IS Heroes   作:D1198

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朝 R1

 思い出と言うものは存外いい加減な物だと思う。時と共に曖昧になるし自分の都合に合わせて書き換えることすらある。きっと郷友と語り合う思い出も実はちぐはぐで、内心差異を指摘しあっているに違いない。

 

 こんないい加減な物であるけれども、人にとっては重要で文章に、画像に、動画にと記録に勤しむ。考えてみれば、他人と共有する記憶が思い出であり、思い出というものは人との繋がりその物であり、人は1人で生きていけないと言うならば、なるほど重要に違いない。

 

 思い出を失えば親しい人が他人になってしまうのだから。

 

 では個人の記憶が一切無い上に周囲の人も当人を知らない、この様な状況において人はどのような心境を持つのだろうか。世界に自分1人のみだと孤独感に襲われるだろうか、それとも全てに恐怖し絶望するだろうか。

 

 私はこう思う。逆に開き直って新たに人生を歩み始めるだろうと。人は問うだろう何故断言できるのかと。それにはこう答えよう、それは私の事なのだから。

 

 IS学園1年2組所属。16歳。暫定名、蒼月真。

 これは思い出を無くした私がいま持つ全てである。

 

 

「なら蒼月君は暫く家から通う事になるんだ」

「あぁ急だったからな。寮の準備が間に合わないんだと。静寐って呼んでいい?」

「だめ」

「ね、ね、真君ってどこに住んでるの? 近く?」

「三崎口駅の近く、15分ってところ。本音って呼んでいいかな?」

「ここからだと遠いねー」

「スルーとは酷い」

 

 私は自分の席で知り合ったばかりのクラスメイト2人と、僅かでも親しくなろうと悪戦苦闘中だ。その2人は鷹月静寐、布仏本音と言った。中々に手強い2人であるが、こうして会話が出来るだけ随分と気が紛れる。クラスメイトが全員女と言う事がこれ程しんどいとは思わなかった。

 

 入学式が終わり自分のクラスにやっとの思いで辿り着いたのが20分ほど前。クラスに唯一の男子生徒である私は到着早々女生徒達から手荒い歓迎を受けた。好奇、嫌疑、その他諸々の感情を含む〆て29人分、58の視線に晒されたのだ。それは予想以上に厳しく、処刑場で加害者を見る遺族の視線とは言い過ぎかもしれないが、それ程強烈な物だった。

 

 これは堪らんせめて一般的な会話ができる仲を、と私は片っ端からおはようと声を掛けたのである。その甲斐あって先の2人と雑談を交わす程度の関係を得ることができた。挨拶は人間関係の第一歩とはよく言うものだが、早々に話し相手を得る事ができたのは幸運だろう。もっとも他の女生徒からの視線はこの瞬間でさえ止むことは無いが、今はこの2人に専念した方が良いと思う。我慢のしどころだ。

 

 それにしても随分と質の異なる2人と知り合ったものだと思う。鷹月さんは挨拶をしたとき小さい声でどうも、と一言あったのみだったので内気な娘かと思った。だが今では気兼ねなく話しかけてくる。案外人見知りなのかもしれん。布仏さんは温和で一見親しみやすく感じるが、人との線引きはしっかりしているようだ。気安く踏み込むと確実に拒絶してくる。そう簡単に心を許してくれそうに無い。 そのような2人の共通点は、随分としっかりしていそうだ、と言う事であろうか。

 

ところで、と鷹月さんが姿勢を正して聞いてきた。

 

「おう、何でも聞いてくれ。でも体重は男の子の秘密だぜ」

「ばか。聞きたいのはISを動かせた理由なんだけど、結局どうだったの?」

 

布仏さんもそう言えば、とその目を私に向けてきた。

 

「あぁそれね。結局何も分かっていない。あれだけ調べまくったのになぁ」

「IS学園の検査でも?」

「あぁ。専門の先生も頭抱えてたわ。結局はISコアに落ち着くんだとさ」

 

