外伝 陽炎編
最近、黒潮の様子がおかしい。甘えてる時はそうでもないんだけど、なんていうか……付き合いが悪くなってる気がする。この間も誘ったんだけど……。
「ねぇ黒潮。明日一緒に街で買い物しない?」
「あー、ごめんなぁ。ちょっとやることあるから後日にしてくれへんか」
と、この有様である。こないだまでに比べて明らかに誘いにこたえる頻度が下がってる……。まさか。
(……妹達への付き合いで疲れてるのかしら?)
最近の黒潮はよく妹達に付き合ってる。不知火には笑顔の練習、親潮や浜風は食事やおやつ。舞風にはダンス、秋雲には絵の題材……そして私は彼女の部屋で甘えてる。
(……疲れてるなら甘えるの控えなくきゃいけないかしら。でも、そんな素振りしてないし……)
これでも私は陽炎型19人姉妹の長女。妹達が無理してるならすぐにわかる。でも今の黒潮にそんな素振りは見えない。それじゃぁ一体……。
(取り敢えず……不知火達に聞いてくるしかないかなぁ)
と言うわけで早速聞いて回ったんだけど……。
「黒潮の最近の様子ですか? そうですね……特におかしな点はなかったと思います。笑顔の練習にも付き合ってくれていますし」
「黒潮さんですか? そう言えば、最近昼食が普段のより少しお安いのを食べてるような……」
「酷いんですよ陽炎! 黒潮ったら、最近おやつに付き合ってくれなくて。折角美味しいおやつを見つけてくるのに……」
「陽炎、黒潮にもうちょっとダンスに付き合うよう言ってよー。こないだからダンスに誘っても逃げられてさー。……って痛! 頭叩かないでよ!」
「んー、最近の様子? 秋雲さんは特に気になることもないけどなぁ。あ、そう言えば、街に出る系の付き合いはあんまりしてないかな?」
取り敢えず5人に聞いたけど……纏めると、お金がかかるような事をしてない感じかしら? あの子、別に散在溶かしてる様子もなかったけど……むしろ、個人商店とか回って値引き合戦とかしたりしてるし……うーん?
そんな事を思いながら鎮守府の中を歩いていると、黒潮が……あれ、熊野さんと話してる? 珍しいわね、何してるんだろう?
「おーい、くろし……」
「てなわけなんや。熊野はん、買い物に付き合ってもらえへんか? 熊野はんみたいなお嬢様なら絶対にウチよりええ贈り物見つけられると思うんや」
「ふふ、よろしいですよ。この熊野、全力をもって期待に応えてあげますわ」
「助かるでぇ……あれ、なんか聞こえんかったですか?」
「さぁ? 気のせいじゃないかしら?」
二人の会話が聞こえた途端、私は物陰に隠れてた。贈り物? 黒潮が? 買い物控えてたのもそのための資金って事? いったい誰に?
直接聞いたら早いかもしれない……。でも、正直に話すかわからないし……。気になるのよね。あの黒潮が節約してまで一体誰に何を贈るつもりなのかしら?
取り敢えず物陰に隠れながら聞き耳を立てていると、二人は明後日に買い物に行くのね……明後日なら私も休み。よし、後を付けよう。
二日後、私は川内さんから教えてもらった尾行術を使いながら二人の後を追っかける。まぁつけ焼き刃もいいところなんだけど、ないよりはマシよ。……それにしても嬉しそうに話してるわね黒潮。一体誰に贈るつもりなのかしら?
そもそも私達艦娘の給料は安くない。私達しか深海棲艦を倒せないし、出撃や遠征のたびに命をかけてるんだから当然なんだけど。それに黒潮も別に散財が好きなタイプじゃないからお金持ってると思うけど……それなのに節約とかまでして買う物ってなんなのかしら?
そんな事を考えながら二人の後を追いかけていき……やがて、二人はある店の中に入っていった。そして、その店の看板を見て、私は目を見開いた。
「……こんなところで買い物?」
そこにあったのは超有名ブランドの高級宝飾店。確かにこれならお金がいくらあっても足りないだろうけど……一体誰って言うのよ、黒潮がこんな所の商品を贈りたいって思う相手って。
(……これ以上は追えないわね)
流石に店の中に入ったらバレし……仕方ないわね。待ちましょうか。
私は近くにあったコンビニで立ち読みをしながら店舗の出入り口を見張る。その間、私の頭の中にあるのは黒潮が贈るであろう誰かの事だった。
(あんな高価な所の物を贈る相手って本当に誰よ? 不知火、親潮……可能性はあるけど、それだけ。他の妹達……。全員大切には思ってるだろうけど、特別に誰か……なんて居たかしら? 他の艦娘……思い当たらないわね。それじゃぁ……司令官?)
確かに司令官ならあり得るかもしれない。でも、黒潮ってそんな素振り見せてたっけ? そりゃまぁ、普通に司令官の事が好きだっては言ってたけど……。
結論が出ないまま、思考がループし続ける。でも1時間ほどしてやっと二人が出てきた。でも……。
(……なんでそんな良い笑顔してるのよ、黒潮)
遠目からでもわかる。黒潮の笑顔は本当にいい笑顔で。きっととても嬉しいんだ、贈る相手の笑顔を思って、その人がどれだけ喜ぶかを想像して……本当に、嬉しそう。
……私は、そんな二人を見送ることしかできなかった。