日常編 2人の代表候補 鈴1
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鈴にとって真の第1印象は最悪だった。
半裸を見られたのだ。原因は自分にあると分かっていても、仲良くなど出来ようはずが無かった。それに。寝ぼけ眼に映るその姿はお世辞にも好青年と言えなかった。皮肉げに釣り上がり、威嚇せんばかりに鋭く、ただ黒い瞳。ぱっと見の印象はヤクザかゴロツキだと、鈴は思った。
きっと嫌らしく、根暗で何も出来ないくせに偉ぶっている、勘違い野郎。何でこんな奴が学園に居て一夏の友人なのかと、追い出してやろうかとすら考えた。
だが、それは誤りだった。彼は鈴が何を言っても怒らなかった。担任を敵に回しても友人を守り、そして助けられた。鈴の担任は世界で怒らせてはならない人物の1人、であるにも関わらずだ。
感謝の念は一応沸いた。だがそれ以上に疑問が沸いた。何故そこまでするのかと。首を落とされ掛けても笑い、翌日にはその落とそうとした張本人と談笑していたのである。同年代の友人とは何かが違っていた。
興味がわいた。一夏に聞いたら口を濁した。調べたら孤児だと分かった。真は親の事を知らないと言った。恐らく捨てられたのだろう、鈴がそう考えたとき奇妙な親近感と敬意の念が沸いた。
鈴の両親は離婚したとは言え、片方は居る。真には両方居ない。年も1つしか変わらない。にも関わらず自分を抑え、目的を達した。
アタシに同じ事ができたか?
鈴はいつもは二つに結っているその艶のある黒い髪を、首筋に一つにまとめ下ろしていた。ライトグレーのスウェットの裾から白い足を覗かせ、窓側のベッドに俯せになり、膝で折り曲げた足を前後に振っていた。
時刻は10時半。隣のベッドの主は出かけたままだ。"月を見てくる"紅茶を入れた魔法瓶を手に、外出してから既に1時間は過ぎている。遅い。苛立ちを感じ、足が自然とリズムを早める。扉を叩く音がした。どうぞ、と言った。扉を開けて入ってきたのは真だった。鈴は起き上がり、あぐらを掻く。彼は鈴の姿を認めると少し戸惑ったようだ。
「お帰り。どうしたのよ? 突っ立って」
「あ、いや」
「なによ?」
「た、ただいま」
「ん」
真はそのままキッチンへ向かい、魔法瓶を洗う。水が流れる音を聞きながら、鈴は多少非難を込めて真にこう言った。
「それにしても随分遅いわね」
「あぁ、少しゆっくりしてた」
「月なんて毎日見られるじゃない。中秋の名月でもないのに」
「良いだろ、月を見ていると落ち着くんだ。色々考えてさ。そうそう、明日満月だぞ」
「月見酒ならぬ月見紅茶ってワケ? ホント、年寄り臭い。古典といい、Jazzといい」
「失敬な。大人の嗜みって言ってくれ」
「どっちでも良いから、さっさと風呂入りなさいよ。もう直ぐ消灯だから」
真は軽く肩をすぼめる。
今更ながらであるが、鈴にとっても真にとっても、この状況はそれなりに緊張を強いるものだった。つい5日前までお互いの存在すら知らなかった2人が、こうして共同生活を送っているからである。トラブルが収まり気が抜けたところ、その事実に改めて気づいたと言う訳だ。鈴にとっては同年代の異性が、真にとってはそれに加え"自分以外の人間が家に居る"という初めての事態に対峙していたのである。
壁の時計が11時を知らせる。グレーのTシャツ、黒のハーフパンツ、真がバスルームから出ると鈴が照明を切り替えた。部屋が淡いオレンジの光りに包まれる。真は仰向けで、鈴はヘッドボードに背を預け座っていた。部屋に2人の呼吸が響く、2人は互いの呼吸に神経をとがらせていた。
鈴は、彼が足を動かす毎にぴくりと体を振るわせた。真はその彼女を見て右の頬を掻いた。