 未だコアは解析できていないものね、と呟く鷹月さんに布仏さんがこう続けた。

 

「謎々のコアさんに聞いてみるしか無いねー」

 

 私は思わず苦笑した。彼女の言葉にでは無く実際そうする他手段が無いと思われたからである。

 

 IS、インフィニット・ストラトスと呼ばれるパワードスーツは問題が2つある。1つは女性にしか扱えないこと。もう1つはISの基幹部品「コア」がブラックボックスなのである。今まで女性にしか扱えなかったそのISだが、最近になって動かせる男が2人見つかったのだ。言うまでも無くそのうちの1人とは私の事で、調査にも関わらず原因は不明。ならば原因はコアしかない、と言う訳である。

 

 今更言う事でも無いのだが、既存兵器をガラクタにしたこれがよく解らないまま使われているのは恐ろしいと思う。男が動かせた理由、何事も無ければ良いのだが。

 

 

「言ったろ、何でも聞いてくれ」

 

 ふと布仏さんの視線を感じ私は彼女を促した。彼女は先程から自身の疑問を聞いて良いものか判断しかねていたようだった。私が言うや否や彼女の顔がぱぁと明るくなる。実に和む笑顔だと思う。ただ彼女が躊躇った質問は少々困ったものだった。

 

「真君の家族はどうなのかな? お母さんとかやっぱり適正高いの?」

「家族、か。あーそれはな、それはなんつーか……ない」

「無い? 低いじゃ無くて?」

 

 私の歯切れの悪い回答に鷹月さんが聞いてきた。布仏さんも分からないと言った顔だ。私には記憶が無い。当然家族と呼べる人達を知らない。私自身殆ど気にしていないのだが、気の良い彼女らはそう思わないだろう。まだ間もない彼女らだ。誤魔化すべきだ。だが何故だろうか、彼女らに嘘をつくのは嫌だった。

 

「覚えてないんだ、身内のこと」

 

 悩んだ末私は正直に答えることにした。出会ってまだ間もないけれども、彼女らならそれを理由に距離を置かれることは無いだろうと考えたからである。

 

「ごめんなさい」

 

 一転、布仏さんが今にも泣き出しそうな顔で謝罪をしてきた。鷹月さんも神妙な顔をしている。

「いや、気にしないでくれ。俺も気にしてない。そんなに気にされると逆に俺が気にするって」でも、と続ける布仏さんに私は手で制止し、続けてこう伝えた。

 

 「知らないってだけで、どこかで生きてるかも知れない。世話を焼いてくれる人も居るから1人って訳じゃない。だから寂しくない。更に、」2人を見据えて私は笑いながらこう告げた。

 

「更に優しい友人が2人もできた」

 

 そうだ。私を気遣ってくれる彼女らに嘘をつくのはあり得ないだろう。

 

 どう反応したら良いのか分からないのか、きょとと2人が互いに目を合わせた。「そうだな、それ程気に病むなら代わりに今度デートしてくれ。それでチャラにしようぜ。あぁ勿論3人でな」暫しの沈黙の後、私のにやついた顔を見て理解したのか2人は眉を寄せた。

 

「真君ひどいよー本当に心配したのにー」

「待て待て、その場を和ませようとだな」

「心配して損した」

「悪かったって! というかその眼怖いから!」

 

 どうにか彼女らの機嫌を取り戻せたらしい。怒っていてもその雰囲気は和らいだ。ならば平謝り位なんという事はない。しかし怒っていても可愛らしい布仏さんに対し鷹月さんの冷ややかな事。この娘に冗談は控えた方が良いかもしれん。それにしても、私は本当に良い友人を得たようだ。

 

そしてIS学園とはそのISを学ぶ世界唯一の学校である。その女ばかりの学校に今私は居る。

 

 

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「相川清香15歳! 乙女座のO型! 好きなことは体を動かすこと。好きなタイプは誠実な人!ハンドボール部入部予定! みんなよろしく!」

 

