IS Heroes   作:D1198

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日常編 学園ドラマ? 1

 私が最初に銃声を聞いたのは、去年の夏であった。当時2年、現在3年生の白井優子先輩が第2世代型IS"打鉄"にて使用したFNハースタル社の"FN SCAR-H"というライフルが初めてであった。

 

 当時の私は銃声と言うより、非常に激しい機械駆動音と認識していた。それでも衝撃的であったことには間違い。100m以上離れていても、その爆音は体の芯を揺さぶる程の物だった。

 

 その銃声と一口に言っても様々で、銃の種類、弾の種類、撃ち方で異なる。大半の人は"バン"ではなかろうか。恐らくハンドガンであろう。ライフルでは"ガアン"。連射出来る物であればでは"ガダダダ"。チェーンガンクラスになると最早音では無く衝撃波だと思う。

 

 

 

 昨夜のことだ。

 

 一夏が漫画ぐらい読め、と無理矢理おいていった物にその銃声が文字で表現されていた。私はそれを見て、まさかと軽く失笑した。そして今日、学園武器庫で銃をあさっていた時それを見つけたのでつい手に取った。気まぐれである。だが、

 

 驚いたことにその通りであった。

 

 

 

「ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ」

 

"H&K MP5i"7.62mmサブマシンガンの銃声である。

 

 

 

「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ」

 

これは被弾中の一夏。

 

 

 

 

 

 5月2週目の月曜日。時刻は午後2時を少し過ぎたところ。5月末のクラス対抗戦準備のため、授業が午前中で終わった。千冬さんもディアナさんも大変である。

 

 女性陣は町へ買い物へ出かけた。一夏と私は荷物持ちかと覚悟したが、予想に反し声は掛らなかった。転校して間もない鈴は何かと物入りだろうと申し出たが、「ヘ、ン、タ、イ」と一蹴された。男には知られたくない買い物らしい。清香とだった。鈴も、もう心配ない。STN3人娘、私が密かに呼んでいる篠ノ之、鷹月、布仏の頭文字を取った呼称だが、彼女らも町に繰り出した。偶には彼女らだけと言うのも良いだろう。

 

 感傷に浸る私に、"雪片弐型"を構える一夏が言う。バカは顔を引きつらせていた。

 

「こんっの阿保真がっ! 間合いの外からネチネチとばらまきやがって! 正々堂々"拳"で戦え!」

 

「ふつーサブマシンガンって言ったら拳銃弾なんだけどさ、コイツはライフル弾使ってるんだ。流石IS用だよな。生身ならひっくり返るか、手を痛めるぞ。そうは思わないか? 馬鹿一夏」

 

 

 空になった32発弾倉を量子格納、展開。ちゃきり、銃身に一発込める。ここは第3アリーナの高度50m+ちょっと。快晴。良い青空だった。

 

 

「しかも毎分800発だぞ。普通ならあっーという間に弾切れだけど、量子格納領域さまさまだな。沢山撃てる」

「……沢山ってどれだけだよ?」

「一夏の為に一万発用意してきました。撃ちっぱなしで12分いけます。かまーん」

「なんだそのサディスティックな笑みはよ! この陰湿、陰険野郎が!」

 

 俺はできうる限りの冷たい視線でバカをなじる。冷静に、クールにだ。オーケイ、ジョブス。分かってるよ。

 

「何時も使ってる12.7mmより1ランク下の、7.62mmとは言えこれだけバラ巻かれると、さぞやり難かろう。だからさっさとおっちね、このアグリー・リトル・スパッド(映画ゴーストバスターズに出てきた醜いぶよぶよの食い意地の張った緑デブ)」

 

 風が吹き、沈黙が訪れる。一夏が頬を引きつらせた。バカ面がトリガーに掛る俺の指を刺激する。痙攣しはじめた。

 

「てんめぇ、昼のハンバーグ、根に持ってやがるな……」

「当たり前だ、この色食魔神が! ハンバーグカレーからハンバーグとったらただのカレーじゃないか! 鉄板のような焼け具合! したたり落ちる肉汁! 卑劣な手段でお前にかすめ取られたあの恨み! 今この正義の鉛弾で成敗してくれる! さっさと念仏を―」

 

「この間合いでのうのうと喋るか、阿保真が! がら空きだー!!」

 

 雪片弐型をかざし、踏み込む一夏。口上中に仕掛けるとは無礼千万。情け無用だ。みや、ぶっぱなせ。

 