「あのさ鈴」
「な、なによ」
「一夏の事良いのか? まだ思い出してないんだろアイツ」
「……思い出すまで放っておく」
「そっか、まぁ焦らない方が良いよな」
真は鈴の不安を感じ逆に冷静になったようだ。気遣う余裕が出来た。そしてそんな真を見た鈴は何故か憮然とする。自分だけ不安がっているのが気に入らない。足を振り上げた。身を起こし、その背を真の上に投げる。息を詰まらせる彼の抗議に、鈴はこれから悪戯をする子供のような目で見下ろしていた。
「ねぇ」
「なんだよ、というより息苦しいから降りてくれ」
「アンタさっき見てたわよね?」
「なにを?」
「アタシの足」
「……見てません」
「嘘」
「嘘じゃないです」
「ふーん」
「なんだよ」
「ス、ケ、ベ」
「か、かわいくない」
「初めての夜にアタシを可愛いって言った奴が居たけど、誰だったかしらねー」
「人聞き悪いぞ、それ……」
もうだめだと、真が枕をかぶる。そんな彼の赤い顔を見ようと鈴が笑いながら枕を掴む。
鈴は思う、多分真は何もしない。何より、追い詰められたあの夜のアタシをコイツは気遣ったのだから。今にして思えば本来の同室者とどちらがここに来るか、それを決めた時千冬さんにその迷いは見られなかった。彼女は確信していたのだろう、だからアタシをここに寄越した。だが、それはそれで腹が立つ。
「早くその顔をおねーさんに見せなさいよー♪」
むーと唸り防戦一方の真を見て鈴は思う。再部屋割まで一ヶ月、まぁそれ位なら良いか。一夏をやきもきさせるのも悪くない。だが、鈴の心には信頼と困惑が入り交じっていた。
日常編 2人の代表候補 鈴2
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食堂の窓から朝日が差し込む。目の前には朝食のホットドッグがあった。鈴はホットココアを飲むと、1つ息を吐いた。学園に来て初めてのゆっくりした、緊張しない朝だった。
(こう言うの群れてるみたいで好きじゃ無いんだけどさー)
でも清香が誘ってくれたのだ、今日は顔を立てるかと鈴はホットドッグを頬張った。鈴の周りには2組の少女数名が居た。そのうちの1人が、先日友人となった相川清香だった。まだ1日経っていないが、お互いアグレッシブな質が引き合い直ぐに打ち解けた。ソーセージの肉汁が口の中に広がっていった。
「表出やがれ馬鹿一夏! 花壇に埋めて、穴という穴に花を活けてくれる!」
「花壇じゃ生花っていわねぇぞ! とうとう阿保の馬脚を現しやがったな! ざまーみやがれ! この阿保真!」
「ただの悪意に決まってるだろうが! 気づけこの馬鹿!」
「花壇の生花♪ 花壇の生花♪」
「むかつくわ!!」
騒ぐ2人に千冬が拳を振るう。鈍い音が響き食堂に静けさが戻る。2人はテーブルに突っ伏していた。動かなかった。本音がその2人の少年に駆け寄ると、不安を瞳に湛え千冬を見上げる。千冬は溜息をついて、一夏を右肩に真を左脇に、のしのしと立ち去った。一部の少女達が2人の居たテーブルににじり寄る。箒が牽制し、静寐が一夏の箸を片付けた。非難と悲鳴が上がる。
そんな穏やかに晴れる5月の食堂で、鈴はその騒動から視線を手元に戻す。彼女にはあれが喧嘩ではなくコミニュケーションの1つだと分かった。鈴は男という生き物を知っていた。はしたないという意味ではなく、時折子供の様な面を見せる、と言う事だ。それは彼女の15年という人生で学んだ事だった。幼い頃のクラスメイトであり、父親であり、一夏であった。2人の楽しそうな眼がそれの証だ。ただ、もう少し何とかならないのだろうか、とは思う。
清香がサンドイッチを掴むと、紅茶が波立った。静かな空気に居心地が悪くなったのか「あの2人仲良いのね」と鈴が言った。「最近はずっとあんな感じだよ」と清香が答える。
