IS Heroes   作:D1198

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凰鈴音2

 1日目夕方

 

 

 職員室から食堂に向かう、その道のりは重々しく感じた。何時もの小洒落た煉瓦の道が私を皮肉る。針のむしろのような授業が終わり、その放課後ディアナさんに謝罪に行ったのだが、相手にされず追い返された。

 

 本音を言えば、ディアナさんに大人の対応を期待していたのだ。目下の者から噛みつかれても不愉快には思えど、説教で済まされるのでは無いかと期待した。残念なことにそれは甘い見通しだったらしい。

 

 そして千冬さんも機嫌を損ねていた。ディアナさんの態度を大人げないと指摘し、喧嘩に至った。つまり、2組以外にも影響が及んでしまった。状況は悪化の一途である。

 

 

 

 

 

 食堂に着くと私は皆の姿を認めた。凰さん、篠ノ之さん、鷹月さん、布仏さんそして一夏。その一夏の問いに私は首を横に振った。一夏は落胆したように腰を下ろした。私は席に座り、コーヒーを飲んだ。何時もの8人掛けのテーブル、何かの染みが妙に目に付く。夕食時の賑わう食堂だというのに、ここだけが誰も何も言わず、ただ時間が流れた。

 

 私が天井を仰ぎ、オレンジの照明をぼんやり見ていると、篠ノ之さんが忌々しげに口を開いた。

 

「凰、お前この始末どう付けるつもりだ」

「何よ、アタシのせいだって言うつもり?!」

「他に誰が居る!」

 

 息巻き、立ち上がる2人を私は制す。他の生徒がこちらに眼を向けた。

 

「2人とも止めてくれ、その行動には意味が無い。悪化するだけだ」

 

 私のその態度に苛立ちを覚えた篠ノ之さんは声を荒らげ、なじった。凰さんを庇う私が許せないらしい。

 

「お前は―」

「箒、やめて」

 

 篠ノ之さんは顔を歪めて視線を下ろした。鷹月さんだった。彼女は眼を下ろしたまま微動だにしなかった。そして「凰さん、ごめん私無理」と言った。凰さんも「いーわよ、アタシも無理」と言った。2人の交わした言葉に布仏さんが顔を曇らせる。

 

 

 

 鷹月さんが席を立った。

 

「蒼月君」

「なに?」

「……なんでもない」

 

 篠ノ之さんが彼女の後を追った。

 

「真、昨日お前に言ったこと忘れるな」

「あぁ」

 

 2人を見送る凰さんが腕を頭に回し、背もたれを鳴らす。

 

「そっか、そういう事か。蒼月とは口利かない方が良いみたいね」

「それだとやり過ぎだ。上っ面だけ合わせてくれれば良い」

 

 彼女は眼を細め、さも不愉快そうに了解の旨を伝え、席を立った。

 

 

 

 布仏さんが、両手に持つ紅茶に「どうしてかな」と呟いた。

 

「仕方ないさ、反りが合わない人も居る。全ての人と仲良くなんて不可能だ」

「仕方ない、か。むかつく言葉だぜ」

 

 一夏も立ち去ると、手にするコーヒーが波だった。何故か空気が濁り息苦しいように感じた。

 

「まこと君、これからどうするの?」

「今、考えてる」

 

 

 私はただ茶色の液体の波紋を見ていた。

 

 

 

 

 

 

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 1日目 夜

 

 

 自室に戻り、腕を組んで頭をひねる。眼に下ろすは机上の白い紙。そこには私の知る人達の名が浮かび、それらを結ぶ矢印が縦横斜めに走っている。

 

 

やはりどう考えても、2人の教諭を押さえることが先決だった。

 

だが、

 

「どうすりゃいいんだよ、これ」

 

口から漏れた言葉が全てを表わしていた。

 

 

 謝罪は届かなかった。この時点で、生徒の私ではこの2人に直接とれる手立てがない。副担任も同様。この2人の目上は学園長と教頭先生だが、教頭へのパイプはない。学長に至っては顔さえ知らない。そもそも直訴すると2人の立場が悪くなる。他学年の教諭も同様だ。1年3組、4組の教諭に相談するも、1組と2組の教諭では相手が悪すぎた。

