IS Heroes   作:D1198

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1. Another Story XX01:下ネタ多数。
2. Another Story XX02:肉体入れ替わりモノ。

この外伝は、本編とは無関係です。
お読みにならなくても、本編理解に影響はありません。
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外伝中の外伝

【1. Another Story XX01】[戻る]

 

 

 人生とは戦い

 

 苦痛から目を背けてはならない

 

 ひとたび目を背ければ

 

 それはどこまでも追ってくるのだから

 

 真はそう信じ、ただ己を鍛える

 

 守るべき物は友と彼女たち

 

 立ち向かうは

 

 

 

 エロの鼓動

 

 

 

 入学から2ヶ月が過ぎた6月初旬。天からは雨、大地には露、室内には湿気。真は自室でのたうち回っていた。

 

(今回は持たないかも知れない……)

 

 今まで塞ぎ込んでいたそのエロい鼓動が弾けんばかりに溜まっていたのである。

 

 

 今一度確認しておこう。真は16歳である。人生で最もそれが激しいお年頃、そんな彼が女子寮の中にいるのだ。守ると誓った彼女たち。手を出す訳にもいかず、生命の鼓動と日々戦っていた。その苦しみ推して知るべし。

 

 ただでさえ人の気配に鋭敏であった真は先の木偶戦でそれを更に顕在化させた。間の悪いことに徐々に高まる気温、まとわりつく湿気。学園の少女達は徐々に薄着になっていった。当初は視界に写れども認識しないという器用な方法でいなしていたが、今では目を瞑ろうが、柔らかい気配、少女達の香りは嫌でも感じ、もうどうにもならなくなっていたのだった。

 

(とりあえず、)

 

 冷水を浴びる、全力疾走をする、グロテスクなものを見る、ホラー映画を見る、あらゆる手段を講じ、

 

「やっぱりだめだーーーーー!!」

 

 全て徒労に終わった。ベッドで俯せ、枕をかぶる。

 

(まずい、この状況で鈴が帰ってきたら、マズイ絶対)

 

 昨夜の事である。急な話であったが、鈴は国のお偉いさんに会うと都内へ出かけて行った。帰宅予定は明日、日曜の18時。

 

(それまでにカタを付けないと人として終わる……)

 

 震える体を押さえつけ、ひらめいたのは一夏だった。そう考えたのには訳がある。一夏は箒と同棲、否、同居中である。にもかかわらず日々飄々浪々。何か良い方法を知っているに違いない。真はそう考えた。

 

「という訳なんだ。一夏、秘訣を教えてくれ」

「土曜の夜に何かと思えば、くだらねー理由で呼び出しやがって……」

「くだらない訳あるか! こっちは生きるか死ぬかの瀬戸際なんだよ!」

 

 一夏は絨毯の上で、腕と足を組む。溜息をつくと向かい合う真をジト目で見た。

 

「特に何もしてない」

 

 一夏の発言は地味に響いた。

 

「……一夏、済まなかった。心の訓練不足だ俺」

 

 感嘆も込めた。

 

「訳が分からんけど、まぁそういう事だ。箒も居るし―へぼぉぅ!」

「この馬鹿一夏! お前やっぱりやる事やってやがったか! 何がただの幼なじみだ! エロ本抱えて溺死しろ!」

 

 一夏は、箒が居るから怖くてそんな気分にならない、そういう意味で言ったのだが意思疎通とはかくも難しい。追い詰められている真は早合点し、一夏をぶん殴った。

 

「訳わかんねぇ事いってんじゃねぇ! 鈴が居るじゃねーか! 人のこと言えた義理か! このエロまこ大王!」

 

 激怒し一夏もぶん殴る。だが、

 

「挟んだか! 挟みやがったか! こ、この野郎がーーー!!!」

 

 真は聞いていなかった。

 

 一夏は一瞬、あぁ確かに鈴じゃ無理だな。と聞かれれば殺されかねないことを考え同情した。だが本音を思い出し、踏み込んだ。

 