 

 

「ブブブブブブブブブブブブブブブブブブブ!」

 

 これは7.62mmサブマシンガン"H&K MP5i"の銃声である。

 

「ぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶぶ!!」

 

 そして被弾中のバカ。

 

 

 

 

 

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 ロッカーの扉に手を掛ける。かたり、そんな音だった。何時もは慌ただしい着替えも今日はゆったりしていた。私ら男は都合上、アリーナの更衣室にて着替える。これがまた遠い。その為いつも全力疾走だ。そして何故かその更衣室がころころ変わる。勿論近い遠いがある。時々千冬さんは訓練の名目で意図的に変えている、そう私が思うのも無理ない事である。

 

「意外に充実した午後だったよな」

「おい、阿保」

 

 元々アリーナの更衣室は、大多数を占める女生徒専用の為、それなりに広い。教室3つ分はあるだろうか。それを男2人で使っているのだから、多少得した気分になれる。多少である。IS用スーツの上を脱ぐ。一息吐いて、見渡すはロッカーの列。互いに背を向け合う様に並ぶこと3列。そして、その間隔は人5人分ほど。その間には背もたれの無い長椅子が並んでいた。

 

「偶には男だけってのも良いもんだ。セシリアも鈴も容赦なく撃つし、打つし。最近思うんだけど、あれは訓練と言うより、態の良いサンドバッグだよな」

「鏡見てみろよ、きっと同じ様な顔が見られるぜ」

 

 特にロッカーが指定されている訳では無い。だがこうして2人近場の箇所を使うのは日本人だからだろう。大浴場で隅に片寄るのと同じだ。何故かもの悲しい。

 

「やっぱりさー、射撃場じゃイマイチ感じが掴めないんだよな。やっぱり動く的じゃ無いと」

「……」

「まぁ俺も一夏もサブマシンガンについてよく分かったし、今日はよく寝られそう―へでぶ!」

「話聞きやがれ! この阿保真! 言いたいことはそれだけか!? この先天性引き金興奮変態野郎が!」

 

 顔面にはめり込んだ馬鹿の拳があった。まっくらだった。だから、殴り返した。

 

「はべぇっ!」

「安心しろ、この馬鹿一夏! 4日前の唐揚げ、9日前の春巻き、13日前のエビチリも控えてるからな! 安心して蜂の巣になれ!」

「一々数えてるんじゃねぇ! どれだけねちっこいんだよ、お前は!?」

「この食い物の恨み胃袋に刻んであの世へ落ちろ!!」

 

 突き、蹴り、投げ、締め、そして床に倒れ込む。散り散りの呼吸と滴る汗。訓練後よりだるい。両手両膝を床に付き、うなだれる。

 

 仰向けの一夏が言った。

 

「今日、なんかすげー疲れた……」

 

 私が床をぼんやり見つつ答える。

 

「何時も誰かが止めてくれたからなー」

「居なくなって分かるありがたみってか」

「その言葉をとても愚弄したような気がするよ」

「さっさとシャワー浴びて飯にしようぜ」

「異議無し」

 

 

 

 

 

 

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 気がつけば5時を過ぎていた。私は立ち上がり壁際の部屋に向かう。壁に埋め込まれたパネルを操作し、頭上からお湯が降り注ぐ。少し強めの雨。見下ろす視界には玉の雫と湯気が見えた。

 

 

「真」

「なんだ」

 

それは一枚仕切りを挟んだ一夏の声だった。髪に付いた泡を落としていた。

 

「お前、最近調子良いな」

「ISか?」

「そう」

「調子が良いって言ってもたった3連勝じゃないか」

「そうだけどよ、圧勝だろ」

 

 私は3呼吸ほど沈黙を続けた。一夏の微かに重い言葉の意味を理解するのにそれだけ掛った。それが長いのか短いのか私には分からなかった。

 

「一夏と俺にそれ程実力差は無いさ」

「ならなんで負けるんだよ」

「それは機体特性、というか銃の差だな」

「そんなに違うか?」

「そりゃーそうだろ。銃って代物が世の中にこれだけ溢れているのがその証拠だ。ヘタレでも銃一挺あれば軍人だって倒せる。まぁ当たればだけれど」

「今、"俺勉強してない"って言って実はしてる奴を思い出した。むかつく」

「訳わからんわ……まぁ確かにそろそろ真剣に考えなくちゃいけない頃だろうな」

「何をだよ」

「戦い方、訓練の方法。一夏は今まで勢いで押し切ってきたけれど、何時までも通用するものじゃない」

 

