それは5月3週目の月曜日。私は午前の授業を終え、昼の食事を済まし、食堂でタブレットの画面をなぞっていた。私はただ思索する。それは3組と4組のクラス代表のこと。彼女らの機体、彼女らの戦術、そして一夏対策。月末のクラス対抗戦まで残すところあと2週間。
「一夏は兎も角として、注意するべきは4組の娘か。日本の代表候補生だし。でも専用機が無いってのは何故?」
「色々難しい事情があるんだよ」
話し掛けたタブレットの代わりに応えたのは、制服姿の本音だった。いつの間にやってきたのか、目の前に座り笑顔を湛えている。彼女ほど"日向"という言葉が似合う娘も居ないだろう。
「知り合い?」
「うん」
「そう」
難しい事情、といつになく堅い彼女の言葉に、私は追求するのを止めた。そして、私は視界に彼女1人というのを久しく感じた。何時の頃からだろうか、私の中の彼女が3人娘になったのは。
だから「静寐と箒は?」と、訪ねた。彼女は頬を膨らせ「四六時中一緒と言う訳じゃ無いよ」と、拗ねたように応える。確かにな、と私は謝罪した。
窓から陽の光が差し込んだ。白いテーブルには中身の無くなった昼食の器が並んでいた。歓談の声が聞こえる。何時ものように騒がしくもあり微笑ましくもある柊(1年寮)の食堂だった。
「まこと君」
「なに?」
唐突に、本音が髪飾りに手を伸ばし、整え、直す。左右二つの髪飾り。淡い栗色の房がひょこと動いた。そして私に向けるは満天の笑み。
「「……」」
突然のことで少々面食らう。だが彼女が感想が欲しい、と言うことはよく分かった。だから、「よく似合ってて可愛いと思う」と努めて冷静に応えた。ふに、と左頬を抓られた。彼女は「すこしちがう、かな」と呟いた。
彼女の溜息が聞こえる。沈黙が続いたので、私は再びタブレットに目を落とした。手を伸ばしたコーヒーはすでにぬるく、窓に映る鳥がちよちちちと鳴いた。
突如咳払いが聞こえた。いつの間に来たのか、目の前に静寐と箒が居た。多少ぎこちない箒が口紅を持ち、静寐の唇をなぞる。静寐は多少ぎこちない流し目で私を見た。
「「「「……」」」」
感想だった。だから「うん、知的っぽさが出て良いんじゃないか? えーとスパークリングルビー?」と落ち着いて言った。「詳しいんだ」と疑いの眼差しを向けられる。濁っていた。優子さんと、薫子と、セシリアにも口紅で感想を聞かれた事がある、と言うのは控えた。
「あほぅ」
馬鹿者めと言わんばかりの箒だった。阿保か馬鹿かどちらなのだろうか、我ながら間の抜けた事を考えた。ただ、お見通しと言うことだけは間違いなかろう。
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箒と町を歩いたあの土曜日、飛び出してきた静寐と本音の表情を思い出す。その時私は2人の思いに気づいた。彼女らの好意はただ嬉しく思う。だが私にそれを受け止めることは出来ない。思い悩んだ末、2人に私なりの誠意見せる事にした。恐らくそれは2人を悲しませることになる。時間を無意味に延ばすよりは遙かに良いと、そう私は考えた。
ただ、私にはこう言った恋愛的な経験が無い。だから念を押し他者の意見を聞こうと思い至った。相談する相手は学園外の人にした。なるべく年配の人が良いと思った為である。
自分の部屋、机に設置された端末に手を掛ける。ディスプレイに表示されている"蒔岡機械株式会社"と言う文字を指で押す。呼び出し音が響き、身許認証。画面に映る総務の女性に軽く挨拶をし、取り次ぎを依頼する。
そこは昨年の6月から今年の3月まで私が在籍していた会社だった。41名の中小企業であるが、このIS学園に出入り出来る程その技術力は高く、ISメーカーから開発依頼、相談を受けるほどだ。
その会社の主にして工場長を蒔岡宗治という。又の名をゴッドハンド。私が"おやっさん"と呼ぶ一級の技術者である。そして、その娘であり社の勘定を一手に引き受ける女性を
『やっほー♪ 真、ひっさしぶりー♪ 元気してたー?』
蒔岡時子という。御年39歳。千冬さんを呼び捨てにする数少ない女丈夫であった。