 始業式の定番、自己紹介が行われている。近年は名簿順に関し色々意見があるようであるが、結局はひらがな順で行われる事が多いそうだ。IS学園でもその例に漏れずその順で、早々に相川さんが自己紹介をしていた。

 

 それはともかくと、暫く前にクラスに来た壇上の女性2人に目をやる。担任のディアナ・リーブス先生と副担任の小林千代実先生である。金髪碧眼、淡い桃色のワンピースでゆったりした出で立ちのリーブス先生に対し、濃紺のパンツスーツで黒い髪を後ろで1つにまとめ隙の無いのが小林先生だ。2人とも髪が長いこと以外類似点がない、随分と対照的な2人である。

 

 私はその彼女らとこれが初対面では無い。今から1年程前ちょうど今時分だろうか。私は短い間であるが、とある理由でこのIS学園に滞在していたことがあった。その時彼女らと面識を得たのである。滞在と言っても事実上軟禁状態ではあった事は付け加えておく。

 

 当時のことを思い出すと、あの2人が担任とは喜んで良いのか嘆くべきか判断に悩むところだ。小林先生はともかく私はリーブス先生を多少苦手としていた。彼女には色々世話になった。感謝こそすれ恨む道理などない。無いのだが、とにかく調子を崩される。それにしても先程から隣が随分と騒がしい。1組であろうか。

 

 タブレットを見ながら彼女が「次は真ちゃんね。自己紹介なさい」と促した。リーブス先生は多少苦手なのである。いくら何でもちゃん付けは無いのでは無いか。抗議したところで聞き入れて貰えぬ事は身に染みている。はいと、喉まで出かかった不平を飲み込み私は立ち上がった。

 

 皆の視線が集まるが最初よりは随分と視線が柔らかい事に安堵を覚える。苦労の賜である。後ろから真君がんばれーと激励が聞こえた。

 

「蒼月真です。皆さんご存じかも知れませんが男の適正者で2人目の方です」

 

 織斑君が良かったー、残念ー等々感想が声が聞こえる。鷹月さんと布仏さんも心なしか表情が硬い。失敬だな君ら。小林先生が咳払いで彼女らを注意する。

 

 「メディアでは随分と騒がれましたがISに関しては初心者同然です。既に勉強を始めている皆さんには及びません」あれ意外にまじめ? と鷹月さんが私を見上げている。よし、彼女には後ほど念入りに念を押す。「とは言え、ここい居る以上全力で取り組みたいと思います。色々あるかも知れませんが皆さん1年間よろしくお願いします」

 

 ふと気づけばクラス中が静まりかえっていた。鷹月さんはぼぅと見ているし、布仏さんはきょとんとしている。はて、何かおかしなところが合っただろうか。小林先生はうんうん頷いている。特におかしいところは無さそうであるが。

 

「真ちゃん、自己紹介にしてはまじめ過ぎかしら」

「先生、俺は真面目なんです」

「折角の男の子なのだから、そうね、好きな女の子のタイプとか答えて貰おうかしら?」

 

 何故そうなるのか。私の話を聞いて貰いたいのだが。それよりも何故そのような事を答えねばならないのか。

 

 クラス中の少女らがその目を爛々とさせながら私を見ている。そうか、好きなのだなその手の話が。IS学園の生徒といえども変わらないのだな。小林先生に救いの手を求めるが、あからさまに逸らされてしまった。彼女達の期待に満ちた眼を見る。逃げる事は難しそうだ。

 

 腹を括るにしても一体どうしたものだろう。下手に答えては後々禍根を残しかねない。誰もが納得する普遍的な女性……一瞬あの人の姿を浮かべてそれを言うのやめた。リーブス先生がにこやかに私を見ている。これが狙いか。流石に他所の担任の名を上げるのは適切で無い。かと言ってリーブスの名を出すのは後々恐ろしい。

 

 思案の後私は「裏表の無い素敵な人です」とどうとでも取れるように答えた。「えー男らしくないー」や「サイテー」、わいわいがやがや言われたい放題であった。理不尽である。

 