 それは逆に言えば、今までそれだけで乗り切ってこられた、と言うことだ。最近気づいたが一夏の反応速度は人並み外れている。規格外と言っても良い。その速度はセシリアよりも鈴よりも速い。勿論私よりもだ。コイツは発砲後の弾丸に反応していたのだ。思考にしろ動きにしろ、直線的かつ単調的な面を直す事がまずやることではないか、"私は"そう思う。そうすればコイツは化けるだろう。

 

「ならどうすりゃ良いんだよ?」

「自分で考えろよ」

「そこまで言って出し惜しみかよ……」

「一夏には借りもあるしな、手伝いたいのは山々だけど、俺とお前じゃその有り様が違い過ぎる。プラスにならないだけなら良いけど、下手に手を出してマイナスになったら目も当てられない」

「そーかよ」

 

 一夏は湯を止め急ぐように出て行った。1つ年下の同級生の背中を見て、私は軽く息を吐いた。その後を追い、タオルで自分の体を拭く。

 

「人の話は最後まで聞けって。だから、模擬戦の相手ならいくらでもする。そこから一夏なりの方法を探る、当面はこれで良いだろ。そして自分の柱を作れたら、俺も手を出せる」

「俺には真が何を言ってるかわかんねーよ」

「それが最初の目標だ、と言うのは言い切れるけどな」

 

 柱か、体を拭きながら一夏は呟いた。私は多少笑ってスラックスを穿いた。

 

「というかさ、一夏にはうってつけの先人が居るだろ。ブレード1本で世界を制した人が」

「千冬ねぇはこういうの嫌いなんだ。贔屓している様に思うから」

「なら、生徒として頼めば良い。先生なんだからさ」

 

 一夏は暫く黙ると、頼んでみると言った。私はそれが良いと答えた。

 

 

 

 

 

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 ボストンバッグを漁る私に一夏が言う。コイツはTシャツとトランクス姿のままだった。

 

「そのボストンバッグ、鈴のじゃないか?」

「あぁ借りた。何時も使ってるのは鈴が持って行った。買い物には大きすぎるんだってさ」

「ふーん」

「なんだ、そのにやついた顔は」

「上手くやってるようで、何よりだぜ。一時はどうなることかと思ったからな」

 

 お陰様でな、と私は答えた。Tシャツが見つからない。はて、な。

 

「鈴は話しやすいだろ?」

「一夏が言うほどでもないぞ。距離感がころころ変わるから、それなりに気は遣う」

「そうなのか?」

「そうなんだ。お前の知っている鈴は1年前だろ? それだけあればそりゃー変わるさ。とくにあの年頃は、な」

「おい、阿保」

「なんだ、馬鹿」

「お前、顔真っ赤だぞ。何しやがった」

「何もしてない」

 

 先日の夜のことを思い出した。改めて思い出すとあれは非常に体裁が悪い。額が柔らかい感触を思い出し、思わず手を当てた。馬鹿の締まらない顔が更に緩んだ。恐らく碌でもないことを言い出す前兆だ。もう大体分かった。

 

「意外と分かりやすいな、お前。セシリアが素っ気ないから近い娘に鞍替えかよ」

「ぬかせ。鈴には好きな奴が居るんだ。そんなんじゃない」

「へぇ、学園外の奴か。誰だよ? 」

 

 一夏が好きだと言った鈴の悲痛な告白を、コイツに聞かせてやりたい。椅子の下にTシャツが落ちていた。それを拾う。そしたら一夏が私の名前を呼んだ。見上げるその顔には冷やかしは無かった。

 

「セシリアに告らないのか? 最近ぶり返したろ?」

「しない」

「お前、ヘタレ過ぎだろ。リーブス先生に刃向かった時の気概みせろ」

「いいんだよ」

「なんでだ」

「彼女には好きな奴が居る。どうにもならないし、それで良い」

「それは知らなかった。相手はイギリス人か?」

 

 殴りたい。コイツをボコボコにしたい。

 

「なら、付き合いたいとか、彼女欲しいとか思わねーのか?」

「なんでそんなに気にする」

「一応お前の友達だからな。それに難しい人間関係があってよ」

 

 俺はロッカーをしめた。視界に映る自分の手は微かに震えていた。

 