「真には本音が居るだろうが! 十分デカイだろ! ちったぁ身の程わきまえやがれ!」

 

 静寐が不憫。

 

「本音とはそういう関係じゃ無いと言っているだろうが! そんなことするか! この馬鹿一夏!」

「この阿保が! 今言ったこと反芻して死ね!」

「もう忘れた! いがぐり食って吐血死ね!」

 

 どうでも良いが、必死に考えたセリフ愚弄するな、お前ら。

 

 全力で殴り合った後、散らかる部屋で大の字に転がる馬鹿2人。少しは晴れたのか、息を切らせながら和解するのは阿保2人。騒ぎに誰も来ないのはご都合主義。

 

「すまん、一夏。俺どうかしていた」

「いや良いって、もう済んだことだぜ」

 

 2人は笑って何度目かの喧嘩を終えた。互いの手の平と甲を打ち鳴らす。だから愚弄するな。

 

 

 

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 翌日、真は朝からのたうち回っていた。もう溜まったらしい。

 

(もうだめだ、何か買いに行こう。バレても良い。)

 

 雑誌かDVDか、それとも小説か。

 

「町へ出ようにも俺、学園外へは出られないじゃないか……」

 

 先日の木偶戦で、軟禁を千冬とディアナから言い渡されていた事を思い出し、嘆いた。流石に命は惜しい。それ以前に自分が未成年と言うことを完全に忘れている。頭を抱え、気分転換に本を読む。

 

 地図。

 

「エロマンガ島……だー!! 俺は中学生か! てゆーか中学時代あるのかっ!?」

 

 美術。

 

「ミロのヴィーナス像……ごめんなさい、アレクサンドロスさん、ごめんなさい」

 

 思わず唾をのんだ真は泣きながらテキストを開いた。タイトルは"ISにおけるFire Weapon"小難しい本を読んで気を紛らわそう。

 

-第2章 弾丸……銃弾には大きく分けて、固い金属で覆われた弾丸と柔らかい弾丸があります。前者をメタルジャケットとも呼び、貫通力に優れます。後者は拡張弾とも呼び命中すると弾頭がキノコ状に変形しするため、弾丸エネルギーを効率よく伝えます-

 

 ふむ。

 

-この拡張弾を人に用いた場合、その傷はきたなく、凄惨な事から軍隊においては使用を禁じられています。この拡張弾は軍用として使うとダムダム弾と呼ばれ、ハーグ陸戦協定に抵触し怖いおじさんに怒られます。ですがシールドを持つIS戦闘においては~~-

 

「……あぁそうだ。射撃場行ってぶっぱなそう。そうすればすっきりする」

 

 殆ど要管理人物的発言をする真であった。セシリアから貰ったリボルバーに手を掛け流石に止めた。射撃場のを使うと頭を冷やした。

 

 

 

 

 

 さて、ミッションスタート。今日は日曜日。大半の女生徒は学外に出かけている。寮から射撃場までは隠れる場所は沢山ある。つまりは、少なからず居るであろう少女と会わずに寮から出れば彼の勝ちだ。会ったらヤバイ。

 

 扉を開けて左右を見る。広がるは薄暗い廊下。窓にはどんよりとした雲。気配は無い。と、音も無く忍び出せば目の前には本音。

 

「あ、まこと君。おはよう~」

「う、ひゃほぅっ!」

 

 突然の登場に思わず声ならない声を出す真であった。初めて見る彼の態度に本音は思わずきょとんとする。

 

「なんだ、本音か。びっくりした……」

 

 何時ものとは少し違うが、パンダの着ぐるみ姿の彼女を見て、真は胸をなで下ろした。露出が顔しか無いのだ。これなら大丈夫。

 

「まこと君おでかけ?」

「あぁ射撃場に行こうかと」

「日曜なのにがんばるね」

「まぁ好きだから」

 