 

 打つ手がない。必要なのは切っ掛け、切り口だ。精神的、肉体的、意図的、偶発的、何でも良い。何か糸口が必要だった。だが、そんな物は都合良く見つかるはずも無かった。

 

 ベッドに身を投げ、天井を見る。金髪の、知り合いの、ディアナさんは大人げないのでは無かろうか。私など一つ下の少女に言いたい放題言われても我慢をしたのだ。私を見習うべきだ、そう考えて、そんな事を言おうものならそれこそお仕舞いだと、枕をかぶる。

 

 

 

 時計は午後の消灯直前の10時55分を指していた。睡魔の扉を叩く音が現実と知った私は、床を出て扉を開ける。その開いた扉の薄暗い先には、白いジャージの千冬さんが立っていた。彼女は堅い表情で私を見ると後ろを促し、そこには制服姿の転校生、凰さんが立っていた。千冬さんは彼女をおいてやれ、と言った。

 

「あの、織斑先生。いま俺は非常に厄介な状況で、彼女がいると非常にめんどくさいんです。ご再考お願いします」

「ほぅ、随分と偉くなったものだな。蒼月」

「は?」

 

 千冬さんの予想外の回答、少なくとも私の記憶の中の彼女が、言うはずのない言葉を聞いて思わず聞き返した。彼女は鋭く細めた目を、少しだけ開き、そして瞑った。ゆっくりと一回呼吸をし、悔いるように踵を返した。理由は凰に聞け、とだけ言った。

 

 薄暗い廊下の奥から、側に立つ少女に視線を移す。ボストンバッグ一つを持つその転校生は、目を瞑りきつく口を結んでいた。だが何故だろうか、彼女の二つの髪を結う黄色いリボンは力無く垂れ下がっているように見えた。そしてその少女は一言ごめんと言った。

 

 

 

 

 

 私はやかんに水を入れ、コンロに掛けた。換気扇が自動に動く。食器棚代わりの乾燥機からマグカップを二つだし、焦げ茶色の粉末をそれぞれに2杯入れた。暫くそのまま待つ。

 

 私は背中の、部屋に落ち着かないように立ち尽くす少女にとりあえず座ってくれと言った。彼女は部屋に視線を走らせると家具に腰を掛けた。

 

 やかんが次第に鈍い音を放ち出す。それが甲高い音を鳴らす前に私は笛を外した。沸騰しきったことを確認すると、二つのカップにお湯を注ぐ。カカオの香りがした。

 

 いつもは無意識に行うこの一連の行動を、私は一つ一つ確かめるようになぞった。混乱しかかっていた頭を落ち着けたかったのだ。

 

 振り向くとその少女は窓側のベッドに正座して座っていた。足下にはトレッキングブーツが揃えておいてあった。

 

 

 

 彼女にココアを渡すと私は廊下側のベッドに腰を掛けた。私が一口飲む。その少女は舐めるように飲んでいた。

 

「凰」

 

 彼女は僅かに身じろぎした。私はただ名前を呼んだだけだったが、彼女は正確にその意図を掴んだらしい。

 

「実は相部屋の人と、」

「と?」

「喧嘩しまして」

 

 予想通りだった。

 

「理由を聞かせてくれ。出来ることなら納得出来る奴を」

「いやね、その娘窓側のベッドを使ってて、私にそこを譲るって言うから断ったんだよね。ほらアタシ後からだから遠慮したのよ」

「で?」

「譲る譲らないで喧嘩になりました」

「で、」

「泣き出しちゃって。とっても激しく」

「……」

「同じ部屋は嫌だって、千冬さんが来て、どちらかがここに行けって、そしたらその娘は男と一緒は困るって……」

 

 あははと乾いた笑いであった。私はマグカップを脇のテーブルに置いた。カタンと音がして彼女は固まった。

 

「あのさ凰」

「な、なによ」

「どうして数時間じっとしてられないんだよ、お前は。さっきの今だぞ。空気読めよ」

「分かってるわよ! だから同室者を尊重したんじゃない!」

「こう言う場合は我を通さないって意味だぞ。席の譲り合いで喧嘩なんて、ニュースにもならない」

 