「……ご無沙汰してます。お元気そうで安心しました」
『そろそろ連絡が来る頃だと思った。こっち来るの?』
「えぇ、来月早々にはご挨拶に伺おうかと思います」
『おっけー。お父さんにも言っておく。で、本題は恋の相談?』
私は二の句を失う。この様に時子さんは見透かしてくる事がある。時には千冬さん以上であり、社に居た頃は散々苦労した。読心術どころか他心通でも持っているのではないか、一時期は真剣に考えたことがある。私は悟られぬよう一息つくと、相談内容を手短に話した。
『なるほどねー。で、真はどうしたい訳?』
「彼女らに応えられませんので、どうにかして忘れて貰おうと」
『真』
「なんです」
『死ね』
酷い言われようだ。
「あのですね、繰り返しますけど彼女らの思いには応えるつもりは無いんです。中途半端な状態では彼女らの時間を無駄にします。こう言う場合ははっきりさせた方が良いと時子さんだって去年言ったじゃないですか」
『あのねぇ、告白すらしてない娘らを振るなんて真はドレだけ最低よ。思いを告げずただ側に居ようなんて健気な娘らじゃない』
「それは理論の飛躍で―」
『お黙り!』
この言葉が出ると以降一切の発言は無視される。つまり黙って聞くしか無い。
『そんな事に決まってるじゃ無い! あーもう、千冬から大分良くなったって聞いてたのに、この辺は全く変わってない。千冬も色恋沙汰は疎いから気がつかなかったか……だからあの娘24にもなって未だ彼氏無しなのよ……いや、千冬のこと横に置いておいて、大体真はその娘らの気持ちのこと全く考えてないじゃない! あ~イライラする!』
受話器から飛び出す罵声は多種多様であった。辞典でも作れそうな勢いである。何故だろうか、辛いと言うよりは単に疲れる。
「……ならどうしろって言うんです」
『幸せにしてあげなさい。男でしょ』
「片方取れば、両方悲しみますよ。あの2人仲が良いんです」
『2人同時に付き合えば良いじゃない』
「もう電話切りますね。ありがとうございま―」
『切ったら千冬に洗いざらいぶちまけるわよ』
「あーのーですね」
『大体、それだけ思われててなんで付き合うの嫌な訳? ガールフレンド欲しくない? その年齢でオカしいわよ』
「複雑な事情があるんです」
『どうせくっだらない理由でしょ。自分に相応しくないとかそう言うの』
「……」
『やっぱりか。この際だから言っておくけど真は深く考えすぎなのよ。時には目を瞑ってぶち当たる事も必要!』
「つまりなんです」
『押し倒す位の強引さが―』
電話を切った。ただ疲労がのし掛かる。一意見でしか無いと分かっていてもこうも言い切られると自分が間違っていると思ってしまうのは何故なのだろうか。思わず机に両手を付け、項垂れた。扉が開き姿を見せた鈴が言う。
「ただいま。どうしたのよ? 疲れたような顔して」
「お帰り。相談相手間違えたみたい」
「?」
結局私は、時子さんの意見を無視することが出来ず現状維持を選んだ。頭の中の一夏がヘタレと言う。その馬鹿に振りかざした拳は届かなかった。
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それは5月3週目の金曜日、放課後。月末に行われるイベント"クラス対抗戦"が近づき、温和しいと言われる1年2組も活気が満ちる。
他のクラスがそうであるように、2組にも一夏に思いを寄せる娘が多い。最近でこそ鳴りを潜めているが、その7割は一夏派であった。数少ない残りは中立派だ。その中には約2名の自称中立も含まれる。この様な2組であったが、自身のクラス代表を応援しないのは流石に義理を欠くと一致団結、真を応援する事にした。
そして、それはある1グループの会話。ある少女はクラス旗を作ろうと言い、また鉢巻きか腕章の様な、クラスを象徴するアイテムを作ろうと、意外と古風なことを言う。そして、ある長い黒髪の少女が言った。
「離反者を出さないように血判状を作りましょう」
「賛成、でも牛王宝印(ごおうほういん、誓紙の事)どうする?」
「熊野本宮大社だっけ? 通販出来るかな?」
「こんな事もあろうかと、ここに」
「「おー」」