「最近? 前は違ったってこと?」
「真は、初めて見た時もっと静かな感じだった。んー違うか、堅い、かな。石みたいで、必要だから話す。そんな風。織斑くんはよく分からないかな。クラスも違うし」
「真が石って、嘘でしょ?」
「ホント。いつの間にかあんな風になっちゃった」
清香は懐かしむように、空席となったテーブルを見る。同席の少女が笑いながら織斑君のせいだと言う。そうしたら別の少女がセシリアのせいではないか、と多少意地を悪く言った。鈴は、話が読めないと皆に問う。その言葉に少女らが目を合わせる。清香が頷いた。
「なによ?」
「鈴も2組だしね、言うよ。でもここだけの話。まぁみんな知ってるけれど……真とセシリア、入学早々に大喧嘩したの」
鈴は、その言葉の意味を理解するのに時間が掛った。初対面の鈴にあれだけ罵られても涼しい顔をしていた真の、怒った顔が全く想像出来なかったのだ。
清香から事の顛末を聞いた鈴は、最初に腕を組んで、頭を傾げる。眉を寄せて、目を瞑ると、むーと唸った。そして清香を見る。
「馬鹿にしてる?」
「そう思うよね、やっぱり」
「……ホント?」
「ホント」
「ふーん。イマイチ信じられないけど……なら仲悪いのね」
「多分凄く良い。多分だけど」
「なによそれ? ふつう気まずくならない?」
「普通はそうだよね。でもあの2人はそうじゃないみたい」
ぽかんと呆けた鈴を清香は屈託なく笑った。同席の少女達は2人の話題で盛り上がっていた。曰く、射撃場で一緒のところをよく見る、一夏と真に挟まれてずるい、屋上でずっと二人っきりで話してた。
「あぁそうそう。蒼月君がセシリアを抱きかかえて降りてきたって話あったよね」
「それ聞いた! 屋上からって奴でしょ? お姫様だっこで!」
「私も見た。真君、泣いてた」
鈴のホットドッグが手から滑り落ちた。あの真が少女相手に怒って泣いた、その事実は鈴を困惑から苛立ちに変えるのに十分だった。
(なんか、腹立つ)
日常編 2人の代表候補 セシリア1
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IS学園の外れには人用の射撃場がある。100m程度の室内射撃場と2000mまでの屋外射撃場、この2つ。生身の少女に実際の銃は重すぎた。炸薬の反動は大きすぎた。だから、2,3年の上位成績者が稀に顔を出す程度で、何時も閑散としている。
そんな陽の光が差す学園の最外層に2人の1年生が鋭い視線を走らせる。ライフルを構えるのが金髪碧眼のセシリア・オルコット。タブレットと双眼鏡を手に少女の側に控えるのが、黒髪黒眼の蒼月真であった。2人は学園指定の白を基調としたジャージに身を包んでいた。
レーンをターゲットが走り1500mで止まる。セシリアはコンクリートの上に敷いたカーキ色マットの上に伏せる。上体を両肘で支え、足を開く。眼はゴーグル、耳はイヤープロテクター、金色の髪は青いリボンで1つに結っていた。望遠レンズ越しのターゲットは、茶色の地面から立ち上る熱で陽炎のように揺らいでいる。5月最初の土曜日は、いつになく陽の光が強かった。額に汗が滲み、滴る。
真は左脇にあるリボルバーと周囲に警戒の意識を飛ばす。何があっても良いように少女の側に控える。セシリアはその気配を感じ、たった一つの赤い点を狙う。それ以外には何もかも消し去った。
そして彼女の放つ意識の線が一際鋭く光り、重い銃音が響く。真は望遠レンズ越しのターゲットを見て、応えた。
「10点」
もう一つ響いた
「十点」
最後に一つ
「……Ten点」
「正確に読み上げなさいな」
「あのさ、セシリア」
「なんですの?」
