいつが……あいつがいい……のよ……! ウワアアアン! 司令官が良いのよー! 他の鎮守府なんか行きたいないのー!」

 

 謝るから! もうクズとか言わないから! 異動なんてしたくない! 司令官から離れたくない!

 

 途中から自分でも何を言ってるかわからない。でも、私はみっともなく泣きながら、ただ自分の想いを叫んでた。ただ叫んで叫んで……泣いて、泣いて、泣き続けていた。

 

「そうやんな。それが霞の本心やな。……司令はん、よう聞いたか?」

 

「……え?」

 

 黒潮が後ろを向いたと思うと、そこには……司令官……司令官!?

 

「霞! すまない、まさかこんな思いをさせていたなんて、本当にすまない! 私が悪かった!」

 

 黒潮が手を放したかと思うと司令官が私を抱きしめてきた。く、苦し……恥ずかしい……。

 

「良かったなぁ霞。これで転属はなくなるで。どや、たまには正直になるのもええもんやろ?」

 

「~~~! く、黒潮! アンタはあ!」

 

 今すぐに黒潮を殴りたい。でも私を抱きしめる司令官のせいでそれもできない。そんな私を見ながら黒潮は静かに部屋を出て行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。