温和しい、一線超えれば、恐ろしい。教師が教師なら生徒も生徒だった。血を見るのに躊躇が無い。真はよくやっている。
静かに燃えるそんな2組の扉を箒は開けた。失礼する、と声が響く。居合わせた女生徒が静寐と本音に声を掛ける。先日の一件以来、こうして箒から赴くことが多くなった。2人は清香に挨拶をし、箒の元に歩み寄る。彼女は2人の邪魔をしたのではないかと表情を陰らせた。
本音が「大丈夫、終わったところだよ」と笑って応え、静寐が「クラス対抗戦でチアをやるの」続けた。箒は「2人とも、そういう事は苦手だと思っていた」と感想を言う。
実際は箒の言う通りであったが、鈴もやると清香に挑発され、つい参加してしまったのだった。
教室を見渡す箒が問う。
「真はどうしたのだ?」
静寐が応える。
「第3アリーナ。鈴と一緒に特訓中。ここ暫くずっとそう」
「良いのか?」
「足手まといは嫌だから。織斑君は?」
「第3アリーナで特訓中だ。最近ずっとだ」
「良いの?」
「オルコットは兎も角、千冬さんが相手では、な」
苦笑する2人に本音が笑って言った。
「つれない男の子達は放って、食堂でお菓子食べよっ」
「「もうすぐ夕飯」」
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其処は第3アリーナの第3ピット付近。白式は何時もと異なる機動音を響かせていた。それは全てを切り裂かんほどの暴力的な音と加速、一夏は歪んだ世界の中ただ己の鼓動を聞いていた。操縦者保護機能が働く。一瞬、その視界の端に千冬とセシリアの姿を捉える。
「それがイグニッション・ブースト(瞬時加速)だ。いつでも使えるように昇華させろ」
千冬の声に彼はただ頷いた。真のアドバイスから2週間、一夏は姉の時間を貰いその指導を受けていた。そのメニューは主に近接格闘訓練と急加速停止と言った基礎移動技能に重点を置かれ、初期段階では箒を相手にした剣道も取り入れた。ここ数日はセシリアとの模擬戦を重点的に行った。勿論それは真対策である。その成果は姉の目にも確認できたが、一夏は終始言葉数少なく、ただ淡々とこなす。
白式がフィールドに降り立ち、砂煙が舞う。学園指定の白いジャージを纏う千冬が彼に歩み寄る。彼女は何時もの鋭い眼であったが、僅かな憂いを含ませていた。
「零落白夜はまだ駄目か」
「はい、何度か光りはしたんですけれど……」
零落白夜は白式固有の特殊能力であり、白式の最大の攻撃兵装。一夏はセシリア戦以来、それを発動できていなかった。彼の沈鬱な表情の原因であった。
「こればかりは織斑と白式の問題だ。教えることは出来ん。自分で何とかしろ」
「……織斑先生。もうクラス対抗戦まで時間がありません。銃を使おうと思うんですが」
「馬鹿者。機体には相性という物がある。白式に銃器を積むのはまず無理だ。それにその機体は雪片弐型を前提としている。それだけ大がかりな変更は佐倉技研も日本政府もそう簡単に納得はしまい」
セシリアは一夏の焦りが手に取るように分かった。訓練開始前の3つの模擬戦、一夏は真のリヴァイヴに圧倒されていたのだった。
「一夏さん、何より今から方針を変えるのはかえって逆効果ですわ。貴方は今まで剣術で戦ってきたのですから」
「でもよ……」
「大体、お前のような素人が射撃戦闘など出来るものか。反動制御、弾道予測から距離の取り方、一零停止、特殊無反動旋回、それ以外にも弾丸の特性、大気の状態、相手武装による相互影響を含めた思考戦闘……他にもあるぞ。できるのか? お前に」
「……済みません」
「わかればいい。一つのことを極める方が、お前には向いているさ。何せ、お前は私の弟だ」
弟、と言う言葉で2人の関係が変わる。否、戻るが正しいだろう。セシリアのイヤリングが光を放ち、それが結ぶ。青い機体がその場を離れ、空に舞った。千冬は教え子の気遣いに詫び、その鋭い眼を細めた。
「なぁ千冬ねぇ」
「なんだ」
「真はそれをやってるって事だよな。俺と同じ素人なのに」
「……そうだ。なんだ一人前に対抗意識か。だが一夏、お前と蒼月はその有り様が違う。一概に比較は出来んぞ」
