IS Heroes   作:D1198

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しばしの休息


 彼女がいる部屋は白く清潔だった。広さは寮の部屋2つ分より少し狭い。窓は大きく継ぎ目は無く、石英の同位体で作られていた。そして、ベッドが4つ。足を向け合う事一対。それが2列。彼女、ティナ・ハミルトンさんは窓寄りの右手に横たわっていた。彼女は私を一瞥すると眼を細めてシーツを胸元によせる。私は苦笑いを浮かべると、元気そうじゃないか、と言った。

 

「呆れました」

「なにが?」

「蒼月君、君も重傷の筈です。なぜ出歩いているんですか」

「医務室の先生が大げさなんだよ、ご覧の通り包帯だらけだけど、見た目ほど酷くない」

「脂汗が浮いているようですが?」

 

 彼女は無人IS、木偶に撃墜され怪我を負ったが数日で退院出来るそうだ。みやの、強力なシールドの影に隠れ大事には至らなかった。クラス対抗戦直前、押し切られる格好で基本デバイスの換装を行ったのだが、先輩たちは何か見越していたのだろう。正直、頭が上がらない。

 

 彼女は白いTシャツ姿で上半身を起こした。私は明るく彩られた花束を彼女に渡すと、脇の椅子に腰を掛けた。濃い黄色や薄い紅、花はとんと疎いが患者向けの彩りという事だけはよく分かった。彼女はその花をぼんやり見ていると、事の顛末を聞いてきた。私は口止めされていると言った。彼女は気分を害した様子を見せる事もなく、そうですか、と静かに応えた。

 

 6月。空には陰鬱と敷き詰められた雲が見える。学園の中央本棟、その2階。窓から覗く木々が揺れる事はなく、一瞬絵画のように思われた。彼女は窓から私に視線を移す。その表情は乏しかったが顔色は良く、ゆっくり開くその唇は鮮やかな朱を帯びていた。

 

 

「申し訳ありませんでした」

「謝られる覚えは無いけれど?」

「君への侮辱です」

「挑発だったんだろ? 良いさ」

 

「何言っても怒らなくなった、と言うのは本当のようですね」

「なんでも、と言う訳じゃない」

「例えば?」

「女性経験が無いって言われると傷つく」

 

「あるのですか?」

「実は……身に覚えは無いけどね」

「私でよければお相手しますよ?」

「そういう冗談は止めてくれ、色々難しいんだ」

 

「日本語で確か、筆おろ―」

「はしたないぞ」

 

 思わず口調を固めて言う私に、本当に無さそうですね、と身体を震わせながら彼女は笑う。私は腕を組んで顔をしかめる。彼女のからかいに顔が赤くなる。鈴の夢見すぎ、という言葉を思い出し思わず頭を垂らした。

 

 ダストボックスにはたくさんの菓子とドリンクの殻が見える。3組の少女達と入れ違いだったようだ。部屋には空調と医療機器の音、そして2つの呼吸の音だけが聞こえる。己の持つ常識の、その普遍性に思索を巡らせていると、彼女が小さく、強いですねと言った。

 

 その声の小ささに、思わず聞き返しそうになった。もし聞き返していたならそれは侮辱どころの話では無かっただろう。その問いに、私はうんともいいえとも言えず、ただ座るだけだった。

 

「勝つ自信がありました。そしてあわよくば専用機を、と」

「……ハミルトンは、米兵?」

「えぇ、書類上は予備役ですけれど。在日米軍のIS部隊に所属しています」

「なるほどね、あの装備は軍から持ってきたのか……よく許可がおりたもんだ」

 

「祖父も、父も兄も軍人なんです」

「なっとく」

「これでもIS稼働時間120時間超えているんです。それでも、負けました。会わす顔がありません」

「対抗戦は中止。勝ち負けは無いだろ」

 

「よく言います、ガトリンクを狙っていたのでしょう? 横やりが入らなければ破壊されていました」

「そうだな、俺は君より強い」

「はっきり言いますね、自信過剰です」

「そんな事は無いと、へりくだった方が良かった?」

 

「……やはり君が嫌いです」

 

 微かに浮かんだ笑みに私は、残念だとこう言った。

 

「そっか」

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 かって千冬さんは私に自己評価が低いと言った。それは己に価値を認めたくなかっただけであろう。ここまで自分に自分を突きつけられれば流石に分かる。

 

 そしてハミルトンさんは専用機を持つ意味を私に知らしめた。学園で学ぶ者であれば渇望する専用機を私は持っている。私は彼女らに対し責を負っている、己を卑下する事など、許されはしない。それは彼女らをおとしめる事になる。

 

 一夏は皆を守ると言った。学園は私の帰るところなのだ。だから私は学園を皆を守る事に決めた、言葉にした。己を責める声は止む事なく続く、だが今はこれで良い。

 

 

 

 右手に掲げる12.7mmアサルトライフル"F〇 SCAR-H"が、かちゃりと音を立てた。

 

「おい馬鹿」

「なんだ阿保」

 

 第3アリーナ、第3ピット付近、曇り。あの事件から2日経った。白式とみやの修理、検査も終わり、一夏を誘ってこうして訓練に勤しんでいる訳だが。フィールド上で寝転ぶ白式を見て私は溜息をつく。

 

「被弾しすぎだ! しっかりしろよおい!!」

「全く近づけねぇだろ! どうしろってんだ!?」

 