 思わず表情を固める本音であった。鉄砲が好きって、どうしよう。この間の事件で頭打ったのかな。何とか矯正しないと後々苦労しちゃう、と悟られぬよう悩む本音であった。

 

「そ、そっか。がんばってね」

 

 あぁ、と手を上げる真。よせば良いのに余計な一言を言う。本当に一夏に似てきた。

 

「ところで本音、暑くないか? その着ぐるみ」

「うぅん、大丈夫。これ"一枚"だけだから」

 

 思わずめまいがした。その頭の中は、着ぐるみの中で一杯だった。もちろん、本音は下に付けるものは付けているが、もはや妄想は手に負えない。

 

 すんでの所で立ち止まり「はしたないぞ本音!」と言いつつ真は走り去る。「えー! 顔しか見えてないよ! はしたないって顔なの?! ひどいよー!」と嘆く本音だった。

 

 

 

 2番手、静寐。事もあろうに薄手のタンクトップにミニスカートだった。静寐は勇気を出して見せに来た。頬を染め「おはよう」とにこやかに挨拶する静寐に「あり得ない」と真は逃げ出した。しばらく呆けた後、やっぱり金髪が好きか、と怨嗟を唱える静寐であった。次会った時は覚悟しなければならない。

 

 

 

 セシリアはノースリーブのドレスだった。二の腕だった。セシリアの挨拶を無視して逃げ出した。背中から"オホホ"と怖い声がした。

 

 箒が見えた。目を瞑り走り抜けた。振り抜く腕に触った物は、2つの柔らかい先端。そのまま逃げ出した。怒号が飛んできた。

 

 

 

 オカシイ、と真は走りながら思う。何故今日に限って勘が働かない。

 

「なぜだっ!」

 

 それはご都合主義。

 

 

 

 そしてラスト。皆様お待ちかね、廊下のT字路。ぶつかったのは何故か2年の薫子。すまない、と手を差し出す真が見たのは、尻餅をついた薫子のスカートの奥。淡い青だった。決壊した。

 

 痛みに抗議する薫子に真は、

 

「薫子! 頼む! やらせて!」

 

 もうダメだった。こんな主人公ありえない。

 

 

 

 それを聞いた薫子は、顔を真っ赤に罵声を浴びせる。

 

「あんた何考えてるのよ! 変態! 信じらんない! サイテー!」

 

 尤もだった。

 

「薫子の非難は甘んじて受ける! だけどマジ死ぬ! 死んじゃうから!」

 

 土下座だった。しかも泣いていた。流石に哀れと思ったのか、同情したのか、それともナニか。薫子は何故か、自分の指を絡ませつつ、顔が赤かった。

 

「付き合ってくれるなら、考えてあげても良いけど……」

「分かった! 付き合う!」

 

 深刻な意思疎通の齟齬発生。薫子は交際で、真は買い物で。真は思わず薫子の両手を掴み迫った。普段の2人であれば気づいたであろうが、真は切羽詰まり、薫子は舞い上がっていた。つまりはそういう事である。真氏ね。

 

「どこが良いっ?!」

「ほ、保健室……」

 

 でへーと顔を緩める薫子だった。真の中の何かが切れた。あい分かったと薫子を抱きかかえ猛ダッシュ。

 

「ちょっ! 着替えさせて! せめてシャワー!」

「大丈夫気にしない! 綺麗で無くても問題なし! 俺のはダムダム弾だから!」

「マッシュルーミングね!」

 

 もうバカばっかりである。

 

 6月最初の日曜日。IS学園の保健室は、千冬、ディアナ両名により制圧された。罪状はハーグ陸戦協定違反。

 

 

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くどいようですが、本編とは無関係です。別世界です……色々ごめんなさい。次。

 

 

 

 

 

 

【2. Another Story XX02】[戻る]

 

 それはある晴れた土曜日の事だった。

 

 柊(1年寮)の食堂の白いテーブルの上、縦横高さ30cmほどの立方体。又の名を段ボール。窓から入る日差しを浴びて箒は1人溜息をつく。組んだ腕はぴくりとも動かなかった。