「アイツも同じ事を言ってた。それってアイツは俺と違うって事だ―」
「馬鹿者! 他人と比べる暇があるなら鍛錬に励め!」
千冬は手に持つ竹刀を地面に打ち付けた。一夏は力無く頭を垂れる。そういう意味では無い、と千冬は厳しい表情をみせる。思案の後、溜息をついて弟にこう言った。
「蒼月が言ったのはそれだけか?」
「え? あぁ。柱が出来たら知ってることは教える。それまでは模擬戦にいくらでも付き合うって」
「柱、か……なら模擬戦をふっかけてこい。第1ピット下だ」
「え? 今千冬ねぇは有り様が違うって言ったろ?」
「模擬戦なら関係ない。それに、お前らはそういう関係だろう?」
「はぁ?」
彼女は対面する第1ピット下に視線を走らせ、微かな笑みを浮かべる。其処にはカーキのリヴァイブと甲龍が見えた。一夏はゆっくりそれに意識を走らせる。白式のハイパーセンサーが応えた。
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同時刻、第3アリーナ第1ピット下。そこは千冬と一夏から丁度真反対の位置であった。その距離は約1.8km。
鈴と真が互いに牙を交わす。轟音が響き、砂塵が巻き上がった。みやは片膝をつき、甲龍がそれを見下ろす。彼はライフルを杖代わりに、激しく息を切らす。鈴はただ溜息をついた。彼女は自身の牙、双天牙月をフィールドに突き刺す。風が吹き視界が晴れた。
「じゃぁ何? アンタはわざわざ一夏に最も有効な攻撃を教えたって訳?」
「そういう言い方もあるかな」
「あっきれた。アンタ勝つ気あるの?」
「勿論。だた、」
「ただ? なによ」
「今の一夏だと苦戦は必至。下手をすると一回戦敗退。それは少し面白くない、少しだけ面白くない」
それは一夏が千冬に頭を下げる切っ掛けとなった、サブマシンガンによる攻撃だった。白式はそのキャパシティを攻撃力と機動力に、極端に振っている。逆に言えばその機体反応が過剰で扱いが難しく、そして防御が弱い。今の一夏では手に余った。
「サブマシンガンは一発の威力は小さいけれど一定範囲を攻撃できる。接近戦しか無く、防御の弱い白式には天敵と言っても良い。3組4組の娘はまず其処をついてくるだろ。入学当時ならいざ知らず、彼女らも腕を上げてるし、特に3組の娘は銃器の扱い長けているようだから、足止めされて弾丸をバラ蒔かれたら一巻の終わり」
鈴は手を額に当て溜息をついた。鈴は思う、敵に塩を送りすぎ。
「甘いというか、お気楽というか、男の連帯感ってやつ?」
真は苦笑し、不満を湛える鈴を見上げた。
「まさか、借りを返したいだけだよ。代表候補の座を苦労して掴み取った鈴にとっては、なれ合いみたいで不愉快か?」
「そこまでは言わない、腹立つだけ」
「確かに余計だったかもしれないな。下がってくれ」
何のこと、と言いかけた鈴の言葉は、甲高い機動音で遮られた。
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一夏が千冬に言う。
「ちーねぇ」
「な、なんだ?」
千冬は突然、昔の名で呼ばれ思わず声が裏返る。そして眼を剥いた。彼女の弟の、あらゆる理性を取り払ったような、そう思える姿だった。
「ちょっとぶん殴ってくる」
どうした、と言いかけた千冬の言葉は、甲高い機動音で遮られた。白式のバーニアが一瞬白く輝く。そして青白い真っ直ぐな残光。彗星が地上を走った、千冬にはそれ以外の表現が無いように思われた。
「けほっ」
轟音と地響き。そして巻き上がる砂塵の、その切れ目。隙間から覗く白い影に千冬は、ただ、ぽかんと呆けるのみであった。
初めて耳にする甲高い機動音。鈴とセシリアが見た物は、その面を幾重にもしかめ、口から牙を覗かせ、雪片弐型を構え、鬼のような形相で真に迫る白式の、一夏の姿だった。思わず顔を引きつらせ、腰を引いた。
「真雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄々々々ーーーーーーー!!!!」
ハイパーセンサーが捉えた真の背中。見返るその眼はただ黒く笑う。てめぇまでコンマ3秒だ!
