黒潮お姉ちゃんシリーズ外伝   作:雨宮季弥99

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外伝 不知火歯磨き編3

「……不知火は汚されました。もうお嫁に行けません……」

 

 ベッドの上で不知火は遠い目をすることしかできません。あれから黒潮に強引に下半身を裸にされ、全部をくまなく拭かれ、新しいものを履かされ……穴があればもうズッと籠りたい。

 

「大げさやなぁ。ズボンとパンツ脱がせて寝汗拭いただけやんか。姉妹なんやしそんな恥ずかしがることでもないやろ」

 

「何を言って……ゴホッ! ゴホッ!」

 

 黒潮に文句を言おうとしましたが、不意に咳が出てしまいました。

 

「ほら、変に体力使ったせいでまた体調が崩れてきとる。もう寝とき」

 

 誰のせいかと言いたかったですが、言っても仕方ないので不知火はおとなしくベッドで横になります。はぁ……まったく。

 

「もう、そんなに怒らんといてな。子守歌歌ったるから、な?」

 

「……わかりまし……た」

 

 不知火が承諾すると、黒潮は不知火の片手で不知火の頭を撫で、もう片方の手で不知火の手を握りながら子守唄を歌ってくれました。その心地よさに不知火は自分でも驚くほどあっさりと眠りに落ちていきました。

 

 

 

「ん……ご馳走様です」

 

「お粗末さま。もうええ時間やなぁ」

 

 夜食も食べ終え、不知火は息を吐きます。黒潮の言葉に時計に視線を向けてみると、時刻は二一○五。確かにもういい時間ですね。

 

「夜更かししててもしゃあないし、早めに寝るほうがええんやけど……。不知火、寝れそう?」

 

「……完全に目が冴えてます」

 

 流石に一日ずっと寝続けたせいで目が冴えてまったく眠れそうにはない。体も徐々に体調がよくなってきているせいで暇を暇と思ってしまう余裕もでてきてますし……どうしましょう。

 

「んー。あ、そうや、ちょっと待っとってな」

 

 そう言って黒潮は夜食の器を持って出ていき……しばらくして戻ってきたときにはその手には歯ブラシと歯磨き粉、それに水の入ったコップと入ってないコップを持っていました。

 

「歯磨きしとこうか。体調も回復して来とるし、それぐらいの余裕はあるやろ?」

 

「ええ……まぁ……」

 

 そう言えばやっていませんでしたね。言われたら確かに口の中が気持ち悪いですし、やっておき……。

 

「それじゃぁ、はい、アーンしてな」

 

「……え?」

 

 気が付いたら不知火の目の前には歯磨き粉が乗っている歯ブラシが差し出されていました。しかも、不知火に向けられているのはブラシのほうで、柄は黒潮が握っています。

 

「く……黒潮……?」

 

「ほら、歯磨きしたるから口開けてぇな」

 

「い……いえ。それは流石に……」

 

「今更遠慮なんかせんでもええやろ。ほら、アーンして、アーン」

 

 く……いくら黒潮でもそんな歯磨きをしてもらうなんて……い、いいえ、逆に考えるんです。こんなことをしてもらうなんてこんな時ぐらいしかないんですから、ここは素直に……。

 

「……ア……アー……ン」

 

 意を決して口を大きく開けると、黒潮は歯ブラシを口の中に入れてきました。

 

「ほんじゃ、右……不知火から見たら左側やけど、そっちから始めるで」

 

「ふぁ……い」

 

 その宣言通り、黒潮は歯ブラシを左の下奥に突っ込み、そのまま磨き始めました。

 

「はぁ……あ……は……ん……」

 

 歯ブラシが丁寧に左側の歯を擦っていくいくたび、歯ブラシが頬の内側に当たるたび、ブラシが歯の付け根を擦るたびに不知火はなんだかイケない気分になってきます。

 

「んー、他の人にやるんは加減が分かりにくいで。不知火、痛かったりせえへんか?」

 

「はいひょ……うぶ……」

 

「それならええんやけどな。じゃ、次は前歯なぁ」

 

 歯ブラシが前歯に移り、擦っていきます。特に全面を擦るときに唇に指をかけられて引っ張られ、犬歯の下の部分を擦られたりすると……。

 

「は……ぁ……」

 

 見られてる。普段は誰にも見られないような口の奥も端も、全部黒潮に見られ、そして弄られてる。それを実感していくたびに不知火の心臓は高鳴っていきます。

 

「この辺は汚れがたまりやすいからなぁ。不知火、もうちょっとだけ我慢しててなー」

 

「ふぁ……い……」

 

 もうちょっとじゃなくてもいいですよ黒潮。しばらくこうしていても……。

 

「こんなもんかな? じゃ、次行くでー」

 

 あっさりと歯を磨き終わられ、黒潮の指が唇から離れます。……残念です。

 

 そんな不知火の気持ちをよそに、歯ブラシはそのまま右の歯を擦っていき、それが終わると次に上の部分に歯ブラシは移動する。歯ブラシで擦られるたびにコシュコシュ、ガシガシという音と、歯磨き粉の甘い匂いが頭の中に響き、鼻の中を通り、歯の汚れと一緒に不知火のなにかもこそぎ落されて、変わりの何かが塗られていくような……。

 

「不知火、もうちょっと我慢しとってなー」

 

「は……い……」

 

 黒潮の手が頬に添えられ、親指が口の中に入ったと思うと少しだけ引っ張られて口の中を覗き込まれます。その視線を受けて不知火は思わずシーツを握る手に力を込めてしまいます。ああ、黒潮……気づかないでください。不知火のこの心の高鳴りに、気づかないで……。

 

「……ヨッシャ、こんなもんやな。ほんじゃ、最後は口濯いでな」

 

 口から引き抜かれた歯ブラシから僅かに唾液の糸が伸び、それが切れたと思うと、黒潮は水の入ったコップと、空のコップを差し出してきました。不知火は水を口に含むと二度三度口を濯ぎ、空のコップに吐き出します。

 

「じゃ、片づけて……不知火、なんかさっきよりも顔が赤くなっとるで。大丈夫かいな?」

 

「だいじょ……うぶです……それより……片づけて……」

 

「お、おう、わかったわ」

 

 黒潮が歯磨きの道具を持って部屋から出ていくと、不知火はそのまま体を倒しました。熱い……体が……顔が……熱くて熱くて、心臓の高鳴りが、何もしていなくてもわかるぐらいに速くて……。

 

「……これなら……たまには風邪を引くのも……悪くありませんね」

 

 昨日の不知火は確かに不運でした。でも、今日は……それを補って余りある程、幸福でした。

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