 

 お届け先は"篠ノ之箒" ご依頼主は"篠ノ之束"

 

 先程のことだ。荷物が届いたから引き取りに来いと、千冬から連絡が入った。心当たりの無い箒は怪訝に思いながらも寮長室に向かい、思わず言葉を失った。ISを自力で開発した有史稀に見る大天才にして、大災厄。箒の実姉である篠ノ之束からの荷物であった。

 

 不安でしかめ、晴れない表情で千冬は言った。

 

「悪いが、中身を確認させて貰った。報告では危険物では無いらしい。が、アイツのことだ。何かあったら直ぐに知らせろ」

 

 箒には段ボールに印刷された黒猫の親子が皮肉げに笑っているように見えた。

 

 

 

 

「むぅ」

 

 食堂に持ち込み、睨むこと30分。無意識に出た言葉に箒は腹を括る。

 

(やはりこのまま処分しよう)

 

 何かあるに決まっている。私1人だけならば良い、静寐と本音を巻き込むにはいかない。とは箒の偽りない本心だった。箒の中では"静寐=本音>>束"の様だ。義に厚いとはいえ、ここまで厚いと少し怖い。

 

 箒が箱に手を掛けると、その静寐と本音が声を掛け、歩み寄る。手を箱に置いたまま、箒は2人を笑顔で出迎えた。

 

 それは何だと聞かれて答える箒。事情を聞いた2人は、不埒者めと、箒の行為を戒めた。姉妹の居ない静寐に、仲の良い姉が居る本音。何があったかは知らぬが、身内の心づくし。せめて封を解き見届けよ。五常五輪、武を志す者が礼を欠く事まかり成らん。

 

 他ならない2人にこうも言われては流石の箒とて観念するしか無い。

 

 

 べりべり、がさりと、封を解く。3人が覗いたその中身。白い梱包材に埋もれるは、澄み切った、歪の無いただの純粋な丸。水晶球だった。箒は15cmほどの球を手に取り陽にかざした。陽の光を浴びてきらきらと輝いていた。

 

 静寐は「綺麗ね」と言った。

 本音は「台座もあるよ」と言った。

 

 はて、そんな筈は。とは箒の弁。正直爆発するかもしない、とまで思っていた。そしたら2人を危険にさらした事実に気づき、己の迂闊さを心底呪う。右に静寐に左に本音。席に座る、目の前の気の良い2人の友人たち。柔らかい笑顔を見ると、心からの安堵。一言済まないと心で詫びたら、またこの球に疑念がわいた。

 

 

 

 一刻過ぎ、二刻過ぎ。テーブルの上、朱色の台座に鎮座する水晶球。うんともすんとも言わないこの球に流石の箒も考えすぎかと、力んだ身体を緩ませた。

 

 じきに一夏がやってきた。鈴もやってきた。ぞろぞろと生徒達がやってきた。皆、その水晶の球を見ては綺麗だと言い、触り持ち上げる。最近続いた騒動に、どこか影の落ちていた少女たち。屈託無く綻んだその笑顔。箒は心の奥底で、姉に謝罪と謝辞を述べた。

 

「一夏。真はどうしたのだ?」と箒が言った。「射撃場。っと、安心してくれ。セシリアだけじゃ無い。ティナも一緒だぜ」と一夏が答えると、静寐は「金髪が増えた……」とぼやき本音は「全然安心じゃ無いよー」と力無く肩を落とした。「馬鹿者共め……」「え? 俺も?」

 

 

 

 

 

 そして夜。寝具にくるまる箒は、ふと何か光る物を心に映し出した。それはなんだと自答し、答えが結ぶ前に意識と身体が闇夜に落ちた。置き忘れられた水晶球。食堂は鈍い七色の光で満たされていた。

 

 

 

「いっやぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!」

 

 翌朝のよく晴れた日曜日。柊(1年寮)に最初の悲鳴が響いたのは午前6時のことである。

 