「一夏。色々な人に何故と言われて、気づいたんだけどさ、俺は―」

「なんだよ」

 

 

「自分に決着が付くまで、そういうのは出来そうに無い」

 

 

 空調の音が糾弾の声に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

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 5月2回目の水曜日、時計の針が22時16分を指していた。空には薄い雲と欠けた月が浮かぶ。一日の終わりが近づき、その準備を生徒達がし始める。ある者はその日の汚れを湯で流し、ある者は寝床で思い思いの私事に勤しんでいた。

 

 そんなIS学園1年寮"柊"であるが、その712号室の住人は口論の真っ最中である。黒のTシャツに、迷彩色のハーフパンツを着た真は、腕を組んで睨んでいた。その相手は同室の、クラスメイトの少女である。その小柄の少女は臆すこと無くにらみ返していた。ただ、その表情には笑みが浮かび、それがどうした、そう言わんばかりであった。

 

 

 

 真は目を細めた。腕を組み、指が二の腕を叩く。

 

「あのさ、鈴。それは止めろって言ったろ?」

「確かにアンタは言ったけど、アタシは同意してない」

 

「「……」」

 

「ならもう一度言う。それは止めてくれ」

「面倒だから嫌」

「鈴は女の子だろ」

「ふーん」

「なんだよ」

「全裸が良いってワケ? 変態」

「……」

 

 真の頬に一つ痙攣が走る。そして髪をかきむしった。もう一度、1つ年下の、バスタオル一枚の、少女を見下ろした。

 

 黒髪は湿り気を帯び艶に光る。体に残った雫が地にひかれ、伝わり足下をぬらす。湯で紅葉した肌から、湯気が立ち上る。そして部屋に満ちれば、彼は唇を強く結んだ。

 

(妹ってこんな感じなんだろうか。どちらにせよ、これは無い。今回ばかりは強めに言うべきだ)

 

 一度深く息を吸って長めに吐く。

 

「鈴」

「なによ」

「恥ずかしいとか、はしたないとか思わないのか。年頃なのに」

「そういう娘を呼び出して説教するオヤジみたいね、アンタ」

 

「「……」」

 

「礼節はどうした。孔子が泣いてるぞ、チャイニーズ」

「今時儒教なんてどれだけ古いのよ。オヤジどころかお爺さんじゃない」

 

「「……」」

 

「真」

「なんだよ」

「アンタ、女の子に夢見すぎ。貞淑とかそう言うの求めてる訳? しんじらんなーい」

「だ、か、ら、礼節の話! それに他の娘らが鈴みたいだなんて、それこそ信じられない」

「ひょっとして童て、」

「止めろ、はしたない! てゆーか直球過ぎだ!」

「あらーやっだーそうなんだー♪」

「……ほんとーに可愛くないな!」

「最初の夜に―」

「もうその手は通用しません」

 

 ふんっ、と真は両の手を腰に、勝ち誇ったように胸を張る。だから脱衣所でパジャマ着ろ、と言う。勿論理由にはなっていない。鈴はそれに気づいたが言及しなかった。ただこの様な事をしたのである。一瞬、八重歯が覗いた事に彼は気づかなかった。

 

 自身の体を抱きよせ、背を見せる。俯き、その表情に憂いを湛えた。そして紡がれるか細い声。

 

「なによ、全部見たくせに……」

 

 その華奢な体と相まって、触れれば壊れんばかりの雰囲気だった。

 

「……」

 

 真は無言で踵を返す。その歩みは強く、鈍い音を立てた。その向かう先は扉、では無くベッドだった。真は俯せに枕をかぶる。鈴は飛び乗り、はぎ取らんとその枕を掴む。真は必死に抵抗する。何時ものパターンである。

 

「いい加減その真っ赤な顔見せなさいよー♪」

「むーーーー!!」

 

 流石に鈴も頬を染めていたが、真がそれに気づくことは当然無かった。今回も真は敗北である。事ある毎に2人はこの調子だった。

 

 

 

 そして同時刻。604号と711号室に居る少女、鷹月静寐と布仏本音は、心に横たわる鈍い不安に苛まれていた。静寐は毛布をかぶりただ、じっとしていた。本音は時折くぐもった声を伝える壁をじっと見ていた。口から漏れるのはただ重い息であった。

 

 

 

 

 