みや、反転。白式を迎え撃つ。アサルトナイフを右腕量子展開50ミリセカンド。左腕を刃背に添える、白式、雪片弐型を打ち下ろす。周囲を吹き飛ばす程の金属音と、大地に焼き付きを起こさんばかりの閃光。白式はその速度をみやに打ち付けた。フィールドにみやの足跡が走る。一夏の目の前に、真の目の前が合った。互いが睨み、笑みを浮かべる。
「背後からの奇襲とは気合い入ってるじゃないか! この馬鹿一夏!」
「人様をコケにしやがって! この阿保真がっ! くたばりやがれ!」
「出来るなら―」
みや、左手で白式の肩を掴み、重心軸を乱す。腰を落とし、右脚で蹴り上げる。白式が宙を舞った。
「やってみろっ!」
白式、高度32m、姿勢制御、突の構え、最大加速にて攻撃。みや、大地を左脚で踏み抜き跳躍、バーニア最大出力。押し迫る白式を右脚で蹴飛ばす。回避完了。同時に"H&K MP5i"7.62mmサブマシンガン量子展開。フルオート全弾発射。
白式、みやの右舷へ高速移動。みや、目標高速追尾のため左手を離す。銃身安定悪化、サブマシンガンのストックが脇で暴れる。弾丸の軌跡が乱れた。
真が叫んだ。
「少しは頭動いたか!」
一夏が吠える。
「それを阿保の一つ覚えっつーんだ! 覚えとけ!」
一夏は真の弾を捉えた。白式、イグニッション・ブースト、弾丸雷雨をかい潜る。その距離70mをミリ秒で詰めた。刀身が青白く光る、零落白夜発動。
真は一夏の動きを読んだ。みや、威力不足と判断、サブマシンガンを投擲。白式それを破壊。
みや前傾姿勢、踏み込み。白式、右切り上げ。零落白夜の切っ先がみやを掠める。みやは左拳を右掌で掴む。全体重を載せ、左肘を白式の胸部に打ち付けた。みや被ダメージ180。白式被ダメージ130。雪片弐型が宙を舞い、80m先に突き刺さる。反動で互いが弾け合った。
2人は大地に足をつき、見合う。その距離40m。僅か1分間の攻防に、ギャラリーが唖然とする。
一夏が両の拳を鳴らした。
「この阿保。カウンターの当身なんて聞いてねぇぞ」
真は手を添え首を鳴らす。
「だまれ馬鹿。土壇場で零落白夜なんて、冗談は顔だけにしろ」
「くそったれ」
「お前がな」
白式、みや、最大速力で踏み込んだ。2つのバーニアが2つの砂煙を巻き起こす。互いに拳を振り上げ、互いに撃ち抜く。鈍い音がアリーナに響き合う。
「この阿保! 何時も頭良い振りしやがって、むかつくんだよ!」
「振りじゃ無い! 実際そうだろうが! この馬鹿!」
エネルギーシールドが拳圧で軋み音を上げる。エネルギー準位不規則変動、悲鳴のような唱和音を鳴らす。攻撃パターン変更。互いに掴み合い、締め合う。
「漫画も読まない! ゲームもしない! 老人が偉そうなことほざくんじゃねぇ!!」
「この間読んだ!」
「ひとつだけだろうが!」
「超古代遺跡の守護なんて、なかなか面白かったぞ! ブブブだしなっ!」
「それを口にするんじゃねぇ! この野郎!」
白式とみやが、フィールドをもみ合い転がる。馬乗りに殴る。蹴り上げ大地に叩きつける。正気に戻った千冬はこめかみに血管を浮かせ、インカムに手を掛けた。
『オルコット、凰』
第3アリーナに居た2機のISが動く。
-多数秘話通信を行います-
せ:見苦しいですわ
り:みっとも無い
い:は?
ま:へ?