 

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 何時もと変わらない柊の食堂。何時もと変わらない窓からの風景。何時もと変わらない朝食の味。思い思いのテーブルに着き、ただ頭を抱える少女たち。溜息と沈鬱な空気が漂っていた。何時もの8人掛けのテーブル。其処には一夏、箒、鈴、静寐、本音が腰掛けていた。食事は無く、飲み物だけが並ぶ。何時ものように、小鳥はちちちと鳴いていた。

 

 

 箒が咎めた「どーすんのよ、これ」

 

 鈴が呟いた「どうして、こうなるの……」

 

 一夏が嘆いた「大変だよ……大変だよー」

 

 静寐がぼやいた「夢じゃねーんだな、やっぱり」

 

 本音が詫びた「……とにかく済まない」

 

 真はティーカップを右手に、左手は左頬に、一息つくとこう言った。

 

「でさ、なんで皆の身体が入れ替わってるんだよ」

 

 箒は心の中で姉を罵倒した、ただし身体は本音。

 

 

 

 朝、箒が目覚めると見知らぬ少女が目に映った。薄目に浮かぶ隣の、廊下側のベッドには髪の短い小柄な少女が寝ていた。よく知っている。彼女は同じクラスの者だ。

 

 かちこちと時が刻み、わなわなとその顔と身体に力を込めた。

 

 おのれ一夏、私が居るにも関わらず女を連れ込もうとは、今日という今日は容赦せん、と箒はいきり立った。寝床から身を疾風の如く走らせれば、伸ばした手は宙を切った。

 

 箒は妙だとそこに目を走らせる。有るべきところに竹刀が無い。ふと見れば化粧台が違う。漆色の観音開きのそれは、白く柔らかい棘で縁取られた物に変わっていた。枕元には質素な針時計の替わりに、小さく可愛らしいペンギンはお腹に時計を抱えていた。よく知った部屋は、何時もと違っていた。

 

 視線が低い。身体に違和感を感じる。何より、黒かったはずの髪が淡い栗色になっていた。まだ私は寝ているのか? しかし妙に現実感がある。箒は洗面台に向かい鏡を見た。其処に映るのは彼女の親友であった。

 

「なぜ本音がここに居る?」

 

 箒の問いに本音は驚いた表情で、同じ言葉を口にした。

 

 

 

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「と、言う訳なのよ」

「話だけなら信じられないけど、その仕草、口調、雰囲気、どう見ても鈴だよな……」

 

 真は怪訝と確信と、2つを交えて皆をみる。箒は何時ものむっすりした顔はどこかへ捨て去ったように、その表情をころころと変えていた。箒は額をテーブルに押し当て、むーむー唸る、身を起こしては、あぁぁと頭を抱えて振り回す。頭のポニーテールと緑のリボンが苛立つように揺れる。箒の中身は鈴。

 

「で、なんで真は無事なんだよ」と静寐がぶーたれる、心は一夏。

「俺、その水晶球に触ってないから。1年生全員が変わっている訳じゃないしね、察しは付くよ」と真が答えた。

「おりむーになっちゃった……どうしよう」とは手鏡を見つめる一夏だった、中身は本音。頬を上げては下ろす、その仕草はビジュアル的に芳しくない。

 

 

 真は皆を見ると腕を組んで息を吐く。背にある白いクッションがみしと音を立てた。

 

「まず現状把握。入れ替わり以外で、身体に異常、なにか問題ある人居ないな?」と聞いた。鈴が「おおあり!」と、身を乗り出し両手で机を叩きつけた。一拍。涙目で真を見下ろすと、今度は、よよよと泣き崩れた。鈴の中身は静寐である。

 

 皆、着の身着のまま、つまり寝間着のままだった。一夏は紺のTシャツにハーフパンツ、箒は紅の襦袢、鈴はダークグレーのスウェット、本音は着ぐるみ寝間着、静寐はキャミソールの上に学園指定の白ジャージを着ていた。因みに真は黒のTシャツにカーゴパンツ。