 私は思わず額の中心を、苦悩を解す様に、右の人差し指で押した。テーブルのココアが波打った。

 

「わ、悪いとは思ってるわよ」

「出来ることなら、結果に結びつけて欲しかった」

 

 沈黙が流れた。

 

「ごめん、言い過ぎた」

「謝らないでよ、調子狂うじゃない」

「……もう日も変わった。寝よう」

「心配しなくても良いわよ、アタシ部屋を出るから」

「言っておくけど保安上、食堂も廊下も階段も禁止だぞ。センサーが張り巡らされてるんだ、消灯時間過ぎて部屋を出れば直ぐバレる。昨日俺らが渋々一泊した理由を思い出すんだ。もちろん屋外は論外」

 

「まじ?」

「まじ」

 

 凰さんの顔が呆気にとられた。完全に予想外、という顔だった。

 

「じゃどうすんのよ!」

「声が大きい」

 

 凰さんが慌てて口を押さえる。だから、私はもう寝ようと言った。彼女はベッドの上に正座のまま俯いた。嫌でも朝は来るのだ。私はベッドライトを灯し、身じろぎ一つしない少女を見てから天井の光を消した。淡いオレンジの光が部屋を満たす。数回呼吸の音が響いた。彼女は制服以外着る物は無い、と言った。私はベッドの下に手を伸ばした。彼女は私からスウェット受け取るとシャワールームに行き、戻り、窓側のベッドにくるまった。彼女の枕元には黄色いリボンが2つあった。

 

 

 

 私はベッドの背もたれに背中を預け、毛布にくるまる。横になる気分にはなれなかった。ただベッドの足下の先を見た。

 

 そうだ、全て分かっている。朝が来ればどうなるか分かっている。2人から、篠ノ之さんと鷹月さんから受けた最後通牒、それが分かっていて彼女を部屋に招き入れた。同情か、性的関心か、それとも寮長の指示に従っただけというのか。蒼月真、お前はこの期に及んでまだ自分が賢いと思っているのか、どれだけ無様だ。

 

 だが蒼月真、どうすれば良かった? 寮長に刃向かえば良かったか。それとも隣に居る少女を、知ったことかと追い出せば良かったか。そんな事に意味は無い、暴れるだけ悪化するだけだ。あぁそうさ、気づいた時には既に始まっていた。俺にはもう選択肢など無かった。ただ明日が来る事を待つだけだ。

 

 

 

「ねぇ」

「なに?」

「ごめん」

「なにが?」

「アンタ孤児なんでしょ。親の顔が見たいとか言って、ごめん」

「いいさ」

「事故?」

「始めから知らない」

 

 私の嘘では無いが真実でも無い回答に、彼女は振り返らなかった。

 

「ねぇ……どうして別れるんだろ。好き合って結婚したのに。家族なのに」

「凰の?」

「ごめん、何でも無い」

 

 私もただ眼を下ろしていた。

 

「ねぇ」

「寝られなくてもじっとした方が良い」

「明日が怖い」

「……俺も」

 

 

 ただ一つ誇れることがあるならば、それは彼女を見捨てなかったと言うことだけだった。

 

 

 

 

 

 

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 2日目 朝

 

 

 

 昨夜の千冬さんとのやりとりを、誰かが聞いていたらしい。既にクラスには知れ渡っていた。予想通りの展開であった。鷹月さんは目も合わせず、篠ノ之さんには絶縁を言い渡された。布仏さんはそういう風にきつく言われたらしく、ただ目を伏せていた。そしてクラス中からひんしゅくを買い、無視された。凰さんも同様である。2組の彼女らは鷹月さんに同情したようだ。

 

 

 

 

偶々、鷹月さんを怒らせた。

 

偶々、凰さんが転校し部屋を間違えた。

 

凰さんが寝不足で苛立ち、私と喧嘩になった。

 

苛立っていた鷹月さんと寝不足の凰さんが、喧嘩をした。

 

私が担任に噛みついた。

 

凰さんが私の部屋にこざるを得なかった。

 