ブルー・ティアーズ、光弾発射。甲龍、双天牙月を投擲。命中。悲鳴。そして、静寂。甲龍がみやの、ブルー・ティアーズは白式の首根っこを掴んで持ち上げる。2人の少女は相手がぶら下げる少年と、互いの顔を見合うと、一瞬火花を散らせた。そして、背を向けそれぞれのピットに運ぶ。
「覚えてやがれ! この阿保! 対抗戦でナマス切りにしてやる!」
「おだまりなさい」
「近づく前に蜂の巣だ! この馬鹿! 返り討ちにしてくれる!」
「うるさい」
つつつ、と空を飛ぶ鈴と運ばれる真。彼は鈴に笑顔を向け、なぁと言った。
「鈴、あの馬鹿、突然強くなったな」
「嬉しそうに言うんじゃ無いわよ。切り札(カウンター)を一夏に見せちゃったんだから、また考えなきゃいけないじゃ無い。もう時間ないのに」
「そうだな、また訓練しないとな」
「だから、笑うな。腹立つ」
夕日の中、真はセシリアに説教され、ふてくされる一夏の声を楽しそうに聞いていた。
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陽が大地に掛る夕暮れ時、その真を2人の少女が見つめる。第3アリーナの第4ピット甲板上に立つのは、整備課主席3年の布仏虚と、整備課2年のエース黛薫子であった。
虚と薫子は共に整備課第4グループに所属し、みやの整備を受け持っている。みや、ラファール・リヴァイヴ38番機は学園機体の為だ。直接整備を行うのは薫子であったが、グループリーダーである虚も間接的に携わっていた。
虚は互いの肘を互いの手の平を添え、薫子はタブレットを手に立っていた。互いの眼鏡に夕日が差し込む。アリーナでの一部始終を見ていた虚は眼鏡に指を添え正した。
「一年生にしては良く動くわね。特に、ブレード一本で火器に渡り合う白式には、驚きを隠せないけれど」
「最近急成長なんです、あの2人」
「見せたい物ってこの事?」
「まさか、あれはおまけです。こちらが本題」
薫子がタブレットに指を走らせ、虚がそれを覗き、眼を剥いた。薫子は僅かに指を震わせていた。
「みやのISコア稼働率……85%?! 薫子、これ間違いない?」
「10回確認しました。測定器も校正し直して」
「操縦課主席の優子でさえ71%なのに、にわかには信じられないわね……いつから?」
「分かりません、最初に測定した一週間前にはこの数字です。織斑君の変動幅も気になりますが」
ISコアはPICへの重力子供給、エネルギーの貯蔵、絶対防御の展開、そして操縦者との意識疎通など、ISとしての基礎能力を司る。そしてISコア能力の一般指標として稼働率という数字が用いられ、稼働率が高いほどその機体のスペックが高いと言うことが出来る。
セシリア、鈴で50前後。ランクAの生徒が第2世代機に登場して30~40%、虚が驚いたのも無理は無い。だがそれは1つの矛盾を浮かび上がらせる。虚は右手を口元に、慎重に添えた。彼女の脳裏に去年幾度となく会った真の姿がよぎる。
「変ね、それが本当なら、みやが"あの程度"の筈が無いわ」
「私も同感です。どこかに異常がないか洗い直したのですが、全機能異常なし。操縦者とコアののリンクレートも異常ありませんでした。つまり―」
「真が無意識に抑えている?」
「もしくは意識的にです」
2人は模擬戦を行う、甲龍とみやに視線を走らせた。夕日の中、彼の姿が霞んで見えた。薫子はタブレットを下ろす。虚が眼を細めた。
「虚先輩、アイギスの使用許可を」
「CLASS-Aのシールドジェネレータ? 学園に一台しか無い虎の子よ、本気?」
「彼は、真は何かと理由を付けてシールドを弱めようとします。この間も勝手に、シールドジェネレータへのエネルギー供給量をバーニアに回していました。2度とするなと叩いておきましたけど、正直危なっかしくて見てられません。真の首の噂、知っていますか?」
虚にとっても薫子の心配は他人事では無かった。去年、共に優子の機体整備をしたのだ。生徒の中では一番付き合いが古いのは虚であった。人形のように笑う去年の真と、屈託なく笑う今の真。だた彼女にはどちらの笑顔にも影が落ちているのが見て取れた。
「……良いでしょう、許可します」
「ありがとうございます」
「グングニルも持って行きなさい」
「ライ〇ハルト社のFCS(射撃管制)ですか。ルクレイ〇ス社のFBW(航空管制)もそうですけど一級品同士の組み込みは調整に時間が掛ります。対抗戦に間に合わない恐れが―」
「調整は私がやります」
薫子は小さく頷き2人が真を見る。
「何事も無ければ良いけれど」
「はい」
そして一週間後の5月末日。学園はクラス対抗戦を迎える。
雪片弐型の独自設定ですが
・原作:実体剣→バリア無効化攻撃→零落白夜
・ここ:実体剣→零落白夜→凄い零落白夜(仮)
こうしています。
「バリア無効化攻撃発動中」という描写はイマイチかと思ったので。
"凄い零落白夜"に名称を付けるかは未定です。