IS Heroes   作:D1198

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(注:時系列は気にしないで下さい)



外伝 織斑千冬の憂鬱

 織斑千冬、24歳、日本人女性。

 

 第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)総合優勝および格闘部門優勝者。非常に厳格な人物で、鋭くも美しいその姿に憧れるものは少なくない。現役を退いた今ですらその力は凄まじく、身の丈を超える武器を操り、生身でISを御する。公式戦無敗。ブリュンヒルデと言われる所以である。

 

 

 

 そんな彼女にも悩みはあった。教頭の皮肉、同僚の嫌味、妄想暴走の後輩、超人的な力とて社会の中で生活する以上、大した意味を持たないのだ。腕力に物を言わせれば、歪みができ社会が崩壊する。それは彼女の望むところでは無かった。

 

 そして、彼女には庇護を与えるべき2人の少年が居る。実弟、織斑一夏。そして彼女が昨年の4月この学園で保護した蒼月真。

 

 この2人の阿保と馬鹿、悩みの最頂点である。

 

 この2人はとにかく問題を引き起こす。ある新聞記者が"IS学園の問題児"と評し、その余りの的確さに思わず言葉を失ったほどであった。ただ、落とし前のため拳は失わなかったが。

 

 

 

 

 

 

 それは、とある朝のことだった。早朝のトレーニングを終え、食堂に赴き、のんびり食事を取る生徒達の指導をする。何時もの食堂である。そしていつものように聞こえてきたのはその2人の声であった。否、殴り殴られる音と罵声であった。

 

 

「今日という今日は勘弁ならねぇ! この阿保真! 其処に直りやがれ!」

 

「こっちのセリフだ馬鹿一夏! その鼻持ちならないマヌケ面整形してやる!」

 

「人様の顔言える立場か! この陰険ヤクザ!!!」

 

「人の身体的特徴に暴言吐くマナー知らずは仰向けで痰を吐け! 顔面が良い感じのばい菌コロニーになるわ!!!」

 

「よくそれだけ罵詈雑言〈ばりぞうごん〉が浮かぶもんだ! どれだけ性格ねじまがってんだよ!」

 

「馬鹿一夏の顔ほどじゃない!」

 

「言いやがったな! 阿保真!」

 

「「もう良い! 地獄に落ちろこの―へぶぅ」」

 

 

 

「朝から騒ぎを起こすな! この馬鹿者共!」

 

 千冬は何時もと同じように同じように拳を振るい、何時もと同じように騒ぎを収める。何時もの朝である。既に日課であった。

 

 千冬は思う。実弟の、一夏の行動は予想が付いた。しかし真は完全に予想外であった。無鉄砲でまだ子供らしい質を残した一夏に対し、入学前の真は、良く言えば理性的で我を出さず忍耐力が有った。悪く言えばその情緒が希薄で、対人関係ですら理屈で考える。だがこの2人が上手く組み合わさればお互いに良い影響が出るだろう、そう期待したのである。

 

 淡い期待であった。

 

 真が一夏に引っ張られると言うより、相互作用で悪化する。

 

 

 

 

 

 

 

 それは、とある日の夜であった。プリントが散らばる自室に座り、教頭から出された残業に頭を痛めていたそんな時だった。寮の食堂から、騒ぎの気配を察知した千冬はやはり食堂に赴いた。何時ものように罵声と殴る蹴る、周りの少女達も最早気にしない。もう慣れた。

 

「毎度毎度いい加減にしろこの馬鹿一夏! お前のお陰で俺までトバッチリじゃないか!」

 

「うっせぇ! 人のこと言えた義理か! 事ある毎に女の子怒らせやがって! ちったー学習しろ!」

 

「やかましい! ロッカー開けたら半裸の少女なんてどういう了見だ!? そもそも俺に見られたとか言って怒られたんだよ! 大体一夏はリアルラック大き過ぎだ! ブレーズ・パスカルさんに謝れ!」

 

「また訳の分からんこと言って言い込めようって腹か! 陰湿陰険だなぁおい!?」

 

「確率論の確立者だ!」

 

「んな事しるか! この偏屈阿保真!」

 

「少しは本読め! この脳筋馬鹿一夏!」

 

「「今日という今日は引導渡してやる! 往生しろこの―へばぁ」」

 

 

 

 

「夜遅くに騒ぐなこの馬鹿者共!」

 

 千冬は何時もと同じように同じように拳を振るい、何時もと同じように騒ぎを収める。何時もの夜である。既に日常であった。

 

 

 

 

 

 

 

(馬鹿者共め……)

 

 職員室の机で両肘を付き、親指で目頭を押さえる千冬だった。頭を痛める千冬はこう思う。今までの殴打ではもうだめだ。もう少し力を入れてみるか?