 

 他人の身体なのだ、気を遣う必要がある。特に静寐と本音と一夏は大問題であろう。性別が違うのだ、考えるまでも無い。

 

 濁った眼で鈴が言う「織斑君? 私の身体に何もしてないよね? 何かしたら……いい?」そう、鈴の中身は静寐だ。一夏は恐れおののき、ただガクガクと頷くだけだった、一夏の身体は静寐。

 

 

 小刻みに揺れる静寐の藍の髪を見て真は鈴に向き直り、言う。その目は薄く閉じられ非難めいていた。

 

「それにしても静寐、いきなりひっぱたくなんて酷いぞ」

「だって! 朝起きたら隣に真が居るし! 朝なのに夜這いって何とか?! 何も覚えてないとか本気で絶望したし! 覚えてないからもう1度って!」

 

 その驚きよう如何程のものか。脈絡無く口走る、その何時もより歪な黄色いリボンはぴこんぴこんと、いきり立っていた。真が「はしたないぞ、静寐」と言うと鈴はあわあわと、顔は赤かった。開いた唇は波を打ち、目はぐるぐると。鈴の中身は静寐である。心は本音の一夏がぷぅと頬を膨らました。真は隣と言っても隣のベッドだから、と念を押した。

 

 

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 テーブルに置かれたカップに波紋が立つ。皆はこれからどうすれば良いのかと、物憂げに耽る。静寂が流れた。

 

 箒が顔を上げ「真は機械が得意だろう、なんとかならないか」言った。小動物をあしらった髪飾りは2つの房を、真剣の如く緩やかに流していた。真は、あぁ言うと、落ち着いて紅茶を1つ口にする。

 

「皆が揃ったら見てみるよ」

「皆? 他に誰が居る」

「セシリアが来てない」

 

 何故セシリアを待つ必要がある、箒の疑問は階段を駆け降りる足音に掻き消された。

 

 

 皆が見た物は、最初は足、次に腰、次に肩、最後は金の髪と碧い瞳。その少女は階段を2つ3つ飛ばして駆け下りる。食堂を見渡し、真らの姿を認めると駆け寄ってきた。髪を振り乱し、無化粧の頬、薄く透けた白のナイトドレスの上に、淡い青のガウンを纏っただけのセシリアだった。

 

 余程慌てたのかエレベータを失念したようで、階段を下りてきた。何時もの優雅さを忘れたような、その慌てように皆は怪訝な表情を浮かべる。胸に手を当て、息を整えぬまま、セシリアは皆の前に立ち、一呼吸。

 

「……みんな、身体に異変ないか? 例えば入れ替わっている……とか」

「「「「「……」」」」」

 

 真は落ち着いて紅茶を1つ口にすると「遅いですわよ、今まで何をしていましたの?」と言った。黒髪の、目付きの悪い少年はすまし顔だった。思わず、ぽかんと見合う一夏たち。

 

 羞恥で顔を赤くしていた鈴は、ギギギと首を鳴らし目の前の真を見た。ならこの真の中の人はだれ? じきにその顔は白くなった。理解した。でも信じたくなかった。最後にそのころころ変わる表情はただ青く引きつっていた。鈴の中身は静寐。

 

「真…か?」箒が訝しげに見上げた。真は「本音の中は……箒か。やっぱり皆もそうなんだな」と、その端正な表情に困惑と疲れを湛えている。「マジかよ……」一夏が信じられないと、静かに座る横の真を見て呟いた。

 

 

 響く悲鳴と嘆き。宙に浮く屑糸のような言の葉が食堂に舞う。窓に映る小鳥は首を傾げていた。

 

 

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「セシリア、やっぱり駄目だ。ブルー・ティアーズが反応しない。みやを使う」とセシリアが言った、心は真。

 

 第3アリーナ、第1ピット付近。フィールド上に多数の少女たちが集まっていた。

 