そしてこうなった。

 

それは過去からの繋がりで、そしてまた今につながっている。

 

たった二つの、恐らく何気ないありふれた出来事。

 

僅か1日でこうなった。

 

 

 

恐ろしいのはそれが進行中と言うことだ。

 

 

 

溜息を付き、窓の外を見る私の心臓が、急に締め付けられる。

 

目に見えない糸が、胸の臓器に絡まったようだった。

 

見上げるとそこにはリーブス先生の、二つの眼があり、

 

それは、冷たく、体が砕けそうなほど恐ろしい眼をしていた。

 

彼女の怒りは治まるどころか悪化していた。

 

思わず息をのんだ。

 

 

 

 

 

 

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 2日目 昼

 

 食堂のテーブルにはラーメンと鯖の定食と、ハンバーグ定食が並んでいた。ハンバーグは箸を刺されるとその隙間から湯気を上げた。その湯気の向こうに一夏の顔があった。時は昼。精神的拷問という午前の授業を終えた私は、重い体を、言うまでも無く疲弊したという意味であるが、それを引きづり食堂にたどり着いた。

 

 頬杖を突き、あきれ顔で、一夏が溜息をついた。

 

「真、お前馬鹿だろ」

「実はそうかも知れないと思い始めた」

「本当に女の人を怒らすの好きなんだな。悪趣味だぜ、それ」

 

 私は自分の口から一夏に事の顛末を話した。そして一夏の物言いに反論できなかった。ぐうの音も出ないと言う奴である。そんなわけあるか、と言う言葉は喉の途中で止まった。箸も止まる。

 

「言い返すことも既にできねぇか。これからどうするんだよ」

「何もしない、今は何やっても駄目なんだ。風向きが悪すぎる。だから一夏、もう3人のところへ戻れ。さっきから箒が"お前"を睨んでる」

「でもよ、」

「一夏まで3人と切り離されるとのは避けたいんだ。お前とは着替えの時でも会えるから」

 

 

 

「そういう事、こっちは気にしなくて良いかんね♪」

 

 そう言うの凰さんだ。あくまで軽快に物言う彼女を、一夏がちらと見、了解と立ち去った。文句を言われつつ、3人の席に腰を下ろす一夏を見届けてから、はす向かいの凰さんに声を掛けた。彼女は昼食のラーメンに手を付けていなかった。

 

「凰、一夏に言ったとおり持久戦だぞ、出来るだけ凰の方も見るけど、女子の動向は俺から見えない部分がある。だから、何かあったら言ってくれ」

「なにそれ?」

「噂、もう広まってる筈だ。矢面に立つのは俺だけどね」

「やーね、噂なんて気にしないわよ、ただの言葉じゃない。殴られる訳じゃないし。勿論そんな事されればやり返すけどね♪」

「……言葉ってのは力があるんだ、しかも噂ってのは一回言われて終わりじゃ無い。纏わり付くんだよ、執拗に。そして実際に言われなくても聞こえる様になる。それが噂って奴だ」

「なによそれ、脅しって訳?」

「アドバイス。まぁさっきも言ったけど殆ど俺に向くけどね」

 

 彼女は何かを感じ取ったのか、それ以降何も言わなかった。私は目の前の食料を腹に詰め込んだ。凰さんはラーメンに手を付けなかった。

 

 

 

 

 

 

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 2日目 午後の授業

 

 

 

 専用機持ちは授業中、皆に教える立場となる。先日専用機持ちとなった私もその立場となった。展開したみやの脇に立ち、集まる生徒らを見れば、見事に1組の生徒ばかり。だが、彼女らが纏う雰囲気は予想より良い。多少困惑している、その様な感じを受けた。まだ噂が届いていないのか、事実は分からないが状況はまだ良い。1人ぽつんとするよりは随分良かった。

 

 

 厚い雲の下、ある少女はみやに触れ、ある少女は私に視線をちらちらと投げていた。

 

「皆はもう知っていると思うけど、コイツはデュノア社のラファール・リヴァイヴのスタンダードモデル。訓練機と全く同じ。ただ専用機って事で少し弄ってます。見ての通り左右の物理シールドは、軽量化のため取り外してあります。また、初期装備を外してすべて後付武装です。初期装備は、使い勝手の割に量子格納領域を喰いますから」

