黒潮お姉ちゃんシリーズ外伝   作:雨宮季弥99

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外伝 陽炎編2

 鎮守府に戻った私はそのまま自室に籠り、ベットに寝転がってる。頭の中に浮かぶのは黒潮の笑顔。そしてそれが贈られるであろう誰か。

 

(……やだなぁ、黒潮が……どこか行っちゃう)

 

 勿論姉として妹にそんな相手ができたことを喜ばないわけにはいかない。いつまでも姉妹一緒とはいかないんだから。将来、好きな相手ができればバラバラになるのが普通よ。でも……。

 

(行かないで……よ。やっと……皆一緒にいるのに……黒潮)

 

 先の大戦で私達はバラバラになった。皆、戦場に出て……沈んだり生き残ったりで……バラバラになった。それが今はここに居る。居るのに……。

 

(……違う。これは妹達全員に向けてる気持だけじゃない。黒潮……黒潮だけに……)

 

 あの看病をしてもらった日から、私は黒潮に甘えてきた。長女としての責務。それは苦痛ではない、でも疲れるのは間違いないから……。そんな疲れた私を、黒潮はただ優しく甘やかしてくれる。わかってる、いつまでもそれじゃダメなんだって……。でも、こんな急に……急に来なくてもいいじゃん……。

 

「うう……ふぇ……」

 

 気づいたら涙が零れてた。やだよぉ……行かないでよぉ……。こんな……こんな急に……。

 

「陽炎、おるかー」

 

「うわっひゃあああ!」

 

 突然聞こえた黒潮の声に私はベットから文字通り飛び上がる。慌てて扉のほうを向くと、黒潮が口を開けながらこっちを見てた。

 

「おおう……驚きすぎやろ陽炎。リアクション芸人なれるんちゃうか?」

 

「~~~~! ウッサイ! それよりノックはするように言ってるでしょ!」

 

「あ、スマン、忘れとったわ」

 

 悪びれもせずに言う黒潮にイラッとするけど、それより泣き顔……見られてないわよね。扉を見る前に急いで拭いたけど。

 

「で、いったい何の用なのよ! しょうもない用事だったら叩くわよ!」

 

「いやぁ、一応大事な用事やで。ほい、これあげるわ」

 

 そう言って黒潮が差し出してきたのは丁寧に包まれた小箱で……包装紙を破って開けてみると、そこには水の雫を象ったブローチが入ってた。……これって……。

 

「黒潮……これって……」

 

「ブランドもんのブローチやで。いやぁ、こう言うの買うの初めてやったけど、高いんやなぁ、ああいうんは」

 

「いや、そうじゃ……そうじゃなくて……なんで私に渡すのよ」

 

 頭の混乱が収まらない。だってこれって……あそこで買ったやつでしょ? なんで? なんで私に渡すのよ?

 

「陽炎の改二のお祝いやで」

 

「私の改二のお祝いって……こないだ皆でパーティーしてくれたじゃない。色々プレゼントも貰ったし……なんで今になって?」

 

「そら、陽炎が特別やからやで」

 

 特別。その言葉に思わず顔が熱くなる。

 

「陽炎はウチら陽炎型の長女や。ただでさえ長女言うことで負担もあるのに、今回の改二でこれからも苦労が増えるんは目に見えとる。ウチらはそれを軽減はできても無くすことはできへん。せやから……陽炎には特別な贈り物をしたいと思うたんや……受け取ってくれへんか?」

 

 その言葉に、笑顔に、私は頷くことしかできなくて……そうしたら黒潮がまた嬉しそうに笑ってくれて……。私は手が震えるならブローチを手に取った。

 

「綺麗……」

 

 手に取ったブローチは光を反射し、白く輝いているように見える。デザインも私の好み。付いてる宝石は……ダイヤモンド? イミテーションじゃないわよね。

 

「陽炎は4月に改二になったから、4月の誕生石が似合う思ったんや。でも、ダイヤは流石にバカ高いでぇ。貯金も節約した分も全部吹っ飛んでいったわ」

 

 これからもっと節約せなアカンなぁとか言ってる黒潮。私はブローチを丁寧に箱に戻して横にどけると、そのまま黒潮を抱きしめた。

 

「おおう、どうしたんや陽炎」

 

「……私、今ならあんたにキスして押し倒してそのまま行くところまでいけると思う」

 

「ちょい待ちいや。それはアカンで。そんな同性愛、姉妹姦なんてインモラルの塊は流石に許容できんで」

 

 ……こいつ、ここまでしといてどの口が言ってるのよ。ほんっとうに……ほんっとうに襲ってやろうかしら。でもダメダメ。そんな事できない。

 

「わかってるわよ。だからこの気持ちが収まるまで甘えるから、何日でも、何十日でも、これから先ズーーッと甘えるから。甘え倒すから」

 

「……さっきの発言がなかったら純粋に嬉しい思えるんやけどなぁ……まぁええわ。陽炎が頑張れるよう、ウチも頑張るからな」

 

 私の背中に手を回して、あやす様に撫でてくれる。……あーあ、私長女なのになぁ。今更かもしれないけど、もう黒潮なしで生きていくとか考えたくないなぁ……。

 

 

 

 

 

 それから、表面的には私の生活に変わりはなかった。ブローチは普段から付けるには高価すぎるし、出撃の時に付けるなんてもっての外だから、部屋の引き出しの中に仕舞っているし、黒潮に対しての接し方も同じ。普段は長女として振る舞って、甘えるときにはとことん甘える。でも、気持ちは前よりもっと強くなってるのがわかる。

 

(あーあ……まるで黒潮に飲み込まれたみたい)

 

 黒潮の膝枕で微睡みながら私はそんな事を考える。黒潮の、決して激しくはない。でも、暖かくて、穏やかな流れに飲み込まれてる。黒潮の栄養って他の親潮系水に比べて少ないらしいけど、うちの黒潮はそんな事はない。だって……私はこうして満たされているんだから……。

 

「陽炎、ウチに甘えるんはええけど、ちゃんと良い人見つけるんやで。そら、年齢的には早い話なんやけど、ちょっと心配になってくるで」

 

「……わかってますよーだ」

 

 黒潮の言葉に適当に返事しながら、私は微睡み続けるのだった。

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