IS Heroes   作:D1198

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場面を細かく切り替える、にチャレンジしてみました。


貴公子来日1

 大の字で寝転ぶ一夏が最初に見たものは今にも泣き出しそうな曇り空だった。次に見たものはその雲を背景に憂鬱そうな軌道をえがく2つの第3世代機。3つめにはアリーナの反対側、気落ちしたように訓練機を取り囲む、彼がよく知る3人の少女。他にもあちらこちらで同級生の少女たちがどこか表情を陰らしている。最後は何時もと変わらない陰険なカーキのリヴァイヴ。

 

「と、言う訳だ。質問は?」

「あるぜ……くそったれ」

 

 一夏の白い鎧がいじけるような鈍い駆動音を鳴らす。真は苦笑いでグレネードランチャーを量子格納領域へ収納した。2人の周りには未だ爆発したグレネードの破片がぱらぱら降り注ぎ、硝煙がたゆたいでいる。白い鎧は煤で少し汚れていた。

 

 

 

 6月2週目の月曜日、放課後。この2人は無人機戦からずっとこの調子だった。真は"一夏の対銃訓練"と称し、徹底した対銃戦術を一夏に施している。無論彼自身、対真対策でもある事は言うまでも無い。

 

 一夏の成長はめざましく、セシリアと鈴が眼を剥くほどである。それでも一夏が苦渋の日々を送っているのは、真がそれ以上だからであった。勿論、飛び道具のアドバンテージもあるが、なにより得体の知れない強さがあった。何故強いのか"真自身にもよく分かっていない"ただまぁ、と一夏は思う。

 

(だからこそ、訓練になるんだけどよー……やっぱり負けっ放しはむかつくぜ)

「安心しろ、サブマシンガンだけではもう一夏には敵わない、効果は出てる」

「何も言ってねーぜ」

「目は口ほどにものを言う」

 

 一夏はあぐらを掻き頬杖をつく。睨みあげればそこに目付きの悪い、一つ年上の同級生が、その自分の眼を指をさして立っていた。一つ溜息が出る。彼の脳裏に蘇るのは先の模擬戦だった。

 

 一夏は真が放つサブマシンガンの弾幕を見切って切り込み、それを一閃、破壊、そこまでは良かった。重心を後方へ引いた真を見て、カウンターは無いと踏み追撃。そうしたら"いつの間にか持っていた"ハンドガンで軸足を3発撃たれ、姿勢を乱した。最後は蹴り、グレネードの連続攻撃を受けて、撃墜である。

 

「一夏の敗因は兵装の量子展開速度を見誤ったことだ。展開速度は銃の分子量つまり大きさ、使用される材質の数、構造の複雑さが関係する。だから、回転式ハンドガンならあの程度。銃の切り替え時を狙うと言っても、ここに注意しないとしっぺ返しを喰らう」さも簡単に言う真の口調に、一夏は目を細め睨みあげる。

 

「0.4秒で展開しての精密射撃だろ? そんな事出来るのがほいほい居て堪るか」

「俺らは、一夏はそう言うほいほい居ない敵と戦っていくんだよ……で、兵装の量子展開速度で重要なことが一つある」

 

 真はショットガンを量子展開すること1.6秒、アサルトライフルに切り替えること1.2秒、眼を細めて一夏にこう言った。

 

「ラピッド・スイッチってISの操縦技術があるんだが、これは銃の種類関係無く0.5秒以下で切り替えられる。もしこれを使う娘に出会ったら一夏は気をつけろ」

「何でだよ」

「サブマシンガンのつもりで突っ込んだら、目の前にはショットガン」

「……コンボ狙うまでもなく一発逆転されかねないじゃねーか」

 

「そういうこと。至近距離のショットガンはスナイパーライフル並みの威力だからな」

「つかよ、真は使えるのか? そのラピッドなんたら」

「ラピッド・スイッチ。残念ながら使えない」

「ほほーぅ」

 

「なんだその、ざまぁみろって顔は。練習はしたんだよ、弾倉の量子交換が遅くなったんで止めたんだ。俺にとってこの2つは排他的技術らしい……なぁ一夏」

「あぁ、空気が悪い。みんな落ち込んでるぜ」

「気のせいじゃないか、やっぱり」

 

 アリーナを見渡す真の表情には、憤り、やるせなさ、後悔、そう言った感情が見て取れた。案の定気にしてやがったか、この阿保と一夏は心中で独りごちる。

 