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 1年4クラス。その中でも特に静かと言われるのが2組である。彼女らの中にも、一夏を好くものは居るし、千冬に憧れる者も居る。ただ、その感情、意思を強く表に出す者は少ない。精々清香を中心とした数名が活発という程度である。入学から時は流れ一月半、更にその傾向が強まった。

 

 恐らくは、担任ディアナのもつ雰囲気に寄るところが大きいのであろう。彼女は物静かな女性で声を荒らげることは無く、ただ静かに怒りを湛えるだけである。転校当時気性の激しかった鈴ですら、その空気にあてられ声を荒らげること稀となった。

 

 物静か、と言えば大半の人は好意的に捉えるだろうが、こと恋愛沙汰に限って言えばこれは分が悪い。他者へのリードを許す理由となる。事実、一夏へのアプローチを掛ける者は2組では居なくなった。

 

 そして。その2組に所属する静寐と本音も例外ではなく、真と話す時間が大幅に減っていたのだった。

 

 理由はいくつかある。

 

 一つ、専用機を持つ真は、放課後はほぼ毎日、下手をすれば土日もアリーナに居ること。専用機を持たない2人は観客席で見るだけである。訓練機を申請しても、週に1,2回。そして残念なことだが、2人では真の相手にならなかった。彼の邪魔になると2人が遠慮したのは想像難くない。

 

 一つ、共通の友人箒が居る。それは主に食事時に限られるが、一夏が座る席に箒、セシリア、鈴が同席すると高い確率で争い事になる。そのため真が少々強引にローテーション、彼女らだけ、男だけの日を決めたのだった。

 

 箒にとって友人は静寐と本音だけである。争いを避ける為、1人食事を取っている箒を見れば2人とて反論が出来ようはずもない。そして、なし崩し的に彼女らだけ、男だけの食事が増えていった。

 

 一つ、2人は真の部屋に押しかけるほど大胆さも、非常識さも無かった。更に今では鈴がいるのだ。鈴は一夏を好いている。この事実を2人は当の鈴から告白されてはいた。とはいえ、同室で無いと分からない会話をする2人を見て、心中穏やかで居られる筈も無い。なにより、同じ部屋で鈴とくつろぐ真を見たくなかった。

 

 そして最後に、静寐は本音に、本音は静寐に遠慮した。互いに動くことが出来なかったのである。

 

 

 

あるクラスメイトが言った。

 

「誰かに出し抜かれるよ」

 

その言葉が2人には重く響いた。

 

 

 

 

 

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 かちこち、かちこち、かち、こち。時計が刻む午後8時。空はにどんよりと分厚い雲が立ちこめていた。風も無く、耳を澄ませば遠く波の音が聞こえるほど静かな夜であった。

 

 そんな夜、学園寮706号室にてSTN3人娘臨時会議が行われていた。篠ノ之、鷹月、布仏の頭文字である。長襦袢は箒、スウェットは静寐、猫の着ぐるみは本音。窓側の箒のベッドに静寐と本音。廊下側の一夏のベッドには箒が座る。

 

 

 

 三毛猫をあしらった着ぐるみ姿の本音が言う。

 

「鈴ちゃんとまこと君、最近仲良いよね。やっぱり同じ部屋だからかなー」

 

 その着ぐるみの耳は力無く垂れていた。ライトグレーのスウェットを纏う静寐が言う。

 

「セシリアと二人っきりで射撃場行ってるみたい。本当に熱心」

 

 焦点定まらずただ毛布の毛をぷちぷちと抜く。

 

 力無く笑う2人。真の状況を話し合い、それで終わる。最近はずっとこの調子である。紅の襦袢を着た箒は溜息をついた。他ならぬ2人のことだ、どうにかしたいところではあるが、箒自身どうして良いのか分からなかった。彼女自身この手の話は苦手なのだ。そもそも、どちらの背を押せば良い?

