「あ~……あんな楽しい気分、初めてかもしれんなぁ」
パーティーもお開きになって、ウチは自分の部屋に戻っとる。片づけを手伝おう思ったんやけど、全員から「今日は黒潮のパーティーだから片付けしなくていい」って言われてもうた。まぁ、陽炎達の時もそうしとったから予想はしてたけどな。
「……皆、色々くれたなぁ。ホンマ、ウチは果報者や」
今、部屋には姉妹達から貰った贈り物が積まれとる。他の艦娘が贈ってくれたもんもあるけど、やっぱり姉妹から貰った物は特別やなぁ。
「えーと……雪風と時津風は手作りのおもちゃか。今度一緒に遊んだらんとな。嵐は……おわぁ、BDボックスやん。高いやろこんなん……布教も兼ねとるんやろか? 秋雲からは……おおう、ウチの肖像画やん。しかもラフ画とかやなくてめっちゃ手込んどる……前に秋雲がイベントで売った言うとった15万円ぐらいしたイラストぐらい手が込んどるんやないか?」
他にも姉妹達からの贈り物を開けては、贈ってくれた相手への感謝を覚えていく。……ってあれ? なんか数足りんくないか?
「えーと……陽炎、不知火、親潮の名義のがないな……途中で落としたんか?」
落としたとしたら陽炎達に申し訳ないで、急いで探しにいかんと。
「黒潮さん、今よろしいですか?」
「ん? 親潮?」
部屋の扉を開けると、そこには親潮の姿があった。
「どうしたんや? あ、もしかして親潮からの贈り物落としとったん持ってきてくれたんか?」
「え? い、いえ……最初から、二人きりの時に渡したいと思ってたんです……。入っても、大丈夫でしょうか?」
「あ、そうやったんか。ええで、入ってぇな」
親潮を部屋に招いて、真ん中に一緒に座る。そんで親潮の言葉を待っとるんやけど……なんや、顔を赤くしてモジモジしとる。
「……親潮? どうしたんや?」
「あ、あの……あの……!」
顔を赤くしながら親潮はなんか言おうとして口を閉ざして……しばらくしてから「こ、これをどうぞ!」と言ってなんや本を差し出してきおった。
「えーと……サンマ料理大全? これ一冊でサンマを使った料理を全て網羅できます?」
親潮が差し出してきたんはサンマ料理の本やった……あー、そう言えば。
「……あの、ごめんなさい。もっと気の利いた物が良いかと思ったんですけど……」
「なに言うとるんや。ウチと親潮には縁のある食材の本や。十分気が利いとるし、ウチも嬉しいで」
サンマは黒潮と親潮が混じり合うポイントで脂の乗ったええサンマに育つ魚や。ウチらにとっては文字通り縁のある食材やで。
「ありがとうなぁ親潮。今度のシーズンでは美味しいサンマ料理作ったるから、楽しみにしとってな」
「は、はい! 楽しみにさせていただきます! ……えっと……あの……」
ん? どうしたんやろ? なんやまだ言いたそうにしとるけど。
「えっと……ビスマルクさんに聞いたんです。これは姉妹の愛情表現であって、いやらしい意味はないんだって」
「へ?」
不意に親潮がウチの顔を挟んでそのまんま勢いよく顔を近づけ……あいたあ!
「……! ……!!」
「…………!」
唇どうし……と言うか前歯どうしがぶつかって鈍い音がしたと思うと猛烈な痛みが走る。ちょ……親潮……これは酷いで……。
「……ごめ……くろし……お……さん……」
「た……タンマ……ちょ……待って……」
ウチも親潮もしばらくの間痛みに悶え……なんとか復帰すると、親潮が耳まで真っ赤にして蹲まっとった。
「……親潮、流石に今のはないで」
「……ごめんなさい黒潮さん、つい勢いが……」
……こうしてみると、陽炎も不知火も上手にウチのファーストキスとセカンドキス持って行ったんやなぁ……。しゃあないなぁ、もう。
「親潮、ちょっとこっち向いてぇな」
「え、なんですか黒潮さ……!」
顔を上げた親潮に、さっき親潮がやろうとした感じで……あくまでも勢いを付けず、優しく。親潮にキスをしたる。少しして口を離すと……え、親潮大丈夫かいな? 顔が漫画レベルで赤くなっとるんやけど。
「……親潮? 親潮?」
「……むきゅう」
おわあ! 親潮が倒れおった! メディック! メディーーック!