 皆が揃った一騒動の後、金髪の少女は水晶球を手に取った。それは間違いなく機械で一定範囲の人格と肉体を入れ替える物だと言った。触る触らないは無関係であった。

 

 ならば何故セシリアは入れ替わっていないふりをしたのか。起床直後の皆は理性が低下しており、身体が入れ替わった現実に酷く取り乱していた。同室の鈴、中身の静寐は動揺が酷く、落ち着かせる為に当身まで使用した。

 

 事の重大さに気づいたセシリアは、パニックに陥りかけていた皆を落ち着かせるため芝居を打った。一夏が関わらなければ物静かな彼の性格を利用した、という事だ。日ごろ意識されることは無いが、1つ年上という事実は少なからず皆に影響を与えている、それにセシリアは気づいていた。

 

 

 蒼い光の粒が走り、集まり紡がれる。其処にはカーキのリヴァイヴ38番機を纏う、金色の少女が立っていた。ポニーテールの少女から球を受け取ると、両手で持ち額に当てた。球に光が宿り、みやの腕に蒼い光が迸る。

 

 その金の髪には何時もの青い髪飾りは無く、替わりに青いリボンがその髪をうなじでまとめていた。何時もと同じ金の髪、碧い瞳と白い肌。何時もと異なる鋭い視線と、荒からず清からずの振る舞いに数名の少女たちが見惚れていた。

 

 誰かがこのままでも良いかも、と言った。それは困ると内心一夏はツッコミを入れる。あの顔だと流石に殴れねぇ。

 

 

 みやの不可視の針が水晶球を走査する。構造、材質、エネルギー準位、情報処理パターン解析、みやの手から解除の指令が最高レベルで送られる。みやが完了を報告した。

 

「よし、これで大丈夫」金色の少女は表情を緩めて、1つ息を吐いた。

「みやは便利だな」と藍の髪をヘアピンで止めた少女が言った。

 

「言っておくけど、みやは渡さないぞ」

「ざけんな、俺は白式一筋なんだよ」

 

 なんか扱い違くない? わき起こる苛立ちを必死で抑える周囲の少女たちであった。

 

「一向に戻らないじゃない、どういうことよ!」と箒が顔赤く睨む、中身は鈴。「実は今のままで良いとか思ってない?!」と鈴が目を濁らせ詰め寄った、中身は静寐。この2人は意外と息が合う。

 

「安心してくれ、ちゃんと戻る」との真の弁明に「何時戻るのだ」と、淡い栗色の2つ房をぴんと切り上げた箒は問う。

 

「……明日」

「「「え」」」

 

 腕を組みすまし顔の真が、やれやれですわと深い溜息をついた。

 

 

「……静寐、トイレ」

「ぜっったい駄目ぇ!!」

 

 

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 翌日の月曜日。今日も晴れていた。そろそろ梅雨なのに大丈夫かと、教室の真は自席で頬杖をつき空を見上げる。あの水晶球は普通では無かった。心を入れ替えたのだ、普通では無いのは当然だったが、

 

(光学素子の情報処理体だった)

 

 つまりは光コンピュータ、オーバーテクノロジーも良いところだ。箒の姉とは一体何者なのかと、真はひたすら現実逃避していた。

 

 その現実逃避は彼の近しき少女たち。1つの夜が過ぎ、身も心も正しい状態に戻ったが、2人は朝から沈痛な面持ちで席に座っていた。右隣の静寐は机に突っ伏し言った。もう中身も静寐。

 

「真、ごめん」

「なに」

「一夏にみられた……」

「あ、うん」

 

 何があったのか、静寐は一夏を呼び捨てにしていた。後ろの本音は言った。その顔を陰らせ、胸の前に両の手を組み握っている。もう中身も本音。

 

「まこと君、ごめんね」

「なにが?」

「おりむーのみちゃったよ……」

「……」

 