 先日の無人機はアリーナだけでなく学園の少女たちの心にも傷跡を残した。全員が目撃した訳では無いのだが、その雰囲気が伝播し学園中を暗い空気が覆っている。特に1年生への影響が大きく、密かにカウンセリングを受けている少女もいた。

 

「そういえば真。ティナはもう退院したんだろ?」

「いま横須賀の自宅に帰っている。というか一夏。いつの間に呼び捨ての仲になったんだ」

「1人で見舞いに行った時。まさか退学……?」

「いや、家族の希望で3,4日の自宅療養だそうだ、本人は続ける気満々だったから大丈夫だろ。相変わらず見事な手管だな」

 

 

----------

 

 

「何、アンタら。真面目に訓練していると思えば女の子の話?」

 

 2人が見上げる3m先には甲龍を纏った鈴が居た。何時もの挑発するような眼だったが、どこか気落ちしているのが2人には分かった。だから「「ちがう」」と多少気勢を込めて2人は言う。「まぁ良いわ。模擬戦に付き合いなさいよ」と苦笑いの鈴に「一夏、ご婦人のお誘いだ。言って来い」真が応えた。

 

「何言ってんのよ、2人ともに決まっているじゃない」

「悪い、これから検査なんだ」

 

「また?」鈴がISスーツから覗く包帯に目をとめた。「先生、お医者さんがな納得しないんだよ。これで最後だから……そんな不安な顔しないでくれ。行きづらくなる」と真は鈴の頭に優しく手を置いた。「ば、ばっかじゃない!? 心配なんてしてないから、早く行ってきなさいよ!」と鈴はその手を慌てて振り払う。

 

 苦笑いの真は「じゃぁ一夏、鈴のこと頼んだ」とピットに消えた。2人はそれを見送った。

 

「もう3回目じゃ無いアイツ……」

「心配しなくても消えたりしないぜ」

「だ、か、ら、心配なんかしてないわよ。この馬鹿イチカ。それよりさっさと始めるわよ。元同室者の顔に泥塗るような不甲斐ない戦いしたら、ただじゃおかないからね」

「おぅ、任せとけ」

 

 構える雪片弐型の、切っ先の向こうには僅かに憂うの少女が居た。上空のセシリアと一瞬合った眼は堅いように見えた。2人とも重傷だな、と一夏は内心溜息をつく。

 

(何か新しい出来事があれば良いんだけどよ)

 

 一夏は踏み込んだ。

 

 

 

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 一夏は1人歩いていた。辛勝した鈴との模擬戦が終わりその帰り道である。

 

 彼が行く第3アリーナの廊下は何時もの姿だった。天井には赤みがかった白熱照明と、足下にはダークブラウンの廊下、右手にはベージュの壁と等間隔で現われる埋め込み式連絡用ディスプレイ。左手には枠の無い窓が収まり、雨の粒が点在し、雨の枝が流れる。遠くからはアリーナを環状に走るモノレールの音が響く。何一つ変わらない何時もの廊下が何故かもの悲しい。

 

 彼は「うーん」と唸ると、腕を組み、眉を寄せ、口はへの文字に曲げた。

 

 彼の脳裏に佇むのは近しき数名の少女たち。常日頃、誰構わず言い寄られては押し切られ、気づかないまま落胆やら怒りやらを買う一夏であったが、逆に思い悩ませ、彼なりに気遣う相手はそれ程多くない。箒、静寐、本音、セシリア、鈴と言った面々で、最近ティナも加わった。

 

 もっとも東に嘆く人がいれば手を差し出し、西に涙する人がいれば進んで盾となり矛となる。結局、その場に居合わせれば、誰であろうと助けるのは当然。これが織斑一夏という少年であった。

 

 そう考えたら最後。彼を心配する人や自身の安全の事など、一切の事が頭から消える、これが彼の1つ目の欠点であり、何故か助けるべく相手が少女ばかりというのが2つ目の欠点だった。過去形である。最近1人の少年がそれに加わった。

 

(ティナと真はとりあえず大丈夫だろ、問題は他の娘たちか……なんとかなんねーかな。セシリアと鈴もそうだけど、あの3人も様子おかしいし)

 

 一夏が思い出すのは襲撃があったその日の夜、寮で見た箒、静寐、本音の真っ青な顔であった。あれから口数も少なく元気が無い。思わずうーんと2度目の唸りを上げる。

 

 