「……黒潮、あんた私には微妙な気分になるって言っておきながら、親潮には自分からするんだ」
「本当ですね。不知火の時には姉妹艦で姉妹姦は認められんって言ってたはずですが」
「……おわあああ!!! な、なんで陽炎も不知火もおるんや!?」
気づいたらいつの間にか二人ともおったんやけど! み、見られてもうたんかいな!
「ほら、親潮。起きなさい」
「……ハッ! って、あ、あれ!? 陽炎姉さん!?」
陽炎が喝を入れると親潮が起きて、陽炎の姿を見て困惑しとる。というかウチも困惑しとる。
「えーと……で、陽炎と不知火は何の用事で来たんや?」
「あんたに別個でプレゼント渡そうと思ってきたのよ。そうしたら親潮とキスしてたから驚いたわ」
「不知火も大変驚きました。……黒潮、私達とのキスで吹っ切れたんですか?」
「え? 陽炎姉さん達もキスして……ええ!?」
陽炎と不知火の言葉に親潮が目ん玉が飛び出んばかりに驚いとる。まぁ、そらまぁそうやろうなぁ……。
「まぁ……吹っ切れたんとはちょっと違うけど、ちーとばかし抵抗がなくなっとるんは確かやと思うで……せやからって、気軽にキスしたりとかせんといてよ」
「あんたが嫌がるならやらないわよ。それより……はいこれ。不知火と一緒に選んだやつだから」
そう言って陽炎が渡してきたんは……なんや、見覚えのある包装紙やな……ってこれって。
「見覚えあるでしょ? あんたが私のブローチを買ってくれたところの包装紙だもんね」
「え? てことはまさか……!」
慌てて中を確認すると、そこにあったんはリボンをモチーフにしたネックレスが入っとった……え、これ、見覚えあるけど、めっちゃ高こうなかったっけ? えーと、付いとる石は……。
「ついてるのはムーンストーン。6月の誕生石よ。真珠とどっちにしようか迷ったけど、あんたにはムーンストーンのほうが似合うと思ったのよ」
「それに、真珠は宝石の中では非常に傷つきやすいですので、こっちのほうが良いと判断しました」
そう言って嬉しそうに二人はウチを見てくる。ウチは恐る恐るネックレスを手に取ってみて……首につけてみる。
「……えへへ、どうやろ? 似おうとる?」
「勿論! バッチしよ!」
「似合ってますよ黒潮」
ネックレスを付けてみると、二人とも褒めてくれた。ちょっと馬子にも衣装な気もするけど……褒められたら悪い感じはせえへんな。
「ありがとうなぁ二人とも。……でも、これ、かなり高かったんやないん?」
「あんただって似たような物だったでしょ。そのお返しもあるんだから遠慮なく受け取りなさい」
「……そうやなぁ、そうさせてもらうわ。ありがとうなぁ二人とも。親潮、どう? ウチ、似合っと……親潮?」
親潮に声をかけると、親潮はなんや泣きそうな顔をしとった。なんやろ?
「親潮、どうしたん? なに泣きそうな顔しとるんや?」
「え……い、いえ! なんでもないです!」
声をかけたら親潮は慌てて否定しとるけど、嘘やな。絶対なんかある。
「……親潮、諦めてさっさと吐くんや。ここには陽炎も不知火もおるねんで。逃げれる思わんことや」
「う……」
ウチが詰め寄ると、親潮は少し迷いはしたけど……諦めて口を開いてくれたわ。
「わ……私……陽炎姉さんや不知火姉さんに比べたら……なんて安いものをって……」
……あー、そらまぁ宝飾品と本じゃ値段の差は大きいけど……。
「なぁ親潮。ウチの事そんな心の狭いやつやって思っとるん? ウチ、嬉しいで。親潮が一所懸命考えて、選んでくれた本。そらまぁ、ネックレスに比べたら安いと思うけど、ウチは満足や。それじゃアカンの?」
「そ、そんな事は……そんな事は……ないです」
なんや、微妙に納得しとらん感じがするんやけど。どないするかなぁ。
「あーもう、気にしすぎなのよ親潮は。ほら、そんな納得いかないんだったら、あんたの最高の愛情表現を受け取らせなさい」
「そうですね。女にとってファーストキスを相手にあげるというのは最上級の愛情表現ですからね」
って、陽炎、不知火、なんでウチの両腕抑えてきとるんや!?