 真は気にするなとも、気にしてないとも言えず、なんと言ったら良いのか頭を抱えていた。

 

「で、セシリアの、」

「見たんだね?」

「……見てません」

 

 頬を叩く乾いた音と、抓る湿った音が教室に響いた。

 

 

 

----------

 

 

 

 最後に、他の被害者たちを語ろう。

 

 鈴は机に脚を掛け、身を反らし天井を見上げていた。重いし肩こるし、大きすぎるのも考え物よね。箒だった時の胸元を思い出し、悟る。もう小さいことに悩むことなどしない。

 

 静寐の色々見た一夏は流石に責任取るべきか、いや千冬ねぇの花嫁衣装を見るまでは……と、両肘を机に当てて頭を垂らし、苦悩していた。シスコンここに極まれり。

 

 箒は、席に座り顔赤く呆けていた。口は半開き、目は焦点が定まらず天井を仰いでいた。

 

(あれは良い物だ……)

 

 昨夜の事。部屋に戻り、洋服ダンスの中に見た物は色とりどりの着ぐるみの数々。着ては、鏡を見る。着替えては鏡を見る。にゃんとポーズも取った。

 

(パンダの白と黒のツートンがあれほど心弾む物とは知らなかった、猫の肉球を頬に当てると全ての苦悩が消え去ったように世界がバラ色に見えた、ハリネズミの針があれほど愛しいものとは知らなかった、刺されて血を流すことなど何する物ぞ……あぁそうだ、ウサギだ。子ウサギが居なかった。今度買ってきて本音に着せよう……)

 

 可愛らしい格好は似合わないと避けていた箒は、その不意に訪れた恵みに暴走していた。

 

 その脳裏には、白いウサギ耳の本音が、何故か両手の平に収まり、手足を丸く縮め、鼻をすんすんさせていた。思わず顔を手の平で隠し、真っ赤に身悶える箒だった。もう駄目かもしれない。

 

 

 

 セシリアは、

 

(真は寝直して遅れたとか言っておりましたけれど、そんな筈ありませんわよね)

 

 席に座り、憑きものが取れたように心軽く、僅かに頬を染めて鼻歌を歌っていた。これを形に真を本国に連れ帰りましょう。予想外のことでしたけれど、あの質の真なら最早私に背くことなど出来ぬはず……。

 

 セシリアのその脳裏、花が咲き乱れるオルコット邸のガーデン。青い空と浮かぶ真っ白な雲。白い1本足のテーブルと、3つの椅子。右に一夏、左に真を侍らせ、セシリアはお茶会を楽しんでいた。ご丁寧にも彼方に見える格子の向こうでは、学園の少女たちが地団駄を踏んでいる。

 

(あぁお母様、セシリアはやりました! 完全勝利ですわ!)

 

 突如立ち上がり、くるくると回っては天を仰ぐ。既に一夏も手中に収めたと、何故か思っていた。

 

 

----------

 

 

 そして学園の職員室。1年1組と2組の教師が席に座り書類に目を通していた。千冬とディアナである。真は水晶球の管理を2人に頼んだのだった。

 

「千冬、あの水晶球の処理は済んだ?」

「あぁ、Lv5の地下金庫に封印した……ディアナ、やはり破壊するべきで無かったか?」

「仕方ないでしょ、真が破壊は危険だと念を押していたし。こと機械に関して真の意見は無視出来ないわ」

 

 ちちち。小鳥が鳴く。

 

「……ディアナ、お前垂れたな」

「……千冬、目尻にしわがあったわよ」

 

 飛び交う殺気に職員室が戦場と化した。

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往年のお約束、中身入れ替わりでしたが如何だったでしょうか。

文字で出来るのか、やってみたら案外出来た、と思います。

よくわからねーよ、と言う方いらっしゃればご意見下さい。

 

 

 

身体(中身)

・一夏(本音)

・静寐(一夏)

・本音(箒)

・箒(鈴)

・鈴(静寐)

・セシリア(真)

・真(セシリア)

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