 かつんこつんと、足音を鳴らす彼に「一夏」と合いの手を入れるのは静寐であった。何時もの白を基調とした学生服で、後ろ組手、廊下の壁にもたれ掛かり立っていた。彼はよぉと声を掛ける。

 

「真は?」

「先に上がった。検査だってよ」

「そう」

「……箒たちは?」

「四六時中一緒じゃないの」

 

 抑揚の無い言葉に一夏はこまったもんだと、内心溜息をつく。単に話題を振っただけだったのだが、静寐は相当重傷のようだ。

 

「それはそうだ。これから飯だろ? 戻ろうぜ」

「ん」

 

 かつかつ、こつつんと足音が廊下に響く。他に聞こえるのは呼吸の音。右隣を歩く静寐をちらりと見れば、鼻眼口は何時もの形であったが、憂鬱さを湛えているのがよく分かった。だから一夏は静寐の顔をのぞき込むようにこう言った。

 

「元気出せよ」

「そう見える?」

「見える」

「……一夏は、」

「なんだよ」

「一夏は、怖くなかったの?」

 

 無人機のことを言っている、それに気づいた一夏は思わず周囲を見渡した。そんな一夏に挙動不審と微笑を浮かべて静寐は言う。妙なところで肝が据わっている、全く動じていない。このタイプの娘はこういう所が怖いと、呆れと感心を入れ混ぜる一夏だった。

 

「それ迂闊に喋ると大目玉だぜ……見たのかよ?」

「ううん、私は後だけ。でも想像つくよ。丈夫なアリーナがあそこまで壊れるなんてよっぽどな相手だったんでしょう? ISがあっても危ないぐらいに……怖くなかった?」

「んーどうだろ。とにかく何とかしないとって、ただそれだけだったからな……なんだよ、そんなにおかしいか?」

「一夏らし、い」

 

 くすくす笑い出す静寐に一夏は憮然とし、そして理解した。つまり静寐は

 

「怖くなったのか?」

 

と言うことだ。

 

「……おかしいよね、分かってたはずなのに。卒業したらどういう仕事に就くか分かってたはずなのに……真はどうだったのかな」

「さーな」

「一夏。私ね、一夏は特別な人だと思ってた。お姉さんとかルックスとか」

「ルックス?」

 

「やっぱり自覚無かったんだ……それでも真は普通の人だと思ってた。すこしだけ怖い顔の普通の人だと思ってた。でも、やっぱり違うんだ」

「そんな訳ねーよ」

「そんな訳あるの。知ってた? 私たちって一夏と真がセシリアと決闘したときより操縦時間多いの。でもやっと飛べるぐらい。それに2人もずるいんだ、箒は専用機を持ってないのが不思議なぐらい上手いし、本音は機械にセンスがあるし、私だけ……ごめん、変な事言った」

 

 静寐の気づいた悩みは二つ。一つは兵器を学んでいた事、もう一つは真ら周囲との間にある壁。ったく、いま側に居なくてどーするんだよ、と一夏はここに居ない友人を一つ罵り、今晩小突いておくかと拳を握る。

 

「静寐、飯にしようぜ。腹減ってると碌な事考えない。こういう時は食って寝るのが一番だ。前向きなときに前向きに考えようぜ」

「一夏は、どうしてそう言う気遣いを箒にしてあげないかな?」

「どういう意味だよ」

「ほらやっぱり。部屋替えの時もそう、箒に愛想尽かされても知らないからね」

 

 微かに笑う静寐に首を傾げた。どうして箒が出てくるのか分からん。まぁ少し元気が出たようだから良しとしよう。と納得する一夏であった。

 

 

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 他愛の無い言葉を幾つか交わすと箒と本音に出くわした。箒がじろりと睨めば一夏は顔を引きつらし、「箒ごめん、一夏借りてた」と静寐が笑う。

 

「構わないぞ、役に立ったか?」

「ん、凄く。ご飯行こう」

 

 箒は明るくなった静寐の表情に安堵する。そして腕を組んで何時ものむっすりした顔で一夏にこう言った。

 

「一夏、静寐になにもしてないだろうな?」

「してねぇって!」

 

 本音は嬉しそうにありがとう、と一夏の腕にくっついた。屈託の無い本音の笑顔に穏やかな空気が流れる。

 

 その日の夕食は、珍しく箒、静寐、本音、一夏の4人で食べた。部屋に戻った一夏はシャワー浴びて、ベッドに潜り込んだ。結局真は、その日帰ってこなかった。一夏は気落ちした静寐を思い出し闇夜に落ちる。

 

(殴り損ねた……)

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