「ちょ! 二人とも何するんや!」
「黒潮、静かにしてなさい。さぁ親潮、今度は失敗するんじゃないわよ」
「ちゃんと黒潮の頬を抑えて、ゆっくりでいいんです」
「……ありがとうございます陽炎姉さん、不知火姉さん。黒潮さん……行きます……!」
アカン、親潮も目がマジになっとる。力いっぱいウチの顔を挟んだと思うとそのままゆっくりと顔が近づいてくる。ほんで……。
「「「「…………」」」」
親潮の唇がウチと触れ合う。さっきの勢いをつけて衝突したんとは違う、優しいキス……しばしの間四人揃って無言になって……あ、やっと親潮が離れたわ。
「く……黒潮さん! これが私の気持ちです!」
そう言って、黒潮はマジな顔してウチを見てくる。……もう、そんな顔したらアカンで、ウチ、嬉しいって気持ち抑えられんくなるやん……。
「……親潮の気持ちはよう伝わったで……ウチも嬉しいで、親潮」
「あ……ありがとうございます黒潮さん!」
そう言うと親潮はウチを抱きしめてきおった。って両腕に陽炎と不知火、正面に親潮ってえらい状態なっとるやん。
「それじゃ黒潮。次は私と不知火の番ね」
「そうですね、いきますよ黒潮」
「へ? ちょ、何するん……!」
二人の言葉に聞き返す間もなく、ウチの両頬に二人の唇が押し付けられる。
「……唇は親潮がしてるし、今日はこっちね。どう、黒潮。嬉しい? 姉とすぐ下の妹にキスされて、好きだって伝えられるのは」
「不知火達も、親潮に負けない程黒潮が好きですからね」
唇を離した両方からそう囁かれて、正面では親潮が嬉しそうに笑ってて……こんなん……こんなん……嬉しくないわけないやんか!
「ちょ! 黒潮、なんで泣いてるのよ!?」
気付いたら涙が後から後から溢れとった。三人が焦っとるけど……違うんや、三人とも。
「……ウチ、ホンマに幸せや。こんな幸せ……皆にまた会えた時以来やで」
ホンマ……幸せや。こんな幸せな気持ち、味わってもええんか?
「……黒潮、これからも頑張ろうね。早潮と夏潮も来て……19人全員が生きて戦いを終えるまで……」
「それまで、姉妹で支えあっていきましょう黒潮。今度は誰も沈まないように」
「今度は誰も沈ませません。絶対に……です」
「うん……頑張ろうな、皆で。今度は皆笑顔で戦いを終わらせるんや」
……ああ、ホンマ幸せや。あの戦いで雪風以外全員沈んでもうて……もう会うことができへんはずやったのに、今こうして皆で集まれとる。互いに支えあえとる。早潮、夏潮も早ようくるんやで。今度こそ……皆生き残るんやから。
黒潮の改二のパーティーを行った日の夜。黒潮の部屋から帰った私は自分の部屋で、黒潮がくれたブローチを手にしていた。
「……ダイヤモンドでお揃いにしてもよかったんだけどねぇ……」
多分私一人でお金を出してたらそうしてたかもしれないんだけど、今回は不知火もお金を出してくれたので流石にその辺の我儘は控えたわ。それに……ムーンストーンでも悪くないしね。だって……。
「ムーンストーンの持って意味が……ねぇ」
ムーンストーンは愛を伝える石と言われているし、月の石だから女性性を象徴しているらしいし、……なにより、持ち主を優しく大らかに愛情で満たしてくれるとか、自分の進むべき道を迷っている人を導いてくれるとか……これほど黒潮にピッタリな印象の石ってないんじゃないかな?
「……黒潮、これからも宜しくね」
手の中にあるブローチを見つめながら、私は小さく呟いていた。