「いくら安定性の良い伏射姿勢とは言え、2脚を使ってるとは言え、なんで1500m先の的をそう軽々とど真ん中に当てるかな。しかも大型ライフルのAWM(アークティク・ウォーフェア・マグナム)とか。.338ラプア・マグナム弾だぞ、それ」
「淑女の嗜みですわ」
「どこの淑女だよ……」
彼は立ち上がったセシリアにタオルと水を渡す。汗で頬に付いた金の髪。彼女の艶姿に思わず見とれ、慌ててタブレットに指を走らせた。
「2km四方の第3アリーナじゃほぼ逃げ場無いじゃないか」
「ブルー・ティアーズなら全くありませんわよ」
「可愛くない」
「私に可愛さを求めるつもりですの?」
「しない。ただこうも実力の開きを見せつけられたんだ。多少の愚痴ぐらい言わせてくれ」
「真は800m以上伸びませんわね」
「820m当てたぞ」
「一回だけですわよ」
もう良いと、拗ねる真にセシリアは苦笑、思わず右手を口に添えた。
もっとも実戦での狙撃は非常に過酷だ。毒を持つ動物が居るかも知れない、敵がどこからか狙っているかも知れない、足場が不安定になるかも知れない、誰かが襲ってくるかも知れない、優秀なガンナーであればある程周囲の気配に、鋭敏に反応してしまう。それはこの学園の射撃場においても例外は無い。狙撃に全てを集中する事はセシリアとて至難の業だ。1500mのピンポイント狙撃は真が側で警戒していたから出来る芸当であった。
(まぁこれは黙っておきましょう。弱みを見せるのは得策ではありませんわ)
しかし、とセシリアは思う。そう言う真も異常だ。動かない的とは言え300m以下であれば立っていようと、走っていようと、強風が吹こうと必ず当てる。勿論、銃の種類に依存はする。スナイパーライフルで800m、アサルトライフルは300m。ハンドガンでは50m、ISならばその射程は更に伸びるだろう。
そして彼女の足下にあるライフルである。セシリアが使ったこの大型ライフルは真が調整した物だった。セシリアにはまるで手足のように馴染んだ。
「真はガンスミスの資質が有るのではなくって? とても使いやすいですわ」
「そう? 一回ばらしてグリスアップした位だけどね」
「機械と相性が良いとか言っておりましたわね。銃もそうなのかしら」
「多分ね、コイツも機構を持つ立派な機械だし」
ライフルを随分と優しい目で見る真にセシリアは嘆息する。
(機械の相性、銃を持ち始めて一月足らずでこの射撃能力、記憶が無い事と言い謎だらけですわね、真は)
「まぁいいですわ。休憩にしましょう」
「異議無し」
日常編 2人の代表候補 セシリア2
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射撃場脇には学園のイメージからかけ離れた少しばかりの広場があった。傷み古ぼけた水の出ない噴水、塗装の剥がれた最早色の分からないベンチ、割れて荒れ果てた石畳。それらは学園が出来る前から置いてある物だった。土地を買収したは良いものの手を入れる事なくそのまま人の記憶から忘れ去られた空間。青々とした草木だけが、その場所が古い写真ではなく、現実だと物語る。2人はその廃墟めいた場所を気に入っていた。
2人には、かって其処に居たであろう憩う人々が見える。
地面にシートを敷く。携帯のコンロで湯を沸かし、ティーポットに湯を注ぐ。慣れた手つきのセシリアを見て真は空を仰いだ。もう数時間すると夕暮れになる頃。アールグレイの香りがするその青い空には雲が一つ、浮かんでいた。
「セシリア、迷惑を掛けた」
「何の事ですの」
「この間の騒ぎの話。千冬さん機嫌悪かったろ? だから、すまない」
「謝罪は既に頂いてますわ」
「3人ではね。個人的にはまだだったから」
