外伝 萩風編
今日、私は黒潮さんと一緒に料理を作るための材料を買いに街まで出ています。食料品専門のスーパーでは多くの材料に目移りしてしまいますが、それでも目当てのものを買っていきます。
「黒潮さん、そちらの買い物は終わりましたか?」
「おう、こっちは終わったで。萩風のほうはどうや?」
「こっちは……後は調味料だけです」
「そうかぁ、ほな一緒に行こか」
「ええ。お願いします」
そう言って黒潮さんと私は別の階に移動します。ああ、黒潮さんと一緒に買い物して、帰ってから料理を作る。こないだまでは想像したこともない休日ですが、私は黒潮さんとこうした関係に慣れて良かったと思っています。
そんな事を考えているうちに必要なものも全部買い揃え、後は鎮守府に帰るだけとなった私達はスーパーを出てバス停まで歩いていきます。そんな中、不意に黒潮さんが足を止めました。
「おっ、タピオカドリンクが売っとるわ」
「タピオカドリンクですか?」
黒潮さんの視線の先を追っていくと、そこには移動式の屋台でタピオカドリンクを売っている人の姿が見えました。うーん、なんだか色んな味があるみたいですね。
「萩風、ちょっとあれ買って行きたいんやけどええかな?」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
「すまんな」
黒潮さんは少し申し訳なさそうに謝った後、屋台に行ってミルクティー味を買いました。うーん、底のほうに黒い粒々がありますけど、これがタピオカなんでしょうか?
「ん~……やっぱ甘いなぁ。タピオカも美味しいし、やっぱたまに飲む分には悪くないで」
そう言って黒潮さんは美味しそうに飲んでいきます。そんなに美味しいんでしょうか?
「黒潮さん、そんなに美味しいんですか?」
「いやぁ……ウチは甘くて好きやけど……萩風だと甘すぎて無理ちゃうかなぁ。飲んでみる?」
黒潮さんはそう言って何気なく自分のドリンクを差し出してきましたが……え、く、黒潮さん? これってそのまま間接キスなんじゃ……?
「あ、あの……自分で買いますね!」
間接キスが恥ずかしくて、私は急いでお金を取り出すとタピオカドリンクを購入し、そのまま飲んでみて……。
「ゲホッ! ゲホッ! ゲホッ!」
な、なんですかこれ!? あま……甘すぎる!? こんなの体に悪いに決まっている甘さじゃないですか!
「ちょっ、大丈夫かいな萩風。水買うてくるからちょっと待っとき」
そう言って黒潮さんは少し私から離れると、すぐに水を買ってきてくれました。それを私は急いで飲み込み、口の中のタピオカの甘さを流し込んでいきます。
「ゲホッ……黒潮さん……甘すぎます!」
「せやから言うたやん。萩風には無理やと思うって」
黒潮さんは呆れたように言いますが……仕方ないじゃないですか。黒潮さんのストロー使って間接キスなんて……。
「しかし……これ、どうする? 萩風飲めそうか?」
「む、無理です! もう飲めません!」
黒潮さんはそう言って私のタピオカドリンクを指さしますが、とてももう飲めません。
「んー、しゃあないなぁ」
そう言って黒潮さんは自分のタピオカドリンクを飲み干すと、私のタピオカドリンクを飲み始め……ってええ!?
「く、黒潮さん! そ、それ私の……!」
「でも、もう飲めへんのやろ? 捨てるのももったいないで」
そう言って黒潮さんは私のタピオカドリンクを平気で飲んでいきますが……あわわ……く、黒潮さんが私と間接キス……!
「だ、ダメです! 私が飲みますから!」
慌てて黒潮さんからタピオカドリンクを取り返して自分で飲んでいきます……が。ここ、これって私も黒潮さんと間接キスををを……!
その事実に気づいた私は思わずタピオカドリンクを落としそうになりますが、それを横から黒潮さんが受け止めました。
「ほら、甘いの飲み過ぎで気分悪くなっとるやん。水飲んでおとなしくしとき」
そう言って黒潮さんは私の返事を待たずにタピオカドリンクを飲み干してしまいました。私はそれ以上何も言うこともできず、水を飲むことしかできませんでした。
(黒潮さん……もうちょっと気にしてくださいよぉ……恥ずかしいじゃないですかぁ……)
「つーわけで、萩風には悪い事してもうたんや。あの子の味覚は敏感やからなぁ」
「ふーん」
黒潮の話を聞きながら、私は気のない返事をしていた。
「ふーんて陽炎、ちゃんと聞いてえやぁ」
「聞いてるわよ。心配しなくてもいいわよ、萩風はそんな気にしてないでしょうし」
「そうやったらええんやけどなぁ……」
心配そうにしてる黒潮だけど、どうせ萩風は黒潮と間接キスになることが恥ずかしくて話で聞いたような行動したんでしょうし、気にしても仕方ないのよね。
「そんなに心配なら次は甘くないタピオカドリンク飲ませたらいいじゃない。ほら、これなんてどう?」
そう言って私は自作のタピオカドリンクを黒潮に手渡す。スーパーで売ってるタピオカを、同じくスーパーで売っているミルクティーに混ぜて、適度に砂糖を混ぜて作ったこれは市販のより甘さが調整できるし、なにより安価で済む。
「どれどれ……? うん、確かに甘さ控えめやな。もうちょい砂糖控えたら萩風も飲めそうや」
黒潮はそう言って私が飲んでいたドリンクを返してきた。私もそれを受け取り、躊躇いなく口を付ける。
(これだもんなぁ。私はもうキスしてるから気にしないけど、萩風はそうじゃないんだから、少しは気にしなさいよね)
他の妹たちとも同じような事を起こさないか。少し心配ではあるけど、言っても黒潮が気に掛けるかどうかわからないから、言おうかどうかと、私はしばらくの間悩み続けていた。