 いくら私の得手であるアサルトライフルとはいえ、こうも……一夏め、不甲斐ない。

 

「大体! サブマシンガンと全然感じが違うじゃねーか!」

「当たり前だ! だから違う種類の銃なんだろうが!」

「だったらサブマシンガン使えよ!」

「相手に得意の銃使って下さいとか、馬鹿だろお前!?」

 

 乾いた風が一房流れる。左手で目頭お押さえ、私は一夏と言った。1つ年下の黒髪の同級生は、あぐらを掻き腕を組んで私を見上げている。その顔は不満で一杯だった。

 

「……なんだよ」

「予定変更、銃の基礎知識を教えるから、耳かっぽじって聞け」

「白式は銃使えないぜ」

「銃を使う相手、の対策だ」

「おぉ」

 

 ……俺、早まったかもしれない、そんな一節を頭に掠めながら、アサルトライフルを量子収納、光となって消えた。1つ咳払いをし、一夏を見下ろす。

 

「いいか。銃と一口に言っても様々だけど、ISで使う分には全部で5種類。ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、ショットガン、まずこれだけで良い」

 

 各銃の名前を呼び上げると共に、量子展開し実物を見せる。一夏がふむと言った。

 

「グレネード、ロケットランチャー、重機関銃とかあるけれど使いどころが限られるから今回は割愛。で、ショットガンを除き、基本的に銃身が長いほど、威力が強く遠くまで飛ぶ。言い方を変えれば相手がどんな銃を持っているかによってどの距離を狙っているのかが分かる」

 

「ならスナイパーライフルが最強じゃねーか。一番長いし」

「当たればな。確かに射程は長いけれど、実際に当てられるかは別問題」

「お前、バカバカ当ててなかったか?」

「俺だってみやが一緒で、動かない的なら1200mは行ける。けど、実際は相手も俺も高速で動くから、使いどころは多くない。なら当てる為には近づかなければいけない、そうするとスナイパーライフルより、短い分小回りの利くアサルトライフルが良いって話。連射も出来るしな」

 

「ならアサルトライフルが一番か?」

「スナイパーライフルは命中精度がダントツだし、強力だから中距離でも喰らえば大ダメージだ」

「どっちが良いんだよ?!」

「んなもん、状況と銃手の特性に寄るわ。重要なのは見極めだな。何だかんだ言っても高速機動のIS戦では300m以下が現実距離だから、アサルトライフル、サブマシンガンがメジャーになる。サブマシンガン特性は、一夏にはもう言わなくて良いだろ。ショットガンは近接用、一夏にとっては要注意」

 

「で?」

「……で、一夏の場合はとにかく近づかないと駄目だから、微妙な距離を保って無駄弾を誘ったり、相手との距離を能動的に変化させて、銃の切り替えを誘い、隙を突いて一気に切り込むって手もある。この辺りになると銃手との駆け引きになるな。例え踏み込みが足りなくても、急加速で接近されると心理的プレッシャーにもなるし」

「ほー」

「わかってるか?」

 

「なんとなく」

「お前な……最後に1つ。一夏はわざわざ止まって、弾をシールドで受ける癖あるからあれ直せ」

「そうか?」

「そうだ。立ち止まるなんて俺らから見れば良い的だぞ。バラ巻かれた時は多少の被弾を覚悟で強引に離脱するのも手だ。少なく負けるって奴」

 

 一夏は神妙な面持ちで空を見ている。思い当たる節があるらしい。事実、私もこれを利用して何度かコイツを仕留めた事がある。

 

「一夏、そろそろ模擬戦再開するぞ」

「なー真」

「なんだ?」

「何でお前、急に色々教える気になったんだよ。渋ってたじゃねぇか、柱がどうのこうので。しかも妙に気合い入ってるし」

 

「悠長な事していられなくなった」

「なんでだよ」

「この間の無人機、動きおかしくなかったか? 何かを探るような」

「あぁ、俺らを観察しているみたいだったな」

 

「あれが偵察機で、俺らがそれを破壊した。お前があれを送り込んだとしたら、次どうする?」

「……また来るってのか」

「あくまで可能性の問題だけど、もう来ないと楽観していい話じゃ無い。それにあんな重い言葉口走ったからな、気合いぐらい入るさ」

「少しはまともな眼をするようになったな、お前」

 

「言ってろ。というか、お前は尚更だぞ。少なくとも俺より強くないと格好付かない」

 

 私は眼を細めた。一夏は不敵な笑みでこう言った。

 

「心配すんな、任せとけ」

 

 

 白く敷き詰められた空の元、一夏と刃を交わす。視界に映るのは、雲で満たされた空とアリーナの観客席と、ブラウンのフィールド。それらが映っては流れ、回り、消える。私は己の中心に白いISをただ、置く。

 

 引き金を引き、12.7mmの赤い軌跡を放つ。一夏は鋭い双眸を私に向け、弾丸を躱す。そのかざす鋼の刃が蒼く光った。

 

 あの日、一夏に貰った言葉が心に浮かぶ。根拠の無いあの自信がどこから来るのか理解に苦しむ。ただ、あの時。一夏に深い感銘を受けたのは紛れもない事実だ。だから私は今ここに居る。

 

「意外と長い付き合いになるかもな」

「なんか言ったか?」

 

 私は何でも無いと、引き金を引いた。

 

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