宝石拾いの後も俺と黒潮姉は遊園地を堪能した。色んなアトラクションに乗って、遊園地の中のレストランで食事をして、土産物屋で色々と買い込んで。気づけばすっかり日も落ちて、辺りはどんどん暗くなっていっている。
「さーて……ほんじゃ、最後はあれ乗ろうか。良い景色が見れるで」
そう言って黒潮姉が指差したのは巨大観覧車だった。
「お、いいじゃん。遊園地の最後に観覧車って、なんか漫画とかでよくあるよなー」
「せやねぇ。さ、それじゃ乗ろうか」
こうして俺達は観覧車に乗り込んだ。最初の方に乗ったジェットコースターと違ってゆっくりと上がる観覧車からは既に暗くなっている外から見える夜景が良く見えた。
「おー、こりゃ綺麗やなぁ。百万ドルの夜景……とは流石に言えへんけど」
「そりゃ、確かに言いすぎだよ黒潮姉」
そんな事を言いながら観覧車に揺られていて、ふと黒潮の顔を見ると、彼女の顔は外からの淡い光に照らされていて、どこか幻想的で、普段の生命力にあふれる彼女との違いに思わず見とれてしまった。
「んー? どうしたん嵐。ウチの顔に見惚れてもうたんか?」
「な……ち、違うよ黒潮姉!」
不意にこっちを向いてきた黒潮姉にからかわれ、俺はそっぽを向く。くそ、恥ずかしいぜ。
「いやぁ……しかし、今日は楽しかったなぁ、嵐、誘ってくれてホンマありがとうやで。こりゃ、なんかお礼せんとなぁ」
「そんな礼を言ってもらうような事じゃねえよ。黒潮姉にはいつも世話になってるんだし、そんな気にしないでくれよ」
「そうも言えへんで。そうやなぁ……嵐、なんかお願い事とかあるか? あるなら叶えたるで」
黒潮姉の言葉に俺は無意識に体を前に倒し始めていた。
「黒潮姉、それって本当か?」
「お? おお。そりゃ限度はあるけど……なんやそんな前のめりになって、そんななんかあるんか?」
「あ……んーと……」
思わず身を乗り出したけど、どうしよう。黒潮姉にお願い……なんだろうな、こんな時じゃないとできないようなお願い……。
それを考えながら黒潮姉を見続ける。普段とは違うどこか幻想的な黒潮姉。改二になって髪を伸ばしてからどこか京都の美人さんみたいな雰囲気を感じさせる黒潮姉。あの夜戦の時、俺を助けてくれた黒潮姉。ヒーローショーに付き合ってくれた黒潮姉。
そんな事を思っていると、体は勝手に動いていた。黒潮姉の手を握り、不思議そうに俺を見つめてくる黒潮姉に近づき、そして……。
「ん……」
「んむ……」
俺は口づけしていた。外も暗く、俺の影になっている黒潮姉の顔は良く見えない。でも、その眼が驚きに見開かれているのはよくわかる。それでも抵抗しないのをいいことに、俺はそのまま唇を押し付け、少しでも黒潮姉の体温を、柔らかさを感じていく。そのまましばらくの間キスし続けた俺は、黒潮姉が変わらず俺を見つめているのに気づいて口を離した。
(ああ……キスってこんな気持ちになるのか……)
離れた黒潮姉の熱と感触がとても恋しくなる。戦闘でもない程に胸が高鳴る。体が熱い。もっと……もっと黒潮姉と……。
「……なぁ、嵐。あんたレズやったんか……」
「は? え、ち、違う! 違うよ黒潮姉!」
ぼーっとしていた頭に黒潮姉の言葉が冷水の如くぶっかけられる。
「……じゃぁなんでキスしとんねん。お前……いくら女に飢えてるからって実の姉にキスするやなんて」
「違うって! えーと……そう、家族のキスだよ! スキンシップ! 舞風だってたまに頬にキスしてきたりするし、それと似たようなもんだよ!」
「……またかぁ……またその理論かぁ……」
そう言って黒潮姉はため息をつくけど、また? またってどういう……。
「ん」
「んむう!」
俺が聞くより先に黒潮姉がキスしてきていた。突然の事に思わず体を後ろに下がらせるけど、黒潮姉はピッタリとそれに張り付いていて、逃げようとする俺の顔を両手で挟み込んでそのままキスを続けてくる。
「んー! んーー!!」
暴れる俺をがっちりと抑え込んで黒潮姉はキスし続ける。さっきまで求めていた熱と感触が止めどなく送られてくるこの状況に徐々に俺は抵抗をやめていた。
「ん……んん……」
体の力を抜いた俺は素直に黒潮姉の熱を味わい続ける。その熱が伝わったかのように俺の体が熱くなる、頬が赤くなってるのが自分でもわかる。さっきまでよりも心臓が高鳴る。ああ、ダメだ。のぼせたように頭がボーッとしてきやがる。このまま……このままずっと……。
「プハッ、どうや嵐。いくら姉妹ゆうたかていきなりキスされたら微妙な気持ちになるやろ」
「ふえ……?」
あっさりと黒潮姉が離れたと思うと、黒潮姉は呆れた様子で俺を見てきていた。
「これに懲りたらもういきなりキスとかするんやないで。ファーストキスは好きな旦那様とするもんや……お、降りてきたわ」
気づけば観覧車は地上に降りていて、俺は黒潮姉に手を引っ張られて地上に降りていた。
「さ、もう夜も遅くなってきたし、そろそろ帰ろうか。あんま遅うなってら心配かけてまうわ」
「あ……う、うん……」
手を握られたまま、俺は黒潮姉に引っ張られて歩いていく。
(黒潮姉……怒ってはない……んだよな)
呆れられはしたと思う。でも怒ってないなら……また、したいなぁ。
(また、デートに誘うか。その時にもまた……きっと……)
収まらない胸の高鳴りを感じつつ、俺は次のデートの事を考えていた。どういう形でキスをするのかも……。
「はぁ……陽炎型ってなんや、なんで家族やからってキスをするんや。なんでなんや……」
昨日、嵐と遊園地で遊んでくるって言ってた黒潮だけど、今日になって私の部屋に来たと思うとそんな事を言いながらベッドに転がった。あー、嵐にもキスされたのね。
「……良いじゃない、減るもんじゃないし、あんただって嫌いじゃないんでしょ?」
「そらぁ、嫌いではないわ。でもなぁ、キスは普通好きな彼氏とか旦那様とかにするもんやろぉ。なんでウチはこうも姉妹にキスされなあかんのよ……」
そう言って私のベッドの上で突っ伏す黒潮。あー……どうしよっかな、これ。
「……黒潮、もう諦めたら? 多分他の妹達も何かきっかけがあったらキスしてくるわよ」
「いや……ウチが諦めたらなんやもう歯止めが利かなくなる気もするんやけど。例えば……陽炎、もしウチが諦めたら甘えてくるたびにキスしてきたりせえへん?」
う、バレてる。
「……ほーら、やっぱりなぁ。やっぱ軽々しくキスされるんは認められへん」
「……はいはい、わかりましたよーだ」
説得を諦めた私は黒潮の隣に潜り込むと掛布団を黒潮を巻き込んで被る。
「軽々しくお昼寝ならいいでしょ。今日はもう予定ないんだし、良いよね」
「これなら別にええで。ほな、お休みな陽炎」
私の頭を撫でながら笑みを浮かべる黒潮の胸に顔を埋めつつ私は考える。次はどう説得しようかな……と。