 

「止めなさい千冬。それ以上力を入れると流石に割れるわよ」 

 

 そういうのは左隣のディアナ・リーブスである。流石千冬の腐れ縁というところか。考えることなどお見通しであった。

 

 しかしどうすれば良い。こうも頻度が高いと本業に差し支えが生じる。面倒を見るのはあの2人だけでは無いのだ。千冬は深く溜息をつく。深刻な表情の彼女をみて2人の副担任は心を痛めた。切り出したのは山田麻耶だが本題は小林千代実であった。

 

「織斑先生」

「何ですか、小林先生」

「こういうのは如何でしょうか。蒼月君と織斑君を、周囲の生徒に監視して貰いましょう。頭の上がらない娘が多いようですし」

「却下!」

「「ひぃっ!」」

 

 

 それは千冬も考えた。だがそれは教育者として保護者としての敗北に他ならない。何より指導すべき生徒に頭を下げるなど彼女の矜持が許さなかった。そして、結局彼女の選んだ手段は原始的で確実な物だった。そう、過去形である。

 

 

 

 

 

その1

 

 

「グラウンド10周!」

「「えー」」

「さっさと行けこの馬鹿者共! 100周走りたいか?!」

 

 駆け出す2人。喧嘩は忘れない。

 

「覚えておけよ! 馬鹿一夏!」

「さっさと忘れろ! 阿保真!」

 

 グラウンドの1周は5km。流石に堪えるだろう。そう、少し軽い足取りで廊下を歩く千冬に、駆け寄る本音。

 

「織斑せんせい~」

「布仏、廊下を走るな」

「2人が、まこと君とおりむーが!」

 

 涙目の本音に思わず足を止めた。何かあったのか? いやただのランニングだ。それにまだ20分と立っていない。

 

「2人が全力疾走で、競争で、泡拭いて倒れました~」

 

 ヒールが折れた。

 

(馬鹿者共め……)

 

 

 

 

 

その2

 

 

「屋内プールの掃除だ!」

「一夏君が!」

「千冬ねぇ! 真のせいなんだよ!」

「さっさとしろ! それと織斑先生だ!」

 

 千冬は思う。競争したところで失神することはあるまい。そんな千冬が翌日見たものは、屋外まで掃除し眠りこける2人だった。高熱だった。春先はまだ寒い。

 

 湯飲みが割れた。

 

(ばかものどもが……)

 

 

 

 

 

さいご

 

 

「自習室で反省しろこの馬鹿者共!」

「馬鹿一夏」

「阿保真」

「「けっ」」

 

 

 自習室とは表向きの名前で実際は独房であった。IS学園において最も厳しい刑罰である。既に7日経ち、報告では物音1つ無く静かにしているらしい。

 

(流石にこれならば堪えただろう)

 

 千冬は満足げに廊下を歩いた。前方に待ち構えるはディアナだった。あの女は不吉だ、千冬は身構えた。

 

 

「千冬」

「なんだ」

「あの2人、断食競争してたらしいわ」

 

 ごん。打鳴る響きはデコと壁。千冬は頭を打ち付けた。

 

「いま集中治療室よ。どうやって意思疎通したのかしら。ISは没収、声も通じないのに不思議よね」

「ディアナ……」

「何名か見繕って呼んでおいたわ。いま生徒指導室に居るから」

「一応、礼を言っておく」

「まぁ良いわ。貸しにするには些末なことだし……ねぇ千冬」

「なんだ」

「1人じゃ大変そうね。どっちか預かるわよ? 実の弟はまずいから真でいいわ」

「死ね」

 

 

 公式戦無敗の織斑千冬。非公式戦の一敗は非常に苦い物だった。

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