 

 

 

「と言う訳なのだが、一夏。どう思う?」

 

 行き詰まった箒は何時もは追い出す一夏を呼んでいた。その一夏は椅子に座り、机に置かれたクッキーを食べていた。不機嫌に眉を寄せる。

 

(真の野郎、ねちっこく撃ちやがって……むかつく。次の昼飯も覚悟しやがれ)

 

「一夏! 聞いているのか!」

「お、おう! なんだ!? 聞いてないぞ!?」

「聞いていないことを正直言う者が居るか、馬鹿め」

 

 もう慣れたように呆れる箒であった。

 

「おりむー、まこと君の女の子関係だよ」と本音が言い「真の?」と一夏が答えると「何時から聞いていないんだ……」と箒は目頭を押さえる。

 

 一夏は腕を組んで天を仰ぐ。そこには半導体照明が煌々としていた。

 

「とりあえず整理してみるか。まず3年生の白井優子先輩。時々お茶会で楓寮(上級生寮)に行ってる。この間教室に行って廊下で話してたらしいな。次は、2年生の黛薫子先輩。みやの整備で夜遅くまで一緒に居る事が多いみたいだぜ。鈴とセシリアについては、皆の知っての通りだ」

 

 

「おりむー?」

「なんだ?」

「美也ってだれ? 学園じゃ聞かない名前だね、どこの娘?」

 

 ふに、と一夏の頬が抓られる。静寐の瞳が濁る。箒が竹刀を構え、一夏は思わず引きつった。

 

「ちげーって! 真のリヴァイヴの事だ! アイツ38番機に掛けて"みや"って呼んでるんだよ!」

 

「真も酔狂なことをする」と、腰を下ろした箒が言い「真によると、愛機に女の子の名前を付けるのは伝統らしいぜ」一夏が答え「男の子ってそうなんだ」静寐が物珍しい顔をする。枕元の棚に置かれたティーカップに波紋が立つ。

 

 一拍。一夏は2組の2人にこう言った。

 

「つまりよ、今のままなら状況は悪くなる一方だぜ? とにかく一歩踏み出すべきだ」

 

 2人が俯く。かちこち、とただ時間だけが過ぎた。

 

 

 

 

 

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 部屋に訪れる静寂。時計は22時を指していた。その日がもうじき終わる。静寐と本音が居た気配だけが部屋に残り、一夏はベッドに寝転び天を仰ぐ。箒は化粧台に座り髪を梳く。

 

 

「箒、静寐と本音は真のことが好きなんだよな?」

「何を今更」

「なら、前に買い物に誘った真を断ったっていうのは、2人が互いに譲り合ったから、か?」

「そうだろうな。あの2人らしいが……そういう真はどうなのだ?」

「そういう感情は無い。本当に友達と思ってる」

「……」

「こればっかりはどうにもならないぜ」

「そんな事は分かっている。オルコットはどうなのだ?」

「真は惚れてる。それは間違いない。だけど、」

「なんだ」

「アイツその気持ちを飲み込もうとしてる。忘れようとしてるんじゃ無い。告白する勇気が無いのとも違う。惚れていることを認めた上で、それを封じ込める。そんなように見えた」

「オルコットには好いている男が居る、そいつに気を遣ったのではないか?」

「箒も知ってたか。けどそうじゃない。静寐と本音の心配は杞憂だな。そしてそれは2人にも当てはまる、きっと」

 

 

 

「……真はすこし変わっているな」

「少しどころじゃねぇ。鈴の時、リーブス先生の時、お人好しってレベルじゃ無い。セシリアの時にだって死にかけたんだぜアイツ」

 

 箒は手を止め一夏を見る。彼はただ天井を見ていた。困惑、疑問、苛立ち、そういった感情が見て取れた。どういうことだ、と箒は言った。

 

「屋上の人払いを頼まれてさ、遅いから覗いたんだよ。アイツ、セシリアに銃を突きつけられてるのに、笑っていやがった」

「何で止めなかった?」

「約束だったからな。何があっても邪魔しないでくれって。それにアイツの顔を見てたら動けなかった」

「……どうして今頃言う?」

「この間、セシリアに告らないのかって真に聞いた」

「焚きつける様な事を―」

「アイツ"自分に決着付けないと"って言ったんだ。自分に怯えてた。何か抱え込んでやがる。正直どうして良いか分からねぇ」

 

 

 それは箒も感じていたことだった。正直真の行動は理解に苦しむ。人が良いにも度が過ぎていた。恐らく一夏は抱えきれなくなったのだろう。友人である真が2度も目の前で死にかけ、その殺そうとした本人と何事も無かったように接していたのだから。

 

 箒は櫛を仕舞うと、自身のベッドに腰掛けた。幼なじみである15歳の少年に静かに笑いかける。

 

「突いてみるか」

「突く? 何をだ?」

「真をだ。あの2人も腰が重いからな」

 

 一夏にはその笑い顔が、悪戯を思いついた子供のように見えた。

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