 

「先生しつもん」

「はい、谷本癒子さん」

「PICがあるのに軽量化するのは何故でしょうか」

 

「物理運動的には全くその通りですが、PICは魔法の箱ではありません。質量が軽くなれば慣性処理の計算も消費エネルギーも軽減します。もちろん物理シールドが無くなることにより防御は下がりますが、第3世代機の兵装は強力なものばかりでその効果は低いです。で、回避主体の俺は思い切って取り外しました」

 

「先生しつもん」

「はい、岸原理子さん」

「転校生との噂のことなんだけど……」

「理子、止めなさいって」

「えー、かなりんだって気になるって言ってたじゃん~」

 

 不満を上げる彼女を見て私は前提が間違っていることに気がついた。彼女たちは噂のことを知った上でここに居る。ならばその噂は私にとって脅威では無い。だが、その事実は私に焦燥を起こさせるには十分だった。なのでこう聞いた。

 

「えーと、金江凜さん。俺は構わないから、というより逆に聞きたい。どんな噂?」

 

 彼女らは一度互いを見合わせると

 

「どうして転校生を庇うの?」

 

と聞いた。

 

 

 離れたところで1人で立ち尽くす転校生は、とても小さく見えた。

 

 

 

 

 

 

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 2日目 夕方

 

 

 そこはアリーナ脇の人目に付かない、木々に囲まれた小さな広場だった。陽はまだ差していたがそこは既に薄暗く、辺りは5月らしい植物の、土の匂いを漂わせていた。少し鼻に突く生物の生々しい匂いが私は好きだったが、今は苛立ちを起こさせる。私は近くの樹木に背中を預けていた。やってきた人物は待ったか、と聞いた。私は少しな、と答えた。

 

 街灯が瞬き、薄暗い中アリーナが浮かび上がる。

 

「どうだった?」

「真の言うとおりだった。正直―気分が悪いぜ」

 

 一夏が言うのは実習中に知った話のことだった。正直、私は高を括っていた。自が耐えれば良い、自分だけを考えていた。だがその噂は、私にとって優しく、凰さんにとって厳しいものだった。

 

 

 

― 蒼月君が凰を庇っている ―

 

 

 

「真、半分近くの娘は正確に知っていた。お前が静寐を怒らせたこと、鈴が部屋を間違えたこと。お前にクラス代表を譲れって、噛みついたこと。静寐がそれに怒り、席替えを申しつけられ、それを防ぐ為にお前が先生に噛みついた。鈴が同室者と喧嘩して、お前の部屋に居ることも。そして箒たちと仲違いをした。鈴が寝不足で苛立っていたとはいえ、鈴は完全に孤立してる」

 

 私は腕を組むと樹木に後頭部を押し当てた。

 

「それだけか?」

「まだ、ある。これが極めつけだ。残りの半分に噂になっている真が鈴を庇う理由―」

 

 一夏が告げた言葉、私にはそれが頭蓋を撃ち抜かれたように感じられた。それは最悪だった。私は何度この言葉を使い、その都度改めたか。底は抜ける為にあるらしい。私は一夏に礼を言い、足を動かした。

 

 

「真はどうするんだよ、これから」

「とにかく部屋に戻る。もう凰はそれを知っているはずだ。1人はまずい」

「お前は、辛くないのかよ」

「辛くない訳あるか。だが凰は俺以上に辛いはずだ、俺は後で良い」

「嬉しくない訳無い、怒っていない訳無い、哀しくない訳無い、楽しくない訳無い、お前が言うのはそればっかりだ。何だよそれ」

「一夏らしくないな。凰を見捨てろって言うのか」

 

 一夏は腕を組み顔を見せなかった。私は踏み出した足を戻し目を伏せた。それは己の醜悪な苛立ちを知ったからだった。

 

「一夏」

「何だよ」

「すまん、世話掛ける」

「……いいさ、真だしな」

 

 一夏は鈴を頼むと言った。私たちは背を向けて歩いた。

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