セシリアは静かに紅茶をティーカップに満たすと、そうでしたわね、と思い出したように言った。そして真の首に巻かれた包帯を見る。
「真も無茶しますわ。あのディアナ・リーブスですわよ」
「セシリアもそう言うんだな」
「彼女の銘は有名ですわ、色々な意味で」
違いない、そう静かに真は笑う。彼女は注がれたティーカップを渡した。
「真は何故そこまでしましたの?」
「そこまで?」
「話は聞いています。3人の友人より来たばかりの転校生を庇うなど、理解に苦しみますわ」
「一夏とかにも同じ事言われたな。自分でもよく分からない」
「呆れますわね。関係を持ったというあの噂、あながち的を外して―」
「セシリア」
「……失言でしたわね。ごめんなさい」
「いや、いい」
彼女自身、何故この様な低俗な発言をしたのか驚いていた。目の前に座る真をちらと見る。あぐらを掻く彼はただ静かに紅茶を飲んでいた。セシリアと話す時の真は物静かである事が多い。彼女はその雰囲気を好ましく思っていたが、今はその静けさが不安を煽る。
「もう日も陰ってきたから、そろそろ帰ろう」
「真、私は―」
「だから気にしてないって。セシリアだって本心じゃ無いんだろ? それに多少妬いて貰えたようだし」
「か、勘違いなさらないで。このあと模擬戦を、と言いかけましたのよ」
「それは残念……先約があるんだよ、だからまた今度誘ってくれ」
「一夏さん?」
「いや、鈴と。腕試しをしてくれるんだってさ」
「確か中国代表候補でしたわね」
「そそ、話した事は?」
「一言二言。一夏さんに紹介して頂きましたわ。少々粗野な方ですわね」
無礼な鈴の言動を思い出しセシリアは、僅かに表情を固まらせる。彼女から見れば鈴は知性に乏しく優雅さに欠けていた。食事の作法といい、他人への遠慮のなさといい、数え上げればきりが無い。同じ国家代表候補というのも苛立たしい。それに真への馴れ馴れしさは目に余る。昨日の放課後、鈴は真の肩に乗り、一夏と共に学内を見て回ったのだ。真は戸惑いつつも笑っていた。
「セシリアから見れば鈴は真逆だし、気に入らないのも想像がたくない。一夏の事もあるしね。けれど俺にとっては友人でもあるんだ、挨拶程度はしてもらえると助かる」
不安を浮かべる真に、セシリアは「そういえば、真の同室者とか?」と言った。それは質問でも確認でも無かった。
「へ? あぁそうだけど」
「楽しそうで何よりですわ」
「楽しい、か。まぁそうなんだろうな」
「真は意外と手の平を返すのが早いですわね」
「何のことだよ?」
「なんでもありませんわ」
「よく分からないけど……セシリア、聞いてくれ。帰った部屋に灯があるんだよ。帰ったら人が居てさ、ただいま、お帰りって言うんだ。最近思い知った。こんな些細な事がこんなに嬉しいと思わなかった」
「……確か見つかってから2ヶ月は学園内で軟禁、その後は今までずっと一人暮らしでしたわね」
「知っての通り、少なくともそういう記憶は俺には無い。つまり初めて」
「なら早く家族の元にお戻りなさい。片付けは私がしておきます」
「家族、か。妹が居たらきっとあんな感じなんだろうな」
「ですが。次は真がなさい、紅茶も貴方が淹れる、良いですわね」
「必ず」
真の背中を見送り、セシリアは器を片付ける。セシリアも肉親は居ないが、その記憶はある。真にはその記憶すら無い。あれだけの騒動を起こした鈴を、真が受け入れているのはそういう事なのだろう。鈴の事を話す真の、嬉しそうな表情を見ればよく分かる。
凰鈴音。セシリアと同じ15歳、同じ専用機持ち。真と同じ髪の色、同じ瞳の色。同じクラスの同じ部屋。セシリアの知らない真を知りつつある。
「釘を刺しておきましょうか」
セシリアは1人呟いた。ざぁと、草木がわなないた。