 ここまでにしておきましょ、と不満顔なリーブス先生を私は抑えてそれと、と続けた。1つ彼女らに伝えておかねばならない事がある。機会としては今が適切であろうと思った。先生が何か言うかも知れないが、いずれ知れることだ。問題ない。

 

「それと私は皆さんより1歳上の16歳です。僅かですが社会人経験もありますので悩み事があれば気兼ねなく相談してください」

 

「「えーーーー!」」

 

一拍の後彼女らの大合唱が響いた。君ら隣クラスに迷惑だぞ。

 

 「うそ……」鷹月さんが呆然としている。「と、年上?」「信じらんない」「言われてみれば……」等々感想が聞こえる。「真君はおにーさんだった……」、と流石の布仏さんも驚きを隠せないようだ。そんなに幼く見えたのだろうか。小林先生が予想通り睨んでいる。リーブス先生は予想通りあらあらと笑っていた。

 

 ふと視線を感じそちらを見ると我に返った鷹月さんであった。目が口程にものを言う彼女は彼女はただ一言、こう言った。

 

「蒼月君、留年したの?」

 

失敬な娘である。

 

 

 

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 1限目の後、最初の勤めから解放された私は、ノートを見直す暇無く彼女らから質問攻めを受けていた。

 

「ほんとびっくりしたよ。真く……先輩」

「年上でも同学年なんだ。気にしないでくれると助かる」

「なら、そうさせてもらおうかな」

「というより、敬語は舌噛みそうだしな。布仏は」

「真くん、それひどいー」

 

 私らのやりとりで鷹月さんがくすくす笑っている。年齢のカミングアウト。博打では無いかと内心心配であったが上手くいったようだ。他のクラスメイトからも眼を背けられるような事は無くなっている。

 

 意外な事だが、仕事に強い関心を持ったのは布仏さんであった。IS機械関連と知るや否やすごい食いつきで、本当に意外だ。布仏さんは機械に興味があるのだろうか。奇特な娘である。考えればまだ彼女らの事を殆ど知らない。そろそろ私から質問したいところではあるが、まぁ追々で良かろう。

 

 一呼吸の後、互いに言葉を交わす彼女ら2人を見る。鷹月さんと布仏さん。あの出来事から数時間しか経っていないはずだがここまでの道のりの長い事。本当に一時はどうなる事かと思ったが、大げさにも実は夢では無いかと疑ってしまう。

 

 どうしたの、と鷹月さんが不思議そうな顔で私を見てきた。随分と柔らかい表情だ。先程の視線の中にこの2人のものもあったのだ。今の彼女らのと比べるととても同一とは思えん。そんな私の感傷に彼女らは実にあっけらかんとしていた。だってねぇ、と眼を合わせ同意を確認する2人。

 

「なんだよ。はっきり言えよ」

「ちょっとこわいかなーって思うよ」

「怖いって、俺が? どこが?」

「特に目付き。はいこれ」

 

 鷹月さんが差し出した折りたたみ式の手鏡で自分の顔を見る。黒髪、黒眼……特に変わったところは無いと思うのだが。多少釣り眼とは思うけれども。そういえば営業の垣田さんに営業は駄目だとか言われたが、そういう意味だったのだろうか。それにしても彼女らは随分と酷い事を言っておらんか。

 

「そりゃー織斑一夏より爽やかとは言わんけどさ……」

 

織斑……失念していた。

 

「2人ともスマン、1組行ってくるわ」

「1組?」

 

急に立ち上がった私に少し驚いた顔で鷹月さんが聞いてきた。

 

「織斑一夏に会ってくる」




本編開始です。
とりあえず修正・変更せずにそのまま投稿しました。
ただ1話あたりの文字数が多いため、先行投稿先と異なり話数が異なっています。
プロローグと一人称が異なるのは意図的な物です。

文章の感じが一定で無いのは、早いところ何とかしたいですね。
何分本を読む度に影響を受けますので……。
ご意見お待ちしております。
尚、プロローグは修正しました。宜しければご覧下さい。

2012/